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閑話 『魔法鍛冶士』ルカナル その2






◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その日、僕は相変わらず親方に自分の作品をまともに見てもらうことも出来ず、イラついた気持ちのまま、頼まれごとをこなそうとしていた。

 しかし歩き始めても先ほどの出来事がどうにも頭から離れない。そしてとうとう前から歩いてきた女性と思いっきりぶつかってしまった。


「きゃっ」


 辺りを見てみると、僕の近くには腰の工具ベルトに下げていた工具が、幾つか地面へと散らばっていた。


「す、すいません……」


「もう、何なのよぅ」


 咄嗟に謝罪の言葉は出たけど、相手の女性は若干不機嫌な様子だ。

 それも当然だろうと思いながら、散らばった工具を拾い集めようとしたんだけど、グループ唯一の男性がわざわざ工具を拾い集めて手渡してくれた。


「あ、ども、ありがとうございます」


「いやいや、別に構わんぞぉ。ところで、このナイフはあんたが作ったのかな?」


「え、あ、はい。僕の作品です……。親方には投げ捨てられましたけど」


「ほおぅ、そいつは見る目がない親方だぁ。さっきそちらの店を見せてもらったが、十分店に並んでいてもおかしくない出来だと思うがなぁ」


 その言葉を聞いて、僕はさっきまでの陰鬱な気分が嘘のように形を潜め、代わりに心がはしゃぎだすような嬉しさを感じた。

 これまで同じ職人の人に作品を褒めてもらったことはあるけど、外部のお客さんとなる相手に褒めてもらったのは初めてだったんだ。


 嬉しさのあまり僕は自分の作ったナイフを彼に手渡していた。

 それからお互いに自己紹介をしてから別れたんだけど、この出会いが転機になるなんてこの時の僕は思いもしなかった。




 それから数日後、僕の下に冒険者ギルドからの遣いがやってきた。

 その人からの話によると、とある村で鍛冶師を募集しており、そこに是非ともきてもらいたいという話だった。


 引き受ける前の今は詳しい情報を話せないけど、その村は今後大きく発展が見込まれるとのことで、僕以外にも幾人か鍛冶屋などの職人を誘致しようとしているらしい。


 なんでまだ職人にもなってない僕にそんな話が持ち込んだのかを尋ねると、どうやらあの時出会ったホージョーさんが推薦してくれたらしい。

 それを聞いた僕はそこまで評価してもらえたことに驚きを感じつつも、人に認められたことに対して強い満足感を覚えていた。


 けど、今の僕の立場は場末の鍛冶屋の見習いでしかない。

 せっかくの申し出だけど、そのことを遣いの人に伝えて辞退しようとした所、それならその村の鍛冶士の所で見習いとして腕を磨いてはどうか、とまで言ってくれた。


 本当になんでそこまで僕のことを……と当時は疑問に思ったけど、後に聞いた話では、話を一部伏せたまま職人を引き抜くのに苦労していたとのことだった。


 そこまで言われてしまったら僕としても吝かではない。

 何だかんだで今の環境には思うところを感じていたし、丁度良かった。

 遣いの人に参加する意思を伝えると、それから少し彼と話を続けた。


 その際に、ここ数年"転職"を試していなかったことを話すと、費用は持つから村に行く前に一度受けておこうと、《ジリマドーナ神殿》まで一緒に赴くことになった。


 数年前に転職をした際に、『鍛冶師』になることは出来たんだけど、ここまでは多くの見習いが到達する領域だ。

 ここから先が鍛冶職人の真価が問われる所で、剣を専門にする『剣鍛冶師』などのように専門の道に走る人もいれば、『熟練鍛冶士』などのように種類を絞らずに上の職を目指す人もいる。


