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第107話 初ダンジョン探索 結果報告その1


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 信也達のパーティーが広大なフィールドエリアを探索し、北条達のパーティーが山肌にぽっかり開いた口のような洞窟を探索したその翌日。

 二つのパーティーは、ダンジョン探索開始前に北条達が好き勝手していた《ジャガー村》の外れにある、自分達の拠点予定地で合流を果たしていた。


 時刻は既に夕方。

 先に村へと帰還したのは北条達の方で、村でちょっとした話をしてから拠点予定地へと戻り、せっせと基礎工事をしつつ信也達の帰りを待っていた。


 北条達が村に戻ったのが十四時頃だったので、本日の作業時間は夕暮れに信也達が戻って来るまでのほんの数時間だったのだが、ダンジョンでレベルアップしていたせいか、出発前より最大MPも増えているようで、拠点の基礎工事作業はより捗った。




「お、おおおおおぉぉぉっ!?」


 信也達がダンジョンから帰還し、村はずれにある予定地まで戻って来ると、眼の前には出発前には無かった開けた土地と、その周囲を囲む土壁が姿を見せていた。

 その光景を見て思わず龍之介が声を上げるのも仕方ないことだろう。

 作業は今もなお続いているようで、遠くでは急激に土が盛り上がっていき、土壁が作られていく様子が薄っすらうかがえた。

 

「あれは……北条さん達か?」


 突然の光景に驚いていないという訳ではないのだが、遠くに見える人影と、拠点の建設予定地だった場所ということもあって、信也はすぐにこの状況が誰によってもたらされたのかを推測できた。


 果たして近寄ってみると、そこには"土魔法"で空堀と土壁を同時に生成していく北条の姿があった。

 更には土壁の裏側――村の方からだと土壁によって見えないような位置で、"召喚魔法"によって生み出された魔物と、手持ちの杖による実戦訓練をしている、咲良達後衛陣の姿もある。



「あ、おかえりっす!」


 信也達の帰還に気付いた由里香が声をかける。


「あ、ああ。ただいま……」


 そんないつも通りの由里香の態度に、少し面食らったようになりながらも、信也も挨拶を返した。


「ところで、これってあのオッサンが全部やってるのか?」


 そこに割り込んできたのは龍之介だ。


「んー、北条さんもそうだけど、咲良先輩も手伝ってるよ」


 メンバー同士の交流も少しずつ深まり、最近は咲良のことを先輩と呼び始めた由里香。

 勿論学校は違うのだが、体育会系の由里香はこちらの呼び方のが呼びやすいらしい。

 なお、芽衣の方は普通に「咲良さん」と呼んでいる。


「いよぅ、今お帰りかぁ?」


 信也達の帰還に気付いた北条も、作業を止めて近寄って来る。


「ああ。ちょっと色々あって予定より遅れてしまったが、今返ってきたところだ」


「そうかぁ。じゃあ、作業はこれまでにして、今日はさっさと家に帰るかぁ。色々と話すこともあるだろうしなぁ」


 ダンジョン内で一旦合流してからそれほど日は経っていないが、確かに目の前のこの光景のこととか、扉の先にあった広大なフィールドエリアのことなど、信也も話したいことはたくさんあった。


