第349話 クラン仮登録
「お前たち二人で……かぁ?」
「ええ。今日こうしてこのような時間にギルドに居るのも、同じようにフリーだったりあぶれたりしてる冒険者を探すためでもあったんです」
「『光の道標』の再結成かぁ」
「はい……。ですけど、ライオットのあの様子では、人数が揃ってもまたリーダーを務められるか分かりません。彼がリーダーでないなら、それはもう『光の道標』ではないんです」
「それでウチに?」
「はい」
それはシャンティアにとって、望んでいた未来とは別の道だったのだろう。
しかし悪魔事件から数か月が経ち、少しずつ疲れがたまっていき、徐々に希望という光までもが暗く染まっていく。
元々Cランク冒険者だっただけあって、金銭的には困っていない彼らだったが、シャンティアの中にはまだ燻っている炎のような想いがまだ残っている。
その火を絶やさない為、そして再び燃え上がらせる為に、シャンティアは北条に一縷の望みを見出したようだ。
「うううん、うーーん。ウチのクランに加入するには一つ条件があるんだがぁ、それを抜きにしたとしてだぁ。クランの傘下に入るパーティーは、今のところ俺らを含めて四つ。いずれはメンバーも入れ替えるだろうがぁ、お前らを入れるとなると、ここにいる二人を含めた臨時パーティーを組んでもらうことになる」
「そうなのですか。そこのお二人は剣や槍をお持ちなので、前衛ということでよろしいですか?」
「うん、そうだよぉ」
「わ、私は一応"水魔法"も使える」
「でしたら、私の"神聖魔法"とライオットの攻撃魔法で、バランスは良さそうですね。後は盗賊職の方がいれば、ダンジョンに潜るのも問題なさそうです」
「あー、それなら一応ウチに一人余ってるのがいるっちゃあいるなぁ」
「バッチリじゃないですか。まさかこんなに早くパーティーを組めるなんて……」
嬉しそうなワクワクしてるような様子のシャンティア。
急に開けてきた未来像にテンションが大分上がってきているようだ。
北条とシャンティアは悪魔事件の最後、一緒に魅了を解除している時に、軽く挨拶を交わしたのが最初の出会いだった。
その後、たまたま町中にいたシャンティアに北条が声を掛けたのがきっかけで、以降は町中で会う度に挨拶や会話を交わすようになる。
こういったことは別に北条だけに限らず、咲良なんかもマッスルファイターズの面々とは付き合いがあったりするし、特に社交的な龍之介なんかは、どんどん見知らぬ相手の懐に飛び込んでいくので、冒険者の知り合いが多い。
しかし、北条はシャンティアと世間話程度の会話しかしてこなかった為、このようにガツガツとくる感じのシャンティアは初めてだった。
「い、いや待てぇ。先ほども言ったように加入には条件もあるし、他のリーダーの了承も取らんといかん。それに、Bランク間近だったお前たちと、この二人とではその、実力差がある。それでも構わんのかぁ?」
「そのようなこと、ただ宿とギルドを行ったり来たりする日々比べたら、全然マシです!」
「お、おう、そうかぁ」
大分鬱憤が溜まっていたのだろうか、などと思いながら北条が相槌を打つ。
「それで、クラン加入の条件とは一体どういったものなのですか?」
「まあ、落ち着けぃ。まずはクランの仮登録を済ませてからだぁ」
「分かりました」
(ううむ、なんかどんどん話が進んでいってる気がするな。マデリーネ達とも契約を済ませてしまったし……)
今更ながら、他のパーティーリーダーに確認を取る前に契約してしまったことに気づく北条。
(まあ反対意見が出ることはないと思うが、シャンティアらとも契約を済ませて拠点に招けば、最悪クラン加入に問題があっても、拠点戦力としては使えるか)
カウンターに向かいつつも、冷静に今後のことについて頭を巡らす北条。
と、その時。
北条が歩いていった先にあるカウンターから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あれ? ホージョーさんじゃないですか! 久しぶりですね」
その聞き覚えのある声につられ、カウンターの方に視線を向けた北条は、そこに馴染みの顔――ジョーディの姿を発見した。
「よぉぅ、確かに久しぶりかもしれんなぁ」
「ホージョーさんは余りギルドに顔を出しませんからねえ」
そのまま北条はジョーディのいるカウンターの方へと向かっていく。
この時間帯は受付も暇そうで、ジョーディの前のカウンターには誰も並んではいなかった。
「あー、まあ、色々と忙しくてなぁ」
「その忙しいホージョーさんが、今日は何の御用で?」
ジョーディの口調は少し冗談めいていて、久々に顔なじみと会話を楽しんでいるようだ。
