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第188話 契約


「これは〈ソウルダイス〉か。確かに、中級の"神聖魔法"の使い手がいるなら、パーティー登録すれば遠距離で回復もできるな!」


「んむ、まあそれもある」


 希望が見えてきた喜びを感じているマデリーネに、北条はそう答えながら〈ソウルダイス〉を渡す。


「それも? 他に何か意味があるのか?」


 北条の物言いが気になったマデリーネが、〈ソウルダイス〉に登録をしながらもそう尋ねてくる。


「そうだぁ。俺ぁ"咆哮"のスキルが使える。こいつは声の届く範囲に効果がある上に、パーティーメンバーには逆に効果が及ばない。これを初っ端に使う」


「ああ! アレですね!」


 かつて北条の"咆哮"によって窮地を脱し、その後みんなと一緒に"恐怖耐性"取得トレーニングをしていた咲良には、すっかりお馴染みとなった"咆哮"スキル。


「奴らの持つ耐性スキルにもよるがぁ、以前使用した時はCランクの魔物相手にも通用していたぁ。上手く決まれば全員の動きを止めることがぁ出来る」


「Cランクの魔物にも……」


 効果の程を伝えるための北条の説明に、マデリーネだけでなく他のアリッサやカレンも驚きの表情を浮かべている。


「俺が"咆哮"を使ったら、咲良は神官服の男と魔術士の女を優先して、魔法で攻撃してくれ」


「私たちはどう動けばいい?」


 驚きから立ち返ったマデリーネが段取りを確認する。


「俺も"咆哮"を使ったら、魔法を使いつつ接近を試みる。その時にお前たちも一緒について来てくれぃ」


「ああ、分かった!」


 そう言うなり剣を抜き、背負っていた盾を外したマデリーネは、いつでも飛び出せるぞといった様子だ。

 放っておくとそのまま先走っていきそうなマデリーネに、北条は慌てたように告げる。


「待った待ったぁ。まだ話の続きがある。突っ込んでいった後は、俺があのリーダーらしき男と接敵するので、カレンは先に捕らえられている二人を開放。残る二人は戦況に応じて、残った敵を抑えてくれ」