「つーわけで、お前達ぃ。そろそろ帰るぞぉー」


 召喚した魔物と"杖術"の訓練をしていた咲良達は、その声を聞いて訓練を終える。

 どれくらい訓練を続けていたのか、みんな大分汗にまみれていて疲れていた様子だ。

 なので、結局その場で少し休憩を取ってから帰還することとなった。


 その間に、北条がこの拠点予定地の基礎工事を始めたことを、改めて信也達に伝えていた。

 まさか、この短期間にここまで大幅に工事が進むとは思っていなかった信也達は、魔法というものの利便性を改めて認識した。



「この調子なら土台部分は近いうちに完成しそうだな」


「んあぁ、そうだなぁ。かなり広めに土地を確保するつもりだがぁ、それでもこのペースだと冒険を挟みながらでもひと月もかからんかもなぁ」


「そうなると、問題は上物をどうするかだな……。村人に金銭を払って協力してもらっても、出来上がるのは今住んでる家とそう変わらんのが出来そうだが……」


 《ジャガー村》の村人が暮らす家の七~八割は、木材で骨組みを作って壁部分を土で作り上げた、いわゆる「土蔵」タイプが多い。

 だが造りが甘いのか、それとも経年劣化なのかわからないが、現在信也達が暮らしている『男寮』と『女寮』の建物には、ところどころ小さな穴があいているのか風の強い日などは隙間風の音が室内に響く。


「とりあえず俺と今川とで、敷地の真ん中に全員共用の建物を作ろうとは思っているがぁ……あくまで自治会館のようなもんで、生活の為じゃあない。自分の家が欲しければ、後は専門家に任せればいいだろう」


「んー? オッサンがそのまま家を建てるってのはダメなのか?」


 龍之介の言葉に、どうしようもないものを見るような目で北条が答えた。


「はぁぁ……。俺ぁ、別に建築家でもなんでもねえ門外漢だ。そもそも、何で俺がわざわざそこまでしなくちゃあいけねえんだぁ?」


「なっ、ちょっとくらいいいだろ! 短期間でこんだけ工事が進むんなら、家の一軒や二軒くらい、ちょちょいのちょいと――」


「そういうセリフは、同じことを自分でやってみてから言うことだぁ。お前さんは何も考えていないようだがぁ、まず魔法で作業を進めると確かに現代日本より早く工事は進む」


 北条の視線が急造の土壁へと一瞬映る。


「しかし、その分MPも消費するので長時間は続かん。それに、俺達もダンジョンの探索がある。俺達がお前の家を作ってる間、お前だけはのうのうとダンジョンを探索するつもりかぁ?」


 北条の言う通り、何も考えずに「友人の誼で」というノリでついで(・・・)のつもりで口走っていた龍之介は思わず口を閉ざしてしまう。

 と同時に、北条としてはのんびり家を作っているよりも、ダンジョンに潜っているほうが良い、ということが言葉の端から窺えた。


「自分の家を建てるならまだしも、俺ぁそんなのはゴメンだし、それよりも外部に委託して、ダンジョン探索中に家を作ってもらう方がいいだろう」


「まあ、正論だな。ダンジョンを探索していけば金も溜まっていくだろうし、それで家を建てればいい」


 信也も結局そうなるよな、と思いながら話に加わる。


「ただぁ、素材についてはある程度こちらで用意はできる。木材はそこらにあるしなぁ。一番運搬に厄介である建材をこちらで用意できれば、建築費用も大分抑えられるんじゃあねえかぁ?」


