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第260話 飛んで火に入る……


 再び信也達がレイドエリアの十八層に転移してから、数日が経過した。

 地図の穴埋めと経験値、ドロップ稼ぎを目的とした今回の探索は、ひとつのフロアを二日掛けて回るというゆったりとしたペースで進んでいく。

 前回に比べてレベルも上がっているので、より安全に探索を進めていた彼らの二十層の探索中にそれは起きた。


「前方から魔物の集団が近づいてきてるッス」


 ロベルトの指摘した通り、現在は森を移動していたので姿までは確認できていないが、前方から騒がしい音が聞こえてくるのが、盗賊職でなくても分かるほどだった。


「ようやく動いたかぁ」


「ん? ホージョーさんが何かやったんッスか?」


「いいや、俺じゃぁない」


 そう言って何故か笑う北条の顔は、どこか楽しそうであった。

 首を傾げつつ、ロベルトは周囲の人間にも戦闘の準備をするように呼び掛ける。


「んー? またっすか? ついさっき魔物の群れを倒して休憩が終わったとこっすけど」


「まあ私たちはすでに休憩を終えて移動し始めた所だから、追加が来ても問題はないけど……」


 そうは言うものの陽子の顔はどこか訝し気だ。

 だがそんなことを言いつつも準備だけは着々と整えていく。

 由里香もなんだかんだで戦闘そのものには前向きだった。


「ん、あれ? なんか魔物たちの前に誰かいないっすか?」


 拳を打ち合わせていた由里香の"聴覚強化"で鍛えられた耳が、魔物の前を移動している集団の存在を察知した。


「これは……向こう見ずな愚か者ダヴァル・ディ・ゴウンのようね」


 同じく"聴覚強化"を持つカタリナがそう断言する。

 ほどなくして、森の先から冒険者の集団が信也達の方へと駆けてくるのが見えた。

 人数的には信也らと同じ、二組で構成されたレイドパーティーと思しき連中は、そのままの勢いで信也達の少し脇の所を通り過ぎていく。

 その際に「魔物の集団がくるぞー」と呼びかけがあったが、信也達の中にその場を動こうとする者は誰もいなかった。


「ハンッ! この程度の魔物の集団で逃げ出すんなら、そんな人数でこなきゃいいものを!」


「……ちょっとぉ。もしかしたら、すでに他のメンバーがやられた後かもしれないじゃない」


「むっ……。ま、まあどちらにせよ実力不足だったのは違いないだろ!」


 龍之介と咲良がそんなやり取りをしている間にも、逃げた冒険者たちを追っていた魔物が姿を見せ始めた。


「ま、いっちょこいつらを片付けてから文句言ってやろうぜ」


 剣を抜きながら言い放つ龍之介。

 一方、陽子やカタリナなどは、戦闘準備をしながらも北条に向けて声なき視線を向けていた。

 その視線に気づいたのか、北条は「おう、問題ないぞぉ」と彼女らに告げると、二人とも納得したように準備の続きに取り掛かる。


「ではいつも通り、あせらず確実に仕留めて行こう」


 信也の訓令を元に、万全に態勢を整えた一行は魔物の集団を迎え撃つこととなった。



▽△▽



 ――戦闘はレイドエリアの魔物の集団だけあって、領域守護者(エリアボス)戦ほどではないが、それなりに殲滅には時間を要した。

 だが最初に冒険者が逃げてきたこと以外、イレギュラーな何かが起こった訳でもなかったので、対処にはなんら問題はなかった。


「さて、とぉ」


 一仕事終えた労働者のように、戦闘が終わると同時に、ふらりと森の進行方向とは逆の方へと歩いていく北条。

 その足取りは木陰で用を足しにいくかのようであり、信也も咲良たちも別段気にすることはなかったのだが、そんな北条に声が掛けられる。


「ちょっと、どこへ行くの?」  「……ホージョー?」


 それもほぼ同時に二人の女性が声を掛けていた。

 陽子とカタリナの二人だ。


「あーー……」


 咄嗟に何か言い返そうとした北条だったが、二人の顔色を見て即座に出かかっていた言葉を引っ込める。


「……お前さんたちの想像の通りだと思うがぁ、どうする? ついてくるかぁ?」


「もちろん」


 北条の提案に陽子は無言で頷き、カタリナは言葉で了承の意を伝える。


「ん? 何だなんだーーっ?」


「北条さん、どこにいくんですか?」


 そこへ龍之介やメアリーも首をつっこんでくる。

 北条はまあこうなるよなという顔をしつつも、休憩もそこそこに結局全員を引き連れて、来た道を戻ることにするのだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「どうだ? いたか?」


