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第102話 料理スキル


 恐らくダンジョン五層のほぼ中央部に位置すると思われるこの広間は、きっちりと東西南北、それからそれぞれの間の北東や北西など、八方向に通じる通路で分岐をしており、特徴的な構造をしている。


 しかしこの広間で最も特徴的(・・・)といえるのは、広間の中央部にある巨大な魔法陣だろう。


 何が描かれているのかはさっぱりわからないが、これほどの大きさの魔法陣を見るのは、今まで何度か魔法陣を目にしてきた彼らにとっても初めてのことだった。


 大きさ=規模の強弱という訳ではないのかもしれないが、サイズが大きいというのに、描かれてる紋様のような文字のようなものが大雑把になっている訳でもない。

 ギッシリと細部まで細かく描かれているのを見ると、ただの魔法陣ではないように思える。


 そして魔法陣中央部には、高さ三メートルほどもある竜の石像が威風堂々と佇んでいた。

 翼の部分とは別に、体部分と比べたら小さく思えるような両手足がついている、所謂西洋風のドラゴンの石像は、今にも動き出しそうな躍動感を持って、広間を訪なう者達に睨みを利かせているかのようだ。



「ドラゴンかー。いつかは倒してみてーな!」


「今のアンタじゃ、ブレスで焼かれて一瞬で終わりそうよね」


「ハンッ! ドラゴンに挑むようになってる頃には装備ももっと充実してるし、オレももっと強くなってるぜ。よおっし、こうなったらぜってー、ドラゴンスレイヤーになってやるぜ!」


 咲良とのいつもの会話で龍之介が竜殺しを決意している隣では、北条や信也達がこの魔法陣や石像についてあーでもない、こーでもないといった感じであれこれいじくりまわしていた。


 しかし魔力を通してもまったく反応がないし、例えば竜の石像の眼の部分に何か嵌められる窪みがあるとか、そういったギミックも一切見当たらない。

 金の箱の魔物? がドロップした鍵を差し込む鍵穴も勿論見当たらないので、結局の所現段階では、正体不明という結論に落ち着いた。


「んー、それでこの後はまた二つに分かれて探索っすか?」


「あぁ。和泉達は北東の通路から、俺達ぁ南東の通路から探索だぁ」


 両者の地図を照らし合わせた結果、北西部は主に信也達のパーティーによる探索が進んでおり、既に下り階段をひとつ発見していた。

 それに比べると、北条達が探索していた南西部の探索は大分抜けが多い。


 この五層の広さからすると、北西部にあったという階段以外にも別ルートが存在する可能性は捨てきれない。

 また中央広間のような、変わった構造をしている場所が他にも存在する可能性がある。


 中央広間には魔法陣と石像という、何かしらのギミックも配置されていたので、こういったものが他所に配置されていることだって考えられる。

 ともあれ、五層の広さそのものが、彼らにジックリとこの階層を探索しようという気持ちにさせていた。


 そこで彼らは、分かりやすく北東と南東に分かれて探索することに決めたのだ。

 こういった分散探索が可能になるというのは、ふたつのパーティーで探索する利点と言える。


 特にまだ地図情報もない階層を探索するには打って付けだろう。

 ちなみに、南西部分は探索がまだ不十分であったが、再び戻るのもテンションが下がるので、探索の候補からは外されていた。


「では、またなぁ」


「ああ、北条さんなら心配はいらないかもしれないが、気を付けて」


 両パーティーのリーダー同士が挨拶を交わすと、交わった二つのパーティーがまたバラバラに分かれていく。


 ダンジョン探索四日目を迎え、未だ両パーティーとも迷宮碑(ガルストーン)を発見するに至ってはいない……。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 再び二つのパーティーに分かれての探索を開始してから数時間。


 この日はそれ以上たいした成果は上がらず、北条達は野営の準備を始めていた。

 今日の夕食は、村で仕入れた野菜のスープに干し肉を入れて煮たものと、少し硬めのパンだ。


 調理はなんと北条が一人で行っており、少ない食材、少ない調味料、屋外といった悪条件にもかかわらず、中々の美味しさのものが出来上がっていた。


「わぁ、これ美味しいです!」


 咲良が食事の感想を述べる傍らでは、由里香が口も挟まず食事に専念しており、その言葉が単なるお世辞ではないことを如実に示していた。


「確かに、これは凄いわね……。これも"料理"スキルのお陰なのかしら」


 北条は日本にいた頃から料理をよくしていたのか、こちらに来てからそう何度も料理をしていた訳でもないのだが、今回のダンジョンアタック中に北条が"料理"スキルを覚えていた。


