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第228話 『加護』と『称号』


「俺が"解析"で悪魔を調べた所、奴らには人間のような職業というものがないようだったぁ」


 悪魔一体だけならともかく、二体とも職業を身に付けていなかったらしい。

 人の社会の中で暮らしていたのだから、やろうと思えば転職をする機会も設けられた筈だ。

 なのに職に就いていなかったというのは、魔物と同様に悪魔も職業には就けない可能性が高い。


「ただその代わりに、身分というか階級を示す部分が表示されていてなぁ。高位の悪魔の方は、俺のレベルが低かったせいか"解析"でも名前やレベルといった基本データしか拾えなかったんだがぁ、階級部分だけは見ることができたんだよ」


「階級……。上級悪魔とか中級悪魔とかいった感じですか?」


「ああ、そういった感じだぁ。で、俺たちが戦った悪魔『ガムルス・ダイム』は『第九位階悪魔』ということだったぁ」


「第九……」


「そして、二番目の悪魔、『ゴドウィン・ホールデム』の階級は『第七位階悪魔』らしい。これがどういうことか分かるかぁ?」


「それは……」


 メアリーがいち早く北条の言ってる言葉の意味を理解する。

 遅れて他の面子にも理解の色が広がっていく。


「たった二つ位階が上がっただけで、悪魔のレベルが五十程もあがっている。これが『第五位階悪魔』とかになったら、一体その悪魔のレベルはどれほどになるんだろうなぁ?」


 しかも、その『第五位階悪魔』ですら、数字から判断するとまだ中位ということなのだ。

 それ以上のクラスの悪魔となると、最早人間の太刀打ちできる存在ではないということになる。


「さっきも言ったがぁ、俺が力に溺れず能力をひた隠しにしようとするのも、そんな化け物が身近に存在してるからっつう訳だぁ。下手に活躍して英雄扱いされて、奴らに目を付けられてはたまらん」


「うへぇぇ……」


 咲良が苦みの強い野菜を口いっぱい頬張ったかのように、渋い顔を見せる。

 龍之介も、チートだと思っていた北条ですら凌駕し、なおかつ完全に敵だと思われる悪魔の存在に、握りしめた拳の力が抜けていく。


「……悪魔って、この世界にどれくらいいるのかしらね?」


 陽子もウンザリとした様子でそんなことを口にする。

 一応世間一般的な認識では、悪魔というのは物語に出てくるような存在であり、日常的な存在ではないとされているのだが……。


「いきなり悪魔二体と遭遇って、私達の運が悪いのかそれとも実はこれが普通なのか……」


 直近で直接的に影響のある話ではないかもしれないが、身近に潜んでいるかもしれない脅威に、会議室に集まった面々は暗い雰囲気に包まれる。



「あー、俺から言い出しておいてなんだがぁ、深く気にしても仕方ないと割り切るしかない。俺たちは今まで通り、一歩一歩前へ進むだけだぁ」


 北条の言う通り結局はそれしかない、というのはみんなも分かっていた。人は結局、自分で出来る範囲で精いっぱい生きていくしかないのだ。


「ただまあ、俺たちはこの世界の一般の人達からすると大分優遇されている。最初に与えられた二つの"天恵スキル"のこともそうだがぁ、密かに与えられていた『称号』の方も、この世界の人からすれば十分チートだ。それだけでもこの世界で十分優位を保てるほどになぁ」


「称号、ですか?」




 今まで何度か耳にした言葉ではあったが、これまで北条を除く彼ら異邦人が、強く意識したことがない言葉でもあった。

 なぜなら、"スキル"であれば誰しもがひとつ以上は持ってるものであるのに対し、『称号』や『加護』を持つ者は限られてくるからだ。


 『加護』とは格のある存在――神や精霊などといった存在に認められた者が授かる力のことだ。

 例えば火の精霊などから授かる『火の加護』は、火属性魔法やスキルの威力向上。それから火属性そのものへの適性も上昇する効果がある。


 次に『称号』なのだが、これは『加護』よりも所持者が多く、種類も多い。

 自分の行いによって授かったり、条件を満たすことで得たりすることが可能で、有名なのはバスター系の称号だ。

 ゴブリン種族を多く倒した者には『ゴブリンバスター』の称号が付き、ゴブリン種族に対する攻撃時に特攻効果が付いてダメージがプラスされる。


 そしてバスター系と同じく所有者が多いのが、スキル系統の称号だ。

 これは、スキルの種類に応じて複数存在している。

 例えば、"剣術"や"槍術"などの戦闘系スキルを六つ習得すると、『戦闘を知る者』という称号が付与される。

 この称号を得ることで、戦闘スキル全般にプラス補正の効果を得ることができる。


「咲良の魔法の威力がある時期から上がっていたのも、魔法系スキルを四つ習得したことで得た、『魔法を知る者』という称号が原因だぁ。龍之介も闘技スキルを八つ以上保有していることで、『闘技の使い手』という称号を得ているぞぉ」


