第114話 装備の強化
「へぇ、ソレはすごいね! ケイドルヴァは迷宮碑があるダンジョンに潜るのは初めてなんだ。今からワクワクが止まらないよ!」
問題である、二つのパーティーについての情報を聞き終わった信也達は、その後も引き続き『リノイの果てなき地平』のメンバーと話を続けていた。
どうやら《クッタルヴァ遺跡群》には迷宮碑はなかったようだが、GランクからDランクの魔物が出てくるというダンジョンの話は、信也達にとっても好奇心をそそられるものだった。
しかも、彼らは《クッタルヴァ遺跡群》の守護者――どうやらCランクの魔物だったらしい――をも撃破し、迷宮攻略を成し遂げたという話だ。
冒険者としても、ダンジョン探索者としても、先達者である彼らの話は、今後の信也達にとっても重要なものとなるだろう。
「へぇ、アレってそんな効果があったのか」
信也が感心したような声を発した。
前回の探索で入手したアイテムの中でも、用途が分からなかったモノ。
その内の一部のアイテムの効果について、『リノイの果てなき地平』から情報を得ることが出来たのだ。
その一部のアイテムとは、例の薄い青色をした、内部に星のマークが含まれている球のことだ。
それと、北条達が宝箱から入手した謎のスクロール。
これら二種類のアイテムは密接な関係にあるものらしい。
「にしても、装備強化なんてほんとゲームっぽいよなあ」
龍之介がポロッとそう口をこぼしたように、これらのアイテムは装備を強化する為に必要なアイテムのようだ。
まず、強化そのものには、〈ゼラゴダスクロール〉という名前だったらしい、北条たちが入手したスクロールを使う。
〈ゼラゴダスクロール〉による強化は、同一の装備に対して複数回重ねることが可能で、二回までは問題なく強化することができる。
ただし、三回目以降は失敗する可能性があるようで、なんと失敗してしまった場合は装備が蒸発して無くなってしまうらしい。
これは強化を重ねるにつれて、蒸発する可能性も高くなるようで、その蒸発する確率を減らしてくれるのが、あの青い星の球である〈スターボール〉ということだ。
星の数によって名称が変わり、そのまま〈ワンスターボール〉、〈ツースターボール〉といった名前が付けられていて、最高が〈スリースターボール〉となる。
とはいえ、最高レベルの〈スリースターボール〉を使っても確実に成功する訳ではないらしい。
三回目の強化程度ならほぼ成功するようだが、五回目位になると失敗することもあるようだ。〈ワンスターボール〉ならより失敗確率も高いだろう。
なお成功、失敗問わず、一度使用した〈スターボール〉は中身の星が抜け落ちてしまい、二度と使用することができなくなる。
また、〈ゼラゴダスクロール〉では幾ら〈スターボール〉を使おうと、最高で五回までしか強化できないようで、それ以上強化する場合には〈ゼラゴダスクロール〉の上位アイテムである〈オリムンドスクロール〉というものが必要だ。
この上位スクロールは、〈スターボール〉なしでも確実に五回まで強化が可能で、六回目からは蒸発の危険はあるものの、更に強化することが可能になる。
といっても、大抵は六~七回位で強化をやめることが多いのだが、中には九回まで強化に成功した例もある。
しかし、大事な装備が蒸発する危険性があるので、そこまで試す者は少ない。
ただし、〈オリムンドスクロール〉の更に上位。
最高位の強化スクロールである〈ビスクスクロール〉を使用すると、確実に九回目までの強化ができるようになるらしい。
だが、大きなオークションで稀に出品されるレベルの希少なアイテムの上、五回目まで〈オリムンドスクロール〉で安全に強化したとしても、九回強化するには残り四回――四枚もの〈ビスクスクロール〉が必要になる。
国の至宝であるとか、曰くのある聖剣や魔剣などといったものならともかく、そこいらの装備にそんな金をつぎ込む道理はない。
