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第30話 天恵スキル


「冒険者……か」


 信也がぽつりと呟くのを耳ざとく拾ったジョーディが、水を得た魚のように猛烈に営業を仕掛けてくる。


「えぇ、えぇ! そうです、正直貴方達の話を聞いて真っ先に浮かんでましたのが、冒険者への道です。『職業』をまだ詳しく窺っておりませんが、ヒーラーが二人も在籍し、低層とはいえダンジョンから脱出してこれるだけの戦闘力。まさに冒険者としてうってつけだと思いますよ! 今までは辺境の村として、この『出張所』の役割といったら、仮登録してる村人が周辺の弱い魔物を倒したり、薬草などを採取したりといった仕事しかなく、ぶっちゃけ暇を持て余しておりました。しかし、これからは違います! ダンジョンが発見されたことによって、《鉱山都市グリーク》だけからではなく、もっと遠方の地からも冒険者がわらわら集まって来ることでしょう! もっとも、それはダンジョンの規模にもよるんですが……そもそもダンジョン自体がこの国で確認されてるだけでも、両手の指で数えきれる程度しか存在しないので、今よりも多くの人が集まるのはまず確実のハズッ! それにもしそのダンジョンが『祝福されたダンジョン』だったら……。くぅっ! 夢が膨らみますね! 最初この田舎の村に派遣された時は『もう終わった』と思ったものですが……あっ! 別にこの村の暮らしが嫌って訳でもないんですよ。確かに最初はちょっと思いましたけど、ここの静かな暮らしも案外悪くないものですしね」



 せきを切ったように喋りだすジョーディは、ようやく周囲の反応に気付いたようで「ゴホンッ!」と咳をして誤魔化す仕草をする。


「えー、まぁ、そういう訳で、私としては冒険者がお勧めですよ」


 落ち着きを取り戻したのか、先ほどの鬼気迫る様子はなりを潜めたが、こちらを見つめる期待に輝く目は相変わらずだった。


「あー、色々と冒険者について気になることはあるんだがぁ……まず伝えておくと、俺らぁ一人も『職業』には就いていない。ギルド出張所で職業変更は出来るのかぁ?」


 北条の言葉に、同じ異邦人の中でも怪訝な表情を浮かべる者がいた。

 確かにまだ学生だった子供達は職業には就いていないし、大人組も日本ではともかく、こちらの世界では無職といえるだろう。


 だが、北条の言う"職業"とはいわゆるゲーム的な職業という意味合いだった。

 先ほどのジョーディの話から、職業システムのようなものが存在してると読み取った上での、先ほどの北条の質問という訳だ。


「え……? でもヒーラーがお二人いるんですよね? それに低層とはいえダンジョンを脱出して来たんですし――」


 そこで何かに気付いたかのように、はっとした表情を浮かべるジョーディ。


「も、もしかして『天恵スキル』をお持ちなんですか?」


「天恵スキル?」


 聞きなれない言葉に思わず聞き返してしまう信也。


「ええ、極僅かな選ばれた人は、生まれた時からスキルを持って生まれることがあるんです。しかも、同じスキルを持っている人と比べても、天恵スキルの方が効果も強く成長が早いと聞きます。まさに神に愛された方達です」


 ジョーディのその言葉に反応しかけた者が何人かいたが、真っ先に声を張り上げて反応を示したのは北条だった。


「あああぁ! 俺達の村で言う所の"神子"のことだなぁ! 確かにその通り、俺ら十二人はみんな生まれながらにスキルを持っている。だからこそ、遺跡の探索者に選ばれたんだぁ」


 咄嗟に事前に組み上げていた設定を用いて、ごまかしに入る北条。


「俺達の村もぉ、ここに劣らず……いや、ここ以上に辺境の村でなぁ。国からの支援も期待できんので、頼りになるのは自分達のみ。そういった場所で暮らしてる故郷の村では、"神子"が比較的よく生まれるようでなぁ」


 北条の咄嗟のでっちあげ話を、うんうんと頷きながら聞いているジョーディ。


「なるほど、そうでしたか。確かに天恵スキル持ち同士の子供は、天恵スキルを持って生まれやすいとは聞いたことありますね。にしても、回復系の天恵スキルっていうのは、凄いですねぇ。『教会』が聞いたら飛びついてきそうだ」


