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第255話 パトリアークホース


 昼食を終え、一休みをして英気を養った一行は、簡単な作戦会議を行った。

 といっても、どんな魔物が出てくるかも分かっていないので、基本的にはこれまでとほとんど変わりはない。

 場所によっては最初から領域守護者(エリアボス)が待ち受けていることもあるようだが、ここはどうやら違うようだ。


 なんにせよ、"付与魔法"による強化や"召喚魔法"の準備など、予めやっておくべきことの多い彼らには、この形式はより攻略しやすいタイプといえよう。

 "召喚魔法"の方はいつもの前衛のオーガに加え、何体かピコなどの遠距離攻撃を混ぜた編成に。


 そしてカタリナは火の微精霊「カリス」と、水の下位精霊「ロイド」を精霊石から呼び出す。

 北条の方は被らないように、光の下位精霊「バニラ」だけを呼び出してある。

 同じ属性の精霊が一か所で力を行使すると、その場所から一時的にその属性の精霊力が失われていき、力が十分に発揮できなくなることがある。

 それを防ぐために、念のために別種の精霊を使うように北条は心がけていた。



「準備はできたみてーだな。よっし、いくぜ!」


「お、おい、ちょっと待て」


 一通り準備を終えたのを確認した龍之介が、勇み足でストーンサークルの内部へと入っていく。

 それを見て慌てたように信也が後を追い、他のメンバーも更にその後へ続く。

 全員がストーンサークルの中に入った所で、何かしらの変化があるかもと身構えた信也だったが、特に周辺に変化が見られない。


「……出てこないな」


「んー、もしかして誰かが前に倒しちゃってるとか?」


「可能性はなくはないが、ダンジョンのボスというのは、倒しても少し経てばまた新しいのが湧くのだろう? 北条さん。俺たちの前に誰かがここで戦ってたような形跡は?」


「いんやぁ、そういう形跡はなかったぞぉ」


「となると、他に条件が……? まあとにかく、まだ石の柱の内側に入っただけだ。中央部分まで行けば、何か起こるかもしれない」


 信也の言葉を受け、全員が中心部へと寄っていく。

 名も知らぬ雑草を踏みしめつつ先へ進んでいくと、やがて遠くからチラッと見えた、石の床が円状に張り巡らされた、舞台だとかダンスステージといった場所が見えてくる。

 その更に中心部には、このダンジョンに潜るようになって以来、お馴染みとなっている魔法陣が床に刻まれているのが確認出来た。


「なるほどぉ。つまり、あいつに魔力をぶち込む訳だぁ」


 そう言って、北条が床に描かれた魔法陣の方に近づいていく。

 そして、


「すでに"付与魔法"もかけてあるし、このままボスを呼び出すぞぉ!」


 と少し大きな声で宣言すると、足元の魔法陣に魔力を送り込む。

 途端、魔法陣を構成する図形の隅々に光の奔流が現れ、微かに大地が揺れる。

 北条は慌ててみんなのいる所まで引き返すと、それと引き換えに魔法陣からは一頭の魔物が呼び出される。



「ヒイイイイイイイヒヒヒヒヒヒンッッ!」



 まるで眠っている所を起こされて不機嫌だと言わんばかりに、呼び出されたと同時に鳴き声を上げる魔物。

 見た目はまんま馬なのであるが、その体長は六メートルを超えていると思われる。

 頭部にはインディアンが身に着ける羽根飾りのような一枚羽が、逆ハの字型に連なっている。

 普通の馬と異なるのは大きさとのその頭部くらいだが、他にも幾つか微妙に地球の馬とは違う部分もあるようだ。


「ブルルルルンッ!」


 準備は整えていたものの、初めての領域守護者(エリアボス)を前に様子見というか手が出ないでいた彼らの方に、その魔物は勢いよく突っ込んでくる。


「ヴァアアアッ」


 その馬の魔物の動きを見て、一番近くにいた前衛のオーガが、行く手をさえぎるように立ちはだかる。

 そして数瞬後には、ズガアァンという音と共にオーガを勢いよく撥ね飛ばし、少し勢いを弱めながらも次なる獲物――由里香の方へと向かっていく。


「えいっ!」


 由里香は魔物の突進を紙一重で躱しつつ、強烈なストレートを通り際にお見舞いする。

 由里香が使用した、"クロスカウンター"の闘技応用スキルは、応用スキルの中でもリスクを背負う分、威力が高めの攻撃だ。

 だが馬の魔物は、小石を軽く投げられた程度の痛痒さも感じていないようだ。


「あれはトライバルホースの上位種、パトリアークホース。Dランクの魔物です! 突進も厄介ですが、"風魔法"も得意としています」


 少し遅れて魔物の情報をみんなに知らせるカタリナ。


「ほおう。流石に領域守護者(エリアボス)となると、HPもMPも桁違いだなあ、こりゃあ」


 早速"解析"で魔物の情報を調べた北条が、呑気に感心したような声で言う。


「何か弱点とかはないんですか?」


「んー? 属性の弱点はないようだなぁ。注意すべきは、全体効果の威圧系のスキルと、カタリナの言ったように"風魔法"による攻撃。それと、"後ろ足蹴り"なんてのを持ってるから、背後には近寄らんほうが良さそうだぁ」


