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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第十二章

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第329話 憂さ晴らし


「ふぅぅ。どうにか話はまとまったようですね」


「ああ、これもすべてアランの持ってきたこれらのお陰よ」


 よく見えるように、テーブルにバラバラに置かれていた紙を集めつつ、すべてを拾い集めたアウラは、それをアランへと手渡す。


「しかし、最後は危険でしたね」


「……あのブールデル準男爵の護衛のことか」


「はい。まるで今にでも切りかかってきそうな気迫を感じました」


「クッ、アウラ様申し訳ありません。私の実力不足故に……」


 結局話が破談になってしまった時のシルヴァーノの様子は、くだらない茶番に延々と突き合わされた挙句に計画が失敗したことによって、酷くいら立っているようだった。


 今にも切りかかってきそうな気配すら発していたシルヴァーノが、凶行に及ばず素直に帰っていったのは、アンドレオッツィ子爵の連れていた護衛が睨みを利かせていた影響が大きい。


 この護衛の男は冒険者ではなかったが、実力的にはBランクに相当する腕前の持ち主だった。

 それでも一対一であればシルヴァーノに分はあったが、それ以外の全てが敵に回るとなれば、迂闊に手を出すわけにもいかない。


「仕方あるまい。あの護衛の男はエスティルーナ殿と同じAランク冒険者だ。あまり気にするな」


 アウラに励まされるマデリーネだが、そう簡単に納得することはできない。

 あの会談の場において、自分ひとり役立たずなのではと、強く自分を追い込んでしまうマデリーネ。


 一方アウラは、ある人物のことを考えていた。


(ホージョーであれば、あの男に対しても牽制出来ただろうか)


 あの時、拠点でのエスティルーナとの模擬戦を見て以来、北条を麾下に加えたいという欲求が再び湧き上がってきたアウラ。

 あの時交わしたホージョーと模擬戦をする約束は、未だに果たされていない。



「……それにしましても、今回のベネティスのやり口はかなり思い切ったものでした。使者としてあのような愚鈍な準貴族の者と、狂犬のような男を送りこんでくるとは」


「うむ。これまでの奴らの手口とは少し変わってきているな。奴らが用意した命令書と、記名されていた貴族の名前。そして、今回の手口。何か関係があるのかもしれぬ」


「命令書にスラヴォミール王子の名があったことも気になります。奴ら(ベネティス)の後ろ盾になっているのかもしれません」


「王子はまだ成人の儀も終えておらぬ。……もしかしたら、もう数年前から王子に取り入っていたのかもしれぬな」


「今回の件については早急に辺境伯にお伝えせねばなりませんね」


「ああ、仔細はアランに任せる」


 アーガスへの報告についてをアランに一任したアウラは、口元に手を当てて考え込む。


(あのシルヴァーノとかいう男の態度。場合によっては状況も考慮せず、私に襲い掛かっていたかもしれん。そのような危険な男と無能な準貴族を送り込んで、一体ベネティスは何を目論んでいるのだ?)


 幾つかこうではないかという推測は立ちはするが、しっくりくる考えはなかなか出てこない。

 ただこれまでと違い、どこか適当というか、何か問題ごとが起きても構わないというベネティスの意向は感じられた。

 すなわち今後何らかの強硬手段に出る可能性もあるということだ。


(問題は狙いがどこにあるかということだ。ダンジョンが狙いなのか、他にも狙いがあるのか。……父上に兵を派遣してもらうことも検討しないといけないな)


 後手に回ってしまっているような状態に不安を覚えながら、アウラはやれること、今やっておくべきことを模索する。

 傍らでは、ずっと考え続けていたマデリーネが何かを決意し、アウラに話しかけようとしている所だった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「アンドレオッツィ子爵! このままおめおめと帰ってよろしいのか!?  卿もハンス様の話に乗った、いわば同舟の間柄であるはず!」


 町長宅からの帰り道。

 興奮した様子のブールデル準男爵がアンドレオッツィ子爵に問い詰めていた。

 一応は周囲に人の数が少ないことを確認してから、声量に気を付けて話してはいたのだが、それでも近くには何人も人が歩いている。

 そのせいか、これまでアンドレオッツィ子爵は沈黙を続けていた。


「……ブールデル準男爵。このような往来の場ではそれ以上の口を慎みたまえ」


「し、しかし……ッ!」


「そもそもだね。これだけ穴のある計画だとは流石のワシも思っていなかったのだよ。子供のお遊びに大人を巻き込むのはこれっきりにしてくれ」


 アンドレオッツィ子爵はそういうと、有無を言わさず宿泊している宿の方へ、護衛と共に去っていく。

 追いすがろうとするブールデル準男爵を、一顧だにする様子もない。

 結局残された者たちは、借りている屋敷の方へと戻っていく。




「全く、あのつかえない男め! たかが子爵の分際で、ハンス様の計らいを無下にしおって!」


 屋敷に帰ってくるなり、ブールデル準男爵の口からは罵詈雑言が止まることがなかった。

 やり場のない怒りを物にぶつけようとするも、借り物の邸宅の器物を壊せばその分、修繕費などが余分に請求されてしまう。


 準男爵の身としては、この屋敷を借りているだけでも大分無理をしている状態だった。

 出立前にベネティス辺境伯に渡された工作用の資金などは、とっくに使い果たしてしまっている。


 結果として、凝りもせず苛立ちを護衛――シルヴァーノへとぶつける。


「貴様も貴様だ! ボーっと立ってるだけしか出来んのか? 貴様はいずれ最強の男になるのだと常々言っているのだろう? ならばあのような小娘どもを黙らせることなどかん――」


