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第253話 互いの見解


 拠点から帰還し、『女寮』へと集まる『サムライトラベラーズ』。

 大分日も暮れていたので拠点を後にした彼女たちだが、今日の突然のアーガスの訪問に関することではまだ話したいことがあった。

 それで北条も『男寮』に戻らず、夕食も一緒に兼ねて『女寮』へとお邪魔している。

 すでに北条の作った夕食を食べ終え、会議という程でもないおしゃべりが始まっていた。



「うー、北条さんヤバイっす。激ヤバっす!」


 アーガスらとの模擬戦がよほど刺激的だったのか、由里香は立ち上がりシャドーボクシングのような動きをしていた。


「そーね。あれはもう人間辞めてるレベルよ」


 ジト目で北条を見ながら陽子が言う。


「魔法無しでもあれだけ戦えるなんて……。私も"杖術"をもう少し練習しようかなあ」


「いやぁ、咲良は魔法メインなんだから、近接はそんな気にしないでいいんじゃないかぁ?」


「んん~、そうかなあ?」


 龍之介も似たような所があるが、咲良は目の前で何か見せられると自分でもついついやってみたくなるようだ。


「あ、あの……。こ、これまで、その、全力を出してこなかった……のに、今日はどうし、て?」


 楓が珍しく北条に質問をしてくる。


「そうだなぁ。まあ力を隠して適当に流すことも、模擬戦自体を断ることもできたかもしれん。だが、俺はグリーク卿に庇護を求めた身だぁ。ある程度(・・・・)はこちらの力を見せておいた方が良いと思ってなぁ」


 そもそも弱った状態とはいえ、悪魔と単身で競り勝ったという情報はすでに出回っているのだ。

 そこへこの地の領主を前に、下手に加減をしても心象が悪くなるだけだろう。


「ある程度って……。アーガス辺境伯には圧勝してたじゃない」


「そうすれば彼女が出てくると思ってなぁ」


「こーりのまよーせーっすね」


「んむ。彼女との模擬戦は短かったが、得るものがそれなりにあった」


「実際どうだったの? 私らにはもう何がなんだか分からなかったけど」


 陽子に問われて北条は「うーん」と考え込む。


「そうだなぁ。やはりレベルの差はでかい、な」


「へー。いくつだったんですか?」


「九十一だ」


「うあっ、すごい高いっすね」


「というか、あの悪魔より上なんじゃない?」


「北条さんは~、あの悪魔のレベルは八十四だって言ってましたから~、七つ上ですね~」


「"解析"で見たところ、彼女の保有スキル数は多かったし、いい勝負出来たと思うぞぉ」


「へぇーーっ! どんなスキルがあったんっすか?」


「例えば"弓聖術"なんてのや、"大精霊魔法"。それから"氷霜魔法"なんてのもあったなぁ」


「どれも聞いたことがないスキルね。名前からなんとなく想像はつくけど」


「うむ。今挙げたのは、どれも上位スキルと呼ばれるものだ。あの悪魔も"暗黒魔法"の上位スキルである"漆黒魔法"を使っていたがぁ、"氷霜魔法"ってのぁ"氷魔法"の上位スキルに当たる」


「上位スキルかあ。私もそのうち使えるようになるのかなあ」


「聞くところによると、Aランククラスにもなると、上位スキルを使える者も出てくるようだぞぉ」


「うっ、それだとまだ先の話になりそうです……」


 Aランクの冒険者ともなると、《ヌーナ大陸》の冒険者の中でもほんの一握りだ。

 強さの目安として、レベル八十以上は求められるという。

 小さな村では英雄扱いだし、それは町や都市でもそれほど扱いに変わりはない。

 なんせ最高ランクのSランクが非常に数が少ないのだ。


「流石の北条さんも、Aランク冒険者相手はまだ厳しいようね」


 咲良が遠い先の話にげんなりとしている中、陽子がまとめに入る。


「あー、あの時の条件なら、なりふり構わずに押せばいけたかもしれん」


「なあに? 負け惜しみ?」


 別段煽るような口調ではないが、北条が大元で色々なとばっちりを受けていた陽子は、意趣返しとばかりにそう言った。


「あの時は模擬戦だったからか、得意な弓や魔法は使ってこなかったぁ。筋力などのステータス的に見れば、敏捷では負けていたものの他はいい勝負。ならば、惜しみなくスキルを使えば押し勝てる」


 多分とかもしかして……といった感じではなく、絶対そうだというように断言する北条。

 そうした北条の反応に、陽子は意外といった感想を抱く。


(やっぱ男って、強さに拘りがあるのかしらね)


