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第24話 第一村人発見


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここからは遠い遠い、遥か彼方にある島、《ジパング》。

 そこは四季折々の風情溢れる場所。日出づる地とも呼ばれ、その地に住む者達は独自の文化を形成していた。


 その風光明媚な島に存在する唯一の国である『ヤマト』。

 天子が治める広大な領域の『ヤマト』の中でも、辺境に位置する《アスカ村》では、一週間程も続く長雨によって、村民は困り果てていた。


 この様子では農作物への影響も心配だったが、村の南部に位置する外部へと通じる唯一の道。その道が塞がれてしまうことが懸念されていた。

 この村は周囲を断崖絶壁で囲まれており、唯一南部にだけ崖に挟まれた道がかろうじて通じていたのだ。


 とはいっても、馬車が二台は余裕ですれ違える程の幅の道だ。

 普段であれば、多少の崖崩れ程度なら問題はなかったのだが、今回の雨の量はこれまでにない程だった。


 長く降り続いた雨がやみ、村人が南の道を調べてみると、懸念通り大規模な崖崩れが発生していた。

 村人は嘆きながらも、土砂を取り除き外部への道を再び開こうとしていたが、崖崩れは村人に絶望だけでなく、希望も齎していた。

 それは崖崩れによって日の目を見ることになった、古代の遺跡への入り口だった。


 この国、『ヤマト』では時折こうした古代遺跡が発掘されることがある。

 そして、その内部には様々な財宝が眠っているという。

 不幸中の幸いと、《アスカ村》の村長は、村でも特異な才能を持った村人十二人を差し向け、この古代遺跡を調査することにした。


 選ばれた十二人は、とりあえず入口付近だけ補強されていた、その古代遺跡へと恐る恐る侵入していく。

 古代遺跡には財宝が眠るとされるが、それと同時に罠や番人が仕掛けられていることもあるという。

 慎重に歩みを進める彼らだったが、その遺跡を幾分か進むと大きな広間になっており、そこで道は途絶えていたようだった。


 広間には何やら魔法陣や石碑などが意味ありげに配置されており、明らかに何らかの魔法的装置であったが、十二人の中にその手の知識に詳しい者は生憎と存在しなかった。


 他にめぼしいものもなく、仕方なくひとりがその魔法装置に触れたその時だった。

 なんと、突如床の魔法陣が光を発し始めたのだ。

 突然の事態に慌てふためくも、次の瞬間には壁が青く光っている洞窟のような所にいつの間にか移動させられていた。


 事態の推移に戸惑う彼らだったが、このままここにいても仕方ない。

 仕方なくその洞窟を探索しはじめたのだが、その洞窟内には魔物も出現し、何より現在位置も分からない状態では、精神的不安も大きかった。


 慣れぬ探索行は数日にも及び、ようやく彼らはその洞窟を抜け出すことができた。

 道中では、ゴブリンが大量に出現する罠部屋に出くわしたり、持ち込んでいた荷物の大半を、置きざりにして逃げざるを得ない状況に陥ったり、と苦難は続いた。


 しかし、無事に洞窟を脱出できた一行はこうして森を抜け、人のいる集落へとたどり着くことに成功したのだった……。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「――という、状態にいる訳だな。我々は」


