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第100話 ミミック?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 あれから五層の探索を続けた信也達一行は、午後の探索では特にこれといったものを発見できず、新しく発見した部屋で早々に休息を取っていた。

 休憩を決めた後は、めいめいが楽な姿勢で休んでおり、いつもはうるさい龍之介も静かに座って(・・・)休んでいた。


 そして静寂が辺りを支配する。

 聞こえてくるのは微かな水音と彼らの呼吸音のみ……ギギィッ。

 少しして落ち着いてきたのか、周囲を見渡していた信也はふと龍之介の所で目を止める……ミミィッ。



「……なあ、龍之介」


 バコォォォッ。


「ん? なんか用か?」


 グィィッ。


「いや、そうじゃなくて……お前の座ってるソレ(・・)、何だ?」


「あ? 座ってるソレって、なんかちょうどいい具合に盛り上がってる地面があったから、そこに座って……。うわあああぁあ、なんじゃこりゃああ!」


 信也のよく分からない問いかけに、何気なく……本当にそこに何かあるだなどと思わずになんとなく目を向けてみると、相手(・・)からも視線が向けられており、丁度見つめ合う形となってしまった。


 最初に龍之介が腰を下ろした時は、確かに妙に盛り上がっただけの土の地面だったはずなのだが、そこにはいつの間に現れたのか金色の箱が存在していた。

 やたらゴテゴテとした、成金が金にものを言わせて作らせたようなその箱は、もし本当に金で出来ているとしたら相当な重量がありそうだ。


 箱の上部には二つの眼のような模様が刻まれており……というよりも、キョロキョロと視線を変えているその様は、まるで眼そのものだ。

 更に箱の側面部分には口のようなものも取り付けられていて、そこから小さな声で先ほどから苦しそうな声を漏らしていた。


 龍之介が慌てたように箱から飛びのくと、その謎の金箱は重しがとれて楽になったというように、横側からにゅっと伸ばした手で頭の部分を拭うと、更に底面から足をも生やす。


 そして、その鈍重そうな体からは思いもつかぬ速さで、出口である部屋の入口まで移動しはじめた。

 眼が上部についているのに、どうやって周囲の地形を認識しているかは謎なのだが、その速さは全力疾走時の由里香なんかより全然上だった。



「え、きゃっ!」


 龍之介達のそんな騒ぎを部屋の入口に近い場所で見ていたメアリーは、高速で自分の下へと向かってくる金の箱に対して、近くで飛んでいた蚊をはたくかのごとく、手にしていたメイスで反射的に殴りつけていた。



