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第191話 レストインピース


▽△▽



 ドルゴンらとの闘いが終わり、無事アウラと村長を救出することに成功した北条達。

 彼らは互いの無事を喜びながらも、今回の一件について話し合っていた。


「これも、やはり彼女の仕業だろうか」


「ん? 彼女……ですか?」


 《ジャガー村》で、現在進行形で起こっている事件に対し、何も知らないでいる咲良がアウラの発言に疑問符を表す。


「むっ、もしや、君は……」


 そんな咲良の反応から、まだ詳しい情報を知らされていないことを見抜き、北条へと咎めるような視線を送るアウラ。

 そのアウラの視線に、気まずげな立ち居振る舞いをしている北条を見て、咲良もいい加減なにか情報が隠匿されていることに気づく。


「あの、何か……」


 そのことに対し、咲良が疑問を口にしようとした時、丁度襲撃者の様子を見回っていたカレンが戻ってきて、アウラに報告をした。


「アウラ様。奴ら、九人全員の死亡を確認致しました。……中には状況を見て、自害したと思われる者もおりました」


「そうか……。ご苦労だった」


 果たして魅了にしただけで、自害をもさせるような効果が得られるものか、アウラには甚だ疑問ではあったが、既に骸となった彼らに尋ねることはもう出来ない。

 それよりも目の前にいる、北条のパーティーメンバーの少女の方が気がかりだった。


「あー……、それじゃあ事情を話すので、ちと悪いが席を外してもらえるかぁ?」


「それは私達もか?」


 咲良を除いたここにいるメンバーは、今回の魅了事件の発端が吸血鬼となった長井が原因であるとすでに認識している。

 しかし吸血鬼の仕業だとでっち上げた北条本人は、長井の魔眼スキルが原因であることを知っており、そのことも含めて咲良にだけ話すつもりであった。


 だがアウラの言うように、そうとは知らない側からすれば、わざわざ席を外す理由は見当たらない。

 すでに村長は、一度魅了された当人として事態を知らされているし、それは村の重役であるアウラ達も同様だった。


 北条としては、長井が吸血鬼などではないことを伝える件に関しては、問題はそれほど感じてはいない。

 しかし、この場の全員(・・・・・・)の前で話すのは、少し避けたいという想いがあった。


(まあ……仕方ない。気を付けていくか)