 信也はこれまでの話が理解できたのか、確認の意味を込めて言った。

 この作り話をこしらえるのに、そこそこ時間をかけていたので、問われるまでもなくみんな設定は理解できていた。


「まー、結局異世界ものでよくある設定だよな。遠くから来たので、こちらの常識には疎いですーって奴」


 と、身も蓋もない言い方をする龍之介。

 しかしこういったものは、幾人もの作者が色々考えて作った設定の中で、自然と使いやすい設定が淘汰されてきたものだ。

 それに、とりあえずこちらの現地人に不信感が持たれない程度であればいいので、細かいディテールや詳細な設定は不要だろう。


「そして、結局はただの村人という設定なので、《ジパング》がどこにあるか? とか聞かれても、よく分からないで済むってことね」


 咲良の言う通り、色々と知識がないことの補強理由として、村人という設定を盛り込んである。

 予定では、実際に最初に村人と接触を持って話すのは、北条や咲良などの『その手の話に詳しい組』が担当することになっていた。

 ちなみに、龍之介は迂闊なことを言いそうなので、除外されている。




「……ようやく、この味気ない食事ともお別れできそうね」


 長井がボソっと呟く。

 設定についての話し合いに少々時間を取られてしまい、既に正午近くになってしまったので、移動を再開する前に先に昼食を取ることにした一行。


 今後冒険者として活動するなら、再びこうした携帯食のお世話になることもあるかもしれないが、村人との接触が上手くいけば、一先ずは温かい食事を取ることができる。

 ボソっとした小さな長井の声であったが、その言葉が届いた者達は、思わずその光景を思い浮かべるのであった……。



▽△▽△▽




 昼食を終えてから、更に一時間程が経過しただろうか。

 森の端まで近づいてきたせいか、出現する魔物の数も減ってきており、ほとんど戦闘をすることもなく、ここまで来ることができた。

 そう。彼らの目の前には森の切れ端部分から覗く、昔ながらの集落が見える位置までたどり着いていたのだ。


「なんだか不思議な感じですね」


 木陰からそーっとのぞき込むように、その風景を眺めていたメアリー。

 それは人里を発見したことで心に余裕が生まれてきたのか、改めてここが異世界なのだと実感しているようだった。


 その集落は、周囲を簡易的な木の柵で覆われた小さな村で、内部では木材を主にして建てられた家々が立ち並んでいた。

 村の周囲には、畑がいくつも耕されており、現在も村人と思しき人達が幾人か、汗水たらして農作業をしている。

 見たところ、農耕馬や牛などの家畜を農作業に利用してる者はおらず、皆自らの体のみを使って作業を行っているようだ。



「村人は……普通の人間のようだな」


 信也のその言葉の通り、遠目ではあるが農作業中の村人は特に変哲の無い人間のようだった。

 信也としても、ファンタジー定番のエルフや獣人といったものに興味がない訳でもなかったので、その声音は若干残念そうだ。


「まー、下手に他種族だったりすると、何かしら問題が起こるかもしれんし、この方がいいだろうさぁ。それより、どうする? このまま全員で村に向かうかぁ?」


 北条の言葉を聞き、少し考え込む信也。やがて、


「いや、最初は北条さん達少数だけでお願いしたい。あの様子を見ればまずないとは思うが、敵対行動を取られた場合、人数が少ない方が逃げやすいだろう」


「あぃ、わかったぁ」


 軽く返答した北条は、引き続き一緒に村へと向かう人員を指定した。


「そいじゃぁ、武田、里見、今川。早速あの一番近くにいる農民に接触しにいくぞぉ」


 主に村人との会話は、北条が主導することになっているが、咲良はその補助としての役割と、もう一つ。話の流れ次第だが、交渉の材料としての役も担っている。

 陽子もある程度異世界ものやらファンタジー作品やらは読んでいるので、咲良同様に北条のサポートと、万が一の時に結界を張って他の人を守る役割。

 由里香は単純に護衛的役割と、その見た目で相手の警戒心を下げる為に選ばれた。


「りょーかいっす! じゃあ、芽衣ちゃん、ちょっと行ってくるね」


「は~い分かりました~。上手くいくといいですねぇ」


「それじゃぁ慶介君。またあとで、ね?」


 三者三様の言葉を告げながら、北条の下へと合流する三人。

 そして、出発する前の最後に北条が、


「そんじゃぁ、いってくるわ。遅くても陽が落ちる前までには、戻って来るなり連絡を送ったりはするつもりだぁ。逆に、もし反応がなかった場合は、和泉。対応はまかせるぞぉ」


「ああ。それは任せてくれ」


 信也のその力強い言葉を背に、四人は第一村人への接触ミッションを開始するのであった。



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