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第261話 迷惑料


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 噂話というものに尾ひれがつくというのは、誰しもが理解していることだ。

 自分にとって良い噂ならば、むしろ本人がその噂を助長させたりもするくらいである。

 だが一部の人間は、逆のことがありえるということも理解している。

 つまり、噂されていたことが実際には噂以上のモノである場合のことだ。


 そのような事態に遭遇した場合、人はこういう顔をするのだろう。

 ……いや、彼らの場合、ただ単に全身を走る怖気が強制的にこの表情にさせたのかもしれない。


 彼らは自分たちの置かれた現状について、頭では理解していた。

 しかしCランクの盗賊職二人が気を張っていたにもかかわらず、問題の北条以外の仲間の接近にまで気づかなかったことは、どう考えても異常だ。

 だがそんなことを考える余裕もないほど、彼らは何もされていないというのに追い詰められたネズミのような有様だった。


「どうしたぁ? 二人してダンマリかぁ?」


「いや、オッサンの圧が強すぎんじゃね?」


「んー、そうかぁ? ……っと、これでどうだぁ? 何か話す気になったかぁ?」


 確かに北条から感じられていた暴力的な圧力は止みはしたが、だからといってそうそうすぐに立ち直れるものでもない。

 男たちが落ち着きを取り戻すにはまだ時間が必要なようだった。

 それまでの間、辺りには静寂が訪れる。


 その静けさは徐々に男たちの心に落ち着きを取り戻させ、そこでようやく男たちは信也達の連れていた魔物が大幅に減っていることを認識した。

 いるのは狼と見たこともないスライムの魔物だけだ。

 そういったことに気づくほど余裕を取り戻した男たちは、信也達へと話しかける。


「ぶ、無事だったんだな。俺たちも魔物を押し付けることになっちまって、気になってたんだ。だからこうして様子を見に来たって訳で……」


 最初こそ少し噛んだものの、男の物言いは堂々としていた。

 何も聞かされておらず、疑いもしていない由里香や龍之介はすんなりとその言葉を信じたようだが、陽子とカタリナの目は厳しい。


「ほおう。悪いとは思ってるんだなぁ?」


「ああ……。そうだ」


「そうかそうかぁ。じゃあその辺りのこと、この先で待機してるお前たちの仲間の所でじっくりと話そうじゃあないか」


「い、いや、それは……」


「どうしたぁ? 何か問題でもあるのかぁ?」


 男たちとしては、すでに他のDランクパーティーと合流している場所に、北条たちを連れていくのは避けたかった。

 元々擦り付けに反対していた他のパーティーが、何を口にするか分からなかったからだ。


「実は、その……」


 そう言いかける男だが、上手い言い訳が思い浮かばずそこで言葉が途切れてしまう。


「どうも言い方が悪かったようだなぁ。……つべこべ言わずさっさと歩け」


「……っ」


 北条の声は別にドスの利いた声でもなく、先ほどのように威圧系のスキルなども使用していない。

 しかしそれが逆に男たちには何よりの脅し文句となった。

 何も言わず、かといってこの場から逃げ去ろうともせず。男たちはゆっくりと、言われるままに、仲間が待機している場所へと、歩き始めるのだった。



▽△▽



「お前たち……」


 盗賊職の二人の男を連れて森の中を移動していると、前方に人の集団が確認できた。

 そして互いの顔が判別できる位まで近づくと、森の中で待機していた集団の一人が詰問するような口調で声を掛けてくる。

 その声に対し、二人の男はバツが悪そうな顔をして顔を逸らす。


 信也達と冒険者たち。

 互いに一定の距離を取って対峙した両陣営だが、先に動いたのは二人の男を両脇に配置し、前に進み出た北条だ。


「それでー、俺たちに魔物を押し付けようとしていたのは、お前ら全員の意思なのかぁ?」


 北条がいきなり真っ向からそう問いかけると、少なくない人数の冒険者が何かしらの反応を見せた。

 冒険者たちはフルレイドパーティーで三十人もいるが、北条はそれらの反応を全て見逃さず瞬時に捉える。


(この様子だと、あの時逃げていたメンバー以外の奴らは白か)


