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第139話 アウラの勧誘


 ――この防壁を作り上げた者を召し抱えたい。



 アウラが語る本題とは勧誘だった。

 何でも現在グリーク領お抱えの魔術士や、魔術士ギルドの高位の術者でも、これだけの防壁をしかも短期間で作れる者がいるかどうか分からないらしい。


 この世界ではマジックユーザーは広く分布しているが、その使い道としての筆頭が攻撃に関するものだ。

 無論、防壁を作る土壁系などの魔法も軍隊では重宝されてはいるが、攻撃系魔法の開発練度に比べると未だ拙い部分も多い。

 生活に役立つような身近な魔法などは更に後回しだ。


 その為防壁を作る場合、魔法では基礎を作るだけにとどまり、仕上げに工兵がその基礎を補強する形で作るのが基本になっている。

 今回事前にアウラが調べた限りでは、村拡張の工事をしている人足たちは、一切この防壁作りに関与していないことを確認している。

 つまり、これだけのものを魔法だけで作り上げたということになる。


 それだけの人材ともなれば、アウラが新人の冒険者を勧誘したのも頷ける話だ。

 とはいえ、この壁を作り上げた本人はこの場にはいないので、信也はあたりさわりのない返答をすることしかできない。


「ええっと……俺達は遠い異国からこの国まで来たんですが、私達『プラネットアース』の他にもうひとつ、『サムライトラベラーズ』というパーティーを組んでいるんです」


 信也はこの外壁を主に作ったのは、そのもうひとつのパーティーリーダーである北条だと説明をする。

 更に北条と同じパーティーには他に"土魔法"の使い手がいて、拠点作りを手伝っていることも伝えた。


「なるほど……。ではそのホージョーとやらがダンジョンから戻ってきたら話をするとしよう。手間を取らせてしまったな」


 アウラは軽くそう詫びると、別れの挨拶を告げて、再びテントの立ち並ぶ開発拠点の方に去っていった。

 残された信也達四人は、身内だけになってようやく緊張の糸が解けたようで、なんとはなしに互いを見回している。

 やがて、


「北条さん、どう対応するんでしょうか」


 誰に問いかけるともなくメアリーがそっと呟いた。


「まあ……受けることはないと思うが、相手の立場的に断りづらそうではあるな」


「あのオッサンならなんか上手くやりこめそーな感じはすっけどな」


「それは……」


 龍之介の言う通り、のらりくらりと勧誘の手を躱すイメージがほわわんと信也の脳裏に浮かんできた。


「でも、なんであんな偉い人がこの村に来てるのかな?」


「それはやっぱダンジョン関連じゃねーの?」


 慶介の素朴な質問に適当に答える龍之介。

 だが、その答えはほぼ正解だった。

 現在の状況を考えればすぐに思い浮かぶことではあるが、アウラは領主である父の使命を帯びて、この《ジャガー村》まで赴いてきている。


 現在の彼女の身分としては、《ジャガー村》村長の補佐兼護衛の騎士といったところだ。

 アウラは村長と挨拶を交わした時に、まだまだ元気そうだという印象を受けたが、大分年を召しているのでいつどうなるかは分からない。

 もし村長に何かあった場合は、速やかにアウラが次の村長として指名されることになるだろう。



「ううん、この村も段々騒がしくなりそうだな」


 急激な変化を迎えていくことになりそうで、少し不安のようなものを感じた信也の細い声は、遠くから聞こえる大工らの喧噪に紛れて消えていった。




 それからは、信也達はルカナルの下を訪れたり、自主練をしたりして時間を潰し、寮へと帰還した。

 だが先に帰還したはずの石田と長井の姿はなく、石田は夕暮れ時に、長井はすっかり日も暮れた頃にフラリと帰ってきた。


 その後の軽い話し合いでは、長井の主張によって、明日は北条達の帰還を待ちつつ丸一日休息にすることで話がまとまった。

 そして夜が明け、結局その日は北条達が帰還しないまま次の日の朝を迎えたのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ズズズズズッ……


 壁に掛けられた松明がほのかに照らす明かりは、いささか頼りないものではあるが、何日も過ごしていると流石に多少は目も慣れてくる。

 その薄暗さに慣れてきた北条達は、現在鉱山エリアの十六階層まで到達していた。

 相変わらず、周囲の壁などは木の柱や板で補強された坑道のような作りをしている。


「大分近づいてきてるぞぉ!」


 北条の警告を聞くまでもなく、他のメンバーも先ほどから微かに聞こえてくる、地面が振動するような音を幾つか拾っており、すでに戦闘準備は万端だ。

 まもなくして地中からせせり上がってきたのは、巨大なミミズ型の魔物たちだ。数はざっとみた所では数匹いると思われる。


 その姿は八階層から出るようになったマイナーワームという魔物に似ているが、赤みを帯びた茶色い外皮をしているマイナーワームとは異なり、こちらはゴツゴツとした鼠色の岩肌のような外皮を持っている。


