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どこかで見たような異世界物語  作者: PIAS
第七章

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第138話 アウラ・グリーク


▽△▽△▽△▽△▽




「お、もしかして今回は俺達が先か?」


 あれから五日間程ダンジョンの探索をして帰還した信也達は、いつもの拠点予定地に北条達の姿が見当たらないことに気づく。

 先ほどの言葉はその様子を見て口に出た龍之介のセリフだ。


「んー、もしかしたら村の方にいるのかもしれないですけど……」


 そう言うメアリーも半信半疑でいまいち判断はついていないようだ。

 これまでの探索では北条達のパーティーが先に帰還していたので、こういったケースは初めてのことだった。


「別にどこにいようと構わないでしょ。じゃあ、解散ってことで私は戻るわ」


 そう言うなりさっさと村へと戻る長井。

 そのあとには無言のままの石田も続いた。


「アイツらは相っ変わらずっだなー」


 そんな二人の様子を見て思わず愚痴る龍之介。

 数日前ダンジョンに向かう際に、これまで接触をしてなかった北条パーティーの面々に話しかけるという奇行(・・)をしていた長井。

 だが、結局のところ接し方に変化があった訳でもなく、それどころか最近はこちら(ティルリンティ)に飛ばされた直後のような傲慢さが時折みられるようになってきた。


「ううむ、こちらでの生活に順応してきたってことだろうが……」


「オイオイ、しっかりしてくれよ。リーダー(・・・・)さんよお」


 信也としては、あからさまに空気を乱すようなこともされていないので、注意をするのも躊躇われるといった感じだ。

 それと、"ストレス耐性"のスキルのせいか、近頃では長井のああいった和を乱す行動なんかもあまり気にならなくなっていた。

 しかし、龍之介の方は相変わらず長井に対しての態度が変わらないようだ。


「あの! そ、それよりも今日はこれからどうするんですか?」


 慶介が子供なりに少し悪くなった空気を入れ換えようと、話題をひとつ提供する。

 

「んーー、そうだなあ。アイツらがいないと訓練相手も減るし、ルカナルん所でもまた顔出しにいくか?」


 北条が《鉱山都市グリーク》で拾ってきた? 鍛冶士ルカナルは、現在《ジャガー村》で元々鍛冶屋をやっていたダンカンの所で世話になっていた。

 すでに鍛冶士としては見習いを卒業して十分職人レベルになっているルカナルだが、貪欲に知識や技術を高めるためダンカンの内弟子として腕を磨いている。


 とはいっても、"魔法鍛冶"という特殊な鍛冶の方法をダンカンが教えられる訳はなく、通常の鍛冶の技術をルカナルに叩き込んでいた。

 ダンカンは冒険者の国と言われる『ユーラブリカ』の出身で、鍛冶の技術もそこで学んでいたらしく、《鉱山都市グリーク》の鍛冶士とはまた違ったその技術は、ルカナルにとって刺激的だったようだ。


「そうだな……。まあその辺は道々考えるとして、とりあえずギルド仮支部に寄ってから家に戻ろう」


「りょーかーい」


 間延びした返事をした龍之介は、早速とばかりに歩き始める。

 残りの面子もそのあとに続き、ひとまずギルド仮支部のナイルズの下へ向かうことになった。




▽△▽




「…………か!?」 「そういう……」 「…………をッ!」


 信也達が立派ではあるが未だに仮の支部であるテントの前まで来ると、中から何やら話し合いをしている声が聞こえてきた。

 片方は恐らくギルド支部長のナイルズだと思われるが、話し相手の女性の声は聞き覚えのないものだった。


「どうやら客人がいるようだな」


「みてーだな。でも、ま、入る位なら別にいーだろ」


 そう言って気にせずに中へと入っていく龍之介。


「あ、おい……」


 仕方なく信也と残りの二人もそのあとに続く。

 彼らが中に入ると話し合いをしていた二人も入り口にいる信也達の方へと振り返った。

 一人は予想通り、渋いダンディーな声が特徴的な、ギルド支部長のナイルズだ。


 そしてもう一人は、見た感じ二十代のアッシュブラウンの色をしたショートヘアーの女性だ。

 ビキニアーマーなどではない、きちんと防御力のありそうな金属製の鎧を身に着け、背には槍を帯びたその恰好は、女騎士のイメージにピッタリ。

 キリっとしたその表情と、威圧的というのとはまた違うが鋭い眼光を宿すその瞳は、彼女がどういった気性の人物なのかを示しているようだ。


「あー、丁度いい所に来てくれたねえ。アウラ卿、彼らが先ほど話していた冒険者達になります」


「そうか、では後は彼らから直接話を伺うとしよう。……それと、私は現在の所一騎士でしかないので、敬語や尊称は不要だ」


「……分かりました、アウラ様」


 話を一先ず終えて、新たな話し相手を得たアウラと呼ばれていた女性は、入り口付近にいる信也達を軽く見渡す。

 彼女はその眼識でもって、この人物がリーダー的立ち位置であろうと判断した、信也の方へと近づき話しかけた。


「お初にお目にかかる。私の名はアウラ・グリーク。その名が示す通りこのグリーク辺境伯領の領主。アーガス・バルトロン・グリークの娘であるが、今は一介の騎士の身。そこの彼にも伝えたように、無理に敬語で話さずともよい」


