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第173話 パーティーDEレイド雑魚バトル その2


 ドタバタッと、耳に自信がない人にも聞こえてくるほどの音を響かせながら、何十体もの魔物が北条達の下へと近づいてくる。

 その多くはやはりホブゴブリン系統のようで、ノーマル種からメイジ、プリースト、アーチャーなど多様な構成をしていた。


 中には指揮系統種であるチーフも混ざっており、こうした敵の数の多い状況ではチーフの持つ"同族強化"は大いに力を発揮する。

 とはいえ、北条も同じ系統の"指揮"というスキルがある為、強化具合でいえばそう変わりはない……どころか、陽子の存在によってバフをかけまくることができるので、バフ効果については北条達に軍配が上がる。


 ただし、"結界魔法"のフィールド系魔法は、同じ場所に複数重ねることはできないので、バフのほとんどは"付与魔法"によるものだ。

 他にも時間がまだあったので、楓が"罠設置"スキルを使って簡単な罠も作成していた。


 地形的に気づきにくい足元にロープを張り巡らせてみたり、北条と咲良の"土魔法"の力も借りて簡単な落とし穴を作ったりと、万全の態勢で迎え撃つ準備は出来ている。

 彼らが戦闘場所に設定したのは、最初にT字路に入ってきた道を、そのまま真っすぐと少し進んだ先。


 魔物達は何故かはわからないが、T字路に繋がる三方の道全てから、真っすぐに北条達へと近づいてきており、一番接敵が早いと思われたのが彼らが戦闘準備を整えていた場所だった。

 作戦としては、一番早く接敵する魔物達を集中砲火で蹴散らし、その後に他のT字路からの魔物を迎え撃つというものだ。




「来たっす!」


 由里香の視線の先には、最初の目標である魔物の集団の姿が映っていた。


「見えたっ! それじゃあ、さっきみたいに最初は火属性で……」


 そこまで言い終えた咲良だったが、道の先……魔物達のいる方向から【炎の矢】や、【土弾】が飛んでくるのが見えて、言葉が途中で途切れてしまう。


「ちぃ、単体魔法かぁ!」


 こういった集団戦に於いて、単体魔法の使いどころといったら、乱戦になった後というイメージを持っていた北条は、出鼻をくじかれた形になってしまった。


 単体魔法は、確かに接敵前の集団戦で使うには微妙な部分もあるが、実は射程距離については範囲魔法よりは優れている。

 どちらも魔法使用時のイメージと、魔力量を多めにつぎ込めば、射程はある程度伸ばせるものの、向いているいないという特性は存在しているのだ。


「こちらも単体魔法で撃ち返しつつ、近接系が近づいてきたら範囲魔法で一掃だぁ!」


「敵の魔法に関しては、私の【魔法結界】に任せて!」


「わたしの肉壁ちゃんもいますよ~」


 陽子の"結界魔法"は常に使用しているだけあって、かなり熟練度が磨かれてきている。

 高ランクの相手ならともかく、Eランクの魔物の放つ魔法程度なら直撃しても問題はない。


 実際、遠距離から放たれた【炎の矢】は陽子の【魔法結界】によって完全に阻まれていた。

 そもそも、遠距離から放たれたせいか精度はさっぱりで、陽子の結界まで届いたのはその一発のみだった。


 魔物達もただのけん制のつもりだったのか、以降はメイジらも前衛と一緒に更に距離を詰めてくる。

 しかし、それこそ北条達の思う壺だった。


「範囲魔法、行くぞぉ。中央、【ファイアーボール】」


「はい! では右、【ファイアーボール】


 再び放たれる範囲魔法の嵐は、多くの魔物を巻き込んでいく。

 最初の第一陣との戦闘の際、範囲魔法の着弾地点が被ってしまうことがあったので、今回は着弾地点が被らないように申告制にしている。


 ただし、楓の【火遁の術】だけは扇状に広がっていくタイプなので、申告はしていない。

 他はきちんと範囲をずらせたお陰で、今回は最初の時より効果的に範囲魔法を運用できていた。


 その後は大きく数を減らした魔物達を仕留めていくだけ……と思われたのだが、思わぬ邪魔が入った。


「ガルルルルッッ!」


 いくつかの罠や三体ほど配置していたオーガをも超え、接近してきていたダークウルフがいたのだ。

 しかし、いち早くそのことに気づいたマンジュウがダークウルフの前に立ちはだかり、威嚇の声を上げる。


「む? これは、T字路の方から来たやつかぁ!」


 先に始末する予定だったT字路の奥の魔物を倒しきる前に、手前と横道から近づいてきたダークウルフが後方から迫ってきていたらしい。

 しかし、どうやら背後から襲ってきたのは足が速く小回りの利くダークウルフと、空を飛んで移動してくる蝙蝠型の魔物、ナイトフライヤーのみのようだ。

 


