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第239話 紹介したいヤツ


 『プラネットアース』が未灯火エリアの先、レイドエリアに到達して村に帰ってきた次の日の事。


 今日は一日休みになっているので、全員自由行動だ。

 だがやはり皆が集うのは拠点の中だった。

 別に訓練ばかりしている訳でもないのだが、中央館などの施設も整い始めていたので、みんなの駄弁り場としてすっかり定着してしまっていたのだ。


 とはいえ全員が全員、拠点に入り浸っている訳でもない。

 楓はルカナルに製作を頼んでいた、苦無と投げナイフを受け取りに行ったり、陽子は活気があふれる新村地区で、新しく開店した食堂や屋台などをぶらついたりしている。

 村の方も大分人と建物が増えてきたので、色々と時間を潰せる場所も増えてきていた。



「オッサンはどこ行ってるんだ?」


「北条さんなら、地下よ」


「なあぁっ。せっかくの休みの日だから、オッサンに指導してもらおうと思ったのに!」


「"休みの日"だから好きにしてるんじゃない? ……まあもっとも最近はずっと地下にいたけど」


「あー、下水工事だっけ? 確かにひつよーだとは思うっけどよお」


 当てが外れて残念な様子の龍之介。

 それは会話を交わしていた咲良も同じであったが、龍之介と同等に見られたくないと思っているのか、そのことはおくびにも出さない。

 しかしここ数日、咲良はろくに北条と会話を交わしていなかったので、心のどこかであのぼんやりとした声を求めていた。


「でももうじきお昼だし、一旦こっちに戻ってくるんじゃない?」


 そうであって欲しいと思って口にしたセリフだったが、それからそう間もなく北条が拠点の南西部にある、下水道への入口からぬぼーっと出てきた。

 どうやら北条はそのまま中央館の方へ向かうようなので、咲良もそちらへと向かい始める。


「お、オッサンじゃねーか」


 そう言って龍之介も後に続く。

 他にも訓練場では何人かが訓練をしていたが、咲良達の様子に気づいて昼休みを取ることに決めたようだ。

 その場にいた者達は全員中央館へと向かう。




「ううむ。相変わらず北条さんの作る料理は旨いな」


 大きな食卓で一斉に食事が始まった。

 料理のおいしさに思わず声を上げた信也は、普段パーティーが別だから余り北条の料理を食す機会がなかった。

 そのせいか、余計そう感じるのだろう。


 あれからなんだかんだで、拠点にいた面子が中央館へと集合。龍之介らがリクエストを出したことによって、北条が料理を作ることになっていた。

 余り手間をかけた料理ではなかったが、スキル"料理"の効果が偉大すぎるのか、みんなオイシーオイシーと言って食べている。


「コレは…… お、オイシイです」


 余りに美味しかったのか、ツィリルの声にも僅かに感情の起伏が見られるほどだ。

 そのツィリルの様子を見て嬉しそうにしていたロベルトも、実際に食べてみて納得の顔をしている。


 美味しい食事のせいか会話も弾み、各人がここ最近の訓練で得たスキルなどについて話す。

 それはロベルトからすると信じられないような話だったようで、誰々がこれこれのスキルを覚えたという度に、大きな反応を見せていた。


「この様子だと、レイドエリアも大分楽になりそうだな」


 みんなの報告を聞いて安心した表情の信也。


「でも、あそこは敵の数がマジでヤバイっすから、気を抜いたらダメっす」


「それが分かってるなら~、先走って突進していくのはなしよ~?」


「う、べ、別にそんな突進なんかしてないよー。芽衣ちゃん」


 『サムライトラベラーズ』は一度試しにレイドエリアでの戦闘を経験していたが、『プラネットアース』の方は迷宮碑(ガルストーン)に登録してからすぐ帰還していた。

 北条達からレイドエリアの厄介さを予め聞いていたからだ。


「ああ、そうだぁ。思い出した」


「ん、何っすか? 北条さん」


「お前たちに紹介したいヤツ(・・)がいたんだがぁ……陽子達がまだ揃ってないかぁ」


「紹介?」


「ああ。カタリナは今日はここへ来るのかぁ?」


 北条がロベルトの方を向いて尋ねる。

 現在この場にいないのは、陽子と楓、それからカタリナの三名だ。


「んー、多分来ると思うッスよ」


「分かったぁ。ならお前たちに紹介したいヤツがいるから、夕方にはまたこっちに戻る。それまでに陽子や楓にも、先に帰らないように伝えておいてくれぃ」


「北条さん、また地下に潜るんですか?」


 少し寂しそうに咲良が問う。

 それに対し北条はバッサリと「そのつもりだぁ」と返す。