 思惑とは外れたが、北条はそういった内心を表に出さず、


「そうだなぁ……。じゃあそのまま聞いてくれぃ」


 と答え、魅了事件について語っていくのだった。




▽△▽△




「そんなっ……」


 北条の説明を受け、ショックを受けている様子の咲良。

 語られた内容はというと、長井が以前から隠していたスキルの一つが、実は"魅了の魔眼"という、相手を魅了状態にするものであること。


 そして以前からその能力を使い、村の有力者……この場にもいる村長や、新しく出来た冒険者ギルドの関係者などを魅了していき、何かよからぬことを企んでいたということ。


 そして更に…………。


「和泉さん達が戻ってこないのって、つまりそういうこと、なんですよね?」


「あぁ、そうだぁ」


 今なお村に戻る気配のない、和泉、石田の両名は、すでに長井の魅了の術中にあるだろうということだった。




「ふむ、なるほど……な」


 北条の説明に、アウラは合点がいったようにそう呟いた。


「実は以前、そのナガイという女性が我々の下に尋ねてきたことがあったのだ」


 それは咲良だけでなく北条も初耳だったようで、続きを促すように二人は口を閉じる。


「その時もどこか胡乱で、怪しげであると思ってはいたのだが、かといって吸血鬼なのかと問われると、そうとは思えなかった」


 だからこそ、彼女が吸血鬼だと伝えられた時は、何かの間違いではないかと思ったものだ。と、アウラは語る。



 咲良は唐突に伝えられた事実に、しばし混乱気味のようであったが、徐々に事態が飲み込めてきたようだった。


「それでまあ、俺ぁナイルズにこのことを報告して、この魔法道具を手に、魅了状態にある人を解除していってる所……だったんだがぁ」


 そう言って北条は〈魔法の小袋〉から例の白い石……〈白聖石〉を取り出して皆に見せる。

 すでに色がくすんで鼠色になりかけてきてはいるが、いまだ魔力を発していることから、使用可能限界に達していないのは明らかだ。


「向こうもこちらの動きに気づき何やら策を練った挙句、我らの誘拐という手に走った訳か」


 最後にアウラが現況についてをまとめた。

 と、そこで、今まで黙って話を聞いていた村長が不意に発言した。


「むむ、そいつはもしや、使うと白い光が出て、心がスッとするあの石じゃが? ……とゆーことは、あん時の仮面を被っていたのは、ホージョーだったのじゃが?」


 今更ながらに、魅了状態を解除してくれた相手に気づいた村長は、改めて北条に礼の言葉を述べる。


 そしてもう一人。


 咲良も村長の言葉を聞いて、以前その石に触れていたことを思い出していた。

 その時は魅了を解除するなどという話は出ておらず、シャドウという魔物の、特殊な呪いにかかっている可能性があるということで、みんなにあの白い石を使用していた。


「え、あれ? ってことは、あの呪いの話も嘘で……もうあの時点で、北条さんは事態解決に動き始めていたって……こと?」


「すまん。そういうことになる」


 北条の謝罪の言葉も、いまいち咲良の頭には入っていかない。


(……確かにあの女は気に入らなかったけど、同じ日本人の同胞が、裏では悪事を働いてる、とは言い出しにくいかな……?)


 その辺りの事については、咲良が同じ立場であっても、キッパリその件を他の皆に打ち明けられたかどうかは、分からなかった。


(でも、何だろう……。なんか、こう……モヤモヤするというか)


 前々から北条には謎の多い部分があったが、あまりそれを意識させられることはなかった。

 今回、改めてその一端を明かされたことで、隠されていたことに対する不満のようなものが咲良の内に湧き上がる。


(あの時も……あの夜の時も。何か隠しているようだったけど、それも今回の件に繋がる…………)「あっ!!」


 今までの北条の言動を思い返し、隠し事をしてそうな場面や、気になる点を思い返していた咲良。

 その途中で、咲良の記憶のピースが一つカチリと収まり、ついつい大きな声を上げてしまう咲良。


「おわっ、なんだぁ?」


 突然の咲良の声に、少しビックリした様子の北条。


「思い……だしました! 北条さんがダンジョンで夜営をしていた時、"光魔法"の練習をしていたって言って、私に魔法をかけてくれましたよね?」


「あ、ああ……。そんなこともあった? かな」


 先ほどまでの悩んでいた様子から一変して、急にハキハキしだした咲良に対し、おっかなびっくりといった調子の北条。


「あれって、魅了解呪の魔法だったんじゃないですか?」


「何を突然……」


「私、あの白い石でシャドウの呪い……だと思っていた魅了を解除された時、不思議に思ったんです。この感覚、前にも味わったことがあるなって」


「…………」


「ズバリ、あの魅了の治療は白い石の効果じゃなくて、北条さんの魔法なんでしょ!?」


 北条が隠していたと思われる秘密を一つ、本人を前にしてドヤ顔で問い詰めてやった咲良は、どこかしら気分が晴れるのを感じていた。

 しかし、そこに異論を申し立てる者があった。


「それは興味深い話だが、魅了を解除する魔法となると"神聖魔法"や"精神魔法"の領域になる。特に"神聖魔法"の【リリースチャーム】は扱いが難しくなるぞ」


「あれ……、そうなんですか?」


 アウラの指摘を受け、途端に先ほどまで急速に膨らんでいた咲良の風船が、再び萎んでいくように、言葉尻が下がっていく。

 実際咲良自身も、中級"神聖魔法"まで使えるようになっているが、【リリースチャーム】の魔法はまだ覚えていなかった。


「でも、その石だって、私達が最初に発見した時は、ただの白い石ころでしたし、呪い解除だって言って使った時も、同じ状態でした」


「うん? それは度重なる使用によって、魔力が失われていき、色も変化していったのではないか?」


 言っていることの意味が、よく分からないとばかりにそう尋ねるアウラ。


「いえ、そうじゃなくてですね……。えっと、その石の色はそういうアレかもしれないんですけど、そもそも私が見た時は、その謎の模様だか記号だかが刻まれていませんでした。アレって、それらしく見せるために、後から適当に刻んだだけなんじゃないんですか?」


