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第134話 Fランク昇格


「昇格、ですか? しかし、俺達はまだ冒険者に登録して間もない新人ですよ」


 遠慮がちな信也の言葉に「なあに、君たちなら問題はない」と太鼓判を押すナイルズ。

 中堅ランク辺りになってくるとそう簡単にランクを上げることはできなくなってくるが、低ランクの内はギルド側からの推薦という形で、すぐにランクが引き上げられることが時折あるという。


 元傭兵だとか、元兵士だとかいった変わり者の新人の中には実力がしっかりしている者も多い。

 そうした連中を適正なランクに調整するのもギルドの仕事の内だ。


「で、条件ってのはどんなのだぁ?」


「フム、そうだねえ。君たちはそれぞれパーティーを率いているんだったね。ならば、パーティーひと組につきダンジョン産のFランクの魔石を百個、もしくはEランクの魔石を五個提示してもらおうかね」


「提示? 渡さなくてもいいということか?」


 会話の途中、信也が気になったことを間に挟んでくる。

 ナイルズは信也のその疑問に対し、頷きながら答えを返す。


「その通りだよ。ただ、こちらも提示された魔石はきちんとチェックはする。まあ、買い取り希望というのならそのまま魔石を買い取っても構わないがね。まだ本格的なギルドの活動はしていないが、それ位なら今でも可能だ。素材の本格的な買い取りについてはもう少し待って欲しい」


 現在の所、この村を拠点に活動している限り、そこまで大金が必要という訳ではない。

 しかし、資金を稼いでおけばいずれ《鉱山都市グリーク》まで買い物に行ったり、拠点予定地に建てる家の建築費用として使えたりする日も来るだろう。


「分かった。それなら明日にでも持ってくるとしよう」


 他のメンバーにも話しておく必要はあるが、特にデメリットもない話ということで信也は了承の言葉を返す。


「ホゥ、流石だな。既にそれだけの数のFランクの魔物を倒しているのか。やはり私の目に狂いはなかったようだ」


「アタシ達と迷宮内で会った時は、すでに八階層まで進んでいたからね。それ位は貯めこんでいても不思議じゃあないさ」


 北条達のパーティーは鉱山エリアの八階層でリノイの一行と出会っていたが、その辺りではすでにFランクの魔物も出現し始めている。

 ただ一番博識な北条でも出現する魔物すべてを把握している訳もなく、魔物のランクについてはドロップした魔石を目安に判断していた。


 魔石というのは基本的に高ランクの魔物ほど大きくなっていくし、内包された魔力量も多くなっていく。

 冒険者ギルドが定める魔物のランクが魔石基準なのもその為だ。

 魔物の中には法則に逆らうかのように、小さいけどグッと魔力が凝縮された魔石をドロップする魔物も存在しているが、それは稀な例だ。



 昇格に関する話が終わったあとは、話がダンジョンに関する話へとシフトしていき、彼ら『リノイの果てなき地平』は北条らと別れた後に、十一階層まで歩を進めてから帰還したと語っていた。

