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第210話 流血の最後


「えっ、こんな時に魔物が!? ……それもこの森で見かけたこともないような、Eランクの奴が出てくるとか!」


 適宜精霊に指示を出しつつ、弓での援護をしていたディズィーが思わず矢を番える手を一瞬止めて、驚きの声を発した。

 思わぬ魔物の出現に、ヴァッサゴへと向けていた弓を即座に魔物たちの方へと向けるディズィー。


「あ、この子達は敵ではありませんです!」


 魔物達と共に現れた一人である慶介は、少し慌てた様子でそう言った。

 確かに慶介の言う通り、一緒にいる魔物たちは近くにいる慶介やメアリー達に襲い掛かる様子が見られない。


「この子達は~、わたしの"召喚魔法"で一時的に呼んだ子達なんですよ~」


 長井と人形達との闘いに勝利を収め、新たな戦場としてすぐ隣のシグルド達の応援に向かうことにした異邦人達。

 そこで芽衣は、これまで人前では使ってこなかった"召喚魔法"を解禁することを決断する。

 今の状態では少しでも戦力が多い方が助かるからだ。


 とはいえ、芽衣が現在召喚できるのはEランクの魔物までだ。

 "従属強化"で召喚した魔物の能力が向上されるとはいえ、Dランク以上の冒険者らが戦っている戦場に送り出すには、少しばかり力不足だった。

 そこで芽衣が召喚したのは、以下の五体の魔物だった。


 まずはポイズンフロッグという、大森林エリアの二十一階層から出てくるカエルの魔物で、名前の通りに毒を吐き出して攻撃をしてくるEランクの魔物だ。

 直接的ではなく、毒でもって間接的に敵を弱らせることを目的として選出されていた。

 大森林エリアに行ったことのないメアリーは、最初カエルの魔物を見て体中に鳥肌を立てて震えていたが、緊急事態故に無理やりにでもそれを呑み込んでいる。


 次に、鉱山エリア後半部に出現する、ストーンニードルというハリネズミのようなEランクの魔物も二体呼んでいる。

 こいつは防御力が高めで、打撃系の攻撃以外が通用しにくい上に、背に生えた針を射出するスキルを持っている。

 遠距離攻撃もタンク役もこなせる魔物だ。


 最後に大森林エリアで遭遇した、ピコというEランクの魔物も一体召喚していた。

 体長五十センチ程の球状の本体から、短めの手足と小さな尾が生えている、見た目が可愛らしい魔物である。

 名前の由来となった鳴き声も可愛らしく、フィールドではめったに遭遇することはない珍しい魔物だ。


 頭部には鶏の鶏冠のようなものがついていて、黄色と黒が入り混じった模様をしている。

 ピコは"光魔法"と"闇魔法"の双方を使う、遠距離攻撃型の魔物なのだが、この鶏冠の部分の黄色の割合が高い個体は"光魔法"を、黒色の割合が高い個体は"闇魔法"の方を得意としている。

 今回呼び出したピコは、黄色の割合が高いので、"光魔法"の方が得意な個体のようだ。


 これらの魔物は芽衣の【サモンアニマル】によって、現在の召喚可能最大数まで呼んだ助っ人であり、肉盾や遠距離攻撃できるものを考慮して選出されている。


「フュゥ~。へぇ、こいつは驚きだねぃ。"召喚魔法"については話に聞いたことはあったけど、嬢ちゃんが"召喚魔法"の使い手だったとは。まさか、そっちの狼も召喚された――」


