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第227話 "解析"


「格上……?」


「あぁ、そうだぁ。《鉱山都市グリーク》へ着いた初日。シディエルの爺さんに話を聞いて、資料室で調べものをした後。宿へと帰る道すがらにソイツはいた」


 その時の状況を説明する北条だが、やはり誰も思い当たる節がないらしい。

 由里香や龍之介辺りは、シディエルの名前すら忘れていたようだ。


「ソイツの……その悪魔のレベルは『百三十七』。今まで見た中で、二番目に高いのがもう一体の悪魔でレベル八十四だから、どんだけそのレベルが異質なのかはよく分かる。今の俺でもまず勝てない相手だぁ」


「ひゃく……さんじゅうななっ…………」


「おいおい、それって……」


「確か……。以前シディエルさんに聞いた話では、冒険者ギルドの創設者の方が、レベル百二十代で歴代最高だと仰ってました」


 あまりにぶっとんだレベルの数値に、陽子や龍之介は開いた口が塞がらないといった様子だ。

 そこへメアリーが、以前シディエルに聞いた話を補足として付け加える。


「別に王都でもなんでもない、田舎の辺境国家の更に辺境にある街で、着いた早々そんな奴らを見かけてみろ? そりゃあチート能力バンザーイだなんて言ってられなくなるわなぁ」


「っつか、そんな奴。この世界の最強クラスを集めて、どうにかするレベルじゃねーか!」


 龍之介のツッコミに北条も無言で頷きを返す。



「あの。ところで北条さんはどうやって相手のレベルを測ってるんですか? やっぱり鑑定スキルも持っていたり……?」


 先ほどの質疑応答の際には、北条がこれまで影で動いていた行動の一部も明かされていた。

 それは、最初に《ジャガー村》に着いた際や、《鉱山都市グリーク》で自由行動をしていた際に、色々な人から様々なスキルを『ラーニング』して回っていたというものだ。


 そうして得たスキルの中に、鑑定系スキルも含まれていたのでは? と、これまで話を聞いていた咲良は疑問に思い、それをそのまま声に出していた。


「そういえばまだ詳しくは言ってなかったなぁ。俺が最初に選んだスキルの内、片方はすでに説明した通りのものだぁ。で、もう片方のスキル……つまり俺の天恵スキルである"解析"を使って、レベルなどを調べている」


「解析……、確かに名前からすると鑑定に近い感じはするけど」


「そうだなぁ。"鑑定"は『レアスキル』に分類されるがぁ、"解析"は更に上位の『ユニークスキル』に分類されていて、"鑑定"の上位互換のスキルにあたる」


 スキルには戦闘系スキル、魔法系スキルなど、システム的に区分が存在している。

 『レアスキル』も『ユニークスキル』もそうした区分のひとつで、その名称が示す通り、所有者が非常に少ないスキルである。


「"解析"スキルは、"鑑定"スキル以上に詳細に対象を調べることが可能で、冒険者ギルドに設置されている、鑑定の魔法装置で得られる以上の情報を知ることも可能だぁ」


 そう言って、北条は"解析"スキルで具体的にどういった情報が得られるかを述べていく。



 ここで改めて一般的な鑑定の効果について触れておくと、名前、年齢、性別、種族。それから、レベルに保有スキル。この辺りが鑑定の効果のある魔法道具、魔法装置などでも調べられる範囲となる。


 次に、高度な鑑定の魔導具でしか見ることができないのが、その人の就いている職業の大まかなランク。それから、保有スキルの大まかなランクだ。こちらは「剣術:初級」などといった具合で表示される。

 それらに加え、その人が得ている『称号』と『加護』も、高度な鑑定の魔導具なら調べることが可能だ。



 これらのことを踏まえ、北条の"解析"スキル……それも天恵スキルとして、効果が更に向上している"解析"スキルで得られる情報は以下のものとなる。


 まず、相手の名前や年齢など、パーソナルデータは当然見ることができる。

 しかも、スキルや魔法道具などでデータを誤魔化していても、よほど高度に偽装されていない限りは見抜くことが可能だ。


 あとは当然ながらレベルも見えるし、どれくらいで次のレベルに上がるのかといった、経験値に当たる部分もぼんやりとだが見ることができる。

 この辺りは人によって感じ方は違うのだが、北条の場合は光の輝き具合や色によって、判別が出来た。


 こういったぼんやりとしか見えないステータスは多く、HP(生命力)MP(魔力)。それから筋力、体力、敏捷などといった基本的なステータスも、全て光の具合でぼんやりと判別が出来る。

 ちなみに最大HPなどは光の加減で測るのだが、現在HPなどについてはゲームでよく見かけるゲージ形式で表示されるので、視覚的に分かりやすい。


 他にも高度な魔導具でもぼんやりとしか鑑定できない、職業レベルについても、北条の"解析"ならばキッチリ数字としてみることができる。

 保有スキルについても同様に、スキルレベルというかスキル熟練度というものも知ることができるし、そのスキルの効果についても本人と同じ……いやそれ以上に詳しく知ることができた。




「すっっげえええ!」


「"解析"スキルでHPとかが見れるって言われると、ますますこの世界がゲームっぽく感じちゃうわね」


 北条からスキルの詳細を説明された龍之介は、嫉妬の感情を通り越して素直に感嘆の声を上げる。

 逆に陽子は少し顔をしかめて嫌そうな表情を微かに覗かせる。


「俺の"解析"スキルも、どうやら鑑定系の最上位スキルではないようでなぁ。もしこれが最上位スキルなら、HPやMPなんかもきちんと数値として見れるんだと思う。そう考えると、陽子の言いたいことも分かる気がするぞぉ」


