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第23話 村の発見


 各人にとって、現在の状況を改めて思い返すいい機会となった夜を越え、ダンジョン脱出後から初めての朝を迎えた。


 みんなして朝食を食べつつ、今日の行動の再確認を行う。

 まずは、近くにそびえたつ崖を回り込む形で登り、そこから周囲を観察して人里などを探す。

 もし何か発見できればそちらの方角に向かい、何も発見できなければ観察した情報を共有して話し合う。そして改めて向かう先を決定する。



「それでは、そろそろ出発しようか」


 食事の後の小休憩の後、信也がそう声をかけて本日の行動が開始された。

 まずは、崖沿いを移動する為にそちらの方に移動する必要がある。

 移動を開始した一行だが、そこまで距離が離れていた訳ではないので、すぐに崖傍へと到着した。

 後は、崖沿いに回り込める道を探すだけだ。

 途中でダンジョンの入り口部分も素通りしながら、五分ほど歩いた所で、


「……なんか、この崖思ったよりなげーな?」


 龍之介が遠くを見つめながらそう口にする。

 確かにここから見える範囲内では、崖上に通じる道や回り込めそうな地形は見当たらない。

 事前の予想では、段々高低差も低くなっていって、どこかしらで崖の上側に登れる個所が見つかるんじゃないか、という想定だったのだが、これでは少し予定を変える必要がありそうだ。


「そうだなぁ……この様子なら少し無理をしてみるかぁ」


 そう口にすると、北条はスタスタと数メートル先まで歩いていき、近くの崖を見上げる。

 崖といっても、切り立った崖という訳ではなく、所々には小さな足場になるような場所も存在していた。北条の視線は、そういった足場を行ったり来たりしているようだ。


 やがて、ヒョイっと跳躍したかと思うと、時には壁にへばりつきロッククライミングの要領で壁を移動し、また時には足場から足場へと跳躍をして、崖上へと昇っていく。

 その動きは、地球における人間の身体能力を、明らかに上回っている。

 この世界に来てからのレベルアップもそうだが、北条の場合は"成長"のスキルの影響もあるのか、信也や龍之介らよりもその身体能力は高いようだ。


 数分後、見事崖の上まで到達し周囲を軽く見まわした北条は、


「予定は少し変わるがぁ、ここから周囲を窺いながら、最初の泉の方へ戻ろうと思う」


 と、声を大きく張り上げた。


「そこからは何も見えないのかー?」


 同様に少し声を張り上げた信也がそう尋ねる。


「ここからはー、森の先に山脈が見える位だぁ。だが、最初のダンジョンがあった崖上の方に戻れば、もう少し周囲が見渡せると思うぞぉ」


「――と、いう訳みたいだ。さっきの所へまた崖沿いに歩いて戻ろうか」


 そう口にした信也は軽く皆を観察してみるが、特にこれといった不満はないようだった。

 ダンジョン内では先行きの見えない中、遠回りをした挙句、元の場所に戻ってきたりするといったことも何度かあったのだ。

 歩いて数分の距離位、彼らにとって今更どうってことはなかった。

 テクテクと元来た道を逆戻りして、すぐにまた最初の崖上ポイントまで戻った。


 崖上にいる北条はそこから周囲を見渡していたが、徐に崖上にまばらに生えている樹の中で、一番背の高い樹をよじ登りはじめた。

 すぐに崖下にいる信也達からはその姿が見えなくなる。


「猿みたいな動きをしてるなー、あのオッサン」


 龍之介のその少し不躾な言い方に、咲良は眉を軽くしかめながらも、


「……まあ、確かに人間離れした動きはしてるわね」


 と、消極的に同意をしている。

 そんなやり取りをしているとは露とも知らない北条は、しばらくして樹から降りてきた。


「目的地はみえたぁ。詳しくはそっちに戻ってから話すー」


 そう言いながら、今度は崖を降り始める。

 見ていてハラハラするような動きで、足場を経由してポンポンと飛び降りていく様子は、まるで漫画やアニメのキャラクターのような動きだった。

 先ほど崖を上った地点よりは、中間地点となる足場が少ない為、一回一回の降下でそこそこの高さを飛び降りているのだが、見極めているのか着地した足場が崩れることもなく、崖下まで無事たどり着いた。