 ゴイイイィィィンッ……。



 と、お寺の鐘を叩いたような小気味良い音が周囲に響き渡る。

 すると「ミミクウウゥゥ」という断末魔? を上げながら、やがて光の粒子となって金箱は跡形もなく消え去っていく。

 後に残されたのは、シンプルな形をした〈金の鍵〉だけだった。


「……えっと、魔物……だったみたいですね」


 何とも言えない空気に包まれている中、おずおずとした様子で話しかけるメアリー。

 いたたまれない雰囲気を感じ、ごまかすかのようにドロップ品と思われる〈金の鍵〉を取りに行く。


「なんか……シンプルな鍵ですね」


 見た目からすぐに鍵と分かる形状をしているが、作りは本当に単純そのもので、こんな鍵ならすぐにでも複製が作れそうな簡単な構造をしていた。


「ふむ、そうだな。これも何らかの魔法道具なんだろうか」


 信也はつかつかとメアリーの傍まで歩み寄ると、しげしげと〈金の鍵〉を観察しはじめる。

 どうやらあの謎の箱については意識から一旦シャットアウトしたらしい。


 文様が彫られていたり、宝石が嵌めこまれていたりすることもないただの鍵は、まったくと言っていいほど見どころがない。

 鋳型に溶かした金属を流し込んで作っただけのような、シンプルさだ。

 だが念のため、


「ちょっとその鍵に魔力を通してみてもらえるか?」


 魔法道具であれば、魔力を通すことで何らかの反応が返って来ることが多い。

 直接効果が発揮されずとも、魔力を通した際に何らかの手ごたえ……抵抗のようなものを感じられれば、何かしら魔法的な効果のあるアイテムだというのはすぐに判別できる。


 信也の提案に従い、メアリーは手先に魔力を集中させて、鍵に魔力を通すようにイメージをしてみる。

 しかし、これといった反応は返ってこなかった。


「ううん、ダメみたいです。ただ魔力を通そうとすると、反発して魔力を押し返してくるような手ごたえがありますね」


 時折こういった反応を示す魔法道具は存在しているのだが、こういったものは何かしらの特殊な性質を持った魔法道具である可能性が高い。


「そうか……。何かアイテムが出ても解析できないってのは問題だな」


 そう言って考え込む信也。


「まー、とりあえずはその鍵も保留だな!」


 魔石などの分かりやすく分配できるものはともかく、アイテムの効果すら分からないものを分配するには、ギャンブル要素や不公平感を生み出しかねない。

 そういったアイテムは、とりあえず保留して〈魔法の小袋〉に保存することにしているのだが、この〈金の鍵〉も〈青い星玉〉に続いて同じ処分になりそうだ。


 その後は、先ほどの金の箱や鍵について語りながら夕食を取り、いつものように当直当番を決めてから就寝となった。

 同じダンジョンの、近い階層を探索しているはずの信也達と北条達のパーティーは、未だ始まりの部屋に残したメッセージ以外に、接点や行動の痕跡なども重ならないままダンジョン探索三日目の夜が過ぎていった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「気を付けろぉ! その緑色のジュルジュルしたスライムは毒を持っているぞぉ」


 いつも通り魔物を殴りに向かう由里香に対して、背後から北条の注意喚起の声が飛んでくる。

 昨日は四層の探索で一日を費やし、特にこれといって特筆すべき事件も起こらず順調に探索は進み、四層の地図を九割がた埋めるところまで進んだ。


 今日は朝一から五層への階段へと進み、五層の本格的な探索に着手し始めた所だった。


「え、あわわ。えーと、じゃあ、あっちの赤っぽい蝙蝠をやるぅ!」


 北条の言葉を受けて慌てて軌道修正をする由里香。

 緑色のジェル状のスライム同様に、こちらの赤黒い蝙蝠も一層などにいた蝙蝠とは別種だ。

 しかし毒を食らうよりはまだマシと新種の蝙蝠に殴りかかる由里香。

 一方、北条はおニューのハルバードを手に緑スライムを切り払う。


 ぼわっ!


 すると切り裂いた個所から炎が湧き出し、緑スライムを内面から焼き焦がしていく。

 ハルバードの一撃だけでも致命傷だった所に、追加の炎による攻撃をもらってしまい、緑スライムはあっさりその姿をドロップ品へと変えていった。



「おおぅ、こいつぁいいねぇ」


 ご機嫌な様子の北条は、その勢いのまま他の緑スライムを相手にしていく。

 他のメンバーも魔法を飛ばしたり、陽子が新しく使うことになったスロウ効果のある短杖――スロウワンドの効果を発動させて、空を飛んでいた赤黒い蝙蝠を地面に落としたりと奮戦していくうちに、すぐに魔物の群れを全滅することに成功する。


「うん、この調子なら五層でも問題はなさそうね」


 特に危なげなく魔物達を倒すことに成功し、咲良が安心したように口にする。


「えー、でもあのみどり色のジュルジュルは毒持ってるんだよねー? 危なくないかなー?」


 体育会系の部活動をしていたせいか、北条など明らかな年上の人に対しては「っす」という語尾になる由里香だったが、同じく年上の咲良に対しては本人からの頼みもあって、口調は芽衣や慶介達と話すときと同じように話すよう意識している。

 ただ、なかなか上手くはいかないようで、油断すると由里香なりの敬語口調になってしまうようだ。

 なお龍之介に対しては、年齢とか関係なく最初からタメ口だった。


「んー、確かに毒っていうと危険なイメージはあるけど、この世界だと毒消し薬でコロッと治ったりするようだし、私も【キュアポイズン】なら使えるから大丈夫だと思うよ」


 このティルリンティの世界では、RPGではお馴染みの状態異常というのが幾種類も存在している。

 中でも毒状態を治す【キュアポイズン】などは、状態異常を治す系統の中でも一番簡単な魔法だということもあって、咲良もここにはいないメアリーも既に習得をしていた。


 もっとも、メアリーの場合は"回復魔法"となるので、魔法の名前は【キュアポイズン】ではなく【解毒】となる。効果的には両者にほとんど違いはない。


「そっかぁー。毒っていってもすぐに死んだりする訳じゃないんだね」


 この世界における毒という状態異常は、「継続的なダメージを受ける状態」を指している。

 地球においては、神経毒などで麻痺効果が現れたりすることもあるが、麻痺は麻痺で別に状態異常として定義されており、この世界での毒はHPを削るダメージを与えてくるものだけだ。

 通常の「状態異常:毒」の他に「状態異常:猛毒」という状態異常もあり、こちらは更にダメージの大きい、毒性の強い状態異常となる。


「そうだなぁ。実際毒状態ってのがどんなものかを、今のうちに体験してみるのも悪くないかもなぁ。この世界には耐性系のスキルというものもあって、毒攻撃を食らい続けると、"毒耐性"のスキルを得られたりするようだぞぉ」


「うえぇ、それってなんかキツくないっすか?」


「ふーん、暗殺者なんかはそんな訓練もしてそうね」


 への字眉で嫌そうな表情を浮かべる由里香に、北条の発言に乗っかる形で発言する陽子。

 ともあれ五層での初戦闘を終え、手ごたえを感じた北条達は意気揚々と探索へと乗り出すのだった。





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