第352話 ムルーダ達の帰還
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「ねえ。なんか拠点の方から物音が聞こえない?」
「ホージョーさんが魔法道具を作ってる音じゃないッスか?」
「そんなんでここまで聞こえるような音は鳴らないでしょ」
信也達がレイドエリアの探索を終え拠点まで帰ってくると、少し離れた場所にも響いてくる物音が彼らを出迎えた。
よく聞けばその音は彼らも聞き覚えるのあるような音だ。
「……これってオレらが家を建ててた時の音と似てね?」
「確かに……」
果たして東門から拠点内に入ってみると、奥には大勢の業者の人が作業しているのが見えた。
龍之介の言っていたことは的を射ていた訳だ。
「どうする? 彼らに話を聞いていくか?」
「それよりオッサンに話聞いたほうがはえーだろ」
結局龍之介の意見を採用して、中央館へと向かう一行。
しかし、中央館の中には北条がおらず、結局楓が呼びに行くことになった。
「いよーう。お前達の方が先だったかぁ」
呼び出しに行ってから十分程経過した頃、呑気そうな声を出しながら北条がリビングにやってくる。
「『いよーう』じゃねえよオッサン。あの工事してる連中はなんなんだ?」
「はぁ? みりゃあ分かるだろうぅ。家を建ててるんだよ」
「んなことは分かってるっつーの! 問題は何の為に建ててるのかって話だよ!」
「はっはっは、分かってる分かってる。そう喚くなよぉ」
「ったく……」
改めて北条が室内に目を通し、全員が揃っていることを確認する。
そして、この数日に起こった出来事をみんなに語っていった。
「へえ、私らも『光の道標』の人はほとんど接触してなかったけど、北条さんは裏でこっそり交友してたのね」
「おいおい、陽子ぉ。なんだその言い方はぁ? 別にプライベートで誰と交友を持とうが、関係ないだろうぅ?」
「むぅーーーー」
陽子が焚きつけるような言い方をしたので、それに反応して咲良が不機嫌そうにむくれている。
「それにアウラ様の従士の方とも仲がよろしいようで」
「別に彼女らはそういうアレではないぞぉ」
「…………ギリギリッ」
「……へぇ~」
更なる陽子の追撃に、楓が立てる微かな歯ぎしりの音と、芽衣の冷たい相槌が、北条に突き刺さる。
「あ、そ、それでだなぁ。和泉はどうだぁ? クランに加入するパーティーのリーダーとして、彼らの加入に反対意見はあるかぁ?」
「彼らって言うより彼女たちじゃん……」
小さくボソッと呟く咲良の発言に、即答しようとした信也の気勢が一瞬削がれそうになる。
朴念仁の信也も、流石に今の空気が少しおかしいことには気づいていたので、逆にそれを紛らわすように、少しテンション高めで返答をした。
「オ、俺はいいと思うぞ! 仲間が増えればその分ここも安全になるしな! 加入希望者にはすでに契約はしたんだろう?」
「それはもうしてあるぞぉ。反対者はいないだろうとは思っていたがぁ、最悪クランに入れなくても、ここの戦力として欲しいと思ってたからなぁ」
北条の目論見としては、クラン加入に反対されたとしても、拠点内に居を構えてもらうことができたらいいなと思っていた。
この拠点に関してはほぼ北条が作り上げたものなので、他のリーダーの意向はほとんど気にならない。
「そうか。なら俺が言うことは特にないな」
「そいつらの強さはどれくらいなんだ?」
一部の女性陣の様子に気づいていないのか、気に留めていないのか、龍之介がいつもの感じで質問してくる。
「あーっと、アウラの従士の方はレベル三十ちょいの前衛。ライオットとシャンティアは、レベル六十超えのBランク間近って感じだぁ」
「マジか! オレ達より全然上じゃねーか!」
「そりゃぁそうだぁ。彼らはもともと《鉱山都市グリーク》では一番期待されていたCランク冒険者たちなんだからなぁ」
「あ、そういえば僕も聞いたことあるッス。一時期ベネティス領の方でも活動してたことがあったッス」
