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第264話 芽衣の新たな従僕と、新施設完成


 信也達がダンジョンから帰還して四日が経過した。

 あの日はギルドへ報告に行った後、《ジリマドーナ神殿》に転職をしにいったのだが、転職希望者が立て込んでいて転職をすることができなかった。


 仕方なく予約だけ取って帰ってきたのだが、その予約の日は五日後。

 中途半端な時間だったので、その間はダンジョンに潜りに行くことはせず、休暇ということになった。


 それはある意味、信也達にとっても都合がよかった。

 彼らはここ最近のレイドエリアアタックによって、レベルが大きく上がっている。

 新しいスキルも更に覚えていて、それらの練習や上手い使い方などを研究するのにちょうど良かった。


 今も訓練場では新しく"精霊魔法"を取得した芽衣が、雷の微精霊を呼び出している。見た目はとげとげとしており、濃い目の紫色をしたウニのよう。

 傍らにはカタリナの姿もあり、"精霊魔法"のなんたるかをレクチャーしているようだ。

 そこに上機嫌な様子の北条がやってきた。


 今はお昼の二時くらいであり、真っ青な空からは熱いくらいの日差しが降り注いでいる。

 なんだかんだで利用者の多い訓練場は、需要に追われるように徐々に快適さを保つための施設が作られていた。

 今では小学校の運動会で使われるような、簡易的な屋根の付いたテントみたいなのも設営されている。



「いよう、契約は上手くいったようだなぁ」


「はい~。北条さんも知ってると思いますけど~、"召喚魔法"の契約と似たような感じだったので~、うまくいきました~」


「そいつぁ重畳だぁ。……あの()になってるのも、もしかして新しく契約したやつかぁ?」


 ソレは先ほどから芽衣の契約した雷の微精霊、「コンペイトー」がまとわりついている、薄い緑色をした丸っこい物体……ウィンドスライムだった。

 レイドエリアの森と草原エリアに時折出現するこのスライムは、その名の通り"風魔法"を使用してくる属性系のスライムだ。


「そうですよ~。マンジュウに続いて契約した、ウィンドスライムの『ダンゴ』です~」


「ダ、ダンゴ…………」


 確かに見た目は三色団子の緑のそれに似ているが、芽衣のネーミングセンスは相変わらずなようだ。もしかしたら和菓子が好きなのかもしれない。


「あれは"精霊魔法"の練習を兼ねた、スライムの耐性取得訓練かぁ」


「はい~。わたしもアーシアちゃんのような子が欲しくなりまして~」


 のほほんとした口調で説明する芽衣とは裏腹に、少し離れた所ではダンゴにまとわりつくコンペイトーの様子をみて、なにやら黄昏ているマンジュウの姿がある。

 芽衣が新たに契約を結んだのは、最近のレイドエリアアタックによって、更にもう一体魔物を召喚出来るようになったからだ。

 これでマンジュウを含めて計七体、同時に召喚出来るようになっている。


「あー、ただ耐性スキルを覚えただけだと、特殊進化は出来んかもしれん」


「どういうことですか~?」


「これは恐らくの予想なんだがぁ……」


 そう言って北条が、スライムの特殊進化について推測を話し始める。

 近くにいたカタリナも興味津々に話を聞いていた。

 その内容はというと、恐らくスライムの特殊進化にはアーシアがいつの間にか覚えていた、"眷属服従"というスキルが重要なのではないかという話だ。


 実は北条も、アーシアに続く二体目のスライムと契約したことがあったのだが、耐性スキルを覚えても、その個体は特殊進化に至らなかった。

 目的を果たせなかったので結局契約を解除されたそのスライムは、契約解除後も北条に従順な態度を示していた。

 なので今では下水道の警護兼、汚水浄化を任せている。


 ちなみに、アーシアは元はアーススライム。現在下水道にいるのはダークスライムである。