 呼びかけに対する反応を見た結果、北条はそうジャッジする。

 それは何も今の反応を見ただけで下したのではなく、"悪意感知"や"敵意感知"なども併用しての総合的な判断だ。

 特に最初に押し付けるために逃げていた集団は、あの時点で全員がそういった感知スキルに反応を示していた。


「……なるほどぉ。どうやらこの二人の所属しているCランクパーティー以外の連中は、今回のことに反対していたようだなぁ?」


 出掛かりから図星を言い当てられ、返す言葉もなかった冒険者たち。

 この北条の言葉には、Cランクパーティー以外の巻き込まれた面々が安心した表情を浮かべた。


「……言いがかりはよしてくれ。確かに魔物を押し付ける形になったのは悪かったが、別に悪気があってそうした訳じゃない」


「ほおう? お前らは俺たちが魔物との戦闘を終えて、休息してる時を見計らってたよなあ。わざわざ迂回までして魔物をおびき寄せたというのに、悪気はないと言うのかぁ?」


「なっ!?」


 反論をしたレイドパーティーのリーダーらしき男は、思わず声を上げてしまう。


「気づいてないと思っていたのかぁ? 生憎だが、こちらはお前らが気づく前に察知していたぞぉ」


「…………っ」


 そう言いつつ、北条は背後に控えるアーシアに一瞬目線を送る。


「いやぁ、分かりやすかったわぁ。一番最初にお前らが俺たちの存在に気づいた後、少しその場で足を止めたのも、擦り付けを思いついたからだろう?」


 冒険者たちは反論することもなく、ただ北条の言い分を受け止めていた。

 それも北条の言っていることがすべて事実だったせいだ。

 まるでその場にいたかのように的確に事実を突いていく北条。

 しかしそのことが冒険者たちを逆に激発(・・)させる結果となった。



「……やるぞ」



 リーダー格の男が、近くの仲間だけに聞こえるくらいの音量でボソッと呟くと、それに合わせたように幾人かが同時に動き出す。

 それに少し遅れて更に数人の冒険者が動きを見せるが――


「あ、あぁぁ…………」


 動き出した彼らの動きは一斉に止まってしまう。

 北条らと先に接触していた二人の盗賊職の男たちと、動きを見せなかった他のDランク以下の冒険者たち。

 北条のジャッジで問題ないと判断した相手だけを、器用に効果範囲から外してみせた威圧系スキルは、劇的なまでの効果を見せた。


「フッ! ハアッ!」


 そうして動きを止めた冒険者たちに、北条とアーシアによる打撃が加えられていく。

 万が一威圧系スキルの効きが悪い敵がいた場合、後ろにいる信也達を身を盾にして守ってもらうつもりで、アーシアにアイコンタクトを送っていた北条。

 だがその心配はなく、狙った全員にスキルの効果があったので、アーシアは相手を無力化するために独自で判断して動いたようだ。


 わずかな間に二人の盗賊職を除く、二組のCランクパーティーが無力化されていくのを、残りの冒険者たちは茫然と見守っていた。

 味方である信也達も、助太刀する前にあっさりと片付いてしまったので、同じように呆気に取られたように様子を眺めている。


 アーシアに殴られた者は苦しそうな表情を浮かべるが、威圧系スキルの影響がまだ残っているのか、転げまわるなどのアクションは取らない。

 北条が殴り飛ばしてる方は、どこか気を失うポイントでもあるのか、スキルでも使っているのか。殴られた相手は全員等しく綺麗に気絶していた。


「さあて、それで今回の落とし前についてだがぁ……」


 全員の処理が終わると、徐に北条が話を切り出す。

 口の端を上げた北条を見た残りの冒険者たちは、スキルを使われた訳でもないのに体が震えだすのを抑えられなかった。





▽△▽△▽




「いやぁ、奴らが魔物を集める手間を省いてくれた上に、臨時収入(・・・・)も入って万々歳だなぁ」


 清々しい笑顔で先ほどの件について触れる北条。

 それに対し、他のメンバーの反応は人それぞれだ。


「ううん、それにしても少しやりすぎじゃないか?」


「リーダー、何言ってんだよ! オレらは魔物の集団を押し付けられたんだぜ。これくらいとーぜんだろ!」


「そうね、寧ろ対応が甘いくらいよ。……あれだけ相手を圧倒できるなら、もっとふんだくってもいいくらいだわ」


「しかし、あれ以上ふんだくったら彼らも無事に帰れなくなるんじゃないか?」


「そんなことは私たちの知ったことじゃないわ。そもそも相手を殺そうとしておいて、自分たちの命が保証されると思うのが大間違いよ」


 彼らが話しているのは、あの冒険者たちからふんだくった戦利品(・・・)についての話だった。

 今回の迷惑料として、この階層に来るまでに仕留めていた魔物のドロップだけでなく、主犯であるCランク冒険者たちの装備の一部まで、ひっぺがしていた。


「ま、今回は全員がグルになってやった訳でもないようだし、あいつらには俺たちに手を出すとどうなるのかぁ、町で宣伝してもらうことにしよう」


 今回のように直接利益が関わってくるとなれば、それでもちょっかいを出してくる奴らが出てくるかもしれない。

 だがこちらが力を見せていけば、ある程度の抑止力にはなっていくだろう。


「……そう、ですね」


 ぽつりと呟くような声を発したメアリーは、信也と同じくもう少し加減してもいいのでは思っていたが、それではこの世界で襲い掛かってくる火の粉を払えないのだと、理解してもいた。


「一体、いつまで……」


 続けてメアリーが発した言葉は、今度こそ消え入るような声だったので、誰の耳にも届くことはなかった。

 ただ、メアリーの憂い顔はどこか遠くを見つめているようであった。



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