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第284話 オーンボロゾ


 サルカディア地下迷宮エリア二十一層からは、十六層からのトロール種が続投して現れていたが、ゴブリン種は二十層までで打ち止めのようで、代わりにオークファイターなどのオーク種が出現するようになっていた。


 この世界では肉といったらまず名前が浮かぶ程にメジャーな種族ではあるが、意外とその見た目は太っているという訳でもなく、筋肉のしっかりついたガタイの良い肉体をしている。


 ドロップするオーク肉はそのまま食糧の補給にもなるので、北条たちは積極的にオークを狩っていく。

 他にはもう一匹。龍之介がリベンジしたいと思っていた相手がこの階層では出てくるようで、その魔物に止めを刺した龍之介はご満悦の様子だ。




「ヘンッ! もうお前の咆哮なんて怖くねーぜ」


 魔物は光の粒子へと変わり、その場にはドロップの肉と毛皮が残される。

 それは以前の戦いでは文字通り手も足もでなかった、テイルベアーのものだった。

 龍之介は強さ的にも同じDランクレベルになっているし、咆哮や威圧に対する耐性を取得したので、一番厄介な"ベアーハウル"も問題ない。


 野良のテイルベアーとは違い、ドロップするのはその体の大きさからするとほんの一部でしかないので、金銭的には野良より稼げないのが難点だ。

 だが、ダンジョンなら倒してもまた湧いてくるので、その分数をこなせばそこそこ稼げる。

 もっとも北条たちは先へ進むのを目標としていたので、今回はこの階層で留まって狩りをすることもない。



 その他の魔物はといえば、この階層では何故か海を思わせる魔物が多めに出てきた。

 地中を潜って襲ってくるグラウンドシャークに、陸上をふわふわ浮遊するクラゲの魔物、ブラウタスジェフィ。

 それとどこかオッサン臭い声で「HAHAHAHA!」という声を発しながら襲ってくる、スターマンというヒトデのような魔物も出没するようになった。


「ふむ。そう簡単に出るもんじゃないっぽいなぁ」


「ん、何のこと?」


「スターマンがドロップする〈スターストーン〉のことだぁ」


 つい先日のこと。


 町の露店で見かけて購入し、加工を施してから咲良へとプレゼントした〈スターストーン〉は、この魔物が極々低確率でドロップするアイテムだ。

 魔物のドロップには、落としやすいものとそうでないものが存在している。

 〈スターストーン〉は中でも『ベリーレア』に設定されていて、そうそうドロップするアイテムではない。


 北条の"解析"ではダンジョンの魔物に限り、どんなアイテムを落とすかの情報を知ることができる。

 通常の"鑑定"ではそのようなことは無理で、北条も最初の頃はドロップ情報を知ることはできず、何度も使って熟練度が高まっていくうちに、ようやく見えるようになった情報だった。


 その情報を基にこれまでのドロップを思い返すと、『ベリーレア』に設定されているドロップをゲットしたことは今までに一度もなかった。

 それほどめったに出るものではないということだろう。


「コレはもう二つもドロップしたんだけどなぁ」


 北条が言っているのはスターマンからドロップした、木製の星形をした〈スターフィッシュスター〉だ。

 結局ヒトデなのか星なのかよく分からない名前だが、これは相手に投げつけて使う投擲武器で、『アンコモン』設定なのでまだ数を倒していないのに既に二つもゲット出来ていた。


