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第91話 召喚罠部屋、アゲイン


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 彼らにとっての始まりの場所である、三階層にある部屋で、信也達が残した伝言を見つけた北条達は、昼食休憩を終えるとすぐに探索の続きに入った。


 現在は信也達と同じ四階層を探索しており、すでに弓ゴブリンや罠の洗礼も受けている。

 もっとも、龍之介のようなうっかりをやらかす人間もいなかったので、あちらのパーティーほどしっちゃかめっちゃかになっていた訳ではなかった。



 そしてある程度探索を続けている間に時間は経過し、そろそろキャンプ地を決めねばならないと、北条達は都合の良さそうな部屋を物色していた。


 ひとつ前に見つけた部屋まで戻るという選択肢もあったのだが、距離が大分空いてしまっていたのと、時間的に中途半端になってきていたので、先へ進みつつの捜索となっている。


 最悪の場合、通路でも陽子の"結界魔法"があれば野営位はどうとでもなる、という判断もあった。

 しかしそうした覚悟も無事に部屋が見つかったことで、無用の長物となる。


 ただし、その部屋にはひとつだけ問題があった。



「なーんか見覚えのある光景ね」



 広さ的には問題のない……どころか、三、四パーティーは野営できるんじゃないかという、広いスペースの部屋なのだが、部屋の中央奥の壁際。そこにはこれ見よがしに、銅の宝箱が設置されていた。

 部屋の広さといい、どうもあのゴブリンルームを彷彿とさせる。


「あの、ちょっと調べてみます……」


 そう言って楓は用心深く宝箱へと近寄っていく。

 あの時と違うのは、今回は完全に職業としてもスキルとしても、罠に対応できる人員が揃っていることだろう。


 盗賊系の罠に関するスキルは幾つか存在していて、ダンジョンの通路などに設置されている、一目では分からないような罠を事前に察知するのが"罠感知"スキル。

 発見した罠を解除する"罠解除"に自ら罠を設置する"罠設置"。


 それから発見した罠についての詳細を調べたり、いかにも罠がありそうな場所だけど"罠感知"スキルが働かない場合に、場所に当たりをつけて調べたりすることができる"罠調査"スキル。


 今回はすでに楓は"罠感知"スキルでもって、設置されている宝箱からぷんぷんと罠の匂いをかぎ取っていたので、使用するのは"罠調査"スキルとなる。


「これ、は……。多分、以前ゴブリンが襲いかかってきた奴と同じ……罠だと思い、ます。箱を開けようと、すると、反応するみたい、です……」


 迂闊に宝箱に触れないように、矯めつ眇めつチェックしていた楓は、口ごもりながらも報告してくる。

 元々がおどおどとした口調なので、聞いている側としては本当に大丈夫なのか? と不安にかられもするが、何事も絶対というものはない。

 たとえ間違っていたとしても、ここは味方の判断を信じるべきだろう。


 問題はこの箱をどうするべきか、だ。

 無論、箱を開けなければ発動しないというならば、箱を無視してここで野営を取ればいいだろう。


 しかし、これ見よがしに自己主張をしている宝箱の魅力は、冒険者にとっては抗いがたいものだ。

 日本出身であり、新米冒険者である彼らにとっても、その魅力は大きく変わらない。


 しかも前回は木製の宝箱だったのに対し、こちらはゲームなどでも一番ランクが低い扱いとされる、銅であるとはいえ、金属製の宝箱なのだ。

 きっと中身も前よりいいものが入っているに違いない、そう感じてしまうのは当然のことだろう。


「罠が発動したとして、どんな魔物が出てくるかまでは流石にわからんよなぁ?」


「は、はい……。そこまでは、わからないです。あの、すいません……」


「いやぁ、謝ることじゃあねえぞぉ。……すぐには無理かもしれんがぁ、もう少し強気に……龍之介位というとちょい行きすぎだがぁ、いっそ最初のお手本としてアレを参考に態度を改めてみるのはどうだぁ?」