 どうも"召喚魔法"の【コントラクト】で契約した同種の魔物は、再度契約をするにはしばらく期間を空けないといけないらしい。

 北条は最初、二匹目のスライム契約をアーススライムで契約しようとして失敗していた。


 そうした経緯を含めて、北条が"解析"スキルも駆使して出した結論が"眷属服従"のスキルの存在だった。


「俺ぁ、しばらくアーシアをこの近くで放し飼いしてたから、奴がどうやって"眷属服従"を取得したのかまでは知らんがなぁ」


「ん~眷属……ということは、他にスライムを用意するのがいいのかな~?」


「それは間違ってないと思うぞぉ。アーシアも森で狩りをしてた時は、"分裂"で増やした仲間? なのか分身なのか分からんがぁ、と一緒に戦ってたようだしなぁ」


「なるほど~。ではわたしも同じようにしてみます~」


「おおう。ところで、他の連中は拠点に揃ってるのかぁ?」


 北条が辺りを見たところでは、すぐ近くにいる芽衣とカタリナ。それから隣では龍之介と信也が新しい戦闘スキルを取得しようと、いつもと違う武装で模擬戦をしている。

 他には屋根付きの休憩スペースに、咲良と陽子の姿もあった。


「えっと~、ロベルトさんがルカナルさんの所に装備の手入れに行ってます~。あとメアリーさんも町の方まで行ってました~」


「む、そうかぁ。実はここ最近俺が建てていた建物がほぼ完成したので、お披露目をしたかったんだがぁ」


「ん~、多分みんな一度ここには戻ってくると思いますよ~」


「それなら、また後でみんな揃った時にでもするかぁ」


 そう言って北条は再び作業現場へと戻っていく。

 内装など細かい部分に満足がいっていないらしい。


 そしてそれから数時間後、すでに日も暮れかけた時間帯。

 ダンジョンへ向かうときの出口となる、東門の傍に建設した新しい建物の前に、ツィリルも含め全員が集結していた。



「んで、オッサンはいったいなにを作ってたんだ?」


「ふっふっふ。聞いて驚けぃ! 俺たちにとってかけがえのないものだぁ」


 そう言って北条は、建物の中央にある木製の引き戸を左右に開く。

 その先に待ち構えていたのは、同じく木製の壁だった。

 引き戸とその壁との間には幅があって通路になっているらしく、左右両方へと分かれる仕組みになっている。公園の公衆トイレなどで見かける構造だ。


 ドヤ顔をしている北条を先頭に、その通路を左に曲がって先に進む。そして角を曲がってから飛び込んできた光景に、異邦人たちはどよめき声を上げる。


「お、おお……。これは、もしや!?」


「わ、ほ、ほんとに?」


「うわあぁ…………」


 例外なく大きな反応を示す異邦人たちに、ロベルト兄妹はついていけていない。

 それも仕方ないと言えるだろう。

 この段階ではまだメインディッシュが見えていない状態だからだ。

 だが、信也達は違う。

 目の前の光景を見れば、ここがどのような施設かはすぐに理解できた。



「そうだぁ。『お風呂』を作ってみたぁ!」



 北条の力強い宣言に、異邦人たちのテンションが爆上がりする。

 それは施設の案内をされていくほど高まっていき、ロベルト兄妹は何でここまで盛り上がっているのか理解出来ていない様子だ。


 北条が建設したこのお風呂は、家庭用のものというより公共用の銭湯のような造りをしている。

 入り口部分は二手に分かれ、最初に男女に分かれる。


 通路を抜けて角を曲がった先では、広い脱衣室があって、扇風機の代わりに【風操作】の効果のある魔法装置が設置されている。

 更には簡易的だが着替えなどを入れる木製のロッカーや、冷水を生み出す魔法装置なども設置されていた。


 そして肝心の風呂場へと通じる扉は、曇りガラスがはめ込まれた引き戸になっていて、閉じた状態だと中の様子が確認できない。

 曇りガラスと言っても、ガラス生成の技術不足による不透明さではなく、意図的に作られたような曇りガラスだ。