「へぇ、案外幅広く活動してたのかしらね」
この中で一番『光の道標』と関わりがある北条も、世間話をする程度の関係だったので、その情報は初耳だった。
「と、まあそういう訳で、しばらくは工事の音でうるさいかもしれんがぁ、新しくくる奴ともよろしく頼むぞぉ」
「まかせろ! って、今回は女が多いみてーだし、あんまオレが関わることねーかもしんねーな。その辺は北条のオッサンに任せるわ」
「任せなくていいっ!」
「ひ、必要……ない……」
「え~、別に北条さんはそんな関係ないよね~?」
「う、うぇあ!?」
何気なく口にした発言に、即座に、それもほぼ同時にツッコミが帰って来たことで、龍之介が思わず戸惑いの声を上げてしまう。
ともあれ、新メンバーについての話を終え、次の話題となったのはクラン名の問題だ。
といっても、ここにはクランの中核メンバーは揃っているが、新規加入したばかりのムルーダとキカンスの姿がない。
それでも基礎案だけは出しておこうと、簡単なネーミング会議が行われた。
「んー、四つのパーティー名の一部を組み合わせるとか?」
「でも由里香ちゃん。私達のパーティー名は~、ここでは少し独特じゃないかな~?」
「名前に意味を持たせるべきか、語感だけで決めるべきか……」
「外部のパーティーが混じるとなると、私達のパーティー名みたいな意味を持たせるってのもアレかもね」
「姐さんたちのパーティー名の意味ッスか? 確かに聞きなれない名前ッスけど、何か意味があったんッスね」
「……そうね。アンタにも話したと思うけど、私達は遠い異国の出身なのよ。だから、この地に同朋がいたら、すぐに相手から分かるようなパーティー名で活動してたのよ」
「へぇー、そうだったのね。知らなかったわ」
などと、話し合いは続くが、これといったものが出てこない。
仕方ないので、ネーミング会議はムルーダらが帰ってきてから再開することに決定した。
それと、ダンジョンから帰ってきたばかりの信也達だったが、すぐにドロップの買い取りには行かず、ムルーダらの帰還を待って一緒に行くことに決まった。
それまでに予めクラン名をムルーダらも交えて決めておいて、一緒にギルドで本登録を行うという予定だ。
ムルーダらも、迷宮碑に登録するのが目的の探索とはいえ、ドロップの売却にギルドに寄る予定もあるだろうから、一石二鳥だろう。
こうして今後の予定が決まった信也達。
その後は龍之介が建築現場を覗きに行ったり、拠点に様子を見に来たライオットらを紹介したりして、時間が過ぎていく。
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それから二日後。
レイドエリアの迷宮碑登録に向かっていたムルーダとキカンス達が、無事拠点に戻ってきた。
出現する魔物は低ランクだったから、中で他の冒険者に襲われでもしない限り、彼らの実力なら問題なかったようだ。
ただし、例のブラックオイリッシュについては、普段は冷静なツヴァイがギャーギャー騒ぎまくってたらしく、ムルーダが揶揄うようにして龍之介にそのことを話していた。
当のツヴァイはそれをムスッとした顔で聞いている。
これに関しては、龍之介もツヴァイの気持ちが痛いほど理解できたので、それ以上触れることはしていない。
「それでだなぁ、ちょいと話があるんだがぁ」
冒険の話に一段落がつくと、北条はまずそう話を切り出した。
話の内容は勿論、新規メンバーについてと、今後の予定についてである。
まずは加入予定の四人のメンバーについて、話をしていく北条。
北条の口から『光の道標』という名が上がると、ムルーダとキカンス、両名から驚きの言葉が発せられた。
「えっ! 本当か!? あの『光の道標』の人たちが!?」
「それってもしかして、一時期ベネティス領でも活動してた人たちじゃないか?」
もともと《鉱山都市グリーク》で活動していたムルーダらはともかく、どうやらキカンス達も『光の道標』について、何か知っているようだった。