「魔法の威力……。そういえば、北条さんに"風魔法"と"土魔法"を教わってから、"火魔法"の威力が上がってたような?」


「おお、オレはいつの間にか称号をゲットしてたのか!」


 称号を得ていたことを知らなかった咲良たちは、納得顔を浮かべたり、純粋にそのことを喜んでいる。

 だが北条が最初に言っていたのはもっと別の称号の話である。さっき例に出したのは、あくまで称号についての説明のつもりだった。


「いつの間にかも何も、俺たちはこの世界に来た当初から『称号』を持っていたんだよ。『異界の来訪者』っていう称号をなぁ」


 それはまさしく広いこの世界において、異邦人である彼らにしか持ちえない特別な『称号』であった。

 しかもその効果は破格で、経験値と職業経験値、スキル熟練度の獲得にプラス補正が入るというものだ。


「ナイルズも言っていたがぁ、俺たちのレベルアップが早いのはこの称号の効果がでかい。それに、お前たちは気づいてないかもしれんがぁ、スキルの習得数の多さ、そして熟練度の高さも実は尋常じゃあない」


「そ、そうなんですか?」


「ああ。俺ぁ、出会う人たちに片っ端から"解析"を掛けて回っていたからなぁ。咲良の魔法スキルにしても、魔術士ギルドに所属すれば、そこそこの地位に就けるくらいだぞぉ」


「おおおぉ……? なんか凄いんですね、私。まあ魔術士ギルドとか入る気はさっぱりないですけど」


「ただこの各種経験値のブーストは、どうやらスキル熟練度の増加量が多いらしくて、バランス的には少し悪い。今でこそマシになってきたがぁ、最初に中級魔法を使えるようになった頃は、何発か打つとかなりMPを消費してただろう? あれはレベルの方がスキルの成長に追いついてなかったせいだぁ」


 咲良達のように、例外というものはいくらでも存在しているが、大体この世界で中級魔法を使い始める魔術士のレベルは、四十になってからだと言われている。そして上級魔法ともなると、レベル七十が目安とされている。


 早いうちに中級魔法を使えるのは利点でもあるが、体が出来上がっていない子供の頃に、負担のかかる野球の変化球を教えるようなもので、必ずしもそれがメリットになるだけではないのだ。


「けどスキルの成長が早いというのは、利点にもなりますよね? 先ほど北条さんが仰っていた、『スキルの種類ごとに称号が付く』ということでしたら、質を高めるのではなく、数を沢山覚えるというのも有効な気がします」


「勿論それは有効だぁ。特に俺ぁスキルを保有しすぎたせいで、スキル系統の称号がとんでもないことになっていてなぁ。俺があの悪魔の半分以下のレベルでまともにやり合えたのも、この称号効果のブーストの力が非常に大きい」


 なんでも北条の話によると、スキルの系統全てに称号が付く訳でもないようで、中には保有スキルの総数に応じて、所持してるスキルの効果が一律で引き上げられる、スキル収集系の称号などもあるらしい。


 そしてこれらスキル系の称号というのは、種別ごとに保有するスキルが多いほど段階的に称号が変化していく。

 闘技系のスキルで言えば、『闘技の使い手』、『テクニカルマスター』、『闘技スキルの伝道者』と変化していくにつれ、効果が増加するだけでなく、付随効果まで発生してくる。


 これら段階ごとに名称が変わっていくスキル系の称号は、三段階目まで達すると、~の伝道者といった名前の称号になる。

 この「~の伝道者」称号の保有者が、同系統のスキルを他者に教える場合、相手は通常より早い期間でスキルを習得することができる。


「あの時俺がやっていた、"恐怖耐性"の訓練もなぁ。本来ならあんな短期間で耐性スキルを得られたりはしないハズだぁ。俺の『耐性スキルの伝道者』による効果と、『異界の来訪者』の称号効果が重なったことで、あの短期間で身に付けることができたって訳だぁな」


 そう言われてみると、確かに思い当たる点は咲良にもあった。

 "エレメンタルマスター"のスキルや、『四大魔術士』の職業による影響もあったのだろうが、"風魔法"と"土魔法"を使えるようになったのは、北条に教えを請うた次の日のことだった。


「なるほどね……。俺は今回ひとりで行動してたから、実は周りと比べて自分の成長速度について、疑問を感じたことは何度かあった。それは、そういうことだったのか」


 ツヴァイも北条の説明に納得しているようだ。



「ううぅ……、なんかいっぺんに色々な話があったから、なんだかよく分からなくなってきたっす」


 元々こういった話に詳しくない由里香が、小難しい顔をして頼り無げな声を出す。

 由里香の切実な声を聞いて、北条もそれはそうかと思ったので、とりあえず今日話した内容を簡単にして、改めて大まかにまとめて話した。

 それから、閉会の音頭を取り始める北条。


「それじゃあ、今日の会議はここで終わりということにしようかぁ。他に聞きたいことがあれば個別に尋ねてくれぃ。あとは、今後の方針などまだまだ話すこともあるだろうし、その辺は次の会議の時にするとしよう」


「はい、そうですね」


「ふぅぅ。やっと終わったっすうう」


「ちょっと今日聞いた話、色々と頭の中で整理した方が良さそうね」



 北条の解散宣言に、幾つもの反応が帰ってくる。

 こうして信也不在のまま行われた、実際の時間より長く感じられた今回の会議は、これにて閉会となった。




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