 そのガラス戸を開け中へ入ると、大きな浴槽が二つ。それから小さな浴槽が一つあった。

 今はお湯を入れていない状態だが、あちこちに温水や水のでる魔法装置が設置されており、換気に関しても風の魔法装置でしっかり作られている。


 小さな浴槽の傍にはこれまた曇りガラスの壁で囲まれた部屋があり、そちらはサウナスペースとなっていた。

 ちゃんとロウリュ用の水や石も用意されていて、薪ストーブではなくこちらも魔法装置によって熱を発生させる仕組みになっている。



「うわっ! 凄いっす! やばいっす!」


 由里香は案内されている最中、「凄い」と「やばい」をひたすら繰り返すマシンになってしまい、咲良は「はぁぁぁ……」と息を漏らすばかり。

 この建物が大きな風呂場であると理解したロベルト兄妹だが、それでも特に大きな反応を示すことはない。


 公共浴場は《鉱山都市グリーク》にもあるし、大きな町や都市なら大抵は存在している。

 とはいえ、それらはすべてサウナ式の風呂であり、お湯につかるような風呂は一部の王侯貴族が自宅に作らせる程度だ。


 この風呂の説明を受けても、元々風呂に入る習慣というものがないロベルト兄妹からしたら、なんでわざわざお湯に浸かるんだ? という疑問が浮かぶだけだった。


「更にほれっ。石鹸もきちんと用意してあるぞぉ」


「それはいいですねぇ」


「わ、こんなに!? これはもう今までみたいにチビチビ使わなくても済みますね!」


 石鹸については、高額ではあったが《鉱山都市グリーク》で最初に多めに購入はしてあって、それを節約しながら使っていた。

 といっても、お湯に浸かるような風呂にきちんと入っていた訳でもないので、使用量は抑えられていた。


 それから《ジャガー村》に人が集まってくる頃になると、商人が持ち込んだ石鹸を時折補充することもあったが、仕入れの量も少な目だし、質の割には値段が高かった。


「こいつぁ、俺が"錬金術"で作った奴だからぁ質は保証するぞぉ!」


「うあ、ホージョーサン、"錬金術"も使えるんッスか」


 最初は日本でやってた自作石鹸作りを再現してやってみた北条だが、どうも油の嫌な臭いが取れなかったり、うまく固まらなかったりして苦戦していた。

 そこでいくつかの工程で"錬金術"を使ってみた所、一発で成功。

 その後も改良を繰り返し、満足のいく一品が完成した。


「これっ! 今すぐ入れないんっすか!?」


 思いのほかしっかりとした作りの風呂に、石鹸まで用意してあると聞いて、由里香は居ても立っても居られないようだ。


「あー、まだお湯を入れてちゃんと確認まではしてないんだがぁ……」


「それならこれからお湯を入れて試してみるっす!」


「ぬ、まあそれでもいいがぁ、お湯が溜まるまで少し時間がかかるぞぉ?」


「いいっす! それくらい待つっす!」


「そうかぁ? じゃあ用意をしておこぅ」


 そう言って北条は一旦浴室から出て、更衣室を経由して管理室へと移動する。

 その部屋には、いくつもの魔法陣が描かれていて、魔石を収めるスペースや、直接〈魔水晶〉に魔力を補充する装置などが、導線で繋がれている。

 それらの中には魔法装置の発動のオンオフを切り替える、簡易的なスイッチのような装置も設置されており、北条はそのスイッチを操作する。

 すると、遠くから「お湯が出てきたー!」という騒がしい声が聞こえてきた。



 こうして『スーパー銭湯』と名付けられたこの施設は、大いに異邦人たちの心身共に癒してくれた。

 他の人に入浴方法やマナーを教わったロベルト兄妹も、すっかり風呂の魅力に取りつかれたようだ。

 この日は入浴効果のせいか、彼らはぐっすりと疲れを取ることができたのだった。

 


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