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第140話 マンジュウの進化


「わふっわふっ!」


 先ほどまでの苦しそうな様子が嘘のように、マンジュウは芽衣に精一杯じゃれついていた。

 その元気な姿に胸を撫でおろした芽衣だったが、全力でかまってかまってと迫ってくるマンジュウには少し辟易とした様子だ。


 それも今のマンジュウの姿を見れば仕方ないと言えるだろう。

 元々中型犬より少し大きい程度だったマンジュウは、レベルアップによって若干だが成長していた。

 しかし、今のマンジュウは大型犬レベルにまで大きくなっていて、元々小柄な後衛職である芽衣では支えきれそうにない。



 このマンジュウの突然の変化は、あの発光と同時に発生した。

 光に包まれたマンジュウの体が徐々に変化していき、体格が今の大きさにまで成長。

 更に、グレーがメインで所々に白い毛が生えていたマンジュウの体毛だが、所々に雷模様の金毛に生え変わっていた。


 最初はその変化にみんな驚いていたのだが、契約によってマンジュウと繋がっている芽衣は、即座にマンジュウに何が起こったのかを理解することができたようで、


「あ、なんかさんだーうるふ? っていうのになったみたいです~」


 と、ほわわんとした口調でマンジュウの身に何が起こったのかを説明した。


「つまりは『進化』したってことかぁ」


 北条の言う通り、マンジュウは森牙狼フォレストファングウルフからサンダーウルフへと進化していた。

 以前ナイルズが言っていた『シャドウウルフ』とは別種にはなるが、サンダーウルフは同じ属性種系統の特殊進化だ。

 冒険者ギルドの区分ではサンダーウルフはEランクに設定されている魔物になる。


 Fランクを飛び越してのEランク、それも芽衣の"従属強化"のスキルで強化も出来るし、レベルアップで更に強くもなれる。

 甘えた声を出しながら芽衣の顔を嘗め回している様子からは想像しにくいが、これからは立派に戦力のひとつとして数えることが出来るようになった。



「へぇ、さっきのストーンイーターを倒してレベルが上がったことで進化したのかしら」


「まー、そんな所だろうなぁ。進化先がサンダーウルフっていうのは……やっぱ飼い主(・・・)の影響かぁ」


 陽子と北条がそのようなことを話してると、由里香が疑問を口にする。


「それで芽衣ちゃん。マンジュウは具体的にどこら辺が変わったのー?」


「……ん~と、今はまだ使えないみたいだけど、その内私と同じような"雷魔法"が使えるようになるみたい~。あとは~、らいてん? っていうのが使えるって~」


 由里香の疑問に少し間を空けた後に答える芽衣。

 はっきりとした言葉による意思の疎通はできないようだが、おおざっぱなイメージによる意思伝達は出来るらしい。


「らいてん? わぁ、ちょっとみてみたい!」


「わふぅ? ワウワウッ!」


 マンジュウは言葉を話すことはできないが、どうもこちらの言っていることはある程度理解できるようだ。

 芽衣が仲介する必要もなく、由里香の言葉に答えるようにマンジュウが特殊スキルである"雷纏(・・)"を披露する。


 マンジュウがスキル発動すると同時に、マンジュウの体を電気が覆うようにジジジッといった音を立て始めた。


「ほおぅ、どれどれ……」


 何を考えているのか、北条は雷を纏っているマンジュウに近寄ってその体を撫でようとする。

 ゆっくりと近づく手がマンジュウに近づいた瞬間、バチバチッっという電気が流れたような音がしたが、北条は気にせずそのままマンジュウを撫で始める。


「どおれ、どれ」


 相変わらず電気の流れる痛々しい音が鳴り響いているが、まるで堪えていない様子の北条。

 しばらくすると、纏っていた雷を全て放出してしまったのか、マンジュウを覆っていた雷がきれいさっぱり消えてしまった。


「北条さん、痛くないんですか?」


「痛くないことはないがぁ、これ位なら大丈夫だぁ。ただお前たちは真似しては――」


「マンジュウ」


 北条が注意を呼び掛けるより前に、芽衣がマンジュウに呼び掛けて再び"雷纏"を使用させる。

 そして躊躇うことなく、芽衣はマンジュウに触れようと手を近づける。


「キャアッ!」


 しかし北条のようにそのままマンジュウに触れることはできず、痛みの余り反射的に手を放してしまう。

 マンジュウは慌てた様子でスキルを解除し、芽衣の手をペロペロと舐め始めた。