「由里香ぁ! 先にこいつらを殲滅するぞぉ!」


「りょおおおかいっすうう!!」


 二人の会話を聞き、無言で【物理結界】を操作して出入りする隙間を開ける陽子。

 その隙間を抜けて、北条と由里香は狼と蝙蝠たちに狙いを定め、迅速に行動を開始する。


 分担としては、空を飛ぶナイトフライヤーは由里香では攻撃しづらいので、由里香がダークウルフ、北条がナイトフライヤーをターゲットに定める。


「シィッ!」


 気迫の篭った北条の愛斧槍〈サラマンダル〉が、高所から滑空してくるようにして迫るナイトフライヤーの翼部分を見事に打ち抜く。

 すると、打ち抜いた部分を中心に、いつもの赤い光ではなく青い光が立ち上った。


 北条が魔法を覚えて以来練習を続けていた、"ライフドレイン"ならぬ"マジックドレイン"は、触れた対象の生命力ではなく魔力を奪い取る。

 先ほどの青い光も"マジックドレイン"が発動したことによる発光だった。


 一回で奪い取る量は大したことはないのだが、実は奪い取った分以上に敵は魔力を奪われている。

 そのため、"音魔法"を使ってくる、このナイトフライヤーのような相手ならば、魔力を奪えて相手の魔法使用数も減らせて一挙両得だ。



「ていっ! やぁっ! 【ジャブ】 連打、かーらーのっ! 【ミドルキック】」


 由里香の方も負けじと、ダークウルフに対して果敢に戦いを挑んでいる。

 見た目的にはマンジュウと同じ狼系の魔物ではあるのだが、由里香はそこは割り切って戦っている。

 本来は必要ないのだが、いちいち闘技スキルの技名を声に出してしまうのは、なんだかんだ言って龍之介に似ていた。


 それから数分ほどで先行していたダークウルフとナイトフライヤーを大体打倒した二人は、反対方面にいた最初に接敵した魔物達の方へと向かう。

 しかし、そちらも咲良たちの魔法や陽子が投げつける魔弾などによって、ほとんど数が残っていなかった。



「あとは本陣、ね」


 その頃には、T字路の残り二つの道から押し寄せた魔物達が魔法の射程範囲に差し掛かろうとしていた。


「敵の数は……最初の時よりまだ多いがぁ、俺達なら問題ない! 行くぞぉ!」


 北条の鼓舞の声と共に、第一陣、第二陣前哨戦と続き、第二陣の本陣との戦闘はこうして始まった。




▽△▽△




 本陣との戦闘が始まってから四十分ほどが経過した。

 すでにその場には北条らの他に動くものの姿はなく、あちらこちらに魔物のドロップ品や魔石が散らばっている。


 一体どれだけの数の魔物を倒したのだろうか。

 おそらく百体以上はいたと思うのだが、流石に誰もその正確な数を認識していなかった。

 最初の第一陣の戦闘から数えて二時間以上も戦っていたことになるが、思いの外疲労困憊というほどでもなかった。


 魔法も惜しまず使っていたというのに、まだある程度魔力が残っている。

 ……流石にもう一度同じ規模の相手と、同じように戦ったら大分きつそうではあるのだが。

 それでも作戦を「バリバリ行くぜ」から「節約気味で行こう」に切り替えれば、どうにか対処は出来そうだった。


「これでもう完っ全に終わりなんっすよね?」


「あぁ。辺りは驚くほど魔物の気配がなくなっているぞぉ」


 北条の声を聞いて安心した様子の由里香。

 実は先ほどの本陣との戦闘中では、大規模ではないが数体単位で、何度か敵の増援も来ていたのだ。


「しっかし、また随分と湧いて出たもんね」


 無事戦闘を終えた陽子があきれ顔で言う。


「んーー、この感じだと、この周辺の魔物が全部こっちにおびき寄せられたって感じだなぁ」


「じゃあ、この周辺の探索ならしばらく魔物にも出会わないってことですか?」


「恐らくは、な」


 とはいえ、もう一度今の規模の戦闘を行う元気があるものはいなかったので、さっさとドロップを回収して迷宮碑(ガルストーン)まで早々に引き上げることが決定された。


