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第152話 サルカディア


「サルカディア?」


「ああ。そうだ。君たちが発見したダンジョンは、近くにある泉の名前からとって《サルカディア》という名前が付けられた」


 ナイルズの口からダンジョンが一般公開されたという情報と共に、ダンジョンの名前についても語られることになった。

 ダンジョンの名前については細かい規定などはなく、発見者がこの名前を付けたいといえばその名前になるし、そういった指定がなければギルド側で適当に名付けられる。


「それで先ほども言ったように、告知に先駆けて大規模な部隊がすでにこの村に向かって移動中だ。中には君たち冒険者にとって大きく関係のある話もあるので、まずはそのことを伝えておこう」


 そう言いながら、受付エリアの脇にあるテーブルと椅子が並ぶ場所まで移動するナイルズ。

 そして徐に椅子に腰かけると、北条達にもハンドサインで椅子に座るように伝えてくる。


「まずは我々冒険者ギルドに関係することなのだが、多数の人材や物資と共に、要請していた『鑑定士』も到着する」


「『鑑定士』、ですか?」


 ナイルズの配慮に従って、椅子に腰かけようとしていた信也が疑問の声を上げる。


「うむ、ダンジョンの宝箱などから発見した品物を鑑定してくれる者だ」


 ナイルズのその言葉を聞いて龍之介が過敏に反応する。……その裏に隠れて咲良も『鑑定』という言葉には反応していた。


「鑑定スキル持ちがくるのか? ジョーディの話だと数はそんなに多くないって聞いてたけど……」


 大分食い気味にナイルズに尋ねる龍之介に、ナイルズも少し驚いているようだ。


「その通りだよ。確かに鑑定系のスキルを持っている者は少なくて、ギルドで確保している人材の中にも該当者はいない」


 ダンジョンがすぐ傍にある冒険者ギルドならば、自前で鑑定士を確保している所もあるだろうが、なんせ《サルカディア》は発見されたてのダンジョンだ。

 元々グリークが辺境の地ということもあって、ギルドとしても希少な鑑定系スキルの使い手は存在していなかった。


「だが、今回は提携をしているメッサーナ商会から派遣されることが決まってね……。確か、"装備鑑定"に"魔法道具鑑定"。それから"薬鑑定"持ちだったかな。いやあ、優秀だねぇ。これら全てを一人で取得しているらしいよ」


 鑑定系スキルというものは、実はその手の専門家の間ではそこそこ取得している人が存在しているスキルだ。

 武器屋なら"装備鑑定"や"武器鑑定"、雑貨屋なら"雑貨鑑定"などを覚えることがある。

 しかし、門外の鑑定スキルを得るには努力と才能、それに環境が必要になってくる。


 そしてこれらのスキルは"物"に対して効果のある鑑定スキルで、"人"に対しては効果がない。

 "人"に対して効果のある"人物鑑定"などのスキルは、物系の鑑定スキルに比べて更に保有者が少ない。

 そして、こうした複数の鑑定スキルを統合した、そのものズバリの"鑑定"というスキルも存在しているのだが、こちらになるとそれこそ何百、何千万人にひとりというクラスの希少スキルになる。



 鑑定について並々ならぬ興味を持っていた龍之介は、その辺りの情報をナイルズから聞くと安心したようだった。

 そもそもジョーディから鑑定スキル持ちは少ない、としか聞いていなかった。

 未だにメンバーにも初期スキルを隠している龍之介としては、人物に対する鑑定スキル持ちは極めて稀と聞いて、胸を撫でおろす。



「それでだね。その鑑定士たちが到達すれば、有料にはなるが鑑定してもらうこともできるし、本格的にドロップの買い取りも可能になるだろう」



 実は今まで北条達がダンジョンに潜って得たドロップ品の多くは、死蔵された状態だった。

 買い取るための資金や、保管するための設備。

 それからグリークへの輸送のことも考えると、本格的な買い取りができなかったのだ。


 他にもダンジョン内部の宝箱などから幾つかアイテムも入手しており、使い道のあるアイテムに関してはそれぞれのパーティーごとに分配していた。

 最初の方に手に入れた謎の植物の種も、今では『女寮』の近くで芽を出している。


 しかし、使い道のないようなものや、アイテムの効果が分からないものに関しても死蔵されたままの状態だった。

 これらのアイテムの処分などが出来れば、北条達としても非常にありがたいことだ。


「これでようやくまとまった金が手に入りそうだな」


「『龍之介御殿』がようやく見え始めたぜい」


「フンッ! まだそんな大した金額にはならないでしょ」


「それはどうかなあ? いやぁー、この間の魔物罠部屋はちょっちきつかったけど、良いもの(・・・・)も手にはいったからなあ?」


 そう言って、龍之介がこれ見よがしに右腕部に身に着けていたガントレットを見せつける。

 だが実はこの腕当てが正確にどういった効能があるかは分かっていない。

 魔力の込められた品であることは間違いなくて、使用者の龍之介によると「なんか動きやすくなった気がする」ということなので、敏捷を上げる効果があるのかもしれない。



「ウォホン、続きをいいかね? 今回の大規模な部隊の中には、鑑定士の他にも冒険者にとって重要な設備が含まれている」


「設備……ですか?」


「そうだ。今現在、一部が完成しているジリマドーナ神殿が建造中なのは知っているかね? あそこに設置する予定の転職碑(グラリスクストーン)も、一緒に輸送されてきているそうだ」


