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第240話 アーシア


 魔法の落雷に撃たれた、アーシアという名前らしいスライムは、ピクピクと動いているので死んではいないらしい。

 【落雷】といえば中級"雷魔法"であり、低ランクの冒険者が迂闊にくらったら死が見えるような魔法だ。

 それをまともに受けてピンピンとしてる様子からして、このスライムはかなりタフなようだ。



「俺が召喚して契約したのはこのアーシアだけで、他の五匹はアーシアの持つスキル、"眷属服従"によってアーシアに従っているスライムになる」



 北条の紹介を受けて、改めてみんなの視線がスライムたちへと集まる。

 アーシア以外のスライムたちは、瑞々しさを感じるボディーを時折震わせるだけで、やたらと大人しい。


「あ、あの。これって何スライムなんですか?」


 少なくとも今まで見たスライムと違う種類なのには違いなく、気になった慶介が尋ねる。


「この色からして……薄い水色のはウォータースライム? そしてこっちの紫のはポイズンスライムで……薄い赤色のはファイアースライム?」


 北条が質問に答える前に、思わずといった調子で予想をたてるカタリナ。

 彼女は"魔物知識"というスキルを持っていたが、そのスキルを持ってしても目の前のスライムの種類の特定が全くできなかった。


「いやぁ、ハズレだぁ。そうだなぁ、最初から説明しよう」


 そう言って北条は順序だてて目の前のスライム達の経緯を語った。

 それによると、まず最初に召喚したのはアーシアことアーススライムであり、まずはそのアーススライムと契約を結んだらしい。


 その頃はまだ『ラーニング』のことは伏せていたので、ひっそりと村の近辺で放し飼いをしていた。

 そして村に帰って来た時などに、北条がアーシアに魔法の試し打ち(・・・・)をしまくっていると、次々と耐性スキルを覚えて進化していったようだ。


「スライムにはぁ"環境適応"というスキルがある。実はこいつぁレアスキルに分類されていてなぁ。スライム系統が様々な環境に適応して進化してるのも、このスキルの影響がでかい」


「え。こいつら全部レアスキル持ちかよ!」


「そうだぁ。そのスキルのせいか、元々耐性スキルを覚えやすいんだろうなあ。そこに指導効果の称号を持つ俺が、魔法をしこたまぶち込んだせいで、メキメキと耐性スキルを覚えていってなぁ」


 何気なくさらっと口にしている北条の言葉に、陽子などが僅かに頬をヒクつかせる。

 幾ら耐性スキルを覚えやすいからといって、一体このアーシアというスライムは、どれだけ北条に魔法を叩きこまれたのだろうか。

 "恐怖耐性"を得るために訓練した経験がある為、多少なりともそのキツさが陽子にも理解できた。


「んで、それで分かったんだがぁ、どうやらスライム系は耐性スキルを増やしていくことで特殊進化を遂げるらしい」


「え、それは初耳ね。そもそもスライム系の魔物は、『魔物使い』でもテイム成功例を聞いたことがないわ」


「ほおう、そうなのかぁ。まあ、俺の場合は"召喚魔法"からの契約だからなぁ」


 カタリナは知識欲がそそられるのか、北条の話に興味津々だ。


「まず、アーススライムだったアーシアはナイトスライムに進化したぁ。それからバロンスライム、カウントスライム、マーキススライム、デュークスライムと進化を続け、最終的に今はキングスライムまで上り詰めたという訳だぁ」


「お、おおおおっ」


 思ってた以上にバリバリに進化を重ねていたことに一同は驚きを禁じ得ない。

 特にカタリナは魔物についての知識が人一番多い分、更なる衝撃を味わっていた。


「ちょ、ちょっと。後半のは私も聞いたことないけど、カウントスライムって確かBランクの魔物よね? そこから更に進化って……」


 カタリナの顔は驚きを通り越して少し青ざめてすらいるようだった。

 龍之介や咲良達も、カタリナの言葉を聞いて改めてアーシアへと目線を送る。

 アーシアはさきほどの【落雷】の影響はすでにまったくなく、再び北条にじゃれつこうとして、今度は【フレイムランス】の魔法を撃たれていた。


「ああ。確かにこいつは、恐らくランクでいえば相当高い魔物なんだろうけど、今んとこレベルはまだ二十六しかない。多分普通に魔物として表れるキングスライムに比べたら、相当弱いはずだぁ」