 迷宮碑(ガルストーン)の配置はある程度規則性を持っていることが多いようで、六階層と十一階層に存在しているなら十六階層にもあるかもね。

 というのがディズィーらの意見だった。


 更に、親切にも十一階層までに出てくる魔物の情報なども教えてもらった信也達は、仲間の下へ戻ると告げてギルド仮支部のテントを後にした。




▽△▽△▽




 ナイルズの下を辞した信也達は、その足で拠点予定地にトンボ帰りする。

 短期間の内に大分基礎工事の進んだその場所では、龍之介や由里香らが訓練に励んでいた。

 激戦から間もないというのに、いや……だからこそなのか、真剣に各自訓練を行っているようだ。


 信也も必死に訓練をする彼らを見て刺激を受けたのか、模擬戦をしていた龍之介と由里香の下へと駆け寄る。

 メアリーも近接戦闘か"回復魔法"かを迷った挙句、"回復魔法"の練習をすることに決めたようで、静かに落ち着ける場所へと移動している。

 最後に残った北条は、引き続き魔法の練習を兼ねた、拠点予定地の基礎工事を再開していた。




 その日の夜、それぞれの寮に帰った後に、一度全員で集まって話し合いを行うことになった。

 結果、ランク昇格については反対意見は出なかった。

 ついでにそのまま魔石を売り払うことも決定し、早速明日にでもナイルズの下を訪れることに決定した。


 北条達はその足でダンジョンに直行する予定を立てたが、これに自分達も便乗したいと龍之介が訴え出た。

 ダンジョンから帰還したばかりの所での難戦で、疲れ果てている信也達。

 無理するのはよくないという意見も出たのだが、自分の身を守るにはレベルアップして強くなるのが一番だ、という意見が龍之介より出される。


 それと、何よりもたどり着くのに条件が必要となる《フロンティア》にいる方が、実は安全かもしれないという意見が決め手となった。

 行方も知れず、何処にいるのかわからない相手を避けるには、確かに〈金の鍵〉が必要になる《フロンティア》は最適かもしれない。


 実はそろそろ《フロンティア》の探索は一旦止めて、他の場所の探索に変えようかという話も信也達の間では出ていたのだが、とりあえずその件は延期となった。


 場所を変えようという話になった理由は、何より《フロンティア》が広すぎるという一点に尽きる。

 余りに広すぎてどこをどう探索すればいいのかも分かりにくい。

 そして、広すぎるせいか魔物との遭遇確率もそれほど高くはないのだ。

 更に言えば、前触れもなく枯れた大木のような強い魔物と遭遇する可能性もあり、ここはとりあえず後回しにしようかという話の流れになっていた。


 ただ今回だけは《フロンティア》を探索することに決まり、『流血の戦斧』を警戒することになった。

 それからは、どのように探索をしていくか、などの話をしていくうちに日は暮れていき、日が変わる前に床へと就いた。




▽△▽△




 次の日の朝。

 意気揚々と探索の準備を整えた異邦人達は、別途袋に用意した魔石を手に、ナイルズの下を訪ねた。


「ドレドレ……。うむ、確かにFランクの魔石百個を確認した」


 何やら魔法道具と思しき装置で、信也達の持ってきた魔石をひとつひとつ確認したナイルズの口から、問題ナシとの太鼓判をもらう信也達。


「これで、俺達はFランクになったのか?」


「そうだねえ。事前にできる作業は既にやっておいたので、後はギルド証の更新だけとなる」


 どうやらギルド証の更新についても既に準備してあったようで、信也達からギルド証を受け取ったナイルズは、またもや別の魔法装置にギルド証をはめ込み、全員分のギルド証を更新していく。

 ナイルズから手渡された新しいギルド証は、これまでの紫色から青色に変化しているが、他に変わった点はないようだ。


「おー、これでオレ達もFランク冒険者か!」


 着実とランクアップしていることに満足気な様子の龍之介。

 自身の能力の向上については戦闘時に実感することはできるが、こういった形で客観的に実力を認めてもらえると、別種の感慨を覚えるようだ。


「ハハハハッ。この調子だとEランクになる日もそう遠くはなさそうだね」


 それはお世辞などではなく、ナイルズの本心だ。

 そもそも実力的にはもうEランク位はあるのではないか?

 元熟練冒険者のナイルズでも戦闘場面を見ないとはっきりしないが、そう思えるほどに眼の前の新人たちには何か(・・)を感じさせられる。


「おう! ま、確かにオレならEランクなんてチョチョイのチョイよ!」


「ちょっとアンタ。あんま調子乗ってんとまた痛い目見るわよ」


「わーってる、わってるって。オレだってこれでも少しは学習してるんだぜ?」


 口うるさい母親とヤンチャな息子のような会話をする龍之介と咲良。

 二人がそんな話をしていると、新たにこの場所を訪れる者達が現れた。


「ん、君たちは……」


 そこに現れたのは『リノイの果てなき地平』のリーダー、シグルドだ。

 どうやらこれからダンジョンに向かうので、一言ナイルズに挨拶に来たらしい。

 他には特に要件はなかったようで、すぐにテントの外に出ていこうとしたシグルドだが、ふと何かを思いついたのか、立ち止まって信也達の方へと振り返る。


「そうだ、見たところ君たちもこれからダンジョンに向かうようだけど、入り口まで一緒に行かないかい?」


「それはありがたい。喜んで一緒に行かせてもらう」


 シグルドのその言葉に二つ返事で答えた信也。

 まだ近くに『流血の戦斧』が潜んでいるかもしれないという現況で、シグルドの申し出は非常にありがたいものだ。


 こうしてリノイの面々プラス異邦人達という、結構な大所帯でダンジョンへと向かうことになった。

 いつもより大人数で移動しているせいか、森に住まう魔物が襲い掛かってくることも、流血の連中の気配を感じることもなく、彼らは何事もなく無事ダンジョンに到着した。




「じゃあ、頑張ってね」


 そう言ってシグルド達は迷宮碑(ガルストーン)で転移していく。

 恐らくは先日話に聞いた、鉱山エリアの十一階層に飛んだのだろう。


「よし! そんじゃあ、俺らも行くぜ!」


 気合の入った声と共に龍之介達『プラネットアース』の面々も《フロンティア》エリアへと飛び、北条達『サムライトラベラーズ』も鉱山エリアの六階層へと飛ぶ。


 その様子を物陰から覗いている者がいることに気づかずに……。





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[気になる点] 「その様子を物陰から覗いている者がいる事に気づかずに」 あの鋭い北条が気づかなかったのか、
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