……遥か昔、どこでも売ってるような〈アタム〉と呼ばれるメイスを九回強化したという、物好きな男がいたらしいが、これは稀なケースだろう。
他にも、〈スターボール〉の強化補正に賭けて強化してみたものの、あえなく蒸発してしまった、という逸話はそこいらに転がっている。
「その一番凄いっちゅう、なんちゃらスクロールは、九回までしか強化できないのか?」
話を聞いていた龍之介が気になったことを尋ねる。
確かに三段階ある強化スクロールの仕様的にみると、失敗の可能性は出てくるだろうが〈ビスクスクロール〉で十回以上強化が出来ても不思議ではない。
「いや、〈ビスクスクロール〉を使っても十回以上の強化はできないみたいだよ。つまり強化限界は九回までってことだね」
〈ゼラゴダスクロール〉が二回まで安全で最大五回まで、〈オリムンドスクロール〉が五回まで安全で最大九回まで。
となれば、その上位アイテムとなれば十回以上強化できても不思議ではない筈だが、どうやらそれは出来ないらしい。
魔法使いであるケイドルヴァは、『リノイの果てなき地平』の中でも好奇心が強く、博識だ。
その彼が今まで得た情報の中には、十回以上の強化というものはなかったようだ。
「へぇ……。でも、うちらには特に今んとこ強化するような装備なんて――」
そこまで口にして何か思い浮かんだのか、北条の方を見ながら龍之介が叫んだ。
「あっ! オッサンの使ってる、あの炎のハルバードにはいいかもなっ!」
龍之介の言うように、確かにそれもアリだろう。
一緒に入っていた宝箱には、〈ゼラゴダスクロール〉が三枚も入っていたのだ。
しかし、北条はその提案には乗り気ではないようで、
「あーー、別に今の所火力不足を感じている訳でもないし、今後どれだけ強化スクロールを入手できるかもわからんからなぁ。防具にだって使えるようだし、今は保留だぁ」
防具に使う場合は強化の対象は鎧、兜、籠手、盾、ブーツなどとなり、アクセサリー類は強化はできない。
それと、武器防具問わず、特殊な能力のある装備はその特殊能力も若干ずつ強化されていくらしい。
そういう意味でも、北条の炎のハルバード強化は悪くない選択ではあるのだが……。
「強化スクロールや〈スターボール〉に関しては、ダンジョン内の宝箱か、極稀に魔物からのドロップで出ることがあるぞ。とはいえ、確率はそんなに高いものではないし、ドロップする魔物も限られているので、ドロップしない魔物を幾ら倒してもドロップすることはない」
なんでも『クッタルヴァ遺跡群』では、ポイズンシェロブという蜘蛛型の魔物が、極稀に〈ゼラゴダスクロール〉をドロップするらしく、積極的に冒険者によって狩られているらしい。
〈スターボール〉に関しては、基本どの魔物も落とすらしいが、やはりその確率は低い。ランクの高い魔物の方が落としやすい傾向はあるようだが……。
「なるほど。今までは探索メインでやってきたが、その内ドロップなども気にして潜ることもありそうだな」
〈ゼラゴダスクロール〉だけではなく、他にも各種素材や装備そのものをドロップする魔物もいるようで、そういったものを目当てに特定の階層に潜り続けるのは、ダンジョン探索ではよくあることだ。
その後も彼らとの話は続いた。
既にシグルドにも伝わっているだろうが、実際潜ることになるダンジョンの情報を伝えたり、魔法やスキルの話題に花を咲かせたり。
花といえば、ダンジョン内で入手した謎の種子については、流石に口で説明しただけではケイドルヴァも正体は分からないようだ。
実は、すでに由里香が『女寮』の傍に一粒植えてみたので、とりあえずはそれで様子見といった所だ。
それから少しするとシグルドもテントまで戻ってきたが、もう充分話していたので信也達はその場をお暇することにした。
「色々とありがとなぁ。お互いダンジョンに潜るので、会う機会は減るかもしれんがぁ、今後ともよろしくぅ」
こうして北条の挨拶と共に、異邦人達は寄り道もせずに帰宅するのだった。




