第323話 特級魔法と上位スキル
「まずさっきの戦いで使用した魔法だがぁ、特級魔法や上位魔法がメインとなる」
「特級というと上級より上の魔法ですよね? 上位魔法ってのは何でしたっけ?」
「全てのスキルに存在している訳ではないがぁ、そのまんま上位互換のようなスキルだなぁ。主に二種類に分類されていて、"火耐性"の上位スキルは"火免疫"スキルになるがぁ、入れ替わる形になるので、"火免疫"スキルを取得すると、"火耐性"スキルはなくなる」
「免疫系スキルねえ。魔物なんかでは結構持ってる奴の話は聞くけど、人間で持ってるとしたら相当高位の冒険者とかよね」
魔物やスキルに関してはそれなりに知識のあるカタリナが、口を挟む。
「その通り。あのゼンダーソンも"火免疫"スキルを持っていたぞぉ」
「へぇ、流石ね」
「あの、それでもう一つの種類っていうのは?」
「ああ。もう一つは取得しても元のスキルが残るタイプのもんだなぁ。"剣術"スキルから上位スキルの"剣聖術"スキルを覚えても、"剣術"スキルは残ったままになる。ちなみに"剣聖術"スキルは、『勇者』が持っていたスキルだぁ」
"剣術"スキルなどの戦闘スキルや、"火魔法"などの魔法スキルは、所持しているだけで一部ステータスがプラスされる効果がある。
つまり、上位スキルを覚えているというのはそれだけ地のステータスにも差ができることになる。
そういったことを説明した後、付け加えて注意すべきシルヴァーノの情報を、改めてここにいるメンバーに伝える北条。
ゼンダーソンとの出会い話をちらっと聞いただけだが、またシルヴァーノと揉めたということなので、北条の中での警戒度がまた少し上がっているようだ。
「……でぇ、話を戻すとだなぁ。本来は特級レベルの魔法や上位魔法というのは、そうポンポンと使えるもんじゃあない」
「ま、そりゃあそうでしょうね」
「正直、今の俺ではその辺の魔法を"無詠唱"で発動させるのはきつい。発動出来たとしても、威力が大分損なわれるだろうなぁ」
「あ、そうですよね。私も"無詠唱"を覚えた当初は、中級魔法がさっぱり使えませんでした」
『賢者』という職業に就いたことが大きなきっかけとなって、咲良も"無詠唱"スキルを獲得してはいたが、思ってた以上に"無詠唱"は扱いが難しいスキルだった。
今では咲良も中級魔法の無詠唱での発動に成功しているが、威力はどうしても減衰してしまう。
「まあ無理をして特級魔法を使う必要は普段ならないんだが、Sランク冒険者相手に上級魔法では不安でなぁ」
「確かに。なんだかんだであの人、特級魔法とかも耐えてたッスからね」
「うむ。まあ俺も正直、実戦で高位の魔法を使ってみたかったってのもあったんだけどなぁ。お陰で、良い経験になったぞぉ」
他の人と比べると歪すぎるステータスの北条は、全力でやり合える機会が余りなかった。
これまでだと悪魔とゼンダーソンとの立ち合い、それからエスティルーナとの模擬戦位だ。
悪魔戦の時は人目を気にして魔法は殆ど使用せず、スキルも出来るだけ傍からは分かりにくいものを選択していた。
これはエスティルーナとの模擬戦の時も同様で、ある程度力を見せはしたが、まだまだ互いに全てを出してはいなかった。
これでは宝の持ち腐れ状態であり、実際に実戦で使用してみて使用感や使い方を考えていかないと、せっかくのスキルや魔法も活かすことができない。
そういった意味で、今回のゼンダーソンとの立ち合いは得るものが多かった。
「そういった訳で高位の魔法を使っていった訳だが、通常は高位の魔法になる程発動時間は伸びていく。これを軽減するために、今回は"短縮詠唱"のスキルを使った。それがあの呪文みたいな奴の正体だぁ」
"短縮詠唱"は発動する魔法に対し、本人がイメージしやすい文言を予め設定しておき、使用時にその文言を唱えることによって、劇的に魔法の発動を早めることができるスキルだ。
