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第141話 水浴び


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「道はこの道で合っているのか?」


「はい、村人から確認したので間違いないハズです」


「そうか……。大分先のことになりそうだが、道の整備も進めていった方が良さそうだな」


 春も中旬といった季節となり、昆虫や動物たちの活動も徐々に活発化しているようで、森のそこかしこからそういった虫たちの鳴き声が微かに聞こえてくる。

 時折森の木々を抜けてくる爽やかな風は、それを浴びるものに心地よさを与えてくれた。


 しかし、整備されていない獣道のような道を歩いている彼女達は、いまいちその爽やかな風を実感することが出来なかった。

 だがそれも仕方ないことだろう。

 森の中を往く四人の女性達の内、二人は金属鎧で、一人はチェインメイルを身に着けていたのだ。


 ただ金属鎧といっても、彼女たちの身に着ける金属鎧は全体的に装甲が薄めだ。

 代わりに、人体の急所部分は厚めに作られており、防御力に関しては通常の革製のものとは段違いになる。


 それと、彼女たちの防具はいわゆる全身を覆うフルプレートタイプではなく、重量軽減のために部分的に装甲が外れている。

 それでも総重量で軽く十キロを超える金属鎧を身に着けての移動は、なかなかに体力を消耗する。


 ……ハズなのだが、彼女達は整備されてない森の中を一時間以上歩いているというのに、そこまで疲れているようには見えなかった。

 それだけレベルアップの恩恵は大きいということだろう。



「あそこにある、少し小高くなっている所まで移動したら、軽く休憩を挟もう」


「アウラ様。それでしたら、この近くに休憩するのに丁度良い場所があるようです」


「む、そうか。ではそちらで休息としよう」


 《マグワイアの森》を進む女性達の正体は、つい先日《鉱山都市グリーク》からやってきた領主の娘である、アウラ・グリークとその従者達だった。

 今は実際に発見されたダンジョンを査察する為、《ジャガー村》からダンジョンへと移動の最中だった。


 ダンジョンへと向かう理由は他にもあって、村の外れに築かれていた防壁の作成者に出会えるかもしれないという理由もあった。

 昨日偶然にもギルド仮支部で出会った仲間の冒険者の話によると、問題が発生していなければそろそろダンジョンから戻ってくるという話だ。

 タイミングが合えば途中ですれ違うことがあるかもしれない。


「あ、そこの少し開けた所を右に曲がってすぐだそうです」


 ひとりだけ革鎧を身に着けた軽装の女性は、そう説明しながら先を進む。

 体格は女性にしても小柄で、一行の中でも一番背が小さい。

 しかしながら、そんな小柄な体格でありながら胸のサイズだけは四人の中で一番大きく、身に着けている革鎧も特注サイズで通常より予算が嵩んだ。


「ふぅ……。この程度の移動では問題ないが、カレンを見てると冒険者の間で金属鎧より革鎧がよく使われる理由も分かるな」


 そう言ってアウラと同じ金属鎧を身に着けた女性が、カレンと呼んでいた革鎧の小柄な女性を見た。


「そんなこと言ってぇ。ほんとぉは大分疲れてるんじゃないのぉ? マディちゃん」


「なっ、私はそんなヤワな鍛え方はしていない! それと、その呼び方は止めてって言ってるでしょ!」


「だってぇ、マディちゃんはマディちゃんでしょお?」


「私達は、もう子供の頃にふたりで遊んでた頃とは違うのよ! ……じゃなくて、違うのだ! 私にはマデリーネという名前がちゃんと……って聞いてるの!? アリッサ!」


 アリッサと呼ばれた女性はチェインメイルを身に着けており、金属鎧のアウラやマデリーネよりは身軽だ。

