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第231話 光と闇の魔眼


「え、でもこれは攻撃スキルなんだろう? それを仲間に使うなんて……」


「大丈夫だぁ。特殊能力系のスキルってのぁ、力の籠め具合で威力が調整できるもんだ。もっとも慶介の"ガルスバイン神撃剣"は、最低値でも結構な威力になるがぁ、ま、魔眼系スキルなら大丈夫だろう」


「そうか。北条さんがそう言うなら問題はなさそうだ。ではいきます」


 そう言って信也がまず発動したのは"光の魔眼"のスキルだ。

 視線を北条へと向け、スキルを発動した信也の左目は、白い光を帯びていた。



「うっ……。そうだぁ、いいぞぉ。もっとこっちを見るんだぁ」



 そう言いながら北条は信也の"光の魔眼"を受け続ける。

 一歩間違えば、露出狂の変質者が言いそうなセリフ。しかし北条の様子は真面目そのものだ。

 そして魔眼の使用から数十秒ほどすると、北条が「もういいぞぉ」と言ってきたので、信也はスキルの発動を取りやめる。


「なるほどなあ。一撃ドカンと大きなダメージが入る訳じゃあないがぁ、和泉にその目で見られている間、ずっと弱い魔法を食らい続けてるような感覚だったぁ。ちなみに、あんだけ左目が光って眩しくなかったのかぁ?」


