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第171話 レイドエリア


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「こっちが分岐先だったようね」


 陽子が手元の地図と照らし合わせながら、目の前の下り階段の先を見つめる。

 むき出しの土の壁の一部にポッカリと開いている穴は、奥まで続く下り階段となっているが、その先の様子は暗くて確認しようがない。


 ここは未灯火エリアの十三層。

 意気揚々と未灯火エリアに挑んだ挙句、ブラックオイリッシュの洗礼を受けて辟易としていた一行だったが、あの黒い悪魔は九層辺りから徐々に姿を見せなくなっていき、十一層以降では一度も遭遇していない。


 その代わり、十一層辺りからは空中を浮遊する複数のハサミ「フライングシザーズ」という魔物や、「シャドウ」という実体を持たないもやもやっとした謎生物が出現するようになった。

 これらの魔物のランクはEランクではあるが、シャドウは対処方法を持たないと厄介な相手であるし、フライングシザーズは普通に強い。


 おおよそ三十センチ程の大きさの金属のハサミが、複数個で一体の魔物としての形態を取っているフライングシザーズは、三体程度現れただけでもハサミの数は十個近くになる。

 それら空中を浮遊するハサミが、自由自在に四方八方から襲い掛かってくるのだ。


 シャドウには光属性という分かりやすい弱点があるが、フライングシザーズにはそうした明確な弱点はない。

 しかもモノがモノだけに、なまくらで切りつけようものなら刃こぼれしかねない。

 一つ上のDランク冒険者ともなれば対処は容易くなるのだが、同ランクではなかなか対処に苦労するタイプの魔物だろう。


 だが『サムライトラベラーズ』は最早Eランク程度の魔物に後れを取ることはなかった。

 レベル的には彼らの現在のランクであるEランクとしては、確かに相応のものだと言えるだろう。

 だが北条達は皆、転移時に授かった天恵スキルを二つも所持している。


 その上彼ら自身はまだ気づいていないが、他にも異常な点は存在している。

 レベルアップの速度が速いという点は、ナイルズからの指摘やムルーダとの間に生じた差などで、薄々理解はしてきている。

 しかし、それ以外にスキル熟練度の伸びも、レベル同様に異常な伸びを見せているということに未だ彼らは気づいていない。


 レベルという分かりやすく比較しやすいものではない分、一般的な人と比べようにもなかなか難しいのだろう。

 彼らと接することの多いナイルズだけは、微かにその成長具合に疑問を抱いているといった程度だ。



 ともかく、そういった訳で、同じEランクの魔物程度では後れを取ることがなくなっていた北条達は、順調に探索を続けて十三層までたどり着いていた。

 そして既にこの階層も大体探索を終えており、下に降りる階段を二つ発見していた。


 最初に降りた階段の先は、相変わらずの未灯火の洞窟タイプのエリアだった。

 通常、分岐先を進んでエリアが切り替わると、新エリアの入口部には迷宮碑(ガルストーン)が設置されていることが普通だ。

 しかし最初に降りた先ではそういったことはなく、つまりはここが分岐先ではなく本道だということになる。

 探索ももう六日目となっていた北条達は、帰還するためにももう一つの階段へと戻ることにした。




「じゃあ、さっさと降りよっか!」


 陽子が改めてマップを確認していると、明るい由里香の声が聞こえてきた。

 ダンジョン探索にも大分慣れてきた彼らだが、自分たちで明かりを用意しないと完全に闇に閉ざされてしまうこのエリアは、肉体的には問題なくとも気持ち的には良くなかったようだ。