 自称『一介の騎士』とはいえ、権力者と濃厚な繋がりを持つ人物が突如現れたことで、龍之介を除く異邦人達に緊張が走る。

 しかし、このまま返事もしないままという訳にもいかず、信也は日本での取引の経験を思い出してアウラに答えることに成功する。


「わ……俺は信也。『プラネットアース』のリーダーをしている」


 そう言って反射的に握手の為に手を出そうとするが、ここでは習慣が異なることを思い出し、慌てたようにこちら風の挨拶を返す信也。

 そんな信也の挨拶にアウラは貴族らしい優美な挨拶を返してきた。


「シンヤ、か。少しお前たちに話があるのだが、構わぬか?」


「は、はい」


 相手の持つ雰囲気のせいか、重要な取引相手との商談の際に表面上は冷静に振舞うことが出来た信也であっても、若干押され気味のようだ。


「では……ここでは少々宜しくない、か。少し場所を移させてもらおう。付いてきてくれ」


 話してる途中で辺りを見回したアウラは、そう言うなりさっさとギルド仮支部のテントをスルっと出て行った。

 思わず互いの顔を見合う信也達だったが、ナイルズの「追わないのかね?」という声に押されるように仮支部を後にする。


「では行こう」


 信也達が出てきたのを確認すると、アウラは再びスタスタと返事も待たず歩き出した。

 辺りはまさに建築ラッシュといった風情で、多くの人の声がそこかしこから聞こえてくるが、アウラの足取りは喧噪を乗り越えてダンジョンのある《マグワイアの森》の方へと進む。

 すると、当然ながら信也達にとってはお馴染みの建築物が近づいてくる。



「話というのはコレ(・・)のことだ」


 ようやく足を止めた彼女が指で示したのは、拠点予定地に築いた外壁部分だった。

 外壁部分の外側には空堀が設けられているが、アウラが立っているのは村側から移動した時の拠点への出入口。拠点西側に設けられた架け橋の辺りだ。


「聞くところによると、この壁を作ったのはお前たちらしいな?」


「はい、その通りです」


「しかも、短期間の間にこれだけのモノを作り上げたと聞いたが」


 アウラの口調は詰問するようなものではなかったが、相手がどういう意図を持っているのかを量れない信也は、短く「はい」とだけ答えて迂闊なことを口にしないよう気を付ける。


「ううむ……」


 信也の短い返事を聞いて何やら考え込むアウラ。

 沈黙が一時顔を覗かせるが、状況的に耐えきれなくなったのか、今度は信也からアウラへと質問が飛んだ。


「えっと……、ここは村長の許可を受けた我々が、居住用として自分達の出来る範囲で基礎工事をしたのです。何か問題がありましたか?」


「いや、そういった訳ではない。ただあまりに……この防壁が素晴らしいので気になったのだ。お前たちはこの辺りの出身なのか?」


「あ、いえ……。遠い異国の出身です」


「なるほど、そうか。では知らぬかもしれんが、私はグリーク家に次女として生まれながらも、騎士をしている変わり者(・・・・)ということで一部有名でな。中でも母より素質を受け継いだ、天恵の"土魔法"は我ながら自信があった(・・・)


 そう過去形で話すアウラは、一見これといった表情を表に出してはいない。

 ただ淡々と話をしているだけだ。

 だからこそ信也はそこにアウラの思いを微かに感じ取った。


「だが、この防壁を見て自分もまだまだなのだな、と痛感させられた。これでも私は中級の"土魔法"も使えるのだが、私にはこれほどの強固な防壁は作れそうにない」


 外壁に対するアウラのやたらと高い評価に、信也達も意外さを感じていた。

 北条が流し作業のように作っていたものが、そこまで評価されるものだとは思っていなかったのだ。


「そんなに凄いのですか?」


 思わず気になってしまったメアリーがアウラに尋ねる。


「ああ、見ていてくれ」


 そう言って、アウラは徐に背中に括り付けていた槍を手に取ったかと思うと、石突の部分で力強く外壁を突く。

 その突きの威力は見ているだけで伝わるほど鋭いものだったが、外壁には一切の凹み跡すら見られない。


「この通りだ。石造の建物にも通用する私の突きでも傷一つ付かん。今の私ではどんなに魔力を練ろうとも、"土魔法"でこれだけの強度のものを作ることは出来ん」


 その声音には、未熟な自分に対する自嘲の念が微かに感じられる。

 きっと自分に厳しい生真面目な性格をしているのだろう。


「そこで本題なのだが……」


 手にしていた槍を再び背に固定したアウラは、ようやく本題を話し始めるのだった。




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