「はあい、わかりましたあ」


「う……、しょ、承知した」


「アウラ様は私が必ずお救いします!」


「マディちゃんはおっちょこちょいなんだからあ、焦ってミスしないようにねえ?」


「な、そんなことする訳ない!」


 マデリーネは自分のせっかちな所に思うところがあるのか、少し恥ずかしげに返事をする。

 他の二人も作戦は把握できたようで、各々武器を抜き放ち、準備も整っているようだ。


 カレンは短剣を順手に持ち、マデリーネは片手剣と盾を、アリッサは短槍と片手剣という変わった武装をする。


「あの、私は戦いが始まったらどう動いたほうがいいですか?」


 普段のダンジョンであれば、いちいちそのようなことは聞かず、自己判断と北条の指示で動いている咲良だが、今回だけは人の命がかかっている。

 久々に生身の人間とやりあうということも手伝って、咲良の表情は真剣そのものだ。


「あー、咲良は最初に魔法を放ったら、後は臨機応変に魔法で援護してくれぃ。誰かが負傷したら回復の方も頼む」


「はい。わかりました」


「よし。ではこっそり近づくぞぉ。俺が"咆哮"を上げたら行動開始だぁ」





 作戦が決まった後は、アウラを攫っていった連中にこっそりと背後から忍び寄る北条達。

 しかし向こうにも盗賊系の探知に長けた者もいる。

 北条らが一定の範囲まで接近したことで、身軽な服装をした男が何かに気づき、異常を仲間へと知らせようとする。

 だがそれよりも早く、聞くものに強い恐怖心を与える、身の毛もよだつ"咆哮"が辺りに響き渡った。



「オオオオオオオォォォォォッ!!」



 叫ぶと同時に北条が駆け出し始め、更にマデリーネらがそのあとに続く。

 敵の集団はと言えば、恐らく一番レベルが高いであろうと思われるリーダーですら、一人残らず"咆哮"に抵抗できなかったらしい。

 各人、体を震わせるようにしてピタッと動きを止めてしまった。


「風よ、切り裂け! 【風の刃】」


 そこに続いて咲良の"風魔法"が、神官服の男と魔術士の女へと襲い掛かる。

 森の中ということで、得意な"火魔法"ではなく"風魔法"を選んだ咲良であったが、生み出された風の刃の数は十を超えており、なかなかに制圧力が高そうだ。

 それら風の刃が一斉に敵へと襲い掛かる。


「あ……ああっ!」


 北条の"咆哮"によって、強い恐怖心に囚われていた二人は、双方ともろくに回避行動を取ることもなく、無慈悲に風の刃に切り裂かれていく。

 二人の周囲を、血しぶきが派手に舞い散り、そのまま二人は物言わず地面へと倒れ伏した。


「こいつはオマケだぁ! 【岩砲】」


 なすがままに人数を二人減らされた敵方に対し、追い打ちをかけるように北条が中級"土魔法"を発動する。


「またコレかよオオオオッ!」


 "恐怖耐性"でも持っていたのか、いち早く北条の"咆哮"から立ち直った盾持ちの男が、アウラに【岩砲】を食らった時と同じように、咄嗟に盾で防御体勢に入る。

 つい一時間程前に、同じ攻撃を受けていたせいか、防御への移行もスムーズで、受けた後の力の入れ具合、流し具合なども多少は掴んでいた。

 男にとって誤算だったのは、【岩砲】の威力そのものが桁違いだということだ。


「グアアアアアッッ!」


 【岩砲】を受け止めた金属製の盾は貫かれなかったものの、あの時とは比べ物にならない位、強い衝撃を受ける男。

 その衝撃に、盾を持っていた右腕の骨はへし折れ、胸部にまで伝わっていた衝撃が肋骨まで届き、ミシリという音が男に伝わってくる。

 盾持ちの男はそのままの勢いで吹き飛ばされていき、近くの木にぶち当たると同時に意識を手放した。


 同時に放たれた他の【岩砲】の砲弾は、身軽な服装をした女と、ナックルを身に着けた格闘家らしき男、それから斧を持った男をも撃ち抜いた。

 生死の確認が出来る状態ではないが、少なくともこの三人は無力化したといっても過言ではない。

 そう判断したマデリーネ達は、戦闘開始直後のこの大きな戦果に驚きながらも、自分たちの戦うべき相手を見定める。



 残る相手はわずかに二人。

 位置的に【岩砲】で狙いにくい位置にいた軽装の男に、彼らのリーダーと思われるデグルと名乗っていた男。


 このデグルという男は、【岩砲】の迫る直前まで"咆哮"の効果が及んでいたというのに、すんでのところで効果が切れると、即座に"機敏"スキルで敏捷を強化し、スレスレの所で【岩砲】の回避に成功していた。


 そして、デグルは一旦その場から少し移動すると、腰に帯びた剣を抜き放つ。

 『暗殺者』として動く時は短剣を主に使用するが、通常戦闘に関しては『闇剣士』として剣を扱う。

 時に相手によって武器を使い分けることもあったが、剣の方が腕前は上だった。


 デグルに【岩砲】を避けられたことに気づいた北条は、一瞬周囲を見回した後に、背から愛用の〈サラマンダル〉を手に取って、デグルの下へと向かい始めた。




 一方、マデリーネらもようやく前線へと到達し、カレンがアウラと村長を縛る縄を解き始める。

 マデリーネとアリッサは、一人残った小柄な男を警戒しつつ、近くに倒れていた神官服の男や魔術師の男などに、しっかりと止めを刺していく。


 魔法に関しては倒れた状態でも使用可能なので、確実に止めを刺しておかないと痛い目に遭うことがある。

 小柄な男は、少し離れた場所から仲間が殺されていく様子を黙ってみていたが、やがて"咆哮"の効果が解けると、俊敏な動きでマデリーネらに襲い掛かってきた。


「くっ!」


 その動きはデグルには及ばないものの、Dランク冒険者と比べて遜色のないものだった。

 相手が短剣で身軽に動き回っているので、マデリーネもアリッサもなかなか好機を見いだせず、膠着状態に陥っていく。


 男の方は本格的に攻勢に出ようというよりも、少しずつ手傷を与えてダメージを蓄積させようとしているようだった。


「この、すばしっこい奴め!」


 マデリーネが悪態をつきながらも、アリッサと連携して男を挟み撃ちにしようとする。

 しかし男は、マデリーネに正面を向けたまま、器用にカサカサと背後に移動し、挟み撃ちにしようとしていたアリッサに、逆手で握った短剣で切りつける。


「ううぅ……」


 手傷を負ったアリッサは、更に続く男の攻撃をかろうじて防ぐことに成功した。しかし、ちょこまかと動き回る男に対してやりにくさを感じていた。

 それは援護の機会を窺っていた咲良も同様で、ああもちょこまかと動き回られては、なかなか魔法での援護も難しい。


 男の方も、それを承知であのように大きな動きを続けているのだが、思いもよらぬ誤算もあった。


(あの女。"風魔法"だけでなく、"神聖魔法"も使うだと!?)


