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第137話 コミュニケーション


 長井の言葉通り、信也達がゆっくりダンジョンの出口へと向かっていると、途中で小走りに駆けてきた長井が合流した。

 丁度ダンジョンの外の様子を窺うのに長井のスキルが必要だった所なので、早速"気配感知"で出入口付近をチェックしてもらう。


「……誰かが待ち構えてるってことはないわ」


「それならさっさと村へ帰還するか」


 こうして無事にダンジョンから帰還した信也達は、既に先に村に帰っていた北条達の待つ、拠点予定地へと辿り着く。

 拠点の外壁部分は大分様変わりしており、少し見ない間にすっかり出来上がってきている外壁を見て、信也が驚きの声を上げる。


 やはりこういった建築のイメージは未だ日本で暮らしていた時のイメージが強く、短期間でこれだけのものが出来上がっていくのには違和感があった。


「こんだけガワが出来上がってんなら、後はダンジョンで稼いで家を建ててもらうって感じか!」


 龍之介はそう息巻くが、現在本村との間にある隣の広く空いたスペースでは急ピッチで建物などの建築が始まっている。

 重機など存在しないこの世界だが、代わりに魔法やスキル。魔法道具などを使用しているので、その建築速度はかなりのものだ。

 実際、既に作業員用の簡易的な雑居小屋は完成している。


 とはいえ、まだまだ完成までには程遠く、とてもじゃないが彼らに信也達の住居まで建てている余裕はないし、そもそも今受けている仕事の範囲外だ。

 ただ、第二陣の人員と物資が運ばれてきたようで、この間まで静かだった《ジャガー村》は急激に変化しつつあった。


「まー、各個人の家はともかくとして……。とりあえず、みんなが集まる事務所……本部? のようなものは、外壁の工事が終わったら作る予定だぞぉ」


 北条のイメージとしては中央部に本部を作り、その周囲にそれぞれの家を建てたり施設を作ったり、といったことを考えていた。


「お、いいね! やっぱクランハウスってのがあるとソレっぽいな!」


 MMORPGなどのネットゲームでは、プレイヤー同士が集まってギルドやクランなどといったものを形成し、仲間内でプレイしたりといったことがよく行われている。

 ゲームのシステム的にもそういった団体の拠点として、ギルドハウスだとかホームだとか呼ばれるものが、予め用意されていることがある。

 龍之介が言っているのもそういったもののことだろう。


 そして、そういったものはこの世界に於いても似たようなものは存在していた。

 クランと呼ばれる冒険者たちの集団は、主にダンジョンの最寄りの街を拠点にしていることが多い。

 何故ならダンジョンに潜らない冒険者からすると、クランに加入したり設立したりする利点が薄いからだ。


 基本的にクラン内では情報が共有され、クランごとに独自の自作ダンジョンマップを持っている。

 また、エリアによって得手不得手が存在するので、メンバーを入れ替えることができるクランというのは、ダンジョンを攻略するという点では向いていた。


 信也達もなんだかんだでパーティーふたつ分の人員と、ダンジョンの最寄りの村に拠点まで築き始めているので、他の冒険者からするとクランのひとつとして見られるかもしれない。



「フゥ、その辺は適当に任せるわ。もう解散ってことでいいわね?」


「ああ、そうだな」


 信也の返事を聞いた長井は、さっさと村の方まで歩いていく。 

 石田もそのあとに続いていくが、他の四人はこの場に残ることにしたようだ。


「俺も本来だったら家に帰って休む所だろうが……どうもそんなに疲労を感じないんでな。丁度いいから、作業工程を眺めつつ色々ダンジョンのことなんかについて話そう」


 それからいつもの面子に信也達四人を加えた異邦人達は、別件で一時村の方に移動することもあったが、その後は陽が暮れるまでをこの居住予定地で過ごすのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 《ジャガー村》の近くに広がる《マグワイアの森》。

