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第164話 未帰還者達の増加


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ダンジョンの情報が公開されてからひと月と数日が経過した。

 今もなお各地から押し寄せてくる商人や冒険者の姿は後を絶たず、《鉱山都市グリーク》と《ジャガー村》を繋ぐ街道は常に人が通行しているような有様だった。


 領主であるグリーク辺境伯は今後のことも考えて、今までのような迂回した道ではなく、手間はかかるが直通して移動の期間を削減できるような街道の工事にも着手し始めている。

 これには旧来の街道沿いにある《リコ村》が大きく反対をしていたのだが、数十年、或いは百年以上先のことを考えると、ここは決断せざるを得なかった。

 もしこの街道が完成すれば、二日以上は道程が短縮できる試算だ。


 《ジャガー村》の開発も着実に進んでおり、まだまだ数は少ないが宿や店なども営業を開始している。

 冒険者ギルドも本館だけでなく、買い取ったドロップを保管する倉庫や、簡易訓練場。それから、場所は少し離れるが職員用の住居施設なども完成しており、ジョーディも今ではそちらで寝泊まりしていた。





「また、ですか?」


 そんなジョーディの下に、訃報が届いていた。


「はいっ。ダンジョンの中でのことだから、まだ確定した訳じゃないみたいだけど、既に予定より一週間は遅れてるみたいです」


 そう報告してきたのは、《鉱山都市グリーク》から派遣されてきた職員の女性のイーナだ。

 彼女は今ジョーディが抱えている部下の一人として、主に受付業務を担当している。


 イーナが報告しているのは、ダンジョンに潜っていたFランクの冒険者パーティーが帰還していないという話だった。

 無論ダンジョンに潜る以上、魔物に殺されるケースや罠に嵌って命を落とすというケースもありえるのだが、パーティー全員が帰ってこないとなると問題である。

 それも短い期間に数件起きたとなれば、いよいよ疑わしく(・・・・)なってくる。



 この地には近くにダンジョンもなかったので、ダンジョンに慣れた冒険者というのは数が少ない。

 更にFランク以下の冒険者ともなれば、ちょっとしたことでも命を失いかねない。

 そう考えると、現在の行方不明者の数はそう飛び出て多いという程ではなかった。

 事前情報(・・・・)を知らされていなければ、の話ではあるが。


「ううん……。これは奴らが暗躍してる、んですかねえ」


 ジョーディが悩まし気な声を上げているが、詳しい情報を知らされていないイーナはハテナ顔を浮かべている。


「とりあえずその件は僕の方から上に伝えておくよ、ご苦労さま。業務に戻っていいよ」


「はーい」


 ジョーディとは対照的に、何も悩みなどなさそうな能天気な声で返事して、部屋をさっさと退出していくイーナ。

 ここはギルドの事務や裏方作業を行う部屋で、ジョーディ以外にも幾人かが書類を相手に書き物をしたり、整理をしたりしている。


「ちょっとギルマスの所へいってくるよ」


 いちいち伝える必要もないのだが、ジョーディは周りの人にそう告げるとギルマスのいる執務室へと移動する。

 ジョーディは事務室から近い場所にある執務室の扉の前に立つと、きちんと(・・・・)ノックをして相手の返事を待ってから中へと入った。



「ん、ジョーディ君か。君もどうだね?」


 《ジャガー村》ギルド支部のギルドマスターであるナイルズは、丁度休憩時間だったのか、ソファーに座りながら焼き菓子を食べていた。

 近くのテーブルには湯気を立てたお茶も見受けられる。


「あ、えっと……。では、私も頂きます」


 そう言ってナイルズの対面に腰を下ろすと、木皿に盛られた焼き菓子を一つ口へと放り込む。


「……っ! これは中々美味しいですね」


 砂糖は貴重品なので、この焼き菓子も塩がベースになっているのだが、素人が作ったものとは到底思えない美味しさをジョーディは感じていた。


「そうだろう、そうだろう。これは君もよく知るホージョー君から頂いた物なのだよ」


「え、ホージョーさんですか」


 最近は彼らともろくに会わない日々が続いていた。

 冒険者とギルド職員なら接点はありそうなものだが、今ではジョーディも先ほどのような事務室や資料室での仕事が多く、冒険者と直に接する本館での仕事が回ってこない。


「元気でやってるんですかねえ……」


 彼らとは村に現れたほぼ最初の頃からの付き合いだし、《鉱山都市グリーク》まで共に旅もしている。

 ジョーディが脳裏に彼らのことを浮かべていると、


「うむ。相変わらず順調すぎる位に成長を続けているね。あれならそうそうダンジョンで後れを取ることもあるまい」


 ナイルズがジョーディに現況を説明してくれた。

 その説明を聞いて安心した様子のジョーディに、今度はナイルズが問いかけてきた。


「ところで、ここへは何の用で来たのかね?」


「あ! 忘れてました。えっと、未帰還の冒険者についてなんですが……」


 そう言って、ここ最近で帰還が確認できていない冒険者のことを報告するジョーディ。

 ギルドがダンジョンの情報を公開し、外部から冒険者がやってくるようになってからは、領主が派遣した衛視がダンジョンの入口を見張るようになっている。


 今では入り口近くに小さな衛視小屋も建てられ、冒険者がダンジョンに入る際には、滞在予定日数やパーティー名などを告げてから中に入ることになっている。