 そんなことを考えながら相槌を打って話を続ける陽子。

 その後も褒美にもらうと言った〈バルドゼラム〉の話や、アーガスやアウラの従者カレンが、人を見定める系の魔眼スキルを持っている話などで賑わった。

 そして、それは『女寮』から少し離れた所にある村長宅においても、似たような話が為されていたのだった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「して、エスティルーナ殿はどう思った?」


 場所は村長宅。

 すでにすっかり火も暮れて、どこからか獣の遠吠えのような声が響く以外、静寂に包まれている、そのような時間。


 村長宅には現在多くの客が宿泊していた。

 アウラとその従者たちは勿論のこと、アーガスやエスティルーナ。それに厳選した護衛の騎士などで、すでに空き部屋もないほどだ。


 その村長宅の中の応接室。

 かつて一番最初に北条らがこの村に訪れた際、村長と話をしたあの部屋に、主だった顔ぶれが集まっていた。


「……ギルドはホージョーをDランクへと昇格させたようだが、実力的にはAランクでも問題ないだろう」


 現役Aランク冒険者からの査定に、「おおおぉ……」っという声が返ってくる。同席していたアウラやマデリーネの声だ。


「ただ者ではないと思っていたが、よもやそれほどとは!」


 どこか嬉しそうな様子のアウラ。

 それを見たアーガスは、思わず複雑そうな顔を浮かべる。

 しかし当人はその反応に気づくことなく、話は続けられる。


「しかもホージョーはまだ手の内を全て見せていない。恐らく優れた先読み系のスキル……"未来視"のようなものを持っているハズだ」


 あの模擬戦での北条の動き。

 それは先が見えているとしか思えないようなものであった。

 最初、北条の肩を掴んで発動させようとした"スポルドネックピンチ"も、無理な体勢を取ってまでして避けていた。


 そして"機敏"に重ねて発動させたレアスキル"超加速"。

 元から高い敏捷を持つエスティルーナが、この二つのスキルを合わせて発動させれば、同じAランクの冒険者といえど、初見で対処するのは不可能なはずだった。


「"未来視"……、なるほど。そういえば悪魔による一連の騒動も"予知夢"というスキルの持ち主が予見していたらしいな」


 アーガスも詳細まで把握している訳ではないが、ナイルズから上げられた報告は、ゴールドルを経由して伝えられていた。


「悪魔……か。確かにあの男なら、一人で悪魔と渡り合ったというのも納得出来る」


「腕の立つ冒険者とは得難いものだ。ホージョーとは友好的な関係を築いていきたい」


「父上、私もそれには賛成です」


「うむ……。ところで、エスティルーナ殿は何か気がかりでもおありか?」


 アーガスの言う通り、どこか気になることがあるといった様子のエスティルーナ。

 ソワソワしてるというよりかは、何か気になることがあるような感じだ。


「……少し、あの時の感覚が気になっていてな」


「あの時?」


 そう聞き返したアーガスや、周囲にいるアウラたちがその言葉で連想したのは、あの激しい模擬戦のことだった。

 しかし予想に反して、エスティルーナの発した言葉は別の場面での話だった。


「最初にあの館で自己紹介をして話し合っていた時。何かムズムズとした感覚を覚えたのだが……他にも似たような感覚を覚えた者はいるか?」


 エスティルーナの問いに頷きを返す者はいなかった。

 それを見て、フゥッと息を吐き顔を横に振る。


「そうか。まあ何か根拠があるでもない、私の直感のようなものだ。実際に何かされた訳でもないしな」


 エスティルーナ程の実力者の目をかいくぐり、裏で何か事を起こそうとも、そうそう上手くいくものではない。

 とはいえ、アーガスやカレンの持つ魔眼系のスキルなどの特殊能力系スキルであれば、感知は途端に難しくなる。


「そういえば……、俺が最初に"鑑識眼"を使用した直後、ホージョーがこちらを振り返ったような気がしたな」


 不自然な動きでもなく、たまたまタイミングが合っただけだろうとアーガスも思っていたが、無理やりに気になる点を挙げるとすれば、まずこのことが脳裏に浮かんだ。


「そういったことは挙げていけばキリがないだろう。ただ私は得体の知れぬ"何か"をホージョーからは感じ取った」


 そう話を締めるエスティルーナ。

 彼女は密かにゴールドルから、北条という人物の見定めを頼まれていた。

 たまたまアーガスも予定が被ったので同行することになったが、エスティルーナ自身も悪魔を倒したという男に興味は持っていたので、一人ででもこの場所へ訪れていたことだろう。



 その後は北条の話は打ち切られ、新生する『ジャガー町』に関する話やら、久々の家族の会話やらが交わされる。

 夜遅くなる前に床に就くのが一般的なこの世界だが、『女寮』と『村長宅』では夜遅くまで、会話に花が咲くのだった。



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