 そうは言うものの、長年染みついてきたものは、そう簡単に変えられるものではないだろう。

 ただ少しでも態度を軟化させることができれば、という考えの北条。


 楓としてもグイグイと来られるのは苦手ではあったが、北条や他のパーティーメンバーの女の子たちは、積極的にああしろこうしろとは言ってこない。

 それが楓にとっての救いでもあったが、自分を見つめなおすきっかけにもなっていた。


「んで、こいつの扱いだがぁ……俺は開けるつもり満々でいるぅ」


「あ、わたしもー。わたしもあけたい!」


 由里香が開けようとするのは深い理解を必要としないが、北条が最初に言いだすのは予想外、といった反応を示す咲良や陽子。

 ただ思い返してみれば、結構北条にも行け行け押せ押せな部分もあったかも? と改めて思い出す。


「んー、北条さんがそういうってことは、なんとかなるのかもしれないですけど……。ただ、今回はいざって時の慶介君もいないですし……」


 確かに前回もそうだったが、慶介のあのスキルは多数相手には絶大な効果を発揮する。

 ただいるだけ、でいざという時の安心感が尋常ではない。


「大丈夫。そもそも今回は前回と比べて、こちら側の状態が段違いだぁ。まずはその辺りの説明をするぞぉ」


 こうして北条が宝箱を開けて、魔物が現れた際の話を始める。

 まず判明したのは、どうやら北条は"罠解除"で罠の解除を試みるつもりが全くないということ。

 その辺りのことについては全く触れず、魔物対処の話になっていたので、慌てて咲良が罠を解除するという方向性を示したのだが、


「"罠解除"も絶対成功する訳でもないし、どっちみち開けるつもりなら、戦う準備は必要だぁ。それなら最初から罠を踏んじまったほうが話は早い。それに、当然といえば当然かもしれないが、この世界はダンジョンの中といえど、そうポンポンと敵が湧いてくる訳でもない。経験値稼ぎ、という面においてもこれ(・・)はいいと思うぞぉ」


 そう言いながら槍先で宝箱を指し示す北条。

 北条の説明を聞いて、咲良はあっさりと流されてしまったようで、「そうですねぇ、確かにそうかも」などと口にしている。


「で、でも、万が一ってことも、あるんじゃないかしら?」


 ひとつの意見に固まらないように一人だけ反対意見を述べておこう、そう思ったのか、或いは素で発言しただけなのか。陽子が北条の意見に食い込んで質問をする。


「それはいつだってありえることだろぅ。四階層には辛辣な罠は今まで発見されていないが、深い落とし穴で分断されたり、下手すりゃ即死する罠で死の危険性だって万が一の可能性で起こりえる」


 今の所、彼ら『サムライトラベラーズ』が四階層で発見した罠は、鳴子の罠(鳴る前に解除した)に天井から油がぶちまかれる罠(陽子の結界に弾かれた)といった、軽い罠しか発見していない。


 そもそも出現する魔物がGランク辺りしか出ないのに、罠だけSランクということはないと、事前の調べでも実はすでに判明している。


「だからと言って四階層で探索を止めるってんなら、最初からダンジョンには来ていない。前にも言ったと思うがぁ、危機意識を養うためにも適度の危険はウェルカムよぉ。第一、本当にやばそうだと判断したら、俺もこんなに強く推したりはせず、消極的意見も聞くぞぉ」


 元々強く反対するつもりもなかったのか、北条の言葉を聞いて陽子も「わかったわ」と納得したようだ。

 それからは作戦タイムとなる。

 まずは北条の描いた作戦が、他のメンバーへと伝えられた。



 ダンジョンについては、みんなギルドの資料室で各自調べている。

 罠にかかると部屋の扉が閉じて、魔物が次々召喚されてくる罠、通称「召喚罠部屋」についての情報も、そこには記載されていた。

 まず召喚されてくる魔物の中に、一体だけボスがまぎれており、それを倒すことで魔物の召喚も止まるという仕組みらしい。


 ボスは最初か、二回目の呼び出しで現れることが多いが、中々姿を現さないケースもあるという。

 そうなると、もう一つの突破方法である、「呼び出された魔物を全て撃退する」を実行するのと、大して変わらない手間になることもあるようだ。


 この召喚罠部屋については、冒険者からは恐れられていると同時に、歓迎されることもあるという。

 それは北条の言うような、経験値を稼ぐ機会になるだとか、魔石などを集めるのにうってつけだとかいった類のものだ。


「以前とは違って範囲攻撃の手段が増えたので、大分やりやすくなっているはずだぁ。そこで最初の方は、範囲魔法をメインで使って、敵をまとめて仕留めていく。途中からは前衛となが……。芽衣の召喚した魔物で一体ずつ倒していきながら、後衛は隙を見て魔法も撃つ。今川は……治癒があるので、攻撃魔法は少し抑え目になぁ」


 ダンジョンを探索している途中、由里香から「苗字で呼ばれると先生に呼ばれてるみたいだから、名前で呼んで欲しいっす」と言われた北条は、以降「武田」から「由里香」へと、呼び方を変えていた。


 芽衣についても、由里香がお願いした時に一緒に「じゃあ、わたしも~」と便乗する形で言われたので、それに従ってこちらも名前呼びするようになっている。

 その際、咲良も何かもの言いたげな感じで「うー」と唸っていたが、結局更なる便乗は起こらなかった。



 さて、北条の立てた作戦は、基本的には前回の召喚罠部屋の時と同じようなものだ。

 前回と違って、切り札(慶介)は欠けているものの、十分これでいけると北条は判断していた。


「よおし。じゃあ"付与魔法"で強化を掛け終わったら、早速箱を開けるぞぉ」


 そして全員が作戦準備を終えた後、北条がガバッと箱を思い切りよく開ける。

 すると前回と同じように、部屋の唯一の出入り口は閉ざされ、魔法陣の光が幾つも部屋に輝くのだった。





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