「それはいいわね。《鉱山都市グリーク》まで何日もかけて移動しなくて済むわ」


「ってか、あれって持ち運びとかできんのかー」


 今後のことも考えると、この村は大いに発展していくことは間違いないだろう。

 それは『ロディニア王国』内に存在するいくつかの迷宮都市の例を見ても明らかだ。

 しかも、ダンジョンの規模が最大規模ということが明らかになれば、国外から訪れる人も増えていくだろう。

 その際にすぐ最寄りに転職できる場所があるとないとでは、利便性も大きく変わってくる。


「それっていつ頃到着するんっすか?」


「ふうむ、そうだねえ。数日前に出立したと報せがあったから、あと何日かすれば到着するのではないかな」


 旅人が徒歩で移動した場合、おおよそ五日ほどの行程となるグリーク~ジャガー間だが、荷物や人数が大掛かりになればその分足も大分鈍る。

 とはいえ勾配がきついとか、魔物がよく出るなどといった難所はないので、そこまで時間はかからないだろう。


「そうなると、少し予定を変更してもいいかもなぁ」


「そうね。少しダンジョン探索をお休みにするのもありかも」


「えーっ! リーダー、うちらはどーすんだ? 元々の予定なら一、二日休んだらまた潜るハズだったけど……」


 北条と陽子の話を聞いて、ダンジョンに潜りたくて仕方ない龍之介が慌て気味に信也に問う。


「む、そうだなあ……」


「お前達も同じように待機した方がいいと思うぞぉ」


 悩む信也に北条の意見が飛んでくる。


「なんでだよ、北条のオッサン」


「……今回の探索の帰り際、転移部屋で『流血の戦斧』の連中とすれ違ったぁ」


 訝しむ龍之介に対し、北条の明示した答えを聞いてさしもの龍之介も「うっ……」と黙り込む。


「奴らがまだこの辺りをウロウロしているとなると……、困ったことになりそうだね」


 厳めしい顔をしてナイルズが発言したように、すでにギルドから外れて無軌道になっている無法者たち、それもCランク相当の連中(流血の戦斧)がダンジョンに出入りしている。

 これは今後、無数の冒険者がダンジョンに赴くにあたって低階層の魔物以上の脅威となることは間違いない。


 《鉱山都市グリーク》にはCランク以上の冒険者も在籍しているが、数としてはDランク以下のほうが圧倒的に多い。

 このことは流血の連中もかつて《鉱山都市グリーク》を根城にしていた以上、把握しているハズだ。

 となると、外部から高ランクの冒険者がやってくる前に、ダンジョン内で暗躍する可能性が出てくる。


「ま、そういう訳で、俺ぁ先に転職を済ませて少しでも能力を上げてから、再びダンジョンに挑もうかと思っているぅ」


「なるほど、な」


 信也も北条の意見には賛成のようだ。

 ダンジョン行きを押してた龍之介も、『流血の戦斧』の話が出てくると、これ以上押すことも出来ない。


「この間に各自やれることはやっておくかぁ。ルカナルん所に鉱石を卸しにいって、ついでに何か製作を頼んでもいいなぁ」


 現在、北条達が探索している鉱山エリアでは、魔物がドロップとして鉱石を落とすことがある。

 今までも、そうした鉱石を鍛冶士のルカナルに経費と共に渡し、金属のインゴットへと製錬してもらっていた。

 製錬した金属はかさばるのでそのままルカナルに預けてあるのだが、その金属も徐々に溜まって来たので、それで何かを作ってもらうのもアリだ。


「装備といえば、鑑定士の人がくれば今まで効果のよくわからなかったものも鑑定できるのね。そうなったら、これまで勿体なくて使ってなかった〈ゼラゴダスクロール〉も使えそう……」


 今まで宝箱などから発見してきた魔法の装備のうち、北条の使う炎のハルバード〈サラマンダル〉や、龍之介の使う風の魔剣〈ウィンドソード〉などには強化を施してきたのだが、まだ効果がよく分からない装備は未強化のままだ。

 スクロールの方はまだ余分があるので、これを機に装備の更新が捗ることだろう。




 それからもナイルズを交え、ダンジョンのことから雑多なことまで雑談は続けられた。

 いい感じに時間も過ぎ、そろそろお暇しようかという頃合いになって、陽子がナイルズにひとつ尋ねた。


「あの、猿の魔物のことを教えて欲しいんだけど……」






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