 いや……、正確にはダンジョンアタック前からだったのかもしれない。

 北条自身も気付かない内にいつの間に、といった感じのようだったので、その可能性も十分にありえる。


 "料理"スキルはまともな料理人なら必須とも言えるスキルであり、何故かこのスキルを持っているだけで、作った料理が美味しくなってしまう。

 といっても、味の好みは人それぞれだ。

 辛いのが好きな人もいれば、逆に苦手だという人もいる。


 しかし"料理"スキル持ちが作った料理は、美味しさに加点が加味されるというか、同じ料理でも食べる人によって味わい方が変化してくる。

 まるで魂そのものが味を感じているかのように、味覚とは別の感覚器官によっ

て、脳に美味しいという情報を送り込んでいるかのような妙な感覚だ。


 とはいえ、必ずしもそういった「美味しい料理」になる訳ではなく、難度の高い料理を作る際には失敗することもある。

 そうなると普通に作ったのと同じ料理になってしまう。


 そんな不思議な感覚を北条自身も初めて味わいながら、満足のいく食事を終えた後は軽いお喋りの時間になった。

 話題は主にダンジョンに関する話だ。



「ダンジョンの階層には色々なタイプが――」


「特殊な仕掛けを掻い潜った先に秘密の扉が――」


 などなど《鉱山都市グリーク》で調べたことを話題に出し、色気のない話に花を咲かす。

 咲良も事前にダンジョンについては調べてはいたが、やはりあのパラパラめくるように流し見していた北条は、きちんとその中身を把握していたのだろう。


 ダンジョンについても詳しい知識を披露して、瞻仰の眼差しを送られていた。

 その後は夜遅くならない内に早々に話を切り上げ、何事もなく夜が明けた。

 といっても、相変わらずダンジョンの中は薄暗いままだ。



「おっはよー!」


「……おはよ」


 昨夜は一番最初の当番の後、速攻で床に就いていた由里香は、今日も元気いっぱいの挨拶を送る。

 それに対し、最後の当直のひとつ前の当番だった陽子は、当番完了後の僅かな睡眠から起こされたばかりで、未だに少しぼんやりしているようだ。


 だが他のメンバーはしっかりとした様子で朝の支度を始めており、陽子も仕方なくといった様子でノロノロと咲良の下に洗顔用の"水魔法"を頼みにいく。


「ふうぅ。やっぱり"水魔法"の【クリエイトウォーター】って便利ねえ」


 四大属性とも呼ばれる水・土・火・風は、それぞれ属性に即した効果の魔法を発動させることが出来る。

 だが、魔法によって生み出されたものは、魔力によって生み出されたものであり、一定時間後には消失してしまう。


 また物理的効果とは異なる法則で生み出されたソレ(・・)らは、例えば密室で"火魔法"をガンガン使っても酸欠になることはない。

 ただし、"火魔法"によって可燃物に引火して燃えてしまった場合はその限りではないが。


 そんな属性魔法だが、何もないゼロの状態から物質を生み出す魔法が火属性以外にも存在する。

 それらの魔法は、効力の規模に比べると消費MPが多く、戦闘では使用することのない魔法であるのだが、日常生活においては役立つ場面は多い。

 特に飲用も出来る『水』を生み出す【クリエイトウォーター】は、もっとも重宝される魔法だろう。


「そうですね。土も場合によっては役立ちそうですけど、やっぱり水が一番身近ですしね」


 咲良も日常生活のちょっとしたことで【クリエイトウォーター】を使うようになってきているので、戦闘で多用する"火魔法"に続いて"水魔法"の腕前が上達してきている。


「私もそういった(・・・・・)直接的な魔法が使えれば、ねえ」


 既に魔法そのものは二系統も取得している陽子だ。

 魔法の中でも簡単だといわれる、四属性の魔法くらい使えるようになりたい! と、密かに練習はしているのだが未だに実を結んではいない。


「でも、陽子さんの魔法もかなり助かってますよ。"アイテムボックス"だって〈魔法の小袋〉より全然たくさん収納できますし」


 フォローするかのような咲良の声に、「まあ、そうね」と渋々といった様子で返す陽子。


「ひとつの魔法の属性を習得するにはぁ、年単位の時間がかかることはザラじゃあないらしいぞぉ。ま、気負わずにいくことだぁ」


 そこへ二人の話をなんとはなしに聞いていた北条も、慰めの言葉を贈る。


「ねーねー! それより早く朝ごはんにしようよ!」


 場の雰囲気を切り替える由里香の声をきっかけに、陽子も魔法のことは一先ず置いておくことにして、本日の探索へと赴くのだった。






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