「いや……、どこにもいねえ。痕跡も見当たらねーのはどういうことだ?」


 森の中で二人の男が会話をしていた。

 この二人は、先ほど信也達に魔物を擦り付けた二組のパーティーの中で、それぞれ盗賊職としての立場にある者たちだった。


「急に奴らの気配が消えたから、魔物にやられたのかと思ったがどうも違うらしいな」


「俺らの存在に気づいたとしても、全員の気配を消すことは出来ん。特にあの連れていた魔物どもまではな」


 彼らはこの二十層に狩りに来ていた冒険者たちだが、二組だけで来ていた訳ではなかった。

 二組のCランクパーティーと、二組のDランクパーティー。それから荷物持ちとしてEランクパーティーを含めたフルレイドパーティーで構成されている。

 ――そう。信也達が記録を更新する前に、このレイドエリアの最深層まで潜っていたレイドパーティーだ。


 彼らとしては、せっかくの美味しい狩場を見つけたというのに、そう間を空かずしてこのエリアの情報がギルドに報告されてしまったのだ。

 しかも同時にドロップも大量に買取されてしまい、彼ら先行者がため込んで少しずつ捌いていた、属性ウルフのドロップの買取価格も下がってしまった。


 このことに、特にCランクの二組のパーティーは憤りを露わにしていた。

 一方、Dランクパーティーの二組の方は、これも仕方ないという態度だったし、Eランクのパーティーに至っては信也達に内心感謝していた位だった。


 なんせ、せっかく重い荷物を背負ってドロップを回収してきても、すぐに売却せずにちびちびと売り払っていたため、Eランクパーティーへの報酬もすぐには入ってこなかったのだ。


 そういった背景があり、今回たまたま信也達を発見した彼らは憂さ晴らしをすることに決めた。

 しかし、全員がその意見に賛成していた訳ではなかった。

 Cランクパーティー以外の面々はそんなことは止めるように言ったのだが、力関係的に自分たちより上位である、Cランクパーティーの連中を止めるには至らなかった。


 結果として、Cランクの二組のパーティーが自ら魔物をおびき寄せる役となり、信也達へと魔物を押し付けることが決まった。

 これは単純にDランクパーティーにやる気がないこととは別に、おびき寄せる際に事故が起こる可能性も考慮してのことだ。


 残る三組のパーティーは、信也達が魔物を蹴散らして安全となった場所で待機。

 Cランクパーティーは、魔物集団との戦闘で休憩をしている信也達の所に、上手いこと魔物の集団を誘導して押し付ける。


 この急造の作戦は、信也達が予想以上に早く休憩を切り上げて、探索を再開したこと以外は問題なく履行された。

 若干誘導する時に混乱は生じたが、うまく信也達の移動する方向と合わせるように魔物を誘導することに成功したのだ。


 誘導に成功した後は、一旦残りの待機中だったパーティーと合流をし、様子を見ることになった。

 魔物との戦闘中に背後から襲い掛からなかったのは、Cランクパーティー連中の良心のため…………という訳ではなく、単純に北条についての尾ひれのついた噂話をすでに聞いていたからだった。


 北条としては、それで絡んでくる連中が減るならいいや、と放置したままの自身に対する噂。

 自分たちの最深記録を更新して進んでいるのが、北条の在籍するパーティーだというのは、調べればすぐに判明した。

 同時に、アンタッチャブルな人物であるということも。


 その結果として、ただ魔物を押し付けて様子を見るという、消極的な手段を取ることにしたCランクパーティーの冒険者たち。

 その消極さが、彼らの明暗を分けることになる。



「ちっ、どうする? もう少し接近するか?」


「……そうだな。ここからでは何もわから――」


 男がそう言い返そうとして言葉を止めた。

 そのことに対し、もう一人の男も疑問に思うことはなかった。

 何故なら、その理由が自分にも痛いほどよくわかったからだ。



「ぃよおう。こんな所で何をしてるんだぁ?」



 まるで凍り付いたかのように一切の動きを止めた二人の男に、魔物との闘いの前に浮かべていた楽しそうな顔を浮かべながら、突如現れた男――北条が問いかける。


 北条の傍にはいつの間に現れたのか、彼のパーティーメンバーも全員揃って姿を現している。

 そして、じっと二人の男を見つめるのだった。



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