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第97話 新装備とアイテムの分配


 北条が手にしたその品――綺麗な宝石を中央にあしらった、サークレットの解説を始めると、女性陣の目の色が変わる。

 余りこういったものに興味がなさそうに見える由里香ですら、羨望の眼差しでサークレットを見つめている。


「このサークレットは、やはり宝箱から出てくるだけあって魔法的な特殊効果があるようだぁ。この中央に嵌められた、深い海の色をしたサファイアの見た目通り、"水魔法"の効果が上昇して、同時に相手からの"水魔法"に対する耐性も得られるっぽい」


 その説明を聞いた咲良は小さくガッツポーズを取る。

 分配の時間はまだだが、分配はまず適正に合わせて分配されるので、"水魔法"を唯一使う咲良がこのサークレットを身に着けるのはほぼ確定だろう。


 他の女性陣もそのことには気づいたようだが、そこまでの落胆は見られなかった。

 一番このサークレットに執着していたのが咲良であり、他のメンバーは彼女ほど強い執着がなかったのだ。


 そんな女性陣達の反応を気に留めた様子もなく、引き続き北条が鑑定したのは、長さが二メートル半位はありそうな、長いハルバードだった。

 その見た目は刃の部分から柄の部分まで赤を基準にした配色になっており、石突の部分と、ハルバードの先端の突起部分の根本には赤い宝石が嵌められている。


 また、一般的なハルバードに比べて斧部分の刃が長く伸びており、地面に突き立てて持っている北条の、頭頂部の高さから斧刃が上に伸びている。


 ただでさえ重い金属の槍に、長い刃の斧部分までついたこのハルバードは、相当な重さであると思われるのだが、北条はまるで重さを感じさせずにハルバードを振り回している。


 その様子を見た由里香が試しに「自分もブンブンしてみたいっす!」と言って振り回してみたのだが、"身体能力強化"を持っている由里香ですら、振り回すのに難儀していた。


「うー、重いっす……。北条さん、よくこんなの軽々と振れるっすね」


「……まあ、形状的には槍に近いもんだからなぁ。"槍術"のスキル補正が入ってるのかもしれん」


 北条の場合は更に職業も『混魔槍士』と槍関係の職であるので、よりその影響は強いのかもしれない。

 なおこのハルバードには、見た目通り炎の属性が付与されていて、斬りつけたり突いたりする時に宝石部分に魔力を送ると、刃先から燃え盛る炎が湧き起こって、斬りつけると同時に相手の体を炎で焼く。