 僕の場合、新しい職の道が開けている確信が持てなかったし、それよりも今は独立の道を探すのに手いっぱいだった。

 だから正直お金の無駄になるだろうと思いつつ、どうせタダだからと気軽な気持ちで転職碑(グラリスクストーン)に触れたんだ。



「……えっ?」



 思わず僕は驚きの声を上げてしまった。

 自分の頭の中に直接情報を見せているような不思議な感覚。

 頭の中に浮かぶソレは、識字能力のない人にも理解できるので、文字情報などではないらしい。

 その誰でも理解できる表示の転職先として、幾つか提示された職業の中に、僕は鍛冶系の見慣れぬ職業があることに気づいて、思わず声を出してしまう。


「ま、『魔法鍛冶士』……」


「お? 何か新しい職業が見つかりましたか?」


 遣いの人の声がどこか遠くに聞こえる中、僕は頭の中に浮かんだ『魔法鍛冶士』について想いを寄せる。

 すると、朧気ながらこの職業がどのようなものかを直感的に理解できた。

 どうもこれはその名の通り、僕の"魔法鍛冶"スキルを大いに活かして鍛冶を行う系統の職のようだった。

 そのことを理解すると、無意識と言える速さで僕はこの職業を選択し、無事に"転職"をすることができた。


「はい。おかげ様で『魔法鍛冶士』に就くことができました」


「ほおう? 私は職業に関して詳しい訳ではありませんが、名前に"魔法"とついているだけで何だか凄そうな感じがしますな」


「おお。『魔法鍛冶士』ですか。それはまた珍しい職業でございますね」


 僕たちの話を聞いていた、案内役のジリマドーナ神官が口をはさんでくる。その女性は何か思い出すような仕草を見せると、続きを話し始めた。


「ええと……確か、"魔法鍛冶"なるスキルを駆使して、炉を用いずに鍛冶を行えるようになる職業……だったかと思います」


 "魔法鍛冶"のスキルに関しては今まで出会ってきた本職の鍛冶師でも知らない人が多かったのに、随分とこの人は博識なんだなあ。

 そう思いながら、僕も相槌を入れる。


「ええ、そんな感じみたいですね」


 彼女の反応からして、珍しくはあるが大騒ぎするほどではないようだ。

 希少な職業に就いた場合は、職業に関する情報を伝える代わりに何度か転職料金を無料にしてもらえたりして、謝礼をもらえることもあるようなので少し残念。


 でも今回は費用はギルド持ちだったし、村に行く前に早速一歩前進することができたのは良かった。

 その後は、遣いの人から一緒に村へ行く人たちとの合流場所と日時を伝えてもらい、僕は意気揚々と『ダラス鍛冶店』へと帰った。




▽△▽△▽



「なにっ!? うちの店を出ていくだと?」


「はい。今までお世話になりました」


 あれから二日後、僕は心にも思ってないセリフを親方に告げながら、用は済んだとばかりに荷物をまとめた場所に歩き出す。

 そんな僕の後を反射的に追いかけて店の外にまで付いてくる親方。


「待て! 急に出ていくなど許さんぞ!」


「別に許してもらう必要はないでしょう?」


 僕の言葉を聞いて、飼い犬に手を噛まれたかのような顔をする親方。


「貴様ッ! 親方であるワシにそのような口を利いて、タダで済むと思っているのか? どこにも雇い入れてもらえず、路頭に迷っていたお前を雇ってやった恩を忘れたのか!?」


「恩……ですか」


 親方には挨拶だけしてすぐに立ち去る予定だったけど、その言葉を聞いて僕は少し言いたいことを言っておくことに決めた。


「ああ、そうだ。"魔法鍛冶"などと邪道なことばかりやって、まともに鍛冶も出来ないお前を雇ってくれる所など、ワシの所以外ないというのに、お前ときたら……」


 その後も出るわ出るわの暴言の嵐に、僕は黙ってしばらく親方の好きにさせていた。

 しばらくしてようやく言葉が出なくなった様子の親方に、今度は僕から話を突き付ける。


「……まず、僕は親方から『恩を受けた』のではなく、『弱みに付け込まれた』んですよ」


 それから何やら言い返そうとする親方を振り切るように、僕は言葉を叩きつけていった。

 職人の親方が弟子や見習いに施す基本的なこと。

 最低限の衣食住の確保に、弟子や見習いの作品をきちんと評価する、評価させるために作品を作らせる。

 そういったことを親方は怠った。


 僕が住んでいたボロ小屋は、親方が「そこいらの木材と庭の一角を与えるから、好きなようにしろ」とだけ言われ、自分で一から組み立てたものだ。

 食事は当初は最低限の食料を与えられていたけど、しばらくすると余分に余った時や、腐りかけのものしかもらえなくなっていた。

 四六時中着ているボロイ作業服だって、あくまで貸与という形で僕のものではない。


 親方に内緒で始めた"魔法精錬"スキルによる精錬の副業などがなければ、日々生活するだけで限界という、奴隷生活しか送れなかっただろう。



 そういった内容のことを、今までの経験を活かして激高して我を失うこともなく、理路整然と親方に今までの所業(・・)を突き付ける。

 何より僕が許せなかったのは、作品を作る環境も与えなかったことだ。


 そして副業で得た金でどうにか作品を作りあげても、「材料を勝手に使いやがったな!」と罵声を浴びせかけられる。

 地道に貯めた金で材料を買って作ったと言っても、余計なことはするなの一点張り。



 ――そういったことを親方に告げながら、我ながらよくここまでやっていたものだなとふと思う。

 途中までは僕のいうことにギャーギャー騒いでいた親方。

 そんな僕らの声を聞いた近隣の人が、興味深そうに僕らの話を聞いていた。

 狙っていた訳ではないけど、周囲のギャラリーの存在が親方の反論を封じた形になってるみたいだ。


 僕がひどい扱いを受けたことを告げる度に、周囲の視線が親方に冷たく刺さっていく。

 一通り言いたいことを言えてスッキリした僕は、振り返ることもなく、少ない荷物を持って待ち合わせ場所へと移動し始める。

 ――前に、最後にもう一言だけ付け加えることにした。


「あ、最後にひとつ。僕が建てた僕の部屋は、倉庫にでもなんでも自由にしてもらって構いませんよ。僕が鍛冶職人の見習いとして、唯一作るのを認められた建物(・・)ですからね。せいぜい大事にしてください」


 そう言って、僕は今度こそ本当にこの場を立ち去るのだった。






現時点でのルカナルのステータス


≪ルカナル 23歳 男 人族≫

≪レベル:17≫

≪職業:魔法鍛冶士≫

≪スキル:槌術、軽装備、器用強化、魔力強化、魔力操作、スマッシュ、マジックスマッシュ、金属魔法、鍛冶、製錬、魔法鍛冶、魔法精錬、金属加工、工具取り扱い、日曜大工、魔力消費軽減、金属知識、火耐性、閃光耐性≫





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