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第350話 『ライオット&シャンティア』 加入


 トントンッ。


 シャンティアらが逗留している宿へと移動し、ライオットの部屋の前まで案内されると、シャンティアが部屋の扉を軽く叩く。


「ライオット、いる?」


 シャンティアが部屋の扉をノックすると、中からごそごそとした音が聞こえてくる。

 彼女の言うように、昼間だというのに部屋に引きこもっていたようだ。


「シャンティア、何か用でもあるのか?」


 部屋から姿を現したライオットには、以前とは違い精気が欠けていた。

 かろうじて身だしなみは整えているようだが、瞳は少し澱んだように光がなく、先ほどの応対の声にも力が入っていなかった。


 以前のライオットを知る者がこの状態を見れば、その変わり様に驚くことだろう。

 しかし、この場でその事を知っているのはシャンティアだけ。

 アウラのお付きの二人も、事件時に捕らわれていた北条も、かつてのライオットの姿をほとんど知らない。


「少し話があるんだけど、いいかしら?」


「その一緒にいる人たちもか?」


「ええ、そうよ。話の内容に関わる人達ですもの」


「……分かった。中に入ってくれ」


「お邪魔するぞぉ」


 ライオットの承諾を得た北条らは、部屋の中へと入っていく。

 この宿はそこそこの高級宿であり、一人部屋なのに部屋が二つもある。

 中は意外と散らかってはおらず、綺麗にものが整理されて置かれていた。


「……それで、話ってのは何ですか?」


「その前に自己紹介よ。彼は『サムライトラベラーズ』のホージョー。そしてこちらの二人が、アウラ様の従士であったマデリーネさんとアリッサさんよ」


「あなたが……あのホージョーさんですか。噂は色々と聞いていますし、シャンティアからも話は伺ってます。私はひか……、魔術士のライオットです」


「ホージョーだぁ。こちらもシャンティアから話は伺っているぞぉ」


「そう、ですか……。それで、そちらがアウラ様の……」


「うむ。私がマデリーネでこっちがアリッサ。シャンティア殿もそうだが、呼び捨てで構わない」


「でしたら、私の方もシャンティア殿ではなくて、呼び捨てでお願いします」


「わ、分かった……しゃ、シャンティア」


 剣や魔法、騎士になるために必要な訓練や、知識を蓄えること。

 そして何よりアウラに仕えることを優先してきた余り、人付き合いが得意ではないマデリーネは、少しぎこちなくシャンティアに返事をする。


「ホージョーさんはともかく、そこのお二人がいるということは、アウラ様から依頼でも受けたのか?」


「いいえ、彼女たちは関係は……ないこともないけど、話は別よ」


「では一体……?」


 そこでシャンティアは北条がCランクへと昇格し、クランを設立することを説明する。

 シャンティアのその説明に、ライオットは驚いている様子だ。


「まさか、もうCランクに昇格したんですか……。その、おめでとうございます」


 ライオットは、冒険者の噂やシャンティアの話から、北条たちがまだ新人の冒険者であることを聞いていた。

 北条のCランク昇格の情報は、さらにライオットを打ちのめすことになっていたが、ライオットもこれまでの冒険者人生の中で、自分より先にどんどん上へと上がっていく人間がいることを知っていた。


 そういった連中の中には、すでにAランクにまで駆け上っていった者もいたりするのだが、それでも北条のCランク昇格はショックだった。

 しかしショックと共に、自分も負けていられないという意欲が沸き起こる程度には、ライオットは腐っていなかった。


「ナイルズの奴に押し付けられた感もあるけどなぁ」


「それだけ期待されているという事ですよ」


 ライオットはお世辞などではなく、本当にそう思って発言する。


「それでね、ライオット。ホージョーさんの設立するクランに、私達も入れてもらおうって話をしてたの。既にホージョーさんは承諾済みで、後は他のリーダー三人の承諾がもらえればいいのよ」


