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第13話 初ゴブリン戦


「人間……なのか?」


 信也の緊張した声が静まり返った洞窟内に響き渡る。

 信也の問いは答えを求めたものというよりは、思わず口に出てしまったという類のものだ。

 しかし北条はその言葉を普通に質問と捉えたようで、


「恐らくは違う、と思う。足音の響き具合からして、大人のものではない。子供とか背の低い亜人種族の可能性もなくはないだろうがぁ……」


 返事が返ってくるとは思っていなかった信也は、北条のその言葉に眉をしかめる。


「では、何だと思う?」


 その問いに答えたのは龍之介だった。


「やっぱ、ゴブリンじゃねーの? 小さいってなるとオークとかコボルトって訳でもなさそうだしな」


 これまでの龍之介であったら、こういった時にはドヤ顔で説明してきたものだが、今回は妙に大人しい。

 スライムの件でいい加減懲りたのか、と無益なことを考え始めた頭を振り払うように、ゴブリンについての情報を尋ねる。

 信也とてゴブリンという名前や大まかなイメージは知っているが、細かい知識などは持ち合わせていない。


「情報っつてもな……。何故か緑色の肌をしていて……身長は一メートル程度で……。えっと、他にはなんだっけか」


 別に龍之介もゴブリン専門家などでもないので、唐突に聞かれても咄嗟に答えがでるものではない。

 そこに北条が、


「それよりも、対応を予め決めておこう。俺たちはこちらに来た当初から、記憶の中に見知らぬ言語知識があるのは皆気づいているかぁ? 奴らが確認できる距離になったら、まずはその言葉で一応呼びかけてみる。それでも敵対的な様子ならぁ、躊躇せずにまずは魔法で先制攻撃だぁ」


 その謎の言語知識のことは信也にも心当たりがあった。

 今までそのような言葉を話したことはないはずだが、いざ喋ってみろと言われれば、日本語と同じように話せるだろうという確信もある。


「その……ゴブリンには説得はまるで通じないのか?」


「その確認の為に、まずは最初に呼びかける。だがぁ、この謎言語でもゴブリン相手では通じない可能性も高いし、敵意を持って襲いかかって来る相手に手加減している余裕もない。そうなったらやるしかないだろう」


 北条の言葉は最もではあったが人型の相手だ、というだけで信也は今までの蝙蝠やネズミのように戦えるかどうか自信が持てなかった。


「さぁ、もうそこの曲がり角まで着ている。肉眼で確認出来たら声をかけるぞぉ。後衛も攻撃魔法の準備だぁ」


 その北条の言葉からそう間も空けずに、分岐路からこちらに向けて近寄って来る奴らの姿が確認できた。

 まだ遠く離れているため、詳細な輪郭までは確認できないが、明らかに友好的な気配は発していない。

 すでにこちらを捕捉しているようで、信也達の方を指指しながら何やら喚いているが、僅かに聞こえてくるその言葉は明らかに日本語でも謎言語でもなかった。

 それでも念のため北条が声をかける。


「お前たちぃ、そこで止まれぃ。それ以上近づくなら攻撃する!」


 簡潔で分かりやすい北条のその言葉を聞いても、止まる気配はなく奇声を発しながら近寄って来るだけだった。

 その姿は龍之介の言葉とは違い、薄い灰色のような肌をしていた。

 身長が一メートル程というのは同じで、各々粗末な武装をしており、それらの武器は剣や槍など統一性はなさそうだ。


 髪は生えないのか皆スキンヘッドで、耳は皮をむく前のえんどう豆のように尖った形をしている。

 胴体部は人間に例えるなら、若干やせ細っていると形容するのがふさわしいだろう。

 しかし引き締まったその体は、小柄とはいえ武器でもって攻撃されれば痛い所では済まないだろう。


「後衛! 魔法攻撃を」


 迫りくるゴブリンと思しき連中の雰囲気に呑まれていた信也達は、その声で我に返る。

 しかしそれでも攻撃をためらったのか、北条の指示によって放たれたのは【闇弾】と【雷の矢】だけであった。

 再度魔法攻撃の指示を送ろうとした北条だったが、すでにゴブリン達はある程度接近しており、二射目は間に合いそうになかった。


 魔法は魔法名こそ短いのだが、魔法を使おうと意識してから魔法名を唱えて発動するまでに、若干時間がかかる。

 ただ単に【雷の矢】とだけ口にしても、効果が即座に発動することはないのだ。

 そのため遠くまで見通すことの出来ないこうした洞窟内では、接近するまでにギリギリ二発魔法が撃てるかどうか、といった所だった。


「もう間に合わん! 後衛は後ろに下がって」


 そう言いながら、大分近づいてきていたゴブリンへと向かう北条。

 信也も重い動きながらも向かい来る敵への対処を試みる。

 龍之介と由里香は既にゴブリンの下に向かっており、一番出遅れたのは信也だった。


 ヒュォンッ!