「うむ。今日はクランの仮登録に来たぁ」
「クラン、……ですか。あ、そういえばCランクに昇格されたんですよね。おめでとうございます!」
「おう、ありがとなぁ。そういった訳でぇCランクの特権の一つ、クランの創設をしに来たぁ。手続きを頼めるかぁ?」
「はい! もちろんですよ。ちょっと待っててください。今、申請用紙を取ってきますから」
そう言ってジョーディは建物の奥へと消えていく。
少しすると、奥からジョーディが誰かと話している声が聞こえてきた。
ジョーディと話している相手方の声も、北条には聞き覚えのある声だ。
そして案の定。
北条が思っていた通りの人物が、ジョーディと共に奥の部屋から出てきた。
「いやーあ、普段は私が呼び出しを掛けてもなかなか訪ねて来ないというのに、君が自分から訪ねてくるのは珍しいことじゃあないかあ」
「ナイルズ……、こんな所で何してるんだぁ?」
「こんな所? 私は自分の職務を忠実にこなしているだけだがね」
「ギルドマスターならマスターらしく、奥の部屋に籠って書類仕事でもしたらどうだぁ?」
「ハッハッハ、心配はいらんよ。最近はギルド職員の数も増え、冒険者の流入も一時期より収まってきている。よって、私がこうして表に出てくることもできるし、普段は私と同じく奥で仕事をしているジョーディ君も、気分転換に受付をさせられる余裕があるのだよ」
「あぁ、それでジョーディが受付に」
「あ、はい。別に書類仕事が嫌って訳でもないんですけど、たまには直に冒険者の方たちと接しておきたいんです」
「それは良いことなんじゃあないかぁ?」
「へへ、そうですかね?」
北条に認められて少し嬉しそうな様子のジョーディ。
そこへナイルズが話を本題へと引き戻す。
「ところで、ジョーディ君からクラン結成に来たという報告を受けたのだが、メンバーは『サムライトラベラーズ』と『プラネットアース』の二組でよいのかね?」
「いやぁ、それに加えて『獣の爪』と『ムスカの熱き血潮』の二組。それと、それらパーティーのリーダーから承認が取れ次第、ここにいるマデリーネ達と、そちらの『光の道標』の二人も加入予定だぁ」
「ほおう、すでに追加で二組も勧誘していたのかね」
「そういう話になったのはついこないだのことだけどなぁ」
「ふむふむ。それにシャンティア君。君までホージョーのクランに参加すると?」
「ええ、ギルドマスター。これは私達にとってもチャンスだと思っております」
「……君たちは悪魔討伐の際に貢献してくれたというのに、その後不本意な噂を止めることができず、申し訳なく思っていた。ホージョーは何かと衝撃的な男であるが、只者ではない」
「……それってどういう評価なんだぁ?」
北条が小声でツッコミを入れるが、ナイルズは気にせず話を続ける。
「彼についていけば、少なくとも今よりは刺激的な生活を送ることができるだろう。頑張ってくれたまえ」
「はい、そのつもりです」
「それで……こちらの二人はアウラ様に仕えていた人たちだね」
「はい。アウラ様にはお暇を頂きまして、腕を磨くために冒険者の門を叩きました」
「うん、報告は受けてるよ。けど、報告にあったのは一人だけだったはずだが……?」
「隣にいるアリッサも、私の後を追って冒険者になると言い出してしまってな。ホージョーのクラン登録と一緒に、冒険者登録をする予定だったのだ」
「なるほど。ではアナタと同じFランクからということになるが、腕前の方も確認させてもらうよ」
「はぁい、分かりましたぁー」
ナイルズを交えての軽い自己紹介を進めている間にも、北条はジョーディが持ってきたクラン結成の申込用紙に、必要事項を記入していく。
「よし、こんなもんかぁ。ジョーディッ」
「あ、はい。では承ります。……記入事項に問題はないようですね。でしたら、後は、ホージョーさん以外の三名のリーダーにお越しいただいて、それぞれから承認のサインを頂いたらクラン結成となります。クラン名はもうお決まりですか?」
「む? クラン名かぁ。そういえばさっぱり考えてなかったぞぉ」
「でしたら、本登録する時までに決めておいてください。本日の手続きは以上です」
「分かったぁ」
ギルドを訪ねた一番の用件を済ませた北条らは、その後アリッサの実技試験を済ませる。
アリッサはレベル三十を超えているので、実力的にはDランク冒険者下位レベルだ。
ギルド規定によっていきなりDランク登録とはいかないものの、マデリーネと同じFランク程度の特例入会なら全然問題ない。
ギルドでの用事を済ませた北条達は、今度は新たに発生したタスク――元『光の道標』のクラン加入に向けて、彼らが逗留している宿へと移動を開始した。