 こういった熱傷は治癒魔法だと治癒しづらく、治せない訳ではないがより多く労力を要する。

 あまりに酷い熱傷だと、通常の治癒魔法だけでは完全には治癒できないほどだ。



「さて、最後に残ったこいつだがぁ……」



 気に入ったのか、一通りハルバードを振り回していた北条が、最後に残っていたアイテムの査定に取り掛かりはじめる。

 こちらも女性陣の注目が集まっているアイテムだが、由里香と楓だけは興味は無い様子。

 それもそのはずで、最後に残っていたアイテムは、長さ四十センチ程の短い棒状のもの――短杖だったのだ。


 絶対そうだとも限らないのだが、杖や短杖を使うのは、基本的に魔法を扱う者達だ。

 由里香は物理一辺倒であるし、楓は……もしかしたら"影術"や"忍術"も強化されるかもしれないが、余り関心は寄せていないようだ。


 残る三人、特にサークレットが確定している咲良以外の芽衣と陽子は、自分達が扱えそうな武器ということで、大きな関心を寄せていた。


「これはー……杖系の魔法道具の基本的な性能でもある、使用者の魔力を増幅させる効果がまずある。それとー……そうだな。実際に試してみるか」


 そう言って徐に、北条はその短杖の先を由里香へと向ける。

 すると、短杖の先端部に嵌められている薄灰色の貴石が、一瞬薄っすらと光を放つ。


「えっ!?」


 抵抗する間もなく、由里香は短杖の特殊効果を受けていた。


「ううー、これはなあんなんっすかああ」


「ふーむ。ちょっとその状態で動いてみてくれぃ」


 何時もより若干ゆっくりと、間延びした口調で訴えかけてくる由里香に、淡々とした様子で指示を出す北条。

 恨みがましい目をしながらも、素直に指示に従う由里香。


「おお? おおお?」


 見た目では特にこれといった変化は見られない。

 ただそこらを走り回ったり、飛び跳ねたりといった動きをしているだけだ。

 だが何かに気付いた北条が、慌てて警告を発する。


「あー、由里香ぁ。効果時間があるだろうから注意しろよぉ」


 しかしその警告の声は遅かったようで、普通に走っていた由里香だったが、急に全速力で加速をかけている様子がうかがえた。

 急な加速に由里香自身も戸惑っていた様子で、途中の地面の凸凹に足を引っかけて転びそうになっていたのだが、見事な反射神経で転倒を回避している。


「……と、まあ、見ての通りだぁ。どうやら、こいつには任意の相手をゆっくりにさせるスロウの効果があるらしい」


 由里香が普通に走っているように見えた、というのはあくまで地球での判断基準であって、実はこちらの世界で色々強化された由里香は、あれで全力で走っていたのだ。


 だが、スロウによって体の動きが制限された状態では、その人並外れた身体能力を発揮できなかったようだ。

 途中で急加速したように見えたのも、元々その速度で走ろうとしていただけであって、スロウの効果が切れたから急加速したように見えただけだ。


 試しにその後、咲良が立候補して自らスロウ状態になっていたが、まるで老人の如く、ゆっくりとしか移動できていなかった。

 なおその時に杖を使っていたのは陽子であり、「ゆっくりしていってね」などと言いながら、咲良だけでなく北条にまでスロウをかけていた。


 唐突に魔法をかけられた北条であったが、特に慌てる様子はなく、


「……まあ、こういった、状態異常を掛けられるっていう状況に慣れておくのも必要だぁ」


 と逆に前向きに捉えて、状況を楽しんでいた。

 それは咲良のようなゆっくりとした動きではなく、見た目には特に状態異常がかかってるとは思えない位には動けていた。



▽△▽



 こうして宝箱の中身のチェックと査定が一通り終了すると、最後にこれらアイテムの分配について話し合われた。

 まずポーションはHP回復の〈レッドポーション〉を、前衛だけでなく後衛にも念のため少し分配し、残りは由里香、楓、北条の順に多めに分配していく。


 北条は最近では「魔法とかスキルとか鍛えたい」ということで、余り使用していなかった"ライフドレイン"でいざとなれば回復できるので、後衛と同レベルに少な目に配分された。


 MP回復の〈ブルーポーション〉は勿論魔法職メインで、今までのMP配分を考慮して配分する。

 疲労回復の〈グリーンポーション〉は数が少ないので、北条と由里香の山分けとなった。


「いざという時にポーションがあるって安心できるわね」


「そうですねえ。無駄遣いは出来ないですけど、〈ブルーポーション〉は助かります」


 いざという時にはブルポ(・・・)がぶ飲みで乗り切ることも出来るかもしれない。

 それも魔法職が多いこのパーティーでそれをやったら、それこそさっきのような多数相手の戦闘も範囲魔法を撃ちまくるだけで片が付きそうだ。


「でー、次は装備の分配だなぁ」


 ポーションの分配が終わり、次は個別に分けられるものということで装備の仕分けが始まった。

 とはいえその効果からして大体は与えられる相手は決まっていた。

 まずは炎のハルバードは北条が使い、ゴブリンランスとの二槍流を試してみるらしい。


 ハルバードを利き手の右手で持ち、北条の身長よりちょっと長い位のゴブリンランスを左手に持つ北条の姿はどこかゲームのキャラクターを彷彿とさせる。


 次に、水属性関連の効果が付く、サファイアサークレットは咲良の手に。

 更に唯一の回復役ということで、ここが石化してたらまずい! ということで咲良には石化に耐性の付く……かもしれないペンダントも分配された。


 今はまだ咲良は石化回復の魔法が使えないので、一人石化を免れたとしても、意味は余りない。

 そもそも、低レベルの魔物に石化させてくる奴がいるとは思えないが、まあ無難な配置といっていいだろう。


 スロウ効果をもたらす短杖は陽子の元に。

 ――「あー、なんか私、完全支援職よね」


 敏捷さが増すブーツは長所を更に伸ばすということで、楓に。

 ――「あ、ありがとう……ございます」

 由里香も"身体能力強化"などのスキルで、素早さが売りではあるのだが、職業的にはやはり盗賊系の職である楓が一番だ。


 代わりに由里香には体力が僅かに増すという指輪が与えられた。

 ――「わーい、これで長期戦でも少しはマシになるね!」


「お前、殴り職なのに指輪なんて付けて大丈夫なのかぁ?」


 と北条は心配気ではあったが、実際指輪をはめてダンジョンの壁を殴ってみた所、問題はなさそうとのことだった。

 まあ素手で殴るのではなく、ナックル越しだから大丈夫なのかもしれない。



 残りのアイテム、謎の種子十粒に関しては、一粒だけとりあえず今住んでる所の傍に植えてみる方向で決まった。

 魔石灯は取っ手もあって持ちやすいのだが、懐中電灯と同じで前方しか照らせない為、北条の【ライティング】の魔法やランタンなどでも明かりとしては十分だった。


 とはいえ、念のため五つあった内のひとつを探索用に確保し、残りは二つずつ男寮と女寮に設置することにした。

 懐中時計もパーティー共用のアイテムとして持ち歩き、効果がいまいちわからないスクロールと星玉。それから用途が思い浮かばない金属と、何故入っていたのかが謎である、絵画の四種は分配保留とした。


 まあ絵画くらいなら飾ってもいいかもしれない。

 それとゴブリンスカウトからはゴブリンダガーのドロップもあり、こちらは芽衣が持つことになった。


 最後に筒状の魔法道具――ドライヤーだが、まだ風呂も作っていないというのに女性陣が猛烈に欲しい欲しいと主張したので、北条以外の女性陣が共同出資して買い取るという形になった。


 値段の方はまだ不明なので、北条に支払われるのはまだ先となるが、とりあえず先にブツだけは咲良へと渡しておき、これで全てのアイテムの分配が終了した。






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― 新着の感想 ―
[良い点] つぇー系のモラルの押し付けや、自己満足差配を見せられるより、オーソドックスな話のほうが好感がもてるので嫌いじゃないです。 [気になる点] 分配方法が気持ち悪いですね。特にこの回はドライヤ…
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