第353話 クラン名、決定
「知っているのか、ライデ……ライオットを!?」
「え? あ、ああ、そりゃーおれ達は《鉱山都市グリーク》で活動してたからな。知らねー奴の方が少ないと思うぜ」
妙に力を込めて聞いてきた北条に、少し動揺しながらもムルーダが答える。
キカンス達も、『光の道標』がベネティス領で活動していた時に、少し関わったことがあるらしい。
「『光の道標』の人たちは、シルヴァーノのシンパの冒険者が増えていく中で、俺達みたいな獣人とも分け隔てなく接してくれてたんだ」
「そうそう。ウチも覚えてるわ」
「それなら話は早いなぁ。その元『光の道標』の二人と、アウラの従士だった二人が個別にクランに参加したいと言ってきている。パーティーリーダーである、ムルーダとキカンスはどう思う?」
「どうって、別にいいんじゃねえの? というか、戦力が増えるのは良いことじゃねーか」
「そうだな。身元が確かな二人に、俺達も知ってる『光の道標』の二人であれば、特に問題はないと思う」
「そうかぁ。それならこの後ギルドに行った時に、一緒にクランの本登録を済ませるぞぉ」
「分かった」
「おう!」
北条も元々予想していた通り、キカンスとムルーダからは反対意見が出ることはなかった。
これがもっと気難しい奴らだったら、マデリーネ達の入会希望にもう少し考えてから答えていたことだろう。
「それじゃあ、早速ギルドに向かいたいところ……なんだがぁ」
「なんだよ、なんかあんのか?」
「ああ。クランの登録に当たりクラン名を考えないといけなくてなぁ」
「クラン名、か」
「お前達が帰ってくる前に、拠点に居た奴らで軽く話し合ってもみたんだがぁ、コレというのが浮かばなくてなぁ」
「クラン名となると、全員が同じ名前を名乗ることになるから、適当な名前は付けられないな」
「えー? 『ジャガーの熱き血潮』でいいんじゃね?」
「おい、ムルーダ。それは安直すぎだろ!」
ムルーダの安直な意見に、龍之介が即座に反応する。
「じゃあどんな名前がいいんだよ?」
「それはっ……だなあ……」
実は龍之介も先日の命名会議の時に、ムルーダと同じような安直な意見を出して、咲良やカタリナから激しいツッコミをもらっていた。
龍之介の反応の良さは、その時のことが頭に残っていたからかもしれない。
「『ペンギンズ』というのはどうであるか?」
「ペンギンなのはアンタだけじゃない!」
「なあに、全員分のペンギンの着ぐるみを作れば……」
「嫌よ。ウチはそんなの着ないからね!」
「なんとっ!」
ジェンツーもムルーダと同レベルの意見を出して、ルーティアに即座にツッコミを入れられている。
人数が多すぎて、あちこちで意見が出はするのだが、船頭多くして船山に上るといった状態で、話がまとまる気配が見えない。
そんな中、信也の発言が場に一つの方向性を示した。
「出身も種族もバラバラなんだから、全員が今共通して生活している地名を名前に入れるのはどうだ?」
「それは悪くないわね」
「それならやっぱ『ジャガーの熱き血潮』で……」
「ムルーダ! ちょっとは私達の立ち位置も考えて!」
謙虚さのかけらもないムルーダだが、シィラの方は違うようだ。
中心的メンバーでもないのに、自分たちのパーティー名を冠した名前を付けることに、シィラは拒否感があるらしい。
「でも『ジャガー』っていうこの町の名前は悪くないんじゃないか? 後は、地名でいえば、ダンジョンの名前でもある『サルカディア』とか」
「その辺りをベースに考えるか……」
ある程度の方向性が定まり、それから更に幾つかの意見が交わされる。
そんな中、これまで黙って会議を聞いていたジャドゥジェムが口を開いた
「ジャガーノート」
「――いや、それだと名前がかぶ……、えっ? 今ジャドゥジェム何か言った?」
丁度発言をしていた所だったキカンスだったが、ジャドゥジェムの言葉に思わず聞き返す。
ジャドゥジェムも、北条が基本的なヌーナ語を教えて以降、少しずつ言葉を話せるようにはなっていた。
それでも、元々口数の少ないジャドゥジェムが話すことは珍しい。ましてや、このような会議の場で口を挟むなど、キカンスの記憶にはなかった。
「名前。ジャガーノート。だめ?」
「ジャガーノート……。響きは悪くないと思うけど、何の名前なんだ?」
「名前、違う。ジャガーノート、意味、とても大きな力」
「ほう。ということは、アンダルシア大陸での言葉という訳か」
ジャドゥジェム発案の「ジャガーノート」という名前は、特に誰かしらの反論が出ることもなく、すんなりと受け入れられていった。
……もしかしたら、いつまでも決まらない話し合いにみんな疲れていたのかもしれない。
「なるほどぉ。ジャガーノートかぁ、そいつぁ悪くないなぁ。俺の知ってる『ジャガーノート』といえば、とある神様の化身の名前だったハズだぁ。縁起も悪くなさそうだぞぉ」
「とある神様?」
「あー、俺達の地元で信仰されている神様だから、多分お前らは知らんだろう」
「ふーーん」
カタリナが持ち前の知識欲で北条に質問するが、彼女にヒンドゥー教だのヴィシュヌだの言っても通じることはないだろう。
「他に意見がないようなら『ジャガーノート』に決定しようと思うが、どうだ?」
最後に信也がこの場の全員に確認を取るが、反対意見は上がらなかった。
「では、クラン名は『ジャガーノート』に決定だ……ということで、名前も決まったしギルドへ向かうか」
「けど、ここにいる全員でギルドに行ったら、きゅーくつになんじゃねーか?」
「それもそうだな。では俺と北条さん。それからムルーダとキカンスのリーダーだけで向かうか」
「ああっと、荷物持ちにもう二、三人ほど欲しい所なんだが……」
「それなら俺が運ぶぞぉ」
ドロップの収集が目的ではなかったとはいえ、それなりにドロップは回収してきているようで、『獣の爪』も、『ムスカの熱き血潮』も、みんなパンパンに荷物を持っていた。
そこで北条が名乗りを上げ、"アイテムボックス"から大きな木箱を幾つか取り出す。
この中にアイテムを詰めこめば木箱ごと収納できるので、こういった場面では役に立つ。
「おお、助かるぜ!」
「はああぁ、これは便利だな……」
早速ムルーダ達もキカンス達も、荷物袋をのまま突っ込んだり、中から取り出して詰め替えつつ木箱に仕舞っていく。
詰め込みが終了すると、北条は木箱を再び"アイテムボックス"に収納した。
「では今度こそいくか」
信也の号令の下、クランに参加する四つのパーティーのリーダー。
すなわち、北条、信也、ムルーダ、キカンスの四人は、《ジャガー町》の冒険者ギルドへと向けて出発した。




