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第95話 目利き その1


「まずはー、ポーションの方はさっき説明があった通り、〈レッドポーション〉がHP回復で〈ブルーポーション〉がMP回復だぁ。ちなみに容器に使用されている、透明度の高いそのガラスは、普通には作れず容器自体も貴重らしいんで、使用したら洗って再利用だなぁ」


 この世界でも、ガラス自体は製造されているのだが、透明度の低い濁ったガラスが多く、ポーションの容器としてドロップするこのガラスとは雲泥の差があった。

 現物があるというのにそれを再現できないでいる現状は、ガラス職人にとっては我慢ならない状況だろう。


「それでこの指輪は……ううん」


 あらゆる角度から矯めつ眇めつ眺めてみたり、魔力を通したりして反応を確かめている北条。

 途中何度か一人頷きを繰り返しつつようやく結果が出たようだ。


「こいつぁ、身に着けると体力が僅かに上昇する指輪みたいだなぁ」


「とゆーことは、これを身に着けたまま走れば、長距離走でかなり有利っすね」


 陸上部で活動していた由里香らしい相槌が挟まれる。


「うーん、まぁそうだなぁ。効果的には里見の"付与魔法"にある【体力増強】が常に掛かるみたいな感じだろう。効果はそこまではないだろうだがなぁ」


 例え効果は高くなくても、身に着けるだけで常時効果のあるアイテムの価値は計り知れない。

 ただし、アクセサリーに関してはその効果が発揮されるのは、装備した順で四つまでになる。

 これは過去の研究者によって明らかにされたものであるが、なんで四つなのかまでは調査が及ばなかった。


 他にも魔法鎧の重ね着のようなことをしたとしても、効果が発揮されるのは一番外側の部分の鎧だけだ、とか妙な決まりは多い。

 といっても、この世界の人にとってはそれが永久不変なる事実である。


 地球に住む人が「何で空気はあったまると膨張するの?」などといった疑問を持ち、理論構築や実験を通して謎を解決していくように、こうした現象を研究している学者は常に存在している。


「でぇ、次はこのブーツだなぁ」


 次に北条は革のブーツを手に取り、再び同じように査定を始める。

 見た目のサイズからして、北条には小さすぎるサイズのようだが、女性陣なら誰かしらサイズは合いそうな作りだ。

 しっかりとした作りのブーツで、素材に使われている革が何なのかは、見当もつかない。


 この世界では魔物の皮革を利用するのは一般的であり、地球で手に入るものとはその性質に大きな違いがある。

 一般的にも高級品で防御力の高いと言われる竜の革などは、そこいらの金属より防御効果が高い。


 流石にこのブーツに使われているのが竜革ということはないだろうが、少なくともあちこち動き回る冒険者が、耐久テストのごとく日々使用したとしても、そう簡単には壊れなさそうではあった。