 所々に錆が浮かび、決して切れ味はよくなさそうな剣ではあったが、目の前で振り下ろされると、心臓の鼓動が激しく脈打つのを止められない。

 現代に暮らす一般的な日本人にとって、真剣を振るわれて攻撃されることなどまず経験した者はいないだろう。


 "剣術"スキルのおかげで、蝙蝠やネズミ相手にはそれらしい動きが出来ていた信也だったが、ここにきてすっかり動きに精細を欠いていた。


「チッ、ゴブリンごときにやられる訳にはいかねえぇんだよぉおお」


 一方龍之介は若干の動きの硬さはあるものの、二匹のゴブリン相手に優位に立ちまわっている。

 更に由里香に至っては、斧を振り回してくるゴブリン相手に一歩も引かず、その体に拳を叩き込んで、行動不能レベルにまで追い込んでいた。



「おおぅ、あっぶねえなぁ」


 緊張感のない声を発しながら突き出された槍を躱した北条は、槍ゴブリンの下まで一足飛びの勢いで迫り"ライフドレイン"で止めを刺す。

 そして先ほどは信也同様に魔法を撃てなかった慶介も、龍之介が相手していたゴブリンに【水弾】でのフォローをしていた。


 他の面々が奮戦している中、周囲を見渡す余裕もなくなっている信也は、ラッキーパンチのようなゴブリンの攻撃をくらい、左腕を軽く斬られてしまう。


「っくぅ……」


 傷自体は浅いのだが、元々精神的に負担がかかっていた所へのこの一撃は、ダメージ以上に信也を追い詰める。


(あんな錆付いた剣で斬られたりしたら、傷口から雑菌が付着して化膿してしまう!)


 若干潔癖症気味だったとはいえ、戦闘中に無駄にそんなことを考えてしまうほどパニクり始めた信也に対し、好機と見たのかゴブリンは大胆に近寄ってきて剣を振るいだした。


 冷静に対処できれば問題ないそれらの攻撃を、ひとつひとつ必死な形相でかろうじて避け続ける。

 そんな信也に向けて、ゴブリンは凶悪な人相で愉悦を浮かべながら上段に構えた剣を振り下ろす。

 そのゴブリンの表情に思わず動きが止まってしまった信也は、右肩辺りから左腹部に向けて大きく斬りつけられてしまう。


 切れ味がよくなかったせいか、表皮の少し下あたりまでしか刃は届いていなかったが、切り傷による出血のせいか、急激に体が熱くなるのを感じた。

 そして、


「うわあああぁぁぁぁーーーーー!」


 今までの逃げ腰が嘘のように、がむしゃらに剣を振り回す信也。

 それは"剣術"などといったものではなく、無軌道に暴れまわる子供のようだった。

 しかし、突然の豹変ぶりにゴブリンは対応することができず、元々の身体能力の差もあって、今度は信也のラッキーパンチがゴブリンの首元を捉える。

 頸動脈から血を溢れさせるゴブリンに対し、何度も執拗に切り付けていた信也の姿は、数時間前の蝙蝠を相手にしていた龍之介を彷彿とさせる。


 すでにこの時ゴブリンとの戦闘は終結しており、信也が戦っていたゴブリンが最後の一体であった。

 その様子からして下手に近づくのも危ぶまれたが「けが人を放ってはおけない」と、メアリーは、光の粒子となって消えていくゴブリンを茫然と見つめている信也の方へ、ゆっくりと近づいていく。


「和泉さん、大丈夫ですか? 今ケガを治しますからじっとしていて下さいね」


「あぁっ……?! ああ……」


 茫然自失といった状態だったが、段々意識がしっかりしてきたのか大人しくメアリーの治療を受ける信也。

 近くでは恒例のドロップ回収が行われている。

 ちなみにゴブリンが身に着けていた武器や防具などは、ゴブリン本体と共に光の粒子となって消えてしまったので、一つも残ってはいない。

 それどころか八匹も倒したというのに、ドロップは魔石だけだった。


「しけてやがるなあ……。やっぱゴブリンなんてこんなもんか」


「そもそもゴブリンって普通どんなアイテムドロップするっけ?」


 いつもの調子の龍之介に、咲良も乗っかって話をしている。

 傍では由里香と芽衣の外に慶介を加えた三人がわいわいとはしゃいでいた。

 そんな周囲の様子をぼーっと見てるだけの信也を見かねて、


「回収も終わったし、そろそろこの場を離れようかぁ。この道を少し戻った所にあった部屋まで移動して、ちょいと早いが今日はそこで休息にしよう」


 と、代わりに北条が指示を出す。

 そして十分程歩いた所にある部屋になだれ込むようにして駆け込むと、ようやく休息の時が訪れたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「茫然自失といった状態だったが、段々意識がしっかりしてきたのか大人しくメアリーの治療を受ける信也」 リーダーぶっていたのに無様ですね。
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