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閑話 『魔法鍛冶師』ルカナル その6


「これが頼まれていた防具になります」


 そう言って、僕は予め防具を並べて置いてあった場所へ、ホージョーさんを案内する。

 属性ウルフの皮など、様々な材料を融通してもらって作った防具は、人数分あるので量としては結構な数になってしまった。

 けど、ひとつたりとも気を抜いたつもりはなくて、どれも僕が魂を込めて制作したものばかりだ。

 それらの防具には全て、タカのシンボルが刻まれている。


 しっかり一人一人採寸までして、専用に作り上げた防具は主に皮を加工して作った、レザーアーマーやハードレザーアーマーばかりだ。

 冒険者が重い金属鎧より、革製品を好むというのは間違いないらしい。

 ダンカン親方の祖国、『ユーラブリカ王国』でもやはりその辺は変わらないみたい。

 とはいえ、迷宮探索を行っていない冒険者の中には金属鎧を使う人もいるし、迷宮冒険者の中にも金属鎧を使う人はいるようだけど。



「ほおおう、ほう。こいつぁ、いいねぃ……」


 ホージョーさんは、僕の作った防具をひとつひとつ手に取って確かめている。

 その顔は満足してもらえているようで、僕としても何よりだ。


「誠心誠意、ご要望に沿うように作成しましたけど、実際使ってみて何か問題があったら持ってきてください。修正いたしますので」


「ふむ、承知したぁ」


 やがて確認を終えたのか、ホージョーさんは防具の代金を僕に支払うと、あの数の防具を次々と〈魔法の袋〉へと収納していく。


「わぁ、その〈魔法の袋〉、随分収納できるんですね」


「まあなぁ。それより、ルカナルに話があるんだがぁ」


「話? なんですか?」


「うむ。村はずれに俺らの拠点があるのは知ってるかぁ?」


 それはこの町に住んでいる人なら、だれもが知っているんじゃないかな?

 そこに誰が住んでいるかは知らなくても、あの建物だけはすごく目立っているからね。

 最初にあの建物をホージョーさん達が建てたってのを知った時は、僕もとても驚いたなあ。


「ええ、知ってますよ。あれってホージョーさん達が建てたんですよね?」


「そうだぁ。村長にもちゃんと許可を取ってなぁ」


 あの頃はまだ、ホージョーさんたちも名が知られた冒険者という訳ではなかったのに、あれだけの土地を融通するなんて、村長さんは結構太っ腹なんだなあ。

 なんてことを考えていると、ホージョーさんが本題を切り出してくる。


「そこでだぁ。あの拠点の内部に、お前さん用の専用工房を用意するから、ここの弟子を卒業したらウチに来ないかぁ?」


「…………ッッ!! そ、それは!」


 一番最初、《鉱山都市グリーク》でホージョーさんと出会った時から、どうも僕のことを贔屓してくれていると思っていたけど、まさかそのようなことを言われるなんて、望外の出来事だった。


 一体僕のどこを見て気に入ってくれてるのかは分からないけど、ホージョーさんの提案はとても魅力的だった。

 本来なら是が非でもその提案を受け入れたいと思う。

 けど、僕は元々この町の鍛冶士として声を掛けられた経緯がある。


 最近は他所から来た鍛冶士も増えてきたけど、それでも僕を採用してくれた冒険者ギルドや、《鉱山都市グリーク》の行政の人に申し訳ないという気持ちもあった。

 そのことをホージョーさんに伝えると、それならこうしようと条件を伝えてくる。


「……つまり、ホージョーさん達からの依頼がない時は、一般向けに注文を取ったりしてもいいってことですか?」


「そういうことだぁ。俺ぁお前さんの才能について知ってはいるがぁ、実際に物を作らなきゃ腕も伸びないだろう? この条件は、別にお前さんの都合だけじゃなくて、俺らの都合にも合致してるって訳だぁ」