「ううーん、こいつぁ履くと僅かに敏捷性が増す効果があるようだなぁ」


 北条の査定によると、どうやらブーツという部位に似合った効果を持っているようだ。


「おおー! これとさっきの指輪があったら陸上選手は大喜びっすね」


 思わず由里香が口にだす。

 異世界に来てしまったとはいえ、未だに陸上競技に対する想いは抜けてはいないのかもしれない。


「足が速くなってもその分疲れるだけだがぁ、さっきの指輪と併用すれば、体力も強化されて丁度よさそうだなぁ」


 ゲームでもそうだが、こういった装備は身に着ける人の能力と装備の組み合わせによって、様々な方向性を持たせることができる。

 弱点を補うような装備を身に着けるか、逆に長所を伸ばすような装備にするか。

 そこら辺はプレイヤーの好み次第であったが、北条達としては基本は命大事にというのが基本方針となるだろう。


 ゲームなら火力優先でやって、もしうっかり死んでしまっても蘇生すればいいや、とあっさり判断することもできるが、空想のような現実にいる彼らには身の安全がまず第一だ。


 それから次に北条は筒状のアイテムを手に取った。

 形状としては魔法瓶のような形状なのだが、片側の蓋部分が抜けており中もすっかすかの空洞になっている。

 パーツ的には二つに分かれており、円柱状のブロンズレッドの土台部分に砲のように蓋がない筒をくっつけたかのような作りとなっている。


 筒の内側部分には銃のようなライフリングではなく、所々起伏のついた飾りのようなもので、立体的に盛り上がっている部分も見える。

 そして最奥部、筒の底面には白っぽい石で一段盛り上がった部分があり、そこには小さな魔法陣が描かれていた。


 後は特徴といったら筒状の外縁部、ワインレッドの土台の所にある一か所だけ白く盛り上がっている長方形の部分。

 まるで懐中電灯のスイッチのような形状と配置だ。


 北条はそういった見た目で判別できることをチェックし終えると、徐にあちこち実際に触れて弄り始める。

 まずはこれ見よがしなスイッチ部分に触れてみるも、特に反応は起こらない。


 その勢いのままワインレッドの土台部分を調べていくと、一部がパカッと電池を入れる為の蓋を開けるように開いた。

 その中は空洞になっており、特にこれといって特徴的な構造物は見当たらない。


 土台部分も筒状の部分も中身が空洞ということもあって、見た目以上に軽いこのアイテムを手に持ち上げ、北条は何やら考え込み始めた。


「んーむ、こいつは装備系ではなく魔法道具の類だと思うんだがぁ……」


 などとブツブツ言いながら、何を思ったのか、先ほど開けた空洞部分に〈魔法の小袋〉から取り出した魔石を一つ入れる。

 それから開けていた蓋を元に戻し、何の気なしに先ほどと同じように白い部分に触れた。


 すると「ヴォォオン」という小さな稼働音と共に、ようやくこの魔法道具が稼働を始めた。



「……これってドライヤーなのかしら?」



 恐る恐る砲の先端部分に手を当ててみた陽子が、気の抜けたような声でそう呟く。


「んー、どうやらそのようだなぁ。吸気孔もないのに中から次々に温風が吹いてくる辺りが、魔法っぽい」


 女性陣だけでなく男性陣も今の生活で不満に思っていることがある。

 それはまともに風呂に入れないということだ。

 《鉱山都市グリーク》には一応公衆浴場はあるようなのだが、湯に浸かるタイプではなくサウナタイプのものしかないらしい。


 この《ジャガー村》で自分達の拠点を作る際には、無理をしてでも風呂は作ろうと思っている人は多い。

 もしそうなった場合には、このドライヤーのアイテムは大いに役に立ちそうだ。


「わ、これ、ある程度は温度や風の強さを調整できるみたいね」


 北条から魔法道具を手渡された咲良は、新しいおもちゃで遊ぶ子供のように楽しそうに弄っている。

 どうやらスイッチ部分に触れながら、発動のキーとなる微弱な魔力を通す際に、どうしたいかのイメージを紛れ込ませることで、熱くしたり風量を増したりすることが出来るようだ。

 ちなみに冷風モードはないらしい。


「こんなのがあるなら。冷蔵庫みたいな魔法道具もみつかるかもね」


 現状では不満点の多いこの世界の生活だが、こうした魔法道具を贅沢に集めることで、そこそこ快適な生活にはなるのかもしれない。

 そう思うと陽子は期待に胸が膨らんでいくのを感じた。


「ところでさ、最後に残ったこの種って何なのかな?」


 手に取った種を、みんなに見えるように手のひらに乗せて、由里香が尋ねる。

 その種は茶色い雫型をしており、大きさは二、三センチ位。

 他には特にこれといった特徴がなく、恐らくはこの手のことに詳しい人が見てもこれだけを見て判断するのは難しいだろう。


「そいつぁ知らん。ただ、僅かながらにそれは魔力に反応する感じがある。育てる時に魔力を注いでやるとよく育つかもなぁ」


 流石の北条もこれが何の植物の種なのかまでは分からないようだったが、"目利き"の効果なのか魔力に反応があるということは見抜いていた。


「おおお、じゃあ家に戻ったら早速植えてみたいっす!」


「そうだなぁ、試しに今住んでる家の傍に、ひとつだけ植えてみるのもありかもしれん」


 ちゃんと育つかどうかも分からないし、育ったとしても住居は後々今の場所から変更予定なので、全部植えるのはもったいない。


「これで『世界樹』でも育ったら面白いわね」


 ファンタジーの定番である『世界樹』だが、一応この世界にも存在はしている……ようだ。

 だが高レベルな魔物が渦巻く、広大な森の奥地に存在しているらしく、そこまで辿り着くのは生半可なことではない。

 半ば伝説的な扱いになっているのがこの世界における『世界樹』だ。


「もしそうなったら面白いことになりそうだが、十粒も種があったからそれはないだろぅ。それより、こちらの箱の中身は査定が終わったが、分配などを決めるのはこっちの本命(・・)を開けてからにするぞぉ」


 そう、箱ひとつでワイワイしていた彼らだったが、それより更にランクの高い箱がまだあとには控えている。


「はいはーい! 私が宝箱開けたいっす!」


「まあ、別にいいんじゃない?」


「そうね、もう罠もないんだし」


 最初の箱はともかく、報酬として出てくる宝箱に罠が仕掛けられている、ということは資料には書かれていなかったので、安心して開けることができる。


 みんなの了承の返事をもらった由里香は、勢いよく報酬として現れた、かなり大きい鉄の箱を開けるのだった。









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