 この魔物はストーンイーターというEランクの魔物で、名前の通り石を食べて自身の外皮を強化するという特徴がある。

 マイナーワームと比較すると、全体的な能力が少し強化され、防御力が一段階上がったような魔物だ。

 "土魔法"もマイナーワームに比較すると使用頻度が高い。


「ハッ!」


 全長二メートル程とマイナーワームより一回り大きい巨大ミミズであるが、動きに関しては鈍重とまでは言わないが素早いほうではない。

 そんなストーンイーターをあざ笑うかのように、風のような身軽さで接近した由里香は敵の側面から思いっきりナックルで殴りつける。


 すると、少女が殴ったとは思えない程の衝撃が走り、その巨体を通路の壁まで吹き飛ばす。

 そこにすかさず、咲良の放った【ウォータージャベリン】が命中し、息の根を止める。


 一方、北条は別のストーンイーターに炎の力が宿るハルバード――〈サラマンダル〉と名付けられた自慢の獲物を無造作に一閃する。

 特にスキルを使った訳でもないその一撃は、あっさりとストーンイーターの胴体部を輪切りにした。


 しかし油断することなく北条は更に何回か〈サラマンダル〉を振るい、何度か輪切りにした所でようやく攻撃の手を止める。

 魔物は総じてタフではあるのだが、虫系の魔物には頭部を切り落としても動き続ける個体もいるので、念入りに仕留めることは重要だ。


 戦闘開始から数分後、粗方魔物を倒したと思われた頃、密かに回り込んでいた一匹のストーンイーターが、後衛の芽衣に向かって不意に攻撃を仕掛ける。

 しかし、そこに割り込んでくる影があった。


「アオオオォォン!」


 主人が狙われていることに気づいたマンジュウが、側面から体当たりをぶち当てつつ器用にもそのまま相手の体に牙を立てる。

 体当たりも噛みつきもあまりストーンイーターには効果がなかったが、一先ずは芽衣が直接攻撃を受けるのは避けられた。


 芽衣の近くには後衛組の咲良や陽子も控えていて、周囲には【物理結界】も張られていたのだが、マンジュウとしてはそれでも主人を守りたかったようだ。

 今もストーンイーターに必死で食らいついているが、レベル差の為か牙は奥深くまでめり込むこともなく、ダメージはそれほど入っていない。

 しかし、いい加減うっとうしく感じたのか、ストーンイーターは体を思いっきり捻らせて自身の体をマンジュウごと壁に強く打ち付けた。


「マンジュウッ! このミミズめ~! 【落雷】」


 Eランクの魔物には強烈すぎる、天恵スキル持ちの術者が放つ中級"雷魔法"は、たった一撃でストーンイーターを死に至らせることに成功する。


「マンジュウ、だいじょうぶ?」


 慌ててマンジュウの下に駆け寄る芽衣。そのあとを陽子と咲良も追う。

 芽衣の"従属強化"のスキル効果と、幾つかのレベルアップによって強化されているマンジュウ。

 だがマンジュウの種族である『森牙狼フォレストファングウルフ』は元はGランクの魔物だ。

 流石にEランクの魔物である、ストーンイーターの相手をするには力不足なのは否めない。


「すぐ治すからね。【キュア】」


 咲良の"神聖魔法"の光が薄暗いダンジョン内を明るく照らす。

 時と場合によってはこの目立つ光が敵をおびき寄せることもあるが、幾ら意識してもこの光は消すことが出来ない。

 戦闘を終えた北条や由里香らも周囲の様子を窺いつつ、この光の下へと集まってくる。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」


 咲良の【キュア】を受けたマンジュウだが、未だに荒い息を繰り返しておりどこか苦しそうだ。


「アレ? もう一度いくわね。【キュア】」


 再度、治癒の光がダンジョン内を明るく照らす。

 しかしそれでもマンジュウの様子は変わらずに苦しそうだ。


「ちょ、ちょっと……」


 慌てた咲良は毒を治療する【キュアポイズン】や麻痺を治す【キュアパラライズ】まで使用するも、容体に変化は見られない。

 と、そこへぽわっとしたうっすらとした光が発せられる。


 それは治癒魔法発動時の光とは違い、柔らかでいて陽の光のような生命力を感じられる光だ。

 その不思議な光の発光源は、なんとマンジュウからだった。


「マンジュウ……?」


 近くで心配そうに様子を見守っていた芽衣が、思わず従魔の名を呟く。

 体全体から発光しているマンジュウは、周囲からの心配そうな視線を受けながら、大きな変化を遂げようとしていた。




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