 名前の由来は《ジャガー村》の住民にも知られていない。

 ただ昔から周辺地域の人々に《マグワイアの森》と呼ばれており、それは《ジャガー村》の村長が今の位置に村を築き始めた頃からそう呼ばれていた。


 そんな森の奥、発見されたダンジョンと村との中間地点にある、木が密集して太陽の光が余り届かない場所。

 そこで二人の人物が何やら話をしていた。


「……ろで、…………は……」


「問題は……。……丁度良い場所を……」


 だが二人の会話は、静かな周囲の森のことを意識してか、ヒソヒソ声で話していたので、何を言っているのか当人たち以外には判然としない。

 雰囲気としては悪くはなく、かといって親しい仲間といった様子でもない。

 十分程二人の静かな話し合いは続き、片方の人物が森の一方を指さすと、二人はその方向へと向かい歩き出した。


 小一時間程歩いた頃だろうか。


 前方に山小屋のようなものが見えてきた。

 周囲を森に囲まれた中、ポツンと一軒だけ建っているその家は、意外と周囲の風景と同化しているようで違和感が余りない。

 丸太で組まれたその家は存外丈夫そうで、《ジャガー村》の農民たちが暮らす家よりはよっぽどグレードが高そうだ。


 先頭を歩いていた人物は徐に山小屋の扉に近づくと、軽く扉を叩きながら何やら言葉を発した。

 すると中から扉が開かれ、二人の人物はその建物内へと入っていく。

 そこには複数の人が屯しており、入って来た二人の人物の内、案内されてきた方の人物を見るや否や騒ぎ出す者もいた。

 しかし、ここまで案内してきた方の人物が一声かけると、騒ぎ出した者もすぐに口を閉ざす。



 それからしばらくの間小屋内では会話が交わされ、時間が経つにつれ刻一刻と話している者達の表情に笑みが浮かぶ場面が増えてくる。

 しかし、それは楽しい時に見せる陽気な笑みではなく、悪だくみを考えている者が浮かべるようなソレ(・・)であった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 翌日の朝。


 信也達異邦人は、朝から支度を整えてダンジョンに向かっていた。

 北条達は前日に休日――といえるか微妙だが――を挟んだので問題はないが、信也達は昨日朝早くダンジョンから帰ってからきちんとした休息を取っていない。


 長井と石田だけは速攻で村に戻っていたので、しっかり休めたかもしれないが、龍之介などは由里香との模擬戦でハッスルしてヘトヘトになっていたのだ。

 しかし、誰も反対する者はおらず、みんな口を揃えて無理はしていないというので、北条達に便乗して一緒にダンジョンに向かうことになっていた。



「……ところでアレ(・・)ってどうやって作ったの?」


 珍しく北条に向けて話しかけた長井は、眼の前に見えてきた拠点予定地の外壁部分を見て素朴な質問をぶつけてくる。


「どうやってって……そりゃー、"土魔法"でだぁ」


 今まで北条からも長井からも、互いに接触なんて取ってこなかったので、長井に話しかけられた北条は不意を突かれたかのような気持ちになる。

 そんな北条の気持ちを他所に「フーン……」と気のない返事を寄越す長井。


「でもアンタって別に魔法系の職業じゃなかったわよね?」


「んん? ああ、まあ俺も良くわからんが『混魔槍士』とかいう奴だぁ。魔法系の職業じゃないと魔法スキルを覚えられないって訳でもないようだがぁ、『混魔槍士』は魔法系に入るのかもなぁ」


「へぇ……」


 再び素っ気ない相槌を返す長井。

 それを聞いて、ますます長井の意図が読めなくなる北条。

 どうしたもんかと珍しく戸惑いを覚える北条が、ふと揺らした視線で龍之介を捉えた時、一つの推理が浮かび上がる。

 それは、自分の住む家を"土魔法"で建てて欲しいのか? というものだ。


 しかし、それっきり長井は口を閉ざしたかと思うと、今度は咲良の下まで向かって何やら話しかけ始めた。


「一体何なんだったんだぁ?」


 思わず北条はそんな感想を口にする。


 そして、次に長井が話しかけた咲良も、これまでにない長井の行動に、やはり戸惑っているようだ。

 喧嘩腰で来られている訳でもないので、無下に追い払うということも出来ずにいるようだ。周囲に「タスケテ……」という視線を送っている。

 しかし、助けはどこからも現れなかった。


 それからも楓や由里香……は露骨にこっちに来るなという態度を見せたので、代わりにとでもいうのか芽衣の方に話しかけていた。


「路線変更でもしたのかしら」


 陽子は思わずそんな言葉を漏らしてしまう。

 その言葉を長井から逃れ、近くに寄ってきていた咲良が受け取っていた。


「今更だけど、みんなと仲良くなろうとしてるんですかね?」


「んー、どうだろう」



 それから数時間後。

 長井の行動以外にこれといった問題はなく、異邦人達は無事にダンジョンへと到着した。





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