 芽衣の召喚-契約しているマンジュウも、サンダーウルフに進化した直後は"雷魔法"を使用することが出来なかった。

 ダンジョンに出現するサンダーウルフは皆"雷魔法"を使用してくるのだが、フィールドで見かけるサンダーウルフだとそうとは限らない。

 恐らく見た目からして子供だと思われる個体などは、魔法を使えないのだ。


「要するにこいつはまだ成体じゃないってことだろう。レベルが上がって本来のレベルに近づくにつれ、キングスライムが本来持つスキルも徐々に覚えていくのだと思う」


 アーシアへの推測を語りつつ、「む、少し火力を上げすぎたか」と言って"回復魔法"をアーシアに掛ける北条。

 それである程度アーシアは回復できたようで、興奮の方も少し落ち着いたのか、北条にベッタリくっつきにはいかず、その場でぷるぷるとしている。

 それ見た一同の脳裏に、治癒魔法と攻撃魔法を交互に撃たれているアーシアの姿が思い浮かぶ。


「それでだなぁ。キングスライムになったアーシアが、これまたスライム特有の"分裂"というスキルで分裂したのがぁ、そこにいる赤いのと紫の……マーキススライムとデュークスライムになる」


 紹介を受けたことが分かっているのか、五匹のスライムは一斉にぷるるんっ! とひときわ大きく体を震わせる。


「こいつらと俺は契約で直接繋がってる訳ではないがぁ、アーシアの"眷属服従"を通じて、ツリー構造状に魔力のパスが通っている。アーシアを【サモン】することでこいつらも一斉に呼び寄せられたのは、そういうことだぁ」


「へぇ……。それって実は凄いんじゃない? その調子でどんどん分裂していけば、眷属もどんどん増えていく訳だし」


「それがぁそう上手いことはいかない」


「どういうこと?」


「うむ。まず"眷属服従"はアーシアが偶々覚えただけのスキルで、こちらの五匹のスライムは覚えていない」


 人間と同じように、テイムや契約した魔物でも、個別に適性が高いスキルを覚えることがある。

 アーシアが覚えた"眷属服従"もそうしたものらしい。


「それにアーシアの"眷属服従"も、現在の所服従させられるのは五匹が限度だぁ。なので余り数を増やすこともできん」


 他にもスライムの"分裂"スキルには色々制限もあって、無条件にぴょこぴょこと数を増やせるものでもないらしい。

 分裂するにはそれなりに生命力や魔力、それから時間もかけないと、分裂するには至らないとのことだ。


「まあ数を増やすことはできんがぁ、戦力としては十分問題ないハズだぁ」


「えっと、明日からの探索にソイツらを連れていくってことッスか?」


「いやぁ、連れていくのはアーシアだけの予定だぁ。他はこの拠点の守りを任せる」


 探索に連れていってもらえるというのが分かったのか、アーシアは体中で喜びを露わにしており、著しく形を変化させている。


「まあその内、他の魔物との召喚契約も増やしていくつもりだがぁ、今はアーシアと通常の"召喚魔法"だけでいいだろう」


 他にも契約する魔物を増やすという言葉と、しばらくは契約するのは自分だけという話を聞いて、悲喜交々といった感情を形状変化という形で表現するアーシア。

 見た目はこんなだが、意外と感情が豊かなのかもしれない。

 アーシアの従僕である五匹のスライムからは、特に強い感情らしきものが見受けられないので、契約したことによる影響か、それとも個体差なのか。



「う~ん、スライムね~」



 アーシアを見て芽衣が深く考えを巡らせる。

 その脇では「くぅぅん」とマンジュウが悲し気に吠えていた。

 媚びるように芽衣に体を擦り付けたり、足をペロペロと舐めたりしている。


「きゃ~、ちょっとマンジュウやめて~。あなたと契約を解除するつもりはないから~」


 そうは言っている芽衣であるが、新たに契約を結ぶ相手としてスライムはどうだろうかと検討していた。

 何体まで契約が可能なのかは分からないが、感覚としては少なくともまだ契約を追加で結べる余裕を感じている。


 現在芽衣が同時召喚できるのは、マンジュウを含めて計六体まで。

 つまり、最高で六体まで契約できる可能性がある。

 だが限界まで契約を結べたとして、自由に召喚出来る枠がないと汎用性が失われてしまう。

 それでも六体中二体くらいなら、固定枠にしてしまってもいいかもしれない、と芽衣は考えていた。


「とまあ、そういう訳で紹介したいヤツというのはこいつらのことだぁ。今後、拠点の守りと下水道の処理なんかも任せるつもりなので、見かけても攻撃せんように頼む」


「おう!」


「アーシアちゃん、よろしくねー」


「ううん、マーキススライムにデュークスライム……。一体どんな能力が……」


「ま、ある意味スライムってのもお約束かもねえ」


「耐性スキルを複数持っているんだったな。いざという時はよろしく頼む」



 北条が召喚、契約した魔物『アーシア』の紹介が終わり、互いの顔見せが終わると、その後少しだけアーシアの能力を試すことになった。

 "斬撃耐性"や"魔法耐性"。それから各種属性耐性を持つアーシアは、メンバーの攻撃を次々食らってもピンピンとしていた。


 優秀な盾役を仲間に加え、『サムライトラベラーズ』と『プラネットアース』の二組だけで構成されることになる、初めてのレイドパーティー。

 久々の大人数での冒険を前に、皆のテンションも高まっていくのであった。



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