「う~、いたたたあ~。"雷の友"のスキル効果で軽減されてるはずなんだけど~、それでも痛いね~」


「――という訳だから、無暗に電気に触れてはいかんぞぉ」


 真っ先に触りにいった人が言うセリフではないが、確かに大分威力はありそうだし、わざわざ触れる必要はないだろう。


「ていうか、さっきはホントによくピンピンとしてられたわね」


「あぁ……。強力な電気なら生まれた時から浴びてたぜ、家庭の事情でなぁ。だから電流は効かない」


「はいはい……」


 どっかで聞いたようなセリフをのたまう北条を受け流す陽子。

 陽子は先ほどビリビリ状態のマンジュウに触れていた北条が、微かに口元を苦しそうに歪めていたのをしっかりと見ていた。


「それよりもう迷宮碑(ガルストーン)は見つけてあるんだし、進化したマンジュウを試したら戻るわよ」


 陽子の言う通り、すでに北条達はこの十六階層で迷宮碑(ガルストーン)を発見していた。

 というより、大抵の迷宮碑(ガルストーン)は階層の入り口、つまり階段を下りてすぐの所に設置されている。

 ちなみに迷宮碑(ガルストーン)はすべてのフロアに設置されている訳ではなく、十一階層の次の設置場所がこの十六階層であった。


 先ほどストーンイーターと戦闘していたのは、ちょっとだけ十六階層を探索してから帰ろうという予定を立てていたからだ。

 なので、現在地からそう遠くない場所に迷宮碑(ガルストーン)はある。


 その短い帰り道の最中、ストーンニードルというアースヘッジホッグの上位種のハリネズミ系の魔物が現れたが、そこで新生マンジュウがその強さを遺憾なく発揮してくれた。


 ストーンニードルはストーンイーター同様に表皮が石のように硬く、物理攻撃が通りにくい相手なのだが、雷を纏ったマンジュウが大暴れして次々と屠っていく。

 これまでいまいち力になっていなかったという自覚があるのか、役割を果たせるようになったマンジュウは生き生きとしていた。


 北条に"雷纏"が全く効いていない様子だった時は「くううぅん」と悲し気な鳴き声を上げていたマンジュウも、すっかりこの戦果に自信を取り戻したようだ。


 それから十分ちょっと歩き続けた北条達は、無事に迷宮碑(ガルストーン)の下に到達。すぐに転移して転移部屋へと飛んだ。

 ダンジョンで注意すべき点である転移部屋だが、相変わらず人気がなく静寂に包まれていた。


 ダンジョンが公開されたら、ここにも多くの冒険者や商機を求めた商人などで多く賑わうのだろうか。

 そんなことを話しながら一行はダンジョンから抜け出した。




▽△▽△




 ダンジョンを脱出して村へと帰還し始めてから二時間ほどが経った頃、先頭を歩いていた北条が他のメンバーへと話しかけた。


「あー、ちょっくら用を足してくるんで先に行っててくれぃ」


「はーい」


 ダンジョンから村へはきっちりした道が通っている訳ではないが、昔から村人が《サルカディアの泉》へと行く際に通っていた道が獣道のように通っている。

 その小道を外れ、少し歩いた所で用を足す北条。


 と、最中の北条の耳に微かな物音が聞こえてきた。

 それは自然が発した音ではなく、明らかに人為的な物音のように思われた。


(まさか……アイツ等か?)


 北条の脳裏に『流血の戦斧』の面々が思い浮かぶ。

 あれからそこそこ日が経過しているが、未だに奴らの行方は分からず終い。

 そのため、北条達や信也達は未だにダンジョンへの移動の時は常に警戒をしていたのだが……。


 表情を引き締めた北条は、そのまま(・・・・)若干体の体勢を低くし、足音を忍ばせるようにして、物音のした方角へソロリソロリと近寄っていく。

 音の発信源に近づくにつれ、それが何らかの水音だということが判明した。


 この《マグワイアの森》には《サルカディアの泉》という、ダンジョン前にある大きな泉が湧いているが、森の各所には他にも小さな泉が湧いている箇所が何か所も存在していた。

 中にはちょっとした旅館の露天風呂より規模の大きい泉もある。


 この水音もそうした水源からだろう、と当たりを付けた北条。

 問題はその水音を立てている者の正体だ。


 まるで「クセになってるんだ」とばかりに足音を殺して歩く北条は、その先でとんでもない(・・・・・・)モノを見かけることになるのだった。







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