「ディズィー、今はくっちゃべってる時ではないよ。リーダーの援護を」


 ケイドルヴァの声に、ディズィーもすぐに意識を切り替えて弓矢の矛先を元に戻す。

 その目標の先では狂獣と化したヴァッサゴに、シグルドとガルドの二人がかりでも苦戦している様子が映っている。


「ガルド! この男、防御は弱くなっているけど、ダメージを負えば負うほどパワーとスピードが増してきているぞ!」


「うぬうう、そのようだな。恐らくは何らかのスキルの効果だろう」


 ヴァッサゴの生まれ持った天恵スキル、"ベルセルク"は理性を失い、防御力が大幅にダウンするものの、代わりに筋力と敏捷が大きく強化される諸刃の刃的なスキルだ。


 使用中は痛みにも鈍感になってしまうので、周囲に敵がいなくなるまで暴れまわったとしても、効果が切れた途端それまでに受けていたダメージが重なって、そのまま死んでしまうこともある、使いどころの難しいスキルである。


 更にヴァッサゴは"火事場の底力"というスキルをも所持しており、これはHPが減れば減るほど、筋力と敏捷が上昇していくというパッシブスキルだ。

 この"ベルセルク"と"火事場の底力"の相乗効果で、ヴァッサゴはこれまで何度も死地を潜り抜けてきた。



 今回も暴れまわる狂獣を前にして、シグルドもガルドも押し切れずにいた。

 しかし応援もかけつけたことで、戦場の趨勢も変化しつつある。


 ラミエスの呼び出した三体の魔獣。

 それらと交戦しているドヴァルグの下には由里香が参戦していた。

 接近戦に於いて、すでにDランク級と思われる由里香が加わったことにより、黒い光の影響で強化されていたドヴァルグも徐々に押されつつあった。


 執拗に素早く相手を翻弄する動きを見せるコルトにも、芽衣の放つ【落雷】はなかなか避けにくいようで、最初の一撃を含めてすでに二発命中している。そのせいか、コルトの動きも目に見えて鈍っていた。


 龍之介の方も杖持ちの相手との闘いに慣れてきたのか、戦い始めた当初より動きが洗練されてきている。

 これも龍之介の持つ"剣神の祝福"の影響だろう。

 慣れない武器を持つ相手でも、何合か打ち合っていくと何となくどう打ち込めばいいのかが見えてくるのだ。



 こうして各々の場で一時の拮抗を見せた戦いの流れは、由里香の放った闘技スキルによって一気に崩れ始めることになる。


「クェェェッ!」


「んんんッ! "炎拳"」


「ゴリゴリィィィッ!」


 ラミエスの鳥の魔獣、クックの"風魔法"によって片目を裂かれ、反射的に目を手で押さえていたドヴァルグ。


 そこに"機敏"と"剛力"を発動させた由里香が、格闘系闘技スキルの秘技である、"炎拳"をドヴァルグのどてっぱらに思いっきりヒットさせる。

 更に由里香のその攻撃に合わせ、ゴリラの魔獣であるゴリが"剛拳"の闘技スキルを反対の背中側からタイミングよく打ち合わた。


 二か所の強力な力のベクトルによって、サンドイッチされることになったドヴァルグは、口から大量の血反吐をまき散らし、白目を向いてその場に倒れ伏した。




 龍之介との戦闘を続けるデイビスは、接近戦の最中にどうにか初歩的な"闇魔法"を行使して、龍之介との距離を測ろうとする。

 が、「ピッコピコ!」という、気の抜ける声と共に飛んできた"光魔法"によって、【闇弾】は相殺されてしまう。


「キイイィィッ! ワタシハ、ワタシハアアアアッ!」


 半狂乱と化しながらも、どこか冷静な部分も維持したままのデイビスは、魔法を使うことは可能であったが、直情的になっており、何の工夫も見せずただ相手にぶつけることしか考えていなかった。

 そしてそれが上手くいかなかったと知ると、キレた若者の如く癇癪を爆発させる。


 それは体の動きにも如実に表れており、そのような相手に後れを取る龍之介ではなかった。


「……、ソコだっ! "ソードスタブ"」


 大きく乱れ始めたデイビスの隙を窺い、一撃必殺のつもりで龍之介が放ったのは、切りつける系統の多い剣の闘技スキルの中では少数派である、突き系の闘技スキル"ソードスタブ"であった。