 これらのステータスの数値というものが、何を基準としているのか。

 例えばこれらの数値が、握力だとか背筋だとか百メートル走だとか。そういった数値で表せるものを基準として、総合的に算出された数値が表示されているのなら、気分的にもなんら問題はないと言える。


 しかし、これらの数値がゲーム的な処理をされているのだとしたら、今の自分たちは一体どういう存在なんだ? と根源的な不安が沸き起こってくる。

 なお、北条はその辺りのことについては、深く考えても仕方ないと気にするのを止めていた。


「ちなみに"解析"スキルなんだがぁ、その名の通りに色々なものを"解析"することも可能でなぁ。……まぁ、その辺の話は後にするが、俺がグリークについた初日に悪魔を二体も発見出来たのは、そういう訳だぁ」


 北条の言う「色々なものを"解析"すること」について、興味を惹かれる龍之介たちであったが、どうやら北条は引き続き話すことがあるらしい。

 誰かが質問を挟む前に、続けて話をする北条。


「それで、だぁ。悪魔に関することで、お前たちに伝えることがあと二つある」


「な、なんか嫌な予感がするわね」


「まず一つ目は、あの悪魔との戦闘中に、奴と交わした話のことだぁ」



 それは北条と悪魔が、近接戦闘を行っていた時のことだ。

 余りの超スピードでの戦闘が故に、陽子が悪魔に"呪術魔法"を掛けることもできなかった、あの戦闘の最中。

 焦りを見せ始める悪魔に対して、北条はこう問いかけていた。



『数か月ほど前……。《鉱山都市グリーク》に滞在していた、お前より高位の悪魔は何をしに来た?』



 その質問に対し、悪魔の返答はいまいち要領を得ないものだったと北条は語るが、それでも確信したことが一つあった。

 それは、その高位の悪魔は、どうやら北条の存在に気づいていたらしいということだ。


「奴はタネがどうとか言っていたがぁ、あの口ぶりからしてまず間違いないだろう。あの高位の悪魔、『ゴドウィン・ホールデム』は、俺に気づいてはいたが、何か理由があって見逃されていた……となぁ。まあその時の俺はまだまだ未熟で、さして気にも留めなかったのかもしれん」


 直接その悪魔を認識した訳ではない、北条以外の面々はいまいちピンと来ていない様子だったが、直に相手を知っている北条は強張った表情を浮かべていた。


「ゴドウィン・ホールデム…………」


 そんな北条の雰囲気に呑まれたのか、恐る恐るといった様子で悪魔の名を口にするメアリー。


「……その後、ゴドウィン・ホールデムについて調べてみたんだがなぁ。どうやらその悪魔は有名人だったことが判明したぞぉ。まー、相手は悪魔だから、有名"人"とは言えんかもしれんがなぁ」


「ッ!? それってもしかして……」


「ああそうだぁ。例の帝国で暴れまわってるっていう、悪魔の名前とドンピシャリらしい」


 北条の話に思い当たることがあったのか、咲良が思わず声を上げる。

 そんな咲良の様子を見て、北条が悪魔の正体についてを明かす。

 帝国で暴れまわっているという悪魔が、隣国の辺境の地にまで出張ってきていたのは、まず間違いなくもう一体の悪魔と何らかの関係があったからだろう。


 そして、その悪魔は北条達の手によって討たれてしまった。

 そうなれば、あの帝国の悪魔がどう動くのか予想もつかない。


「俺ぁ、幾つかラノベを読んでいて、鑑定の能力があるのにそれをいざという時にしか使用せず、身の回りに迫っていた危険人物を見逃していたっていう展開が嫌いでなぁ」


 これまであまり直接的に語られることはなかったが、やはり北条も龍之介や咲良と同様に、その手の小説を色々読み漁っていたらしい。


「"解析"のスキルを得た俺は、ところかまわず"解析"してまわっていたぁ。あの二体の悪魔を発見出来たのも、それが理由ではあるんだが、逆にそれであの悪魔に目を付けられた可能性もある。…………スマンッ!」


 そう言って素直に謝る北条。


 だが謝られた側も、困った様子で沈黙するだけだった。

 それは、まずその帝国の悪魔についての彼らの認識がハッキリしていないという点。

 つぎに、相手の悪魔と直接接した訳でも、宣戦布告を受けた訳でもないという曖昧な状況だという点。

 そもそも北条が相手に気づかれたと判断したのも、間違っているのかもしれないのだ。



 そんな北条の心配気な様子を見て、陽子は以前北条が言っていた、「俺は常に最悪を想定して行動する」といったニュアンスのセリフを思い出していた。


「……まあ、その辺は今すぐどうこうなる訳でもないだろうし、心の中で留めておけばいいんじゃない?」


 陽子の出した結論は、他のメンバーの意見と大きく違うことはなかったようだ。

 特にこの件に関して北条を追及しようだとか、今すぐ対策を練ろうだとかいう話には展開しなかった。


「あの、それよりも。僕は悪魔に関する、もうひとつの話の方が気になります……」


 慶介がそう言うと、北条は少し拍子抜けしたようにもうひとつの話を始めた。


「むっ、そ、そうかぁ。なら、さっさともう一つの話を済ませるとしよう」



 そう言って、北条は悪魔に関するもう一つの話を始めるのだった。




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