 ブールデル準男爵は、最後まで言葉を口にすることが出来なかった。

 学習能力のないこの男は、再びシルヴァーノの放つプレッシャーによって、それ以上言葉を紡ぐことが出来ないでいた。


「いい加減そろそろ自分の立場というものを理解しろ」


「なっ!?」


 これまでは曲がりなりにも敬語を使っていたというのに、ここに至ってそれが崩れたことに、ブールデル準男爵は驚く。


「いいか? ハンス様はお前のことなんか気にかけてはいない。今回俺に与えられた命令の一つにお前の護衛というのがあったが、それとは逆に、お前が問題を起こしたら始末しろとの命令も受けている」


「はっ、はぅああぁあ!?」


「お前の愉快な脳みそでも理解できるように言ってやる。つまり、俺がお前のことを"問題"だと思えば、いつだってお前を始末してもいいってことだ」


 震える小動物のごとくぷるぷるとしていたブールデル準男爵は、ついに立っていられなくなり、その場に崩れ落ちる。

 床の部分には水たまりができ、アンモニアの臭いをまき散らす。


「そう、それでいい。お前にはガタガタ震えているのがお似合いだ」


 恐怖に打ち震えるブールデル準男爵を見て、僅かに胸がスッとしたシルヴァーノは、そのまま部屋を出ていく。

 残されたブールデル準男爵は、しばしその場から動くことも、人を呼ぶことも出来ず、部屋の真ん中で震えるのだった。

 



▽△▽△




「ちっ、アイツの情けない姿を見て少しはスッとしたが、まだまだ心が晴れん」


 あの後、部屋だけでなく屋敷からも出たシルヴァーノは、一人街中を歩いていた。

 しかしこうして街中を歩いていると、余計苛立ちは募っていく。


「どいつもこいつも……」


 地元ベネティス領では、シルヴァーノは『勇者』として知られており、何も知らない一般人からは尊敬を。実態を知っている者や、亜人からは恐れや憎悪交じりの視線が向けられていたものだった。


 それなのにこの町でのシルヴァーノの知名度は低く、こうして道を歩いていても反応を示すものが少ない。

 自尊心の高いシルヴァーノは、そんな些細なことでも不快に感じてしまう。



「…………あれは」



 そんなシルヴァーノが向かっていたのは、冒険者ギルドだった。

 あそこならシルヴァーノのことを知っている者もいるだろうし、何よりほかに行くような場所にアテがない。

 そうしてギルド前の通りまで歩いていたシルヴァーノは、丁度ギルドの入り口から出てくる一組の冒険者パーティーを発見する。


「そういや冒険者の勧誘の方も上手くいっていなかったな……」


 結局シルヴァーノがこの町に来てから、勧誘に成功した冒険者は『黒髪隊』の他に、ソロの冒険者が数人。

 それから仕方なく基準を下げて、Dランクの冒険者パーティーを追加で一組。

 調査段階で狙いをつけていた冒険者は、結局ほとんど勧誘することができなかった。


「奴らにはさんざん舐めた真似をされたからな。後はもう帰還するだけだし、少し無茶をしても構わんだろう」


 誰にともなくそう独り言ちると、シルヴァーノは今しがたギルドから出てきた冒険者パーティーの後をつけ始める。

 彼らは東地区にある宿には目もくれず、町の東の方へ向かって移動をしていた。

 そしてそのまま町を出てダンジョンがある森方面へと向かっていく。


 冒険者たちがある程度町から離れたのを確認したシルヴァーノは、そこから一気に冒険者たちを追って高速で駆け始める。

 ある程度距離が近づくと、相手の盗賊職の冒険者がシルヴァーノの接近に気づいたようで、仲間に警告の声を発していた。



(さあて。あのクソハーフエルフはぶち殺しても構わんが、他の奴は有用だから半殺しに留めんとな。あと幾ら俺でも同時に持ち帰るのは二人が限度……。あの生意気な女と"結界魔法"の使い手でいいか)



 ダンジョンから帰還してギルドでの報告を済ませ、拠点への帰路につく『プラネットアース』。

 彼らはまるで天災のように突如湧き上がった猛烈なる悪意に、今、呑み込まれようとしていた。




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