 回収の方に少し手間がかかったが、北条の言うように周辺に魔物がいなくなっているのか、回収する時も迷宮碑(ガルストーン)へ戻る時も魔物と遭遇することはなかった。




▽△▽△▽




「はぁ、ついたあ」



 サルカディアから帰還した『サムライトラベラーズ』は、冒険者ギルドで今回の成果を受け取っていた。

 最後のレイドエリアでの戦闘が決め手となって、六人で割っても一か月は暮らしていけるほどの金を手に入れた北条達。


 最後の戦闘は少しきつかったけど、お金も経験値も稼げたから良かったーと、満足気にギルドを出ようとした一行に、声を掛けてくる者がいた。


「やあ、こんにちは。どうやらたんまり稼いできたみたいだね?」


 そう声を掛けてきたのは、ムルーダ達のパーティーに新しく加わっていたヒーラーのツヴァイだった。

 咲良は周囲を見渡すが、他のパーティーメンバーは別行動のようで、ここにいるのはツヴァイだけのようだ。


「ああ、今は他のメンバーは宿で休んでいるよ。僕らもようやくテント生活から抜け出せるようになってね」


 様子を窺う咲良に気づき、ツヴァイが説明する。

 彼ら『ムスカの熱き血潮』の面々は、みんなFランクと冒険者としてのランクは低い方だ。

 それでもテント生活から抜け出せるようになったのは、それだけ宿の建設が進んで、受け入れ態勢が整ってきたということだろう。


「それで、何の用なの?」


「えっと、いや。ちょっとしたことなんだけど……」


 陽子の問いにそう答えるツヴァイだが、その顔に浮かぶ焦燥感のようなものは完全に隠しきれてはいない。

 咲良や由里香は全く気付いていないようだったが、芽衣は探るような目つきでツヴァイを見ていた。


「ああぁ、あのことだなぁ? すっかり忘れてたが問題はないぞぉ」


「え? 忘れてたって……」


「いーからいーから。丁度いいことにここはギルドだし、一緒にヤボ用を済ましにいくぞぉ」


 そう言って手をヒラヒラとさせる北条。

 続いて、


「という訳でー、今日はここで解散だぁ。とりあえず明日までは休みにするので、好きにしてていいぞぉ」


 と仲間へ通達すると、「じゃ、行こうかぁ」とツヴァイを引き連れ北条はギルドの内部へと戻っていく。



 話を挟む隙も許さないように、テキパキと話を終わらせる北条。

 それからツヴァイと一緒にギルドのカウンターで何やら話したかと思うと、建物の奥へと二人して消えていった。




「あーやしーなー?」


 流石にそこまで来ると、何かあるのではないかと疑いの眼をする咲良。


「確かに……北条さんは突発的な所はあるけど、さっきのは少し強引だったわね」


 陽子も何やら疑問に思っているようだった。


「……人には知られたくないことも、ある、と思います……」


 先ほどの件をどう見ているのか表情からは窺えないが、擁護するような発言をする楓。


「んー、知られたくないこと……。あ、えっちなことっすかね?」



「…………」 「…………」 「…………」



 由里香の言葉に一瞬の沈黙が場を支配する。


「ま、まあ、男の人ってそういうとこ? あるし?」


「あの二人のカップリングって……。ツヴァイの方はいいとして北条さんは……」


「由里香ちゃん……」


 由里香の発言に、咲良はつっかえながらも物知り顔で発言し、陽子はブツブツと小さな声でなにやら呟いている。

 芽衣は親友の言葉にどう反応していいのか迷っている様子だ。


 そんな彼女たちの様子など知るべくもない北条とツヴァイは、《ジャガー村》の冒険者ギルドマスターである、ナイルズの執務室へと入ろうとしていた。





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