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閑話 自由行動 前編


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジョーディと一緒に《鉱山都市グリーク》へと向かうことになったため、今日一日は自由行動となった。

 龍之介は朝っぱらから姿が見えなかった信也を連れ帰ってくると、軽い朝食を取っている。


「なー、本当に誰もいかないのか?」


 龍之介が聞いているのは、先ほど発言した『村の周辺の魔物を倒してレベル上げをしようぜ!』という提案に対する返答だ。

 しかし、他の男勢はその提案に乗り気な者はいないようだった。


「まず最初はレベル上げって基本だと思うんだけどなあ……」


 そうぶつくさ言いながらも朝食を食べ終えた龍之介は家を出る。

 すると、既に朝食を食べ終わっていたのか、『女子寮』を出た少し先の道に咲良、由里香、芽衣の三人の姿が見えた。

 何やらわいわい騒ぎながら歩いており、まさに姦しいとはこのことだろう。


 その様子を見ていた龍之介は、思い出したかのように小走りで彼女らの後を追い始める。

 三人は後ろからの駆け音に気付いたようで、一斉に龍之介の方へと振り返った。

 そんな彼女らに、軽く息を整えた龍之介が話しかけた。


「よう! 三人揃ってどこいくんだ?」


「私達、これから村の周辺を巡回して、魔物を倒してくるのよ」


 そう答えたのは咲良だ。確かに見れば獲物を収納する背嚢などを装備しているし、由里香は初期装備のナックルをきっちり身に着けていた。


「マジか! それなら俺も一緒に連れてってくれよ」


 龍之介の言葉に咲良は一瞬だけ微妙に嫌そうな顔を見せるも、戦力的には龍之介は申し分ない。結局その申し出を受けることにし、昨日の内に信也から借り受けていたらしい〈ソウルダイス〉を龍之介に手渡す。


 パーティー登録を済ませた四人は、村の出口の方へと向か――わずに、まずはジョーディの下を訪ねることにした。

 冒険者ギルド出張所は村の広場から近い場所に建てられており、普段ジョーディはそこに詰めているとのことだった。


 十分とかからずギルド出張所へとたどり着いた四人は、ドアをノックしつつ中へと入っていく。

 この建物には、昨日二つに分かれていた班が合流した後に、一度訪れている。


 他の村人の家に比べたら若干広いかな程度の敷地に、ジョーディの生活スペース件ギルドスペースが混在しており、受付部屋には簡易的なカウンターが設置されていた。


 龍之介達が中へと入ると、カウンターの奥で何やら作業をしていたジョーディが、龍之介達の方へと視線を送る。


「あれ、みなさんどうしました? 《鉱山都市グリーク》へ行くのは明日の予定ですが……」


 そう言って一旦手に持っていた荷物を近くへと置く。明日からの旅で必要なものを整理していたのだろうか。


「いえ、あの今日は特にすることもなかったので、この村周辺の魔物でも狩りにいこうかなって話になりまして……。その辺りのことをジョーディさんにお聞きしたいなと思ってきました」