「ぬー、俺様の修行があっ!」


「ふっ、お前はもう方向性が見えてるだろう? そいじゃあ、俺は地下に行ってくるぞぉ」


 そう言って北条は食器をそのままに席を立つ。

 これまでは全部自分たちでやらなければならなかったが、今はツィリルがその辺りはやってくれるので大分助かっていた。

 それからはぽちぽちと食事を終えた者達が訓練場に向かったり、しばしその場で雑談を続けたりと、北条の指定した夕方までの時間を思い思いに過ごすのだった。




▽△▽△




 夕暮れ時。


 北条が地下での下水工事を粗方終え地上まで戻ってくると、まだそこまで日は落ちていなかった。

 この暑い夏の時期は、日本にいた頃同様に日が高くなるようだ。


 地球の北半球では最も日が高くなる夏至は六月であったのに対し、こちらでは暗火の月――七月を超えても、いまだ日に日に日は高くなっていってるような気がする。

 まだ明るい太陽に向け手を翳し、眩しそうにしながら北条はそんなことを考えていた。


 それから太陽に向けていた顔を下し、北の方にある訓練場へと視線を向けると、そこでは幾人かが思い思いに時を過ごしているようだった。


「あっ! ホージョーさんがきたッスよおお!!」


 そんな北条を目ざとく見つけたロベルトが、大きな声を上げた。

 そして一目散に北条の方へと駆けてくる。

 その後をマンジュウが追いかけっこだ! と言わんばかりに追いかける。

 他のメンバーもえっちらおっちらと北条へと近寄ってきており、先ほどのロベルトの声が届いたのか、中央館からも幾人かが北条の下へと向かっていった。


「おおう、大集合だなぁ」


 わらわらと集まってきた仲間を見て北条が思わず口に出す。


「いや、ホージョーさんが紹介したい奴がいるっていうから待ってたんッスよ!?」


 心外だとばかりに、マンジュウに追い抜かれていたロベルトが言った。


「そうだったぁ。ええっと、全員揃っているみたいだなぁ」


 周囲を見渡した北条は、全員が揃っているのを確認する。

 どうやら直接用はないツィリルまでも、この場に駆け付けてきたようだ。


「で、紹介したい人ってのは誰なのよ?」


 みんなが疑問に思っていることを、陽子が代表して尋ねる。


「ん? いや、紹介したいのは"人"じゃあないぞぉ」


「どういうこと?」


「こういうことだぁ。【サモン】、アーシア!」


 そう言いながらパチンと指を鳴らそうとする北条。

 だが指パッチンに失敗してスカッてしまい、パチンとした音は鳴らない。

 それでも魔法の方はスカることなく成功したようで、中空から薄っすらと光が発せられたかと思うと、一瞬後にはそこに五体の丸いのがいた。



「…………」



 それを見て皆が一斉に押し黙る。

 北条は指を鳴らそうとしてスカッとはずした状態のまま、動かない。

 どうやらみんなの反応を待っているらしい。


「あ、あの。それスライムッスよね?」


 ようやく反応を返してくれたのはロベルトだ。

 その声を聞いて、北条は足元に纏わりついてくる薄水色のスライムを足蹴にしながら答える。


「そうだぁ。こいつが俺の"召喚魔法"で契約した魔物になる」


「あの、六匹も……ですか?」


 恐る恐る咲良が問いかける。

 そう、北条が呼び出したのは薄水色のスライムだけではなかった。

 他にも藤紫色のスライムが二匹、中紅花色のスライムが三匹いる。

 ただ北条にじゃれついているのは薄水色のスライムだけで、他の色のスライムはその場でぷるぷるとしていた。


「いやぁ、俺が契約したのはこの薄水色の…………じゃあかしいわっ!」


 主人である北条が話しているのを気にも留めず、全身を使って北条へと纏わりつこうとする薄水色のスライム。

 いい加減鬱陶しくなったのか、北条は自分の体から強引に引きはがし、近くの地面へと思いきり投げつける。


 ズガァァァンっ!


 更に北条が"無詠唱"で放ったと思われる【落雷】をまともに食らい、薄水色のスライムはピクピクと体を震わせている。



「オホンッ。俺が契約したのはこのピクピクとしてる『アーシア』だけだぁ」



 直前までの出来事が何もなかったかのように、北条はそう言って薄水色のスライムを指差すのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 北条という劇薬で視点が北条寄りになったのが残念。 400ページ近い作品に今更言うのもなんですが、1話目から登場してる和泉信也とここまで明確な差が出てしまうと、紹介文の特定の主人公云々の説明が…
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