「……そっかぁ。んじゃあ、ダンジョンで稼ぎまくって、そのうち『龍之介御殿』を作ってやるぜぇ!」


 新たな目標をひとつ見出した龍之介は、最後にそう言って話を締める。

 周囲ではようやく合流出来た! と、陽子が慶介にベッタリ張り付いて話しかけていたり、メアリーと咲良が戦闘時のヒーラーとしての動きについてなんかを話したりしている。


 そうこうしている内に寮へと帰りついた一行は、荷物を一旦置いてから『女寮』へと集合することになった。





 そしていつものように話し合いは始まる。

 まだ夕食には少し早いかな、といった時間だったので、食事の前に今回の探索についての報告からだ。


 まず先に、信也が五層の北東方面に扉を発見したことを告げる。

 そして、その扉に例の謎の魔物からドロップした〈金の鍵〉を差し込むことで扉が開いたこと。


 しかし、一度使用した〈金の鍵〉は消失し、扉を再度開けるにはもう一度〈金の鍵〉が必要になるだろうということ。

 扉の先にある転移の魔法陣の先には、フィールドと同じような世界が広がっていたことなどを順に話していく。


 時折龍之介が得意げに口を挟みながらの説明は、ただ話を聞いているだけでも強く好奇心をそそられるものだった。

 その広大な世界――龍之介が《フロンティア》と名付けたフィールド型のエリアでは、朝と夜の変化もあるし、魔物だけでなく普通の動植物も生息していた。


 魔物はフロアが広大なせいか、遭遇頻度は大幅に減ったようで、倒した時に光の粒子となって消えるのは、他のダンジョンの魔物と変わらないらしい。

 ただし、フロア内に生息する動物に関しては、倒してもそのまま死体が残る……つまりは普通の動物と何ら変わりはないようで、この調子ならあのフロアで生活することもできそうだ、とは信也の言だ。


 《フロンティア》到達初日は、転移先でもあり、近くに迷宮碑(ガルストーン)が設置されていたスタート地点から、北を目指して夜暗くなるまで進んだが、特に何も発見できず平原が続いていただけだった。


 ちなみに方位に関しては〈方位魔針〉を基準にしている。

 〈方位魔針〉とは要するに方位磁針のことなのだが、この世界では簡易的な魔法道具として流通していた。


 〈方位魔針〉そのものからは魔力を感じないし、どうみても単なる方位磁針なので、魔法道具と言われても疑問は残るのだが、もしかしたら製造過程で魔法が用いられているのかもしれない。


 そして夜暗くなってからは、スタート地点に設置した【ライティング】の明かりを頼りに戻ろうとしたのだが、当初その明かりが見つからなくて帰還が大分遅れてしまったらしい。

 その後どうにか迷宮碑(ガルストーン)のもとまで帰ってきた頃には、大分夜が更けており、泥のように眠りについた。


 次の日、起床後に迷宮碑(ガルストーン)を使って帰還しようという信也の意見を押し切って、龍之介が強固に主張する「スタート地点西にある森」の探索が決まった。

 森まではそう距離も離れていなかったので、すぐに戻ってこれるはず……。

 前日の探索がからぶったことから、何らかの成果を欲していたのは、龍之介だけではなかったようだ。


 だがしかし、森の探索も特にこれといった発見がなく終わり、更に帰り際にまたもや少し迷子になってしまい、結局村はずれで北条達と合流する頃には夕暮れ時となってしまっていた。




「……とまあ、俺達の探索はこんな所だな」


 信也がこれで話は終わりだ、と口を閉じた。


「おおぉ……。芽衣ちゃん! ダンジョンの中に朝や夜があって、平原や森もあるんだって! 行ってみたーーい!!」


 北条達のパーティーメンバーの中で、一番表に出して興味を示している様子の由里香。

 だが表には出さずとも、みんな《フロンティア》には興味津々だ。


「……だがあそこに行くには箱の魔物をぶっ壊して〈金の鍵〉を取らねーといけないぜ」


 ボソッと石田がつぶやくように発言する。

 声が小さくて聞き取るのだけで手一杯だったが、その声音には自分達はすでに先に進んだけどな、という優越感のようなものが含まれていた。


「うーーん、そっかあ。まずは鍵を探さないとなあ……」


 しかしそんな石田の言外に含んだ意図には気づかず、素直に受け止める由里香。


「……チッ」


 そんな由里香を見て小さく舌打ちをする石田。

 これもまた気付いた者はいないようだった。

 元からの性格はどうにもならなかったが、社会に出てからはこういった部分を他人には見せないように矯正されていった石田。


 ガキの頃のように自分に正直に振る舞えなくなってきたことで、より心の内の鬱憤が溜まり、更に性格が捻じれていく。

 今も自分の思惑通りにならなかったことで気分を害しているのだが、元々陰気な顔立ちをしているせいで、そのことに気付く者はいない。


「そちらの話は大体わかったぁ。次はこちらの話をしようかぁ」


 そんな石田の内側の葛藤とは裏腹に、話し合いは進んでいく。

 そして北条は、五層の南東方面に下り階段を見つけたことから話し始めるのだった。






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