「グ、ググ……。ワタ、シは、アンデッドの、王に…………なる、ハズだったのに」


 心臓に剣を突き刺されたデイビスが、怨念の籠った濁った瞳で龍之介を見つめながら、最期の言葉を吐く。


「ハァッ……ハァッ……」


 闘技スキルを放った時は無我夢中であった龍之介だが、死に行く者の最期の視線を受け、ゆっくりと相手の胸に突き刺さった愛剣〈ウィンドソード〉を引き抜いている時、その感触に一瞬戦いの場であることを忘れてしまう。


(クソッが……。なんて眼で睨みやがる。あー、この感触といいあの眼といい、夢にでてきそーだぜ)


 最後の最後で集中が乱れてしまった龍之介だが、幸いにも敵は死に際の最後のあがきを見せることもなく、そのまま地に屍となって崩れ落ちた。


 最悪な気分のまま、龍之介が戦場へと目を向けると、コルトの方もディズィーの放った矢が丁度同じ心臓部分に命中した所のようで、先ほどのデイビスの死に際を再現するかのように、ゆっくりと倒れていく所だった。


「……ってことはあとはアイツだけか」


 残る最後の一人、血まみれになって全身傷だらけのヴァッサゴ。

 しかしそんな状態にもかかわらず、いささかも動きが衰えることはなく、逆にダメージを重ねるごとにその動きが速まっていく。


 幾らダメージを与えても倒れることのない狂獣相手に、Cランク冒険者であるシグルドとガルドも神経をすり減らしていた。

 このケダモノは、素早さだけでなく、攻撃力のほうもすでにCランクの枠を超えたものとなっていて、うっかり良い当たりをもらってしまえば、即死に繋がるようなダメージを負いかねない。


 そのため積極的に接近戦に持ち込むこともできず、チマチマと削るような戦い方をしていたシグルドとガルドであったが、そこに芽衣の召喚した魔物達が参戦してきた。


「ゲロオオオ」


 ポイズンフロッグが口から放つ毒液は、"毒耐性"を持つヴァッサゴにはほとんど効果がないように見えたが、ストーンニードルの"針射出"は地味にヴァッサゴのHPを削っていく。

 更にドヴァルグら他の流血の面々を倒した仲間たちが、援護に加わったこともあって、完全に流れはシグルドらに傾いている。



「ルァァァァアァアアッッ!」



 そんな状態にもかかわらず、数分もの間一人で戦い続けるヴァッサゴ。

 その終わりをもたらすキッカケは、シグルドでも魔法の援護などでもない。それは芽衣の召喚したストーンニードルであった。


「キュキュキュッ!」


 何やら強い口調で鳴き声を上げたストーンニードルが、決死の覚悟で暴れまわるヴァッサゴへと猛進していく。


「アアァアッ!? ルガアアァ!」


 俺に近づくものは全て細切れにしてやる、とでもいうように、ヴァッサゴは真っすぐ突っ込んでくるストーンニードルを、力任せに真っ二つに両断してのける。


「今だ!」


 その体ごと犠牲にしたストーンニードルが稼いだ隙を、シグルドとガルドは無駄にすることはなく、両者ともに己の使える最大の技をヴァッサゴへと放った。


「これっで! "闘気斬"」


「死に、さらせええええい! "ボンバーアクス"」


 シグルドは剣系の闘技秘技スキルである"闘気斬"を。

 ガルドは、手持ちの秘技スキルが範囲攻撃でこの場面では使用できなかったので、代わりに斧系の闘技応用スキルである"ボンバーアクス"をお見舞いする。


 すでに大きなダメージを負っているヴァッサゴに、二人の強力な闘技スキルが見事入る。

 これまでの攻撃によって、何か所か皮膚の内側の肉の部分だけでなく、骨の部分まで露出する形になっていたヴァッサゴ。


 その凄惨な状態に止めとなる攻撃を食らい、流石のヴァッサゴもようやくその息の根を止めることになるのだった。




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