「あー、ソレね。なんか時折町の露店とかで見かけるのよね。私も知らなかったけど、こんだけドロップするなら納得だわ」


 とはいえスターマン自体は余り見かけることがない魔物なので、そこまで本物が出回ることもない。

 ただ何故か知らないがこれを売れると思っているのか、わざわざ彫刻刀でこれを掘って売りに出す人が各地にはいた。

 そうした偽物が妙に多かったりするので、カタリナも見覚えがあったのだ。


「あ、そういえば僕も町を歩いてたらそれを売りつけられました」


 北条とカタリナの会話に慶介も加わってくる。

 なんでも老人がこの星型の何かを手に、直々に話しかけられたようで、高くもなかったので慶介はそれを買ってしまったらしい。


「その……なんか、あの人を見てたらおじいちゃんを思い出しちゃって……」


 別に顔が似てたとかいう訳ではなかったようだが、ちょっとした態度を見て祖父のことを思い出してしまったらしい。

 もちろん、慶介が買ったのは本物の〈スターフィッシュスター〉ではなかった。

 本物は僅かに風属性の魔力を帯びていて、投擲時に追加ダメージが発生するのだ。


「あ……。私、も…………」


 どうやらメアリーも同じようなやり口で、星形を買ってしまったことがあるようだ。ただ売りつけてきたのは老人ではなく、まだ小さな男の子だったようだが。



「はぁ……。なんだかそういう商法が流行ってるんかねぇ」



 何とも言えない話に何とも言えない表情をする北条。

 そうこうしている内にも、このサメだとかヒトデだとかが出る階層を突破し、次の迷宮碑(ガルストーン)が設置されている二十六層にまで辿り着いた『サムライトラベラーズ』。


 そこからは更に新しい魔物が出現するようになっていた。





▽△▽△▽




「おおっ!? あいつは!」


 罠の多いエリアを探索している『プラネットアース』とは違い、こちらは魔物は強くなっていってはいるが、罠が多いだの凝っているだのということもなく、歩みは順調に進んでいた。


 そうして二十七層を探索していると、北条が接近してきている魔物に気づいて大きな声を上げていた。


「どうしたんだよ、オッサン」


「おおおおっ! やるぞ! アイツはやるぞ!」


「なっ?」


「北条さん?」


「フハハハハハッッ!」


 最後に哄笑を上げながら、北条は一人魔物の方へと駆けだしていってしまう。

 アーシアと楓はそんな北条を躊躇なく追っていくが、他の面子は少し出遅れてしまった。


「一体なんなんだー?」


「あの魔物が理由ですかね?」


 少し遅れて龍之介らが後を追うと、既に北条はこれまで戦ったことのない初見の魔物との戦闘を開始していた。


「んー? 私も知らない魔物ね。あれ」



 その魔物は人型をしており、フラフープのような金属の大きな輪っかを腰辺りに帯びている。

 ただし、輪っかから下の部分には下半身がなく、腰から伸びた上半身部分しか人型の特徴はない。

 元から下半身部分がないのか、或いはあの輪っかの中をくぐった別の空間の先に下半身が埋まっているのか。その辺りは見ただけではわからなかった。


 上半身部分は、全身タイツをかぶっているように真っ黒で、どこかの犯人のようでもあった。

 顔の部分には四色の眼が光っていて、鼻だとか口だとかは確認できない。


「オーンボロゾー!」


 そんな見た目をした謎の魔物は、謎の声を発しながら北条に向かって襲いかかっている。

 右手は普通の人の手なのだが、左手部分は四本の爪を持つ金属の義手のようになっていて、その義手による爪攻撃を仕掛けている。


 それらの攻撃を北条は器用に躱しているが、龍之介が見たところあの魔物の攻撃は大分やばそうに思えた。


(……オレだったら、どこかでゼッテー被弾してるな。それも相応のダメージをもらってそうだ)