 それまでジワジワとマデリーネらにダメージを与えていた男だが、咲良の【キュアオール】によってそれまでのダメージが回復されるのを見て、男は絶望的な気分に襲われる。

 そこに更にアウラらを開放したカレンが戦線に加わることで、自慢の足で攪乱させることも困難になってきた。


(……仕方ない、背に腹は代えられない。アレ(・・)を使うか)


 男は強い決心を固めると、その意志を示した。


「"契約"を執行する!」


 突如大きな声でそう喋った男に対し、不審な表情を浮かべながらも距離を取るマデリーネ達。

 すると、男のうなじ部分にある何らかの紋様(・・・・・・)が黒い光を発したかと思うと、男の全身をその黒い光が包み込む。


 突然の事態に戸惑うマデリーネらだったが、今がチャンスとばかりに咲良の"風魔法"である【エアーハンマー】が男を強かに殴りつける。

 しかし男は派手に吹き飛ぶこともなく、咲良の【エアーハンマー】を片手で受け止めた。


 そして、先ほどよりも更に速い動きでマデリーネ……ではなく、マデリーネの横を通り過ぎ、少し離れた後方にいる咲良に向けて、男は突進しようとしていた。

 男の体からはすでに黒い光は鳴りを潜めていたが、体のところどころからまるで湯気のような黒い靄が立ち上がっている。


「さ、せるかああっ!」


 男の狙いに気づいたマデリーネは、男の側面から体ごとぶつかって男の足を止めようとする。

 マデリーネの捨て身の突進に、男も咲良への突進を取りやめ、無防備に突っ込んできたマデリーネの金属鎧の隙間を狙い、腹部に短剣を深々と突き刺した。


「ぬぬぬっ、これ、しきでええぇ!!」


 しかしマデリーネは勢いそのままに、腹部に突き刺さった短剣をものともせず、そのまま男に体当たりをかまし、押し倒すようにして地面に組み伏せる。

 地面へとぶつかった衝撃で腹部の傷が痛みを訴えるも、マデリーネはそのままマウントを取って男の顔面に殴りかかる。


 そのまま数発殴られていた男だが、敏捷だけでなく筋力も黒い光によって強化されているのか、女性とはいえ金属鎧を身にまとったマデリーネを、力で強引に振りほどいた。


 そしてくんずほぐれつの状態から立ち上がった男は、マデリーネの腹部に刺さったままの短剣を思いっきり蹴り上げ、そのまま無手の状態で再び咲良の下へと走りよろうとした。


 腹部への追撃に、マデリーネも動くことはできず、アリッサも咄嗟の動きをする男に反応することができなかった。

 そして、男はそのままの勢いで咲良に迫りつつ、懐から何かを手に取り出す。


 短剣などのような、直接的な武器ではなさそうだが、男がこのような行動に出るからには、咲良にとって致命的になりえる物であると予想は出来た。

 対する咲良は、今からでは魔法は間に合わないと判断し、杖を構えて男を待ち受けることにした。


 ダンジョンの魔物相手に使うことは少ない"杖術"だが、対人の訓練はよくしているため、人間相手の方が実は使い慣れている。

 緊張しつつも油断なく杖を構える咲良。

 しかし、その杖が男を叩きのめすことはなかった。



「沈めぇ! 【岩砲】」


 カレンから戒めを解かれたアウラは、少し離れた所から"土魔法"を放っていた。

 そのまま撃ってしまうと、直線状にいる咲良にあたってしまう恐れもあったため、男の右斜め後方と左斜め後方。二か所からクロスを描くように、男に向けて【岩砲】は放たれる。


 クロスポイントにいた男は、右斜め後方から迫る【岩砲】は躱すことが出来たものの、左斜め後方から迫る【岩砲】を躱しきれず、横っ腹にまともに食らって吹っ飛ぶのだった。





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