「背後だな? 了解!」


 馬が通り過ぎて行ったほうに、ダッシュしながら信也が答える。

 同じく前衛の龍之介も、走りながら〈ウィンドソード〉による遠距離攻撃を繰り出しつつ、パトリアークホースの方へと向かう。


「とりあえずー、これでもくらいなさい! 【フレイムランス】」


 ここ最近のレイドエリアでの大量の魔物との戦闘で、咲良も大分レベルが上がっている。

 かつては中級魔法を使用すると精神的な疲労を感じたものだが、今では大分MPにも余裕が出来てきた。


 『流血の戦斧』相手にも十分に通用した桜の十八番(フレイムランス)

 しかしパトリアークホースは、圧縮した風の塊のようなものを炎の槍へとあてて威力を幾分か相殺させる。


「ヒヒイイイン!」


 今ので完全に相殺できると判断したのに、それでもまだ威力を殺しきれずに向かってくる咲良の【フレイムランス】。これには、パトリアークホースも回避が叶わず横っ腹に被弾する。

 と同時に、同じタイミングで放たれていた慶介、北条、カタリナの魔法攻撃が連続ヒットした。


 更にそこに前衛の信也と龍之介の二人が迫る。

 思わぬ連続攻撃によって、足を止められてしまっていたパトリアークホースへ、二人の闘技スキルが遺憾なく発揮される。


「よしッ!」


 思わず快哉の声を上げる龍之介。

 それとは逆に、パトリアークホースの方は為す術もなく攻撃を食らい続けたせいで、悲痛な声を発する。


「ハンッ、オラオラオラァァッ!」


 今のうちにとばかりに、更に闘技スキルで追い打ちを掛ける龍之介。

 だがそうはさせじと、強引に突進をかけてその場から離脱するパトリアークホース。

 そして頭の羽飾りの部分に魔力を集中させると、それを一気に解き放つ。


「……これは」


 パトリアークホースの放った"強圧"によって、周囲に強いプレッシャーが発せられる。

 威圧系のスキルは種類によって陥りやすい効果は異なるが、"強圧"の場合は体が竦んで動けなくなる効果が強い。

 レベルの低い一般の人ならば、更に恐怖に陥ったり下手すれば失神したりすることもある。


 しかし流石に冒険者として経験を積んできた信也達に、失神する者などはいない。

 ロベルト兄妹以外は"恐怖耐性"訓練をしていたし、龍之介に至っては"威圧耐性"のスキルまで持ち合わせている。

 有象無象が入り乱れる集団戦では効果的なこの手のスキルも、少数精鋭の相手には効果がイマイチであった。


「んならああっ! 【風の刃】」


 龍之介が声を張り上げながら"風魔法"と、〈ウィンドソード〉の魔剣の効果で風の刃を更に重ねて発動させる。そこへ更に、闘技スキルの"真空斬り"も重ねた計三つの遠距離攻撃を、走り回る魔物に向けて同時に放つ。


 三つ同時といっても基本的なものの組み合わせなので、威力はそこそこだ。

 だが同時に放つという部分が気に入ってるらしく、龍之介はよくこのコンボを使っていた。


 速度の速い風系統の同時攻撃は、縦横無尽に走り回る魔物に見事ヒットする。

 見た目的には効果があるのかいまいち分かりにくいが、このまま削っていってやると、龍之介が次の攻撃に入ろうとした所に北条の声が飛んでくる。


「龍之介ぇ。そいつぁ"風耐性"持ちだから、"風魔法"は効果が薄いぞぉ」


「なっ、マジかよ!」


 それならば、と近接戦闘を仕掛けようとする龍之介だが、巨体のわりに機敏に走り回るパトリアークホースを追いかけまわすのは無理があった。

 馬の本領発揮とばかりに、あちこちを走り回りながら"風魔法"による遠距離攻撃に切り替えたパトリアークホース。


 領域守護者(エリアボス)が厄介なのは、HPだけでなくMPも多めに設定されている点だ。

 領域守護者(エリアボス)といっても、Dランク程度の魔物がベースなら、一撃もらうだけでやばいという攻撃をしてくることはほとんどない。

 しかし持久力だけは高ランクの領域守護者(エリアボス)と同じ仕様で、魔法主体に使ってくる魔物であっても、魔力切れに期待するべきではないと言われている。



 パトリアークホースの放つ魔法を、オーガの肉壁や陽子の【魔法結界】で防ぎ、お返しとばかりに咲良たちからは魔法が飛び交う。

 こうして領域守護者(エリアボス)との長い闘いが始まった。



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