 今のところ入場料などはなく、ダンジョンを管理する為と、中から魔物が出てきたときの対処の為の配備だ。


「ふうむ。この数字だけでは判別は難しい所だね。全滅パーティーが多いというのは気がかりではあるが……」


 今のところ、ギルドからも領主サイドからも指名手配されている『流血の戦斧』の面々が、ダンジョン入り口を通過したという報告はない。

 もし奴らがダンジョンで凶行を繰り返していたとすると、かなり長いことダンジョンに潜っているということになる。


 ダンジョン内でも食料や水の確保はできないことはないが、魔物のうろつく場所で長時間生活するのは何かと大変だ。

 そのため、今回の件も未だに判別ができないでいた。


「念のため入り口周辺の調査を行っておくか……」


 ダンジョンを構成する床や壁などは、掘削可能な箇所もあるし、尋常じゃなく丈夫で破壊不能な箇所もある。

 しかし、ダンジョンの入り口付近の、ダンジョンと地上の境目付近であれば、横穴とか地下から穴を掘って繋げることは可能かもしれない。


「未帰還者の件については了解した。こちらでも調査を行ってみるとしよう」


「分かりました。では僕はこれで……」


 そう言ってジョーディは執務室を後にした。


 それからギルド主体によるダンジョン入り口周辺の調査が行われたが、隠し通路などの類は発見されなかった。

 また、未帰還の冒険者の数がうなぎ上りに増えたということもなく、一先ずは注意警戒を促しつつ、様子を見守ることになるのだった。




▽△▽△




「ううん、少しは事態が解決できればいいけど……」


 執務室を辞したジョーディは、未完成ながら活気の溢れる通りを歩きながら、独り言ちる。

 信也や北条などもダンジョンに潜って活動しているので、その辺がどうしても気になってしまうジョーディ。


 ジョーディがそうして俯きがちに道を歩いていくと、やがて目的地であるイドオン教会に到着した。

 現在《ジャガー村》では様々な建物が日に日に建築されているが、宗教関連の施設でいえば、転職を行うためのジリマドーナ教会の神殿。

 それから大陸最大規模のゼラムレット教会に、迷宮神を奉じるガルバンゴス教会に次いで、四番目に建物が完成したのがこのイドオン教会だ。


 ジョーディは先ほどまで考えていたことを一旦端にやり、教会の内部へと入っていく。

 内部は他の教会に比べて小ぢんまりとした印象は拭えないが、魔法を司る神イドオンの教会だからなのか、魔法道具による照明が設置されていて、それなりに内装に金はかかっていそうだ。



「すいません。私は冒険者ギルドの職員のジョーディと申しますが、教会長はどちらでしょうか?」


 ジョーディは、長椅子の付近で掃除をしていた神官見習いに話しかける。

 すでに今日訪れることは前もって知らせており、相手もすぐに理解したようで、一旦作業を中断して呼びにいってくれた。


 ジョーディがイドオン教会にまでやってきたのは、ギルドと教会との提携について話し合うためだ。

 イドオン教会としては、研究材料となるダンジョン産の魔法道具や、魔石などを融通してもらいたいと思っている。

 逆にギルド側としては、冒険者の職能の中でも数の少ないヒーラーを増やしたいと思っているし、何事かあった時の為に"神聖魔法"の使い手を融通してもらえたらなと考えていた。


 これは他の教会にも同様の話し合いはしているのだが、変わり者の多いイドオンの神官ならば、ダンジョン探索にも付き合ってもらえるのでは、と密かに期待されていた。


「おお……。これはこれは、よくぞきなすった」


 やがて、奥の扉から先ほどの神官見習いと共に、高齢の白い豊かなヒゲを蓄えた男性が歩いてくるなり、そう挨拶を述べてきた。


「いいえ、こちらこそ。お忙しいところを申し訳ありません」


 互いに社交辞令から入った後は、まずは応接室へと移動して世間話から入っていく。


「見ての通り、建物も内装もまだまだで、ろくにお構いできぬが……」


 そう言いつつ、お湯を生み出す魔法道具を使い、自らお茶を淹れる教会長。


「いやいや、そのお湯を生み出す魔法道具といい、内装に使われた照明といい、流石はイドオン教会だと感服してますよ」


 ジョーディのその言葉はお世辞だけではなく、本心からそう思ってのものだった。

 それが相手にも伝わったのだろう。朗らかな笑みを浮かべながら、教会長が話してくる。


「ホホホッ。ここにあるのは《鉱山都市グリーク》から出向いてきた司祭様から、当教会へと譲り受けたものでしてな。ワシらにとっては、ある種こうした魔法道具も信仰の対象なのだよ」


 話によると、まだイドオン教会のイの字もなかった二週間ほど前に、《鉱山都市グリーク》からお供を連れて司祭がやってきたらしい。

 そして瞬く間に敷地などを確保すると、共に連れてきていた職人に早速工事を始めさせた。


 資材に関しても最低限の分は一緒に輸送されており、建造は急ピッチに進んだ。

 そうして他の教会に比べて小規模ではあるが、《ジャガー村》のイドオン教会が無事完成した。

 教会長は、その最初に司祭が村に訪れた時に、一緒に村にきたお供の一人だったらしい。


 そういった世間話を交えつつ、二人は本題へと入っていく。

 今日の話し合いですべてを決める訳ではなく、おおまかな枠組みを決めていく程度のものだったので、話し合いは一時間ほどで終わった。



「それでは、また後日お話を詰めに参ります」


 そう言って教会を辞したジョーディは、ギルドへと戻る道の途中で、久々に信也らと再会するのであった。





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