欠点としては、"無詠唱"スキルでの発動よりはマシなのだが、威力が減衰してしまうという点。
やはり魔法の発動を少しでも早めようとすると、威力がどうしても下がってしまうらしい。
「ほぇぇぇ、私にも覚えられるかなあ?」
「咲良は『賢者』の職業に就いてるから、覚えられる可能性はあるんじゃないかぁ?」
「わっ、職業って結構そういうとこで重要なんですね」
「だからこそ、一般的には下位職業を転々とするのではなく、より上位の職業を目指していく方が良いと言われてるのよ」
カタリナの言うように、普通はそういった職業の選び方をする者が多い。
ただ中には『魔術士』から『戦士』へと転職し、『魔法戦士』の道を目指す、といった、予めなりたい職業を見据えて転職する者もそれなりにいる。
「あの、それで魔法を二つ発動してたのは、結局素早く連続で魔法を発動させてたってことなんですか?」
「ん、ああ。その説明がまだだったな。そっちは単純に"ダブルキャスト"という、魔法を二つ同時に発動できるようになるスキルのお陰だぁ」
「"ダブルキャスト"ですか……。それってかなり良いスキルな気がします」
「"ダブルキャスト"はレアスキルに分類されてるからなぁ。慶介の言うようにかなり良いスキルなのは間違いない」
「よーするに、普通の人にはそうそう真似できないってことね」
カタリナが呆れたような口調で言う。
「"器用貧乏"を持ってる和泉リーダーならワンチャンあっかもな!」
「魔法系スキルか……。そっちは余り覚えていないから、開拓してみるのもありかもしれん」
「あのー、ところでそろそろ部屋に戻りたいっす」
「あらら。由里香ちゃん、すっかり鳥肌になっちゃってるね~」
着の身着のまま、上着を部屋に残したまま出てきてしまった由里香は、寒そうに手をこすっていた。
「どうせ話するなら農業エリアに移動して話せばよかったわね」
訓練場エリアから目と鼻の先にある農業エリアでは、一日中温暖な気温が保たれている。
この調子ならば、冬場であっても新鮮な野菜を食べることができるだろう。
「じゃ、戻りますか」
咲良の声をきっかけに、みんなして中央館へと戻っていく。
こうして北条とゼンダーソンの立ち合いが終わり、北条たち『サムライトラベラーズ』はダンジョンでの疲れを癒すため、今日は早めに就寝した。
▽△▽△
翌日になって、ゼンダーソンは前日に言っていたように、単身でダンジョンの探索へと向かった。
『プラネットアース』もダンジョン探索に向かうので、一緒にどうかと誘いはしたのだが、「とりあえず低層を軽く見てくるだけやから、ひとりで十分や」と言って、一人でダンジョンの中へと入っていってしまったのだ。
一見した感じ、ダンジョンに籠るような装備には見えなかったゼンダーソンだったが、Sランク冒険者なだけあってか、容量の大きい収納用の魔導具を持っているらしい。
そうして単身でダンジョンに潜っていったゼンダーソンは、罠などは"野生の勘"スキルや身体能力でごり押ししつつ、サルカディア低層を我が物顔で踏破していく。
地図なども用意せず、そんな無茶を通せるのは流石と言えた。
一方『サムライトラベラーズ』は、少し長めの休日を挟んでから再びダンジョンへと向かう。
結局ゼンダーソンはダンジョンから未だ戻らず、『プラネットアース』が帰還する方が先だった。
ここ最近のルーチンワークになっていたこうした流れは、ゼンダーソンの乱入によって多少の変化があったものの、大元はそう変わっていない。
ダンジョンに潜り、帰ってきたら数日休みを挟んで、再びダンジョンに向かう。
信也らがこうしたいつもと変わらない日常生活を送る中、裏では前々から計画されていた陰謀が動き始めていた。
元々は直接信也らに関わることではなかったのだが、結果としてその余波を受ける形になってしまう。
それは町長の屋敷――現在アウラが住んでいる場所で起こった出来事が原因だった。