 意外と目の付け所がシャープな咲良は、二、三度見ただけの石の違いを見極めていたようだ。

 これにはもう観念ということなのか、当の本人である北条がようやく重い口を開く。


「まあ……、そうだなぁ。確かに魅了を解除したのは、俺のスキル(・・・)によるものだぁ」


「スキルッ……!。確かに、私も特定の状態異常を治すスキルの話は、以前聞いたことがあります!」


 これまで黙って話を聞いていたマデリーネが、記憶の引き出しから該当する情報を引き出して言う。


「ふむ……」


 アウラはマデリーネに視線を移した後、チラッとカレンの方にも目を向ける。

 すると、カレンはコクりと小さく頷いた。

 そして、北条はこの件についてのネタ晴らしを続けていく。


「まぁ、つまりそういった能力があることを隠すために、コイツ(・・・)を持ち出したり、仮面を付けたりして、身柄を隠しながら魅了を治していた訳だぁ」


 〈白聖石〉を持つ手を少し上げつつ、説明を続ける北条。


「もし俺が普通に魅了を治していたら、今頃狙われていたのはアウラ達じゃなくて――」


 ――俺の方だった。そう言おうとしていた北条は、そこで不意に言葉を止め、背後を振り返る。

 そしてそのまま流れる動作で右手を下方…………、黒焦げになっていたドルゴンの方へと向ける。

 だが、そこで何かに気づいたように動作を止め、北条は緊迫した声をあげた。


「咲良! その黒いのに【レストインピース】を!」


「え!? ええっとお……」


 突然名指しされた咲良は、慌てたように黒焦げドルゴンへと近寄り、梅干しを大量に口に入れたような渋い顔をしながら、"神聖魔法"の【レストインピース】を唱えた。

 死してなお、現世に漂う魂を成仏させる、"神聖魔法"の【レストインピース】。


 咲良がその魔法を使うと、神聖なる白い光が遺体のあちこちから湧き上ったかと思うと、胸の辺りから黒いススのような球体が浮かびあがる。

 しかし遺体から発せられた白い光によって、その黒い何かは徐々に消えていく。

 声を発してる訳ではないのだが、その様子はとても苦しそうであった。



「なに……これ?」


「よく、分からんがぁ……、奴が途中で黒く光ってパワーアップしたことと、関係がありそうだなぁ」


「あ、じゃあ、あっちの男にも【レストインピース】を使った方がいいかな?」


「それよりも、遺体をまとめて焼いてしまった方が良いかもしれません」


 この世界では、死者がアンデッドになることも起こりうるが、火葬してしまえばその確率はぐんと下がる。

 炎そのものに浄化の力がある、とも言われているのだ。


「私は村長宅で、アンデッドと化した奴らの仲間に襲われました。しっかり火葬にしておけば、そうして蘇る可能性もないでしょう」


 こうして一か所に纏められた死体は、見分を済ませた後に、まとめて咲良の"火魔法"によって処された。



▽△▽



 その後は、全員揃って村への帰途につくことになる。

 これはその道中でのこと。


 特に何か話すでもなく、無言で少し先を歩いている咲良の後ろに続く北条。

 その状態のまま十分程歩いた頃、不意に北条が足を速め、咲良の横へと並んだ。


「……咲良、怒っているのかぁ?」


 腫れ物に触るような感じで話しかけてきた北条に、一度視線を向けた咲良はポツポツとした口調で話し始めた。


「いえ、怒ってる……というのとは違うと思うんですけど」


 そう言って咲良は一旦言葉を切る。


「別に、北条さんは悪意があって、嘘をついたり騙したりしてる訳ではない。それは分かるんですけど……」


 再びそこで言葉は途切れた。

 そして、それから一分ほどの空白が二人の間を支配する。

 沈黙に耐え兼ね、北条が何か言葉を発しようとした、その直前。

 少し辛そうな表情をした咲良が言った。


「分かるんですけど……、信頼していた人に隠し事されるのって、思ったより悲しいんですね…………」


 ようやく、自分の抱いていたモヤモヤの正体を掴んだ咲良は、すっかりしょげ返っているようだった。


「そいつぁ、スマンかったな」


 浮気現場を目撃された男が、彼女に対して謝罪をしているかのような口ぶりで、北条が言った。


「俺ぁ、人の気持ちに鈍感でなぁ」


 一言。


「おまけに秘密主義で、自分の弱みを見せることを嫌っている」


 二言。


「だから、まあ……。余り俺に深入りせんほうがいいぞぉ」


 そして三言。


 セリフだけ聞くと男女関係のソレに聞こえないこともないが、別に北条にはそういった意図はなく、ただ人付き合いが苦手なだけな男の戯言であった。

 北条の一連の言葉を聞いていた咲良は、一度は収まっていた胸の中のモヤモヤが、今度はイライラとなって積もっていく。

 そして、北条の三言目を聞いた後、


「もうっ! 手遅れですから!!」


 そう言って咲良は、小走りに北条の前を走っていってしまった。


「む、むうう……」


 その様子を北条は困った様子で、そしてその困った様子の北条を、アウラ達がしらーーっとした目つきで見ているのだった。




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