 咲良の言葉を聞いて嬉しそうな表情を見せるジョーディ。

 この村にはギルド出張所はあるものの、常駐している冒険者はいない。

 いるのは仮登録とされる、Hランクの村人たちだけだ。


 Hランクはこのようなちっぽけな出張所でも認定することが出来るランクで、その多くは村人や町民などがアルバイト感覚でやっているものだ。

 周辺の魔物の収集品や、薬草などを売買するためだけに登録している者も多い。


 そんな状態なので、この村に冒険者としての依頼はほとんどなく、態々村の外まで魔物を倒しにいくのは定期探索の時以外にはほぼない。

 ギルド職員としてより、一村人として周辺の魔物を少しでも減らしてくれるのは、ジョーディにとっても助かることだった。


「なるほどなるほど。それでは、周辺に生息する魔物や、それらの魔物のお勧めの収集品などを説明しますね」


 荷物の整理は後回しにしたのか、生き生きとしたジョーディは説明を始める。

 普段ギルド職員らしい仕事が極端に少ないジョーディは、久々のギルド職員らしい仕事に少々暴走気味のようだ。


 とはいっても、この周辺に生息する魔物の種類はそう多いものではない。

 しかし魔物の話が終わると、今度は冒険者の心得や情報などを語り始め、中々止まる様子がみえない。


 咲良と、ボーっとしているようできちんと話を聞いている芽衣はともかく、既に龍之介と由里香の耳は、ジョーディの声を右から左へと流している状態になっている。

 そんな絶好調のジョーディが止まったのは、来客の珍しい出張所に新たな来訪者――メアリーと楓が現れたからだ。


「あら? 貴方達、こんな所にいたのですね」


「あ、ああ……。ちょっとジョーディにこの辺りの魔物の話を聞いていて、な。じゃあ、そろそろ魔物を狩りにいこうぜ」


 これ幸いと、この機会にさくっと話を切り上げ、さっさと出張所を出ていく龍之介。他の三人も我先にとばかりに後に続き、残ったのはジョーディら三人だけとなった。


「うーん、何かお邪魔しちゃったかしら?」


 そんな様子をみてメアリーは思わずそう口にするのだった。



▽△▽




「いやー、参った参った。ジョーディって普段は真面目な公務員って感じなのに、時折暴走するよな」


 からくもジョーディの長話から逃れた四人は、村の出口へと歩を進めていた。

 生真面目という程ではないが、マジメな性格の咲良であっても流石にあの長話は辟易していたらしく、口に出して同意はしていないが安心した表情をしていた。


「うーーん、なんかきょーとー先生の話を思い出した」


「校長先生じゃないんだ?」


「うちは、こーちょーよりきょーとーのが凶悪なんだよねー」


 などと由里香と咲良が話していると、ふと広場の端にぽつんと立っている北条の姿が目に映った。

 特に何をしているでもなく、周囲を時折見渡している。どうやらこちらには気づいているようだが、特に声を掛けてくるでもない。


「北条さん、あそこで何してるんでしょうね?」


 咲良の疑問の声に投げやりに龍之介が答える。


「あ? 日向ぼっこでもしてるんじゃね? てっきりオッサンもレベル上げ一緒に行くかと思ってたのに、序盤のセオリーってもんを知らねーんだな」


 誘いを蹴られたせいか、辛辣な龍之介の言葉に咲良は眉を顰める。


「別に一概にそうとは言えないでしょ? 今までの言動からして、こういった世界が舞台の作品やゲームにも詳しそうだったし。あの行動にも何か意味があるんじゃないかしら?」


「そうっす! 北条さんは、なんかよくわからないけど凄いっす!」


 この四人の面子の間では丁寧語――と本人は思っている――を使っていない由里香だったが、話題が北条のこととなったのでつい口調も引きずられてしまったようだ。


 由里香は直接北条に助けられたこともあり、戦闘においては芽衣を別として、一番北条を信頼している。

 しかし龍之介からすれば、休日の公園でボーっとしてるジーさんバーさんと大して違いがあるようには見えなかった。


「……まあ、オッサンのことは置いといて、そろそろ村の入り口につくぜ。この後どの辺を回っていくか相談しよう」


 そう口にして話を切り替えようとする龍之介。

 確かに出入り口はすぐそこに迫っていたので、これからの巡回スケジュールを決めていく四人。


 龍之介は用意していなかったが、女性陣は昼のお弁当までもってきていたようで、準備は万端のようだ。

 やがて大まかな予定を決めると、四人は村の外へとレベル上げに向かうのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 一方、龍之介らと引き換えにギルド出張所を訪れたメアリーと楓は、ジョーディが旅の準備を整える中、世間話という名の情報収集をしていた。

 元々二人はそういった知識には詳しくなかったのでこの場所を訪れたのだが、ファンタジー知識だのゲーム知識だのを抜きにした『この世界の常識』というのも中々興味深いものだった。


 例えば暦の話だが、この世界でも一年は十二の月に分かれているらしい。

 はるか昔は六つだけだったのだが、後に二つに分割するような形で今の形に落ち着いたとのことだ。

 何故そのようなことになったのかについては、二つに分かたれたのが遥か昔すぎて真相を知る者はおらず、未だに議論の論争になっているようだ。


 その十二の月は、暗闇の月から始まり明光の月で終わりとなり、また次の年の暗闇の月が始まるという流れだ。

 一年を年始から年末まで六属性と言われる『闇・風・水・火・土・光』の六つに順に分け、それを更に『明光・暗光』のように明暗で二つに分けて、一年十二か月の月の名とするとのことらしい。


 そして一つの月は六つの週で分けられており、こちらも月と同様の順番で六属性に分かれていて、それぞれ五日ずつ(闇と光だけ六日ずつで一日多い)となっており、一つの月の合計は三十二日。

 ちなみに今日は『神歴一二四八年、暗風の月(3月)土の一日(22日)』となる。

 "神歴"というのはこの《ヌーナ大陸》で広く使用されている紀年法で、他にも帝国歴などが『パノティア帝国』の国内で使われるなど、幾つか存在しているらしい。


 そのような感じで会話を楽しんでどれくらいが経っただろうか。

 ジョーディの好意で昼食を終えていた三人だったが、意外と話好きなのかお暇しようとする二人を引き留めて話を続けていた。


 メアリーと楓も、別にお喋り自体はよかったのだが、何やら作業しながら会話を続けるジョーディがずっと気になっていた。

 ついには作業そっちの気で話に乗り出してきたのをみて、流石にメアリーは強引に話を打ち切って出張所を後にすることを告げた。


 まだまだ話し足りない様子のジョーディに「どれだけ会話に飢えてるのかしら」と思いつつ、外に出ると丁度陽子と慶介の二人がこちらに向かってくる所だった。


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