 何やらまた気になる話も出てきたが、北条は一旦話を戻して職業変更について再び尋ねることにした。


「それで、職業変更の方はどうなんだぁ?」


「あ、申し訳ありませんが、この村の出張所では"転職"は出来ません。というか、冒険者ギルドでは転職そのものが出来ません。ですが、『鉱山都市グリーク』でしたら転職碑(グラリスクストーン)が職業神の神殿に設置されているので、そちらでなら転職もおこなえますよ」


 どうやら転職をするには街まで赴く必要があるようだった。


「あー、それなら丁度いいなぁ。報奨金を受け取りに行くついでに、転職も済ませちまえばいい。……その後ついでにギルド登録もまとめてやっちまえばいいかぁ」


「え、ギルドに加入してくださるんですか?」


 期待の籠った目で北条を見つめるジョーディ。何故そこまで熱心に勧誘してくるのか。もしかしたら勧誘に成功した場合、勧誘した人に特別報酬でも入るんじゃないだろうか、などとつい考えてしまう北条。


「まぁ、この後お前さんが帰った後でみんなと話し合った結果次第だけどなぁ。まあ、少なくとも俺ぁ加入するつもりだぁ」

 

「……分かりました。より良い返事を期待してますね。では私は今日はこの辺で失礼させていただきます。この家は定期的に掃除しているとはいえ、気になる所も多々あるでしょうし。あ、それと、明日はダンジョン調査があるので、朝早く伺うことになるかと思います」


「あぁ、了解したぁ。また明日よろしく頼むぞぉ」



▽△▽



 ジョーディが家を出て行ったのを見送った一行は、肩の力が抜けたように息をつく。

 彼ら自体、元々赤の他人の集まりであるが、完全な部外者がいなくなることで緊張の糸も切れたようだ。


「あー、とりあえず話はああいう風にまとまったがぁ、まずはヒーラーの二人がいない時に話していた情報を共有しておこうかぁ」


 咲良とメアリーの二人に対して、大まかにこれまでの話の内容を説明する。

 報奨金と貨幣価値について特に興味を持っていたようなので、特にその辺は重点的に説明をした。


 といっても、説明する側もまだまだ分からないことは多い。

 二人への説明が終わると、今度は二人の方から――というよりは、咲良の方からちょっとした報告があった。


「村の人達、私達が魔法名だけで魔法を使うことに驚いていたわね」


 なんでも、魔法というのは使用する時に魔法名を唱える前には長ったらしい呪文を唱える、というのが村人の共通認識らしい。

 ただ同行していた村長の話によると、別に呪文そのものは必要ないという。

 村長も魔法職ではないので詳しくは知らないようだが、かつて村長が冒険者をやっていた時の仲間の魔術士によると「腕に自信があるなら必要ない」とのことだ。


「魔法使いに中二病患者が多いってことかしらね」


 辛辣な言葉を吐くのは軽く伸びをしている陽子だ。


「いや、流石にそれは……。何か理由もあるんじゃないか?」


 などと雑談を交えながら一通り情報の共有が終わると、まずは村長の依頼報酬の分配をすることになった。

 受け取った銀貨は全て一パノティア銀貨だったので、分配をしやすい。

 とりあえず頭数で割って各自六銀貨ずつを分配し、残りの八枚は十二人共同の資金として、生活必需品や食費などに充てられることになった。


 次に今後の方針だ。

 ジョーディが挙げていた三つの選択肢、農民か一般民か冒険者か。

 北条は既に冒険者になるつもりだと言っていたが、他の者達はまだどうするかを表明していない。


 だが話を聞く限り、結局は当初から話していた通りに、冒険者としてとりあえず生計を立てるという道が無難だろう。

 戦闘向けのスキルを選ばなかった長井ですら、結局冒険者になることを選択したのだから。


 と、ここまで話し合いが終わった所で、次の話に移る前に先に家の掃除ともう一軒の家の確認などを先に済ませることになった。

 ジョーディの言っていた通り、もう一軒の家も同じような造りだったが、こちらの方が少しほこりが目立つようだ。


 信也らは二班に分かれ、初期アイテムの布切れと慶介の"水魔法"を利用して、掃除をすることになった。

 日本で生活していた頃からすると、比べようもないほど内部が不衛生ではあるが、二時間程も掃除をしたことによって、多少はマシになる。


 掃除が終わった頃にはすっかり夜も更けていたので、夕食を取りつつ話し合いが再び行われることになった。



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