 チェインメイルは、金属をリング状にして編み込んだような構造のものが一般的で、金属板を成形して作るようなものと比べて若干の通気性がある。

 今も森の隙間を抜けてきた風が、起伏の少ないアリッサの胸部に微かに届いた。


「あ、マディちゃん見てみて! あれが休憩場所じゃなぁい?」


 先ほどの言葉を聞いていないかのようなアリッサの様子に、眉間をヒクヒクとさせながら指で押さえるマデリーネ。

 毎度のこととはいえ、天真爛漫というかマイペースな幼馴染の言動には未だに振り回され続けている。



「ほお、これは中々良さそうだな」


 アウラの言葉にマデリーネが視線を動かすと、数メートル先にはそこそこの広さの泉が湧いていた。

 深さも深い所では一メートル近くはあり、水浴びをするにはピッタリと言える。


「わぁい。すっずしそぉ!」


 そう言うなり身に着けていた装備をポンポンッと外していくアリッサ。

 アリッサのチェインメイルは本格的な金属鎧ではないが、本来装備を外すにはそれなりに時間が必要だ。

 しかし、取り分け急所のガードと身に着けやすさを重視して作られたアリッサの特注の鎧は、本人の慣れもあって一人でも着脱が可能であった。


 そうして一足早く素っ裸になると、アリッサは泉へと元気よく飛び込んでいく。


「ちょ、アリッサ!」


 そんな幼馴染の様子を見てつい声を荒げるマデリーネ。


「まあ、いいではないか。疲れはそれほどではないが、汗はかいていたから丁度良い。どれ、私が鎧を外すのを手伝ってやろう」


「え、いえ。その、あ……。で、ではお願い致します」


 僅かに顔を赤らめつつマデリーネはその身をアウラへと任せた。

 本格的な金属鎧ほどではないが、重い金属の鎧をひとりで全て外すには相当骨が折れる。

 どぎまぎしているマデリーネの装備を外しているアウラは、更にカレンによって器用にアウラ自身の装備も剥がされていく。

 そして二人の装備が全て外されると、


「では私はここで見張りをしております。どうぞごゆっくり水浴びなさってください」


 そう言ってカレンは荷物を一か所にまとめて水辺で待機し始める。


「うむ、すまぬな。では頼んだぞ」


 そう口にしたアウラは、生まれたままの姿になると泉へと向かう。

 幼いころより立派な騎士となるべく鍛錬し続けてきたその肢体は、見事なプロポーションをしており、四人の中では一番スタイルが良い。

 胸のサイズは少し控えめだが、くびれた腰とすらっとした長身はまるでモデルのようだ。


「マディちゃん、どしたのぉ?」


 まるで戦女神の如く神々しいアウラの裸体にぼーっと見とれていたマデリーネは、アリッサの問いかけにハッと我に返る。


「い、いや。なんでもない!」


「ええぇ? でもマディちゃん、顔が真っ赤だよぉ?」


 二人が話しをしていると、アウラも話に割り込んでくる。


「どれどれ? ……確かに大分顔が赤いようだな。幸いここの水は冷たくて心地よいから、頭まで浸かるのもいいかもしれんな」


 アウラに間近で顔を覗き込まれたことで更に顔を赤くするマデリーネ。

 慌てたように、平泳ぎのような泳法で木々で遮られた泉の奥の方へと泳いでいく。



「ううん、アウラ様の従士たる私がこれしきで取り乱してはイカン」


 泉を泳いでアウラから距離を取ったマデリーネは、赤くなった顔を冷やすように顔にパシャパシャと水を掛ける。

 火照った頬に当たる泉の水は程よい冷たさで、茹ったようになっていたマデリーネの頭も心地よく冷却してくれた。


「ふぅ、にしても火照った体にはこの場所は丁度いい」


 更にマデリーネは頭ごと泉の中に潜らせ、汗で湿っていた髪を水に漬ける。

 セミロングまで伸ばしたダークブロンドのマデリーネの髪は、木漏れ日を浴びてキラキラと輝く。


 と、その時だった。