「お疲れ様。それで、どうだったんだ?」


 信也の食い気味の質問にも、慌てることなく北条は観察したことを報告する。


「あー、あの崖から見て泉の更に先の方角。ダンジョンの出口から出てまっすぐ前に進んだ方角だな。そちらの方に小さな集落が見えたぁ」


 その情報はまさに彼らが待ち望んでいたものだった。

 可能性としては、この場所が人里離れた辺境の地といった可能性もあったのだ。

 そして人の暮らす集落があるということは、他にもそういった場所が近くにある可能性も高い。


「で、その集落辺りで森が途切れているようで、その先には平原が広がっているようだぁ。集落までは……恐らく一日もかからない距離だろぅ」


「それなら、もうこの後の予定は決まりだなっ!」


 龍之介のその言葉に否やを言い出す者はいなかった。

 僅か数日とはいえ、文明から切り離された彼らは人のぬくもりや人工物に飢えていたのかもしれない。

 例えそれが彼らから見て未発達な文明であろうとも。



 北条のもたらした朗報から二時間ほどが経過した。

 集落のある方角へと、歩みを進める彼らの足取りは軽い。

 森の中は時折魔物が出現するようで、一行にも時折襲いかかってきたが、ダンジョンですっかり慣れてしまっていた彼らにとって、それらを撃退するのは容易なことだった。


 そもそも、ダンジョン内に比べて魔物との遭遇頻度は少ない。

 ただ、新種の魔物もいたので、最初だけ対処には手こずった位だ。

 ちなみにその新種は、中型犬より少し大きいサイズの狼と、三十~四十センチ程の大きさの巨大な蜂だった。


 それよりも対応に苦慮したのが、魔物を倒した後のことだった。

 ダンジョン内の魔物とは違い、外で襲ってくる魔物は倒しても粒子化しない(・・・・・・)ことが明らかになったのだ。

 それはつまり、倒した魔物の素材をまるごと(・・・・)獲得できるということではあるのだが……。


「うぇえー、気持ちわるいぃーー」


 狼のほうはすでに何度も動物を斬ったり殴ったりしてきたので、魔石(ちなみに魔石は心臓部付近にあった)を取り除く位は出来た。

 だが、巨大昆虫はやはりハードルが高いようだ。

 それでも北条や信也、後は自分が倒した分については石田なんかも魔石と素材になりそうな尾針の回収だけは済ました。

 先ほどの声は、その様子を少し離れた所から眺めていた由里香によるものだ。


「だが、今後は君たちもこういったことをやる機会があるかもしれないぞ」


 信也がそう口にすると、由里香を始め女性陣は皆嫌そうな顔をする。

 魔石と針の回収が終わると、他の残骸はどうしようもないのでその場に残し、先へと進み始める。


 死体ごと回収しなかったのは、〈魔法の小袋〉の容量がそれほど大きくなかった点もあるが、手ぶらで村に現れたのに収納から出してしまっては、出どころを追及されかねないからだ。

 〈魔法の小袋〉の存在を公にしない為には、こういったことにも気を使わないといけない。


素材が少しもったいないかもしれないが、魔石以外で金になる部位もわからないので、とりあえずといった対応だ。




 それから更に一時間程経過した。

 今は小休憩をしている所だが、ついでにこの機会に集落の人と接触した際の対応について、話し合いが持たれていた。

 なにせ彼らの風体は怪しいことこの上ない。

 北条によると、その集落はそれほど大規模なものではなく、小さな村といった程度らしい。


 幸い彼らはゴツイ見た目の集団って訳でもないので、盗賊や山賊などと間違われることもなさそうだ。

 しかし、武装している者を含む十二人もの見知らぬ集団が、突然森の中から現れたら警戒はされるだろう。


 ここがどのような世界かはまだ分からないが、彼らの様子は着の身着のまま村から逃げたしてきた集団、って所だろうか。

 そんな状態の彼らは、まず自分達のバックストーリーを考える所から始めた。

 ちなみに異世界から来ました、と素直に打ち明けるのは、北条をはじめ、幾人かに止められた。


 もし、今までも彼らのようにスキルを与えられてやってきた人達が存在した場合。

 よくある異世界もののように、下手に明かしてしまうと、何かしらの勢力に取り込まれる可能性がある。


 無論それはそれで、当面の生活の保障にはなるだろうが、身柄を拘束される可能性も出てくる。

 或いは頻繁に地球人が流れてきてるなら、そこまで気にされない可能性もあるにはある。


 しかし、どちらにせよ態々自分達の重要な情報を明かす必要性はない、というのが最終的な結論だ。

 もし、信也達がこの世界にとって、初めての異世界人だった場合。身の上を伝えても、相手にはなんのこっちゃとなるだけで、変な目で見られるだけだろう。



 その後、色々と細々とした話し合いは行われ、侃々諤々と議論は続き、やがて一つのストーリーが生み出されることになった。

 それは『遥か遠い島国からの来訪者』というものだった。





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