 龍之介も魔物との闘いを繰り返していったことで、見る目も養ってきていたようだ。

 この魔物について、龍之介が推し量っていたことはいい線をついていて、この魔物はCランクに分類される、かなり厄介な相手だったのだ。


 アーシアや楓に手出ししないように言っているとはいえ、北条が一対一でここまで戦闘に時間がかかっていることからも、相手の強さは窺える。


(いや、あれは遊んでる……のか?」


 確かに相手の魔物はランク相応に素早く的確な攻撃を繰り出し、時折"影術"までも使用して襲ってきてはいた。

 しかし北条は、それらの攻撃を一切受ける様子がなく、ビューっといった感じで走り回り、サァーっといった感じで敵の攻撃を避けている。


 これは楓にとっては見慣れた光景であった。

 が、いつも敵を引き付けて、攻撃を一身に受けていた信也の戦い方を見ていた龍之介らにとっては、それは驚くべきことだった。


「よーっし。そろそろいいだろうぅ」


 その言葉を合図に、受けから攻めに変わった北条は、特に闘技スキルなどを使うこともなく、見事な冴えを見せるハルバード捌きで魔物をあっという間に倒してしまった。


「オーンボロゾー!!」


 この魔物の本当の名前は謎だが、その良く口にする言葉から「オーンボロゾ」という名前が付けられているこの魔物は、断末魔にも同じ声を上げながら倒れていった。





「はー、やっぱ凄いのね。ホージョーって」


 これまでも何度か北条の戦闘シーンを見ていたカタリナだったが、こうして一対一で戦っているのを観察すると、その凄さが伝わってくる。


「う、うん。北条さん、は凄いん……です!」


「うえぁっ! そ、そうね……」


 カタリナが思わず漏らした声に、楓が相槌を打つ。

 いつの間にかカタリナの傍に近寄っていた楓自身に驚いたということもあったが、それよりもその楓の様子にカタリナは少し動揺を見せる。


(うーん。これは恋してるとかそういうんじゃなさそうだけど……)


 楓が北条へと向ける視線に、カタリナは心当たりがあった。

 自分もかつて『巨岩割り』に在籍していた頃に、ジババらに感じていた憧れの視線。

 それがもう少し熱狂的に、或いは狂信的になったのが今の楓の視線なのだろうとカタリナは見ていた。



「つーか、オッサン。とちゅーまで手を抜いてたんじゃねーか?」


「ああん? ……まあそうとも言えるかもしれんがぁ、何もただ魔物を倒すだけが全てって訳じゃあないんだよ。俺の場合はなぁ」


 北条はそう龍之介に告げると、アーシアを近くへと呼び寄せる。

 そしてジロジロとアーシアのことを見つめ始めた。

 北条に穴のあくほど見つめられているアーシアは、ただスライムが震えているだけなのに、それが身もだえして喜んでいるようにも見えてしまう。


「ほう。流石に"麻痺"と"凍結"はそうそう効かんかぁ。ならこいつはどうだぁ」


「ふるるる……」


 北条がそう言うと、北条の右目から赤いレーザー光線のようなものが発射され、ジジジッっとアーシアを焼いていく。

 身を焼かれている最中だというのに、アーシアはとても嬉しそうだ。


 話を中途半端な所で止められた挙句の北条のこの行動に、流石の龍之介も若干引いているようだ。

 ただ、北条の行動の意味そのものは理解出来た。

 というのも、このレーザー光線のような攻撃は、先ほどの魔物が使用してきたのを見ていたからだ。


「この通り、戦闘を長引かせて『ラーニング』したお陰で、新しく魔眼の能力を身に付けたぞぉ。それも一度に四つもだぁ」


「よっつ……。確かにさっきのアイツ、目が四つあったわね」


「ああ。相手を麻痺させる"麻痺眼"に、相手を凍結させる"凍結の魔眼"。それにこの赤いビームの"赤光の魔眼"に、相手を鈍足状態にする"鈍足の魔眼"の四つだぁ」


「……それは魔眼の大安売りね」


 ゲンナリとした様子でカタリナが言う。

 北条と出会ってから、これまで何度カタリナが持つ「常識」という殻が破られたことだろうか。


「ぬっ……。魔眼…………オレも欲しいなぁ」


 そう願う龍之介だが、魔眼系統のスキルはレアな部類であり、持っている者はそう多くない。


「はいはい。それよりもさっさとドロップを回収して先に進みましょう」



 最後にメアリーが場を纏めると、北条は速やかにドロップの回収を済ませ、再び探索へと戻るのだった。



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