 確かにホージョーさんのいうことも分かるけど、それにしてもこれだけ自由にやらせてもらえるなんて、鍛冶士としては破格の対応だと思う。

 普通は独占して、身内だけの専用の鍛冶士とするのが当たり前だ。


「それなら……問題はない、と思います。元々この村へ派遣する鍛冶士に選ばれたのも、ホージョーさんが推薦してくれたというのもありますし……」


「ああ。俺もあの時は思い付きで伝えただけなんだがぁ、それが高じて今のような関係になるとは思わんかったなぁ」


「僕もですよ。あの街角での出会いから、僕の鍛冶人生は一気に変わっていった気がします」


 しばし僕はこの半年間の出来事を思い返していく。

 それまでの人生が決して無意味だったとか、薄かったとかいう訳ではないんだけど、濃密な半年間だったと思う。


 ダンカン親方の下に就いてから、メキメキと腕が上達していき、今まで扱ってこなかった革製品についても大分扱えるようになった。

 危険な魔物に襲われて、命の危機に瀕したこともあった。


 そして、そのことがきっかけでエリカとの距離もグッと縮まったように…………


「おおい、ルカナル?」


「わ、うわあ。あ、すいませんホージョーさん。ちょっとホージョーさんと出会ってからのことを思い返してしまっていて……」


「わはは。急にどこか締まりのない表情をしてぼやーっとしだしたから、どうしたのかと思ったぞぉ」


 うっ……。ちょっとエリカとのことを考えすぎてしまっていたのかもしれない。

 僕は少し恥ずかしい気持ちを必死に隠しながら、その後もホージョーさんと契約についての話などをしていく。


 何やら"契約"とやらに関しては物々しい気配を感じてはいたけど、今更ホージョーさんが僕に酷いことを強いてくるなどとは思っていない。

 多分それだけ重要な秘密があるんだろうなって思ってる。


 そして契約についての話を終えると、ホージョーさんと早速拠点に建築する僕の工房についての打ち合わせをすることになった。

 もちろんその前に、正式に書類を交わしてホージョーさん達の下で働くことを誓ってある。



 打ち合わせでは、僕の無茶振りにも出来るだけ答えようとしてくれるので、調子に乗って僕もより良い設備を要求してしまった。

 自分で要求しておいてなんだけど、本当にあそこまで言ってしまってよかったんだろうか?


 けどホージョーさんは何でもないことのように、僕の要求を受け入れていってくれた。

 ……なもんだから、打ち合わせもそこまで紛糾することがなく、すんなりと進んでいく。


「じゃあ、そういう訳でよろしくなぁ」


「はい。僕の方も親方にきちんと話は通しておきますので」


 最後に挨拶を交わすとホージョーさんは工房を後にしていった。





「随分熱心に打ち合わせしてたみたいだけど、もう終わったの?」


 と、そこへこの工房の主、ダンカン親方の一人娘であるエリカが顔を出してきた。

 彼女は室内ということもあってか大分ラフな格好をしていて、思わず僕は視線を不自然に彷徨わせてしまう。


「どうしたの? ルカナル」


 そんな僕に、小首を傾げてエリカが問いかけてくる。

 うぅ……、そんな何気ない仕草も可愛すぎる。


「い、いや、エリカの恰好がその、刺激的だから……」


「ッッ! も、もう! 別にいつもの恰好でしょ! それに私達はもっとすごいことだってし、してるんだし……」


 そうは言いつつも、エリカも少し頬を赤らめて恥ずかしそうだ。

 自分でも初々しいなあなんて思いつつも、少しの間チラチラと互いに見つめあう時間が続く。


「ルカナル……」


「え、エリカ……」


 そして二人の唇の距離が近づいていく。

 これが初めてという訳ではないけど、僕の心臓は煩いくらいに主張をしている。

 彼女もきっと同じなんだろうな、なんてことを思いながら僕はエリカに口づけを……。



「おおい、エリカぁ! ルカナルはどうしたぁ? いないのかああ?」



 そこへ響いてきた親方の声に、僕は浮気現場を目撃された間男のように、ビクンと体を硬直させてしまった。

 室内に視線を這わせてみると、親方は部屋の外から声を掛けてきていたようで、すぐ近くにはいないようだ。


「……もう、父さんったら。はあああい、今そっちに連れてくううう!」


 エリカも親方譲りの大きな声で返事をする。

 僕は突然の親方の声に硬直してしまっていたけれど、彼女の方は堂々とした振る舞いだった。


「……続きはまた今度、ね?」


「あ、ああ……」


 そう言って軽く舌を出す彼女の姿の可愛さに、僕は返事するのもやっとだった。



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