 由里香の声には、ようやくこの陰気な場所から抜け出せるという喜びが含まれていた。


「そうね、いきましょ」


 陽子もさっさと戻りたいのか、そう言うと手にしていたマップを"アイテムボックス"でしまいこむ。

 そして一行は階段を下りていくのだが、下り階段の途中には何かしらの変化は見られない。


 エリアが切り替わりする付近では、次のエリアの特徴が段々現れたりするのだが、結局下に降りきるまで未灯火の洞窟タイプのままだった。


「あれ? ここも同じエリア……かな?」


 思わず咲良が疑問の声を上げる。


「……いやぁ、ここで合ってるようだぞぉ」


 いつの間にか少し離れた場所に立っていた北条。

 他のみんながそちらへと視線を向けると、北条の近くには見慣れた迷宮碑(ガルストーン)が設置されているのが見えた。


「おおおぉ……、おぉ?」


 迷宮碑(ガルストーン)を確認するなりタタタッっと駆け寄っていった由里香だが、迷宮碑(ガルストーン)の本体部分であるモノリスを見て小さく疑問の声をあげる。


「なんかいつものと違うっすね」


 由里香が注目する先。

 モノリスの上部には、〈ソウルダイス〉をはめ込む窪みの他に、タブレットがはまりそうな窪みも存在していた。

 そして、何より他の迷宮碑(ガルストーン)と比べると、ここの迷宮碑(ガルストーン)は妙に魔法陣が大きく、転移エリアが広く取られている。


「これってあの……板っぱちを嵌められそうね」


 名前が浮かばなかったのか、記憶にある見た目の特徴を言いながら推測する咲良。


「たしか~、〈ソウルボード〉ですね~」


「ああ、そうそう。それそれ!」


 まだあれから数か月程しか経っていないが、その間の経験がまるでジェットコースターに乗っているかのように刺激的すぎて、最初の頃の記憶が大分薄れてきてるらしい。


「こいつがここにあるってことぁ、この先はレイドパーティー推奨……ってことかぁ?」


 〈ソウルボード〉に対応した大人数向けのエリアがあるダンジョンは、このサルカディアを除くとたった四つしかない。

 それら他のダンジョンにあるレイドエリアの特徴は、まずとにかく造りが広い点と、魔物の数が多いという点が挙げられる。


 レイドエリアでは、大人数での行動に支障がないように、最低でも数人が間隔をあけて横並びで移動できるほどに、通路の幅が広い。

 そして、一度に遭遇するのが数体から多くても十数体程度の通常エリアと比べ、レイドエリアでは一度に数十体の魔物に襲われることもザラにある。


「みたいですね。北条さん、どうします?」


「うううん……」


 咲良の問いかけに少し悩んでいる北条。

 異邦人達は一番最初のダンジョン脱出時に〈ソウルボード〉も手に入れている為、信也達のパーティーもこの場所までくることができれば、レイドを組んで探索することもできるだろうが……。


「ちょっとだけ、探索してみるかぁ」


 北条の選択はとりあえず様子見をしてみる、という案だった。


「だ、大丈夫なんっすか?」


 新エリア探索で、以前痛い目に遭ってしまった由里香は、いつもの態度とは逆に弱気だった。


「……そうだなぁ。芽衣は大勢に囲まれたときのことを踏まえて、タンクタイプの魔物を限界まで召喚してくれぃ」


「わかりました~」


「後は俺と由里香は前に出るとしてー、咲良、芽衣、里見は固まって行動。楓は後衛の護衛と、"忍術"による範囲攻撃。それから状況に応じて近くの魔物を倒しにいってもオーケーだぁ」


「分かったわ!」


「りょーかいっす!」


「わ、分かりました……」


 北条の指示にそれぞれ返事を返していく女性陣達。

 とはいえ、芽衣以外は特に事前準備などもないので、しばし召喚待ちの時間となる。


 どうやらこのエリアは新エリアには違いないが、未灯火の洞窟タイプという、ひとつ前までの階層と構造自体は同じようだ。

 ただし、レイドエリア向けに道幅が広くなっているせいで、広大な造りの未灯火エリアであるが故に見通しがよくない。


「こりゃあ、明かりは多めにつけた方が良さそうだなぁ」


 北条がそんなことを呟いていると、芽衣の召喚が全て完了したようで、彼女の傍には五体(・・)の魔物が姿を現していた。 

 それらは全て同じ魔物であり、人型をしている。ただし、その背丈は二メートル五十センチほどもあり、見上げるほどの背の高さだ。


 緑色の肌は通常種のゴブリンを彷彿とさせるが、あくまで似たような色というだけでその姿は別物だ。

 そして上半身は素っ裸で逞しい肉体をしており、下半身は腰ミノという半裸スタイル。手には丸太ほどの太さのこん棒を手にしている。


 芽衣が【妖魔召喚】によって呼び出したこの魔物は、オーガと呼ばれているそれなりに有名な魔物だ。

 見た目の通りパワータイプであり、装備を身に着けていないとはいえ、硬い皮膚は生半可な刃物では傷つけられない。

 北条の指示に従いタンクタイプとしてオーガを召喚したが、十分役目を果たせそうだ。


「よぉし、そいじゃあ俺も……っと。【ライティング】、【ライティング】……」


 召喚したばかりのオーガの背中部分、肩甲骨の辺りに【ライティング】で明かりを灯していく北条。

 オーガの背丈が高いので、少し光量を強くして遠くまで照らせるように工夫させれば、十分にこの暗い空間を照らすことが出来る。


 最近"召喚魔法"の腕前が上がったのか、芽衣の召喚できる魔物の数が五体から六体に増えていた。

 内、一体は契約をしているマンジュウ枠となるが、今回は残りの枠全てをオーガ召喚に充てている。


「んじゃあ、出発するぞぉー」


 こうして、陣形の指示を出しながら初のレイドエリアの探索が始まろうとしていた。





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