「ああ、それは問題ない。というか、俺は自分の左目が光っていることにも気づかなかったな」


「ほおう。では次は"闇の魔眼"の方も試してみようかぁ」


「ああ、了解した」


 そう言って北条は、もう一つの魔眼スキルの使用を促してくる。

 今度は右眼が黒く光る……ということはなく、ただ右眼の部分だけ影がさしたかのように、暗く見えなくなっていく。

 それはまるで黒目の部分が広がったかのようだ。


「よおし、その辺でいいぞぉ」


 そう言って北条が停止の指示を出す。

 指示に従い魔眼を止める信也だが、目の辺りに軽い痛みを感じ、思わず声を上げそうになってしまう。

 その様子を敏感に察知した北条が、心配そうに信也に声を掛ける。


「おおい、大丈夫かぁ?」


「あ、ああ。問題ない。少し目の辺りに痛みを感じただけだ」


「そうか。そいつぁ、特殊能力系スキルを発動させると生じる弊害だなぁ」


「あ、それ分かります! 僕も"ガルスバイン神撃剣"を使うと、すごい消耗しますから!」


「一応この〈バイオレットポーション〉を飲むと、その症状は軽減されるぞぉ」


 そう言って北条は〈魔法の小袋〉から、紫色の液体が入った瓶を取り出す。

 〈バイオレットポーション〉は北条の言う通り、特殊能力系スキルですり減らした"何か"を補填してくれるポーションである。


 特殊能力系スキルというのは、それほど保有者が多くはない。

 そのため他のポーションと比較して、〈バイオレットポーション〉は安価で手に入れることができる。……稀にスキル保有者が買い漁って、品切れしてることもあるようだが。


「そうなんですか! じゃあ僕も常にストック用意しておいた方が良さそうですね」


「となると、今後は俺も用意しておいたほうが良さそうだな」


「そうした方がぁいいだろぅ」


 これまで慶介は"ガルスバイン神撃剣"を全力でブッパすると、その後は戦闘不能状態に陥っていた。

 そうなった状態で〈バイオレットポーション〉を使用すれば、奥の手の連続使用は流石にきついだろうが、通常戦闘には復帰できるかもしれない。


「そーいやオッサン。もしかして今のも『ラーニング』しちまったのか?」


 北条達が〈バイオレットポーション〉について話をしていると、龍之介が話しかけてくる。


「ふふふ、そうだぁ。……どおれ、ちょっと試してみるかぁ?」


「な、なぁっ! おい、オッサン。物騒なこと言いながらこっち向くなよ!」


「ははは、冗談だぁ。……ふむ、一応何もない場所でも発動は出来そうだぞぉ」


 そう言って北条は誰もいない方向を向いて、『ラーニング』したばかりの二つの魔眼スキルを試しに発動する。

 信也が使用した時と同じように、左目が光ったり右目が闇に覆われたりする北条。

 まるで電灯のスイッチをオンオフするかのように、何度かチカチカと瞳をまたたかせる。


「おっ?」


 スキルを試している北条を観察していた龍之介。とあることに気づき声を上げる。


「オッサン、それって両目でスキル発動してんのか?」


「そうだぁ。"光の魔眼"と"闇の魔眼"。発動する箇所が左と右で異なるから、同時もいけるかと思ってなぁ」


「おわっ! ちょ、こっち向くなよ!? いいか? 絶対向くなよ!?」


 龍之介の問いかけに、思わず龍之介の方へと振り向きそうになった北条。

 一方、魔眼発動中の北条が自分の方に振り向こうとしてるのを見て、慌てた様子で龍之介が言う。

 そんな龍之介のセリフに、思わず振り向いてやろうかという誘惑をどうにか抑え、起動していた魔眼スキルを解除する北条。


「両方同時……」


 北条の様子を見て自分も。と信也もあさっての方向を向いて試してみるが、上手く同時に発動することが出来ない。


「だめだ……。二つ目を発動しようとすると、一つ目のが切れてしまう」


「まあ、最初は慣れが必要かもなぁ」


「あん? でもオッサンだって今スキル覚えたばっかだろ?」


「いやぁ……。確かにこの魔眼スキルは今ゲットしたがぁ、他にも魔眼スキルはあるんでなぁ」


「ああ……そっか」


 北条の言葉に納得の顔を見せる龍之介。

 相手を見つめるだけで発動する魔眼系スキルは、特殊能力系スキルだということもあって、保有者は非常に少ない。

 しかし彼らの傍にはその希少な魔眼所持者がつい最近までいたのだ。


 事件が解決を迎えたといっても、未だに長井に関する話が出てくると、どこかしら雰囲気がぎこちなくなってしまう。

 そこへ、微妙な空気を打ち払うかのように龍之介が大きな声を上げた。


「うっし! リーダーの新しいスキルを見てたら俺もやる気が出てきた。オッサン、次の新しい戦闘スキルを教えてくれよ!」


「次の、か。そうだなぁ、じゃあ"突剣術"スキルでも練習してみるかぁ」


「おう!」


「ちょっと! アンタはもう二つも戦闘スキルを覚えたでしょ! 次は順番的に私の番よ!」


「ああん? 戦闘スキルと魔法スキルを一緒にすんじゃねーよ。魔法のが覚えるのに時間かかっしよお」



 いつものように始まった龍之介と咲良の言い合いに、北条はやれやれといった様子で首を振る。

 すっかり夏も本番に入っていき、カラッとした熱さが辺り一帯を覆う中、一陣の風が異邦人達の頬を撫でていく。

 その心地よい風はまるで、ついこないだまで漂っていた悪い空気を、吹き飛ばそうとしているかのようであった。




▽△▽△▽




 結局北条達は、信也復活後もあせってダンジョンに潜ることなく、訓練を重ねていた。

 その後の話し合いの結果、やはりダンジョン探索にはフルメンバーで挑むのが望ましいということで、メンバーを二人補充しようということが決定していた。

 しかし肝心の補充メンバーの当てがない。


 十三人目の異邦人でもあったツヴァイは、結局このまま『ムスカの熱き血潮』のムルーダらと一緒に冒険者を続けていくようで、今もダンジョンに潜っている。

 そうなると、補充メンバーは完全に外部――この世界の人間になってしまう。


 ただこれについては話し合いでもすでに何度も議題になっていた。

 ツヴァイが仲間になっていたとしても、結局あと一人は外部メンバーを迎えなければならなかったからだ。


 外部メンバーを迎えるリスクとしては、まずは信用度の件がある。

 自分たちの出自のことは、とりあえず《ジャガー村》に来た当初にでっちあげた設定を使えば、ある程度ごまかしは効くだろう。

 だが、北条達は余りに特殊だった。


 北条は言わずもがなであるが、他の面子だってこの世界の人からすると普通ではない。

 魔法使用者が多い上に、希少な魔法の使い手も多い。

 更に一緒に行動するとなれば、北条の"解析"などは隠し通すのも難しいし、"刻印魔法"で魔法道具をポンポン作るというのも目立ちすぎる。


 陽子の使う"結界魔法"所有者も、本来なら権力者に囲われるような存在だ。

 腕の立つ護衛を用意するのも当然だが、就寝時などに襲撃の初撃を防いでくれる"結界魔法"は、主の命を繋いでくれる。

 権力者にとって、喉から手が出るほど欲しい人材だ。


 それと北条だが、悪魔とソロで戦える程の強さを身に付けているが、希少な"刻印魔法"の使い手であることが知られれば、大きな組織……それこそ領主直々に招聘される可能性がある。


 幸いこのグリークの地の領主は、強権を振るうタイプではないし、人間的にもよく出来た人物として知られている。

 しかし隣領のベネティス領の領主は、公然と初夜権を行使していることでも有名で、領民からの評判はすこぶる悪い。

 そういった貴族に目を付けられでもしたら、厄介ごとになるのは目に見えている。




 それと外部から人を入れることを渋るもうひとつの理由として、最終的な目的の違いというのもあった。


 異邦人達には、元の世界へ帰る為の方法を探すという大前提がある。

 これは実際に帰る方法が見つかったとして、全員がそのまま帰るという訳ではない。

 ただ日本に戻るつもりがない者も、帰る方法を探すこと自体に反対している訳ではなく、むしろ協力的だ。


 この辺りの目的意識の違い。

 例えばあと一歩で大きな手掛かりが得られる。しかしそれには危険を伴う。といった場面で、無茶をして日本帰還のための手がかりを得る動機が、外部の者にはない。


 それに外部の者を入れて親交が深まっていった場合、日本へ帰るという意識が薄れることも考えられるし、逆に仲良くなったこの世界の人が、日本へ返さないように引き留めてくるかもしれない。

 しかし、日本へ帰りたいと思っている者にとって、このファンタジーな世界は遭難して辿り着いただけの旅先であって、定住先ではないのだ。


 そうした今まで触れられてこなかったようなこと……みんなが意識的、あるいは無意識に避けていた話題についても話し合いがもたれた。

 日本へ帰りたいのか、それとも一生この世界で過ごしていくつもりなのか。



 このような経緯で日本帰還に対する決を採った結果、何があっても日本へ帰りたいと主張したのはメアリーと信也、そして慶介。

 逆に絶対にこの世界に残ると決めていたのは、北条、楓、芽衣の三人だった。

 他の四人は、完全にどちらにするか決めかねているようだったが、陽子はどちらかというと帰還派。残る三人は、今の所は残りたい派ということになった。


 彼ら異邦人がこの世界へと飛ばされてから、すでに四か月以上が経過している。

 現時点ではこのような結果となったが、これが滞在期間が増えていくにつれどう変化していくのか。それは彼ら自身にも分からないことだ。


 こういった少し踏み込んだ内容を話し合ったせいか、互いの距離感がどこか縮まったように、彼らは感じていた。

 そして互いの距離が近づけば近づくほど、最終的にどういった行動を選択するかも変わっていくのだろう。

 いつかくるかもしれないその時を想い、日は過ぎていく。



 そんなある日の事だった。

 彼ら異邦人の下に訪問者たちが訪れたのは。



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