「私にもそのクランに加わってくれと、そういうことか?」


「ええ。すでにクランには、四組ものパーティーが加入決定しているらしいのだけど、他にも追加でそこの二人が個人で加入するそうなの」


「アウラ様のお付きの方達が?」


「……不甲斐ない話であるが、アウラ様の護衛として力不足を痛感する出来事があったのだ。これでもアリッサと共に、積極的に森の魔物を退治し、レベル上げも行っていたのだが……」


 マデリーネは一瞬、あの時の会談を思い出して、唇をギュッと噛みしめる。


「しかし、それだけではアウラ様をお守りするには不十分であると気づいたのだ! そこで無念ではあったが、アウラ様にお暇を頂き、冒険者として己を鍛えなおすことにしたのだ……」


 知らず知らず、語気が強くなっていくマデリーネ。

 そんな彼女を見て、ライオットは心の内からフツフツと滾るものを感じていた。


(彼女はどこか私と似ている……。あの様子からして、自分の力の無さを悔いて、寝れない夜もあったんだろう。私には騎士の心持ちというものを真に理解はできないが、忠誠を捧げた相手を守れないというのは、身を引き裂かれるような辛さなんだろう)


 ライオットは改めてマデリーネを、その瞳を視線に捉える。


(強い……、とても強い意思を感じる瞳だ。そうか……、彼女と私は似ているようでそうではない。私は彼女とは違い、未だ出口の見えない迷宮の底に沈んだままだ)


 ライオットは今度はシャンティアの方へと視線を移す。


(シャンティアは……そんな私を見捨てずに、これまで励まし、喝を入れてきてくれた……。彼女が一人、新しい仲間を探そうと奔走していたことだって、私は知っていた)


 ライオットの心の内側から溢れはじめた何かは、ライオットの瞳に光を取り戻させていく。


「ライオット……」


 その事に気づいたのか、シャンティは感極まったような声を上げる。

 そんなシャンティアに無言で頷きを返すと、ライオットは徐に口を開いた。


「お願いします! 私とシャンティアを、ホージョーさんのクランに加えてください!」


 出会ったばかりの相手が、どのようなことを考えているか、思っているかなどはそうそう分かるものでもない。

 しかし、北条はライオットの変化をハッキリと感じ取った。

 これまでの力の無かった声が、今は強い意志を感じるものになっている。



「これはシャンティアにも、そこの二人にも同じことを伝えているんだがぁ、俺は構わんと思っている。ただしクランの問題なので、他のリーダーの意向も確認しなくてはならん」


「はい、それは理解しています」


「それとだなぁ、これもシャンティアには軽く伝えてあるんだがぁ、クランの加入には条件が一つある」


「そういえば、まだ条件については伺ってませんでしたね」


「シャンティアもまだ聞いていないのか。条件ってのは一体どんな事でしょうか?」


「……この話は人に聞かれたくないので、魔法を使わせてもらうぞぉ」


「え、はい。それは構いませんけど……」


 承諾の言葉を聞いた北条は、"結界魔法"の【遮音結界】を発動させる。

 ライオットの目の前で構成され、発動される魔法。


 その様子を見て、ライオットは北条の緻密な魔力操作にまず驚き、無詠唱での発動に驚き、発現した魔法の効果に驚いた。


「この魔法……は」


 驚き戸惑っているライオットを気にせず、続けて北条はクラン加入の条件について語っていく。

 何度も同じ説明をしてきたので、すっかり慣れたものだ。


 先ほどの魔法が気になっている様子のライオットだが、条件を一通り聞き終えると条件を呑むと言ってきた。

 シャンティアも同じく誓いの言葉を述べる。


 二人の誓約を受け、北条が"契約魔法"を発動させる。

 光の糸が魂に結ばれる瞬間のなんとも言えない感覚を味わいながら、ライオットとシャンティアとの契約は履行された。



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