 水浴びをするマデリーネの近くの茂みから微かな物音が響いたのは。

 魔物かっ! と慌てて泉の中から頭を出し、身構えたマデリーネの前に現れたのは、魔物ではなく一人の男だった。


 見た感じ冒険者といった装いをした中年の男は、マデリーネを見て固まったように動きを止める。

 マデリーネの方も驚きの余り声を上げることもなく、男を観察するように上から視線を動かしていき、やがてある一点で視線がとどまる。


「き……」


「き……?」


「きゃああああああああああぁぁ!!」


 意外と可愛い叫び声を上げたマデリーネは、ようやく体が動いたといった様子で両手で胸を隠す。


「マデリーネ!?」


「マディちゃん?」


 少し離れた場所からアウラとアリッサの声が聞こえてくる。

 そして十秒か二十秒もしないうちに、槍だけを構えたアウラと剣だけを携えたアリッサが、泳ぐのではなく強引に水をかき分けてマデリーネのもとまでやってきた。


「これはっ……曲者か!?」


 マデリーネから話を聞く前に、現場状況から事態を推測したアウラは、全裸で男に立ち向かうことに怯みもせず、水をかき分けながら男へと槍を突き出す。

 まだ状況も完全に掴めていないので、狙いは足や手などの致命傷にならない部位だ。


「おわっとぉ」


 しかし、アウラの突きは男にヒラリと躱されてしまう。

 幾ら水中を移動して動きが鈍かったとはいえ、Dランク冒険者に匹敵するアウラの攻撃を避けるということは只者ではない。


「気を付けろっ、なかなかの使い手だ!」


「はぁい! いっくよぉ。"インパクトスラッシュ"」


 何も考えていないのか、あくまで命を奪わないような攻撃をしていたアウラと違い、男の右手側から近寄ってぶっぱなしたアリッサの闘技スキルは、まともに食らったら一発であの世行きのレベルのものだ。


「お、おおぉ?」


 だが間抜けな声を上げながらも、アリッサの一撃を男は咄嗟に背から取り出したハルバードで見事に受け止めている。

 続いて、泉の外縁部分を走ってきたカレンが、男の持つハルバードの間合いより更に踏み込んで男に近づく。

 その両手は何も持っておらず、殴りかかってくるような動きを見せていた。


「……ッ!」


 しかし、カレンの両手の動きは、途中で殴りかかるようなモーションから切りつけるようなモーションへと変化していく。

 その動きに合わせるように、男はハルバードの石突と柄の部分を使い、器用にカレンの両手を強く打ち付けると、カキィンという金属質な音が鳴り響いた。

 見れば、近くの地面には叩きつけられた(・・・・・・・)二本の短剣が突如姿を現していた。


「――我が水の槍は全てを貫かん。【ウォータージャベリン】」


 カレンを除いた全裸の女性達による激しい連続攻撃はまだまだ続くようで、ようやく行動を再開したマデリーネも"水魔法"で攻撃をしかける。

 その息の合ったコンビネーションは日ごろの訓練の賜物だろう。だが初級"水魔法"の中では威力が高いとされる【ウォータージャベリン】も、


「うぬぬ…………。【土壁】」


 男が咄嗟に唱えた"土魔法"によって完全に防がれてしまう。

 一連の攻撃をことごとく防がれてしまったアウラ達は、魔法まで使用してくる――それもかなりの腕前と思われる――男を前に、一旦距離を取って陣形を整え始めた。

 そこでようやく口を挟む好機と見たのか、男がアウラ達へと話しかける。


「ちょおおっと待ったぁ。俺ぁ敵対するつもりはないぞぉ」


 男の言葉を聞き、思わず周囲の者と目配せしたアウラは、


「……よし。では話を聞かせてもらおうか」


 アウラ達は未だ武器を身構えたままだが、とりあえず戦闘は一時中断されることとなった。







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