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第89話 新たなゴブリン


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 彼らにとって、思い出の地とも始まりの地とも言えるあの部屋に、メッセージを残し先へ先へと進む、信也達パーティーの足取りは軽かった。

 その一番の理由は、脱出に必死だったあの時とは違って、今は自ら進んでこのダンジョンへと挑んでいるということ。

 そして何より戦闘面において、かなり安定して戦えているということが一番大きかった。


「お、あれって階段じゃね?」


 現在歩いている通路を真っすぐ進んだ先に、ちょっとした空間が広がっている様子がみえる。

 その空間からは、今歩いている通路とは別に複数の分岐があるようだ。


 その内のひとつは今の位置からでも薄っすらと確認が出来るのだが、分岐先がどうも地下に向かって進んでいるようにみえる。

 龍之介が指摘したのはそのことなのだろう。


 そこで真っ先に一人で突っ走って、確認にいかなくなっただけ、龍之介も成長したと言えるのかもしれない。

 やがて、龍之介や信也などの前衛を先頭に、その部屋状になっている空間に足を踏み入れた時、何かが飛んでくるような音を耳にして、慌てて龍之介は顔を庇うように腕を動かす。

 やっぱりなんだかんだで龍之介は龍之介であって、今までが簡単に事が運んでいたので、完全に油断をさらしていた。


 かろうじて手を翳して直撃は避けたものの、飛んできた物体――三十センチ程の矢が、龍之介の右手の平から貫通し、眼前にまで迫ってきていた。

 矢が突き刺さった瞬間、咄嗟に拳を握ったおかげで、目ん玉串刺しの刑を辛くも逃れた龍之介は、突然の出来事に恐怖よりも怒りを浮かべる。

 そして、右手に刺さった矢を乱暴に引き抜き、今にも凶弾を放った相手を切り殺しに行きそうな勢いだった。



「っのおおお、てめぇら、ぶっ殺してやる!! ……ぜ」


 明らかに、周囲が見えてないといった様子で吼える龍之介だったが、途中で急に体が白く薄っすらぽわわ~っと輝いたかと思うと、急に賢者タイムが訪れたかのように、語尾が落ち着き払ったものになっていた。


「手の傷も治します! 【癒しの光】」


 "神聖魔法"とは違い、パーティーメンバーであるなら、近くまで接近しなくても相手にかけることの出来る"回復魔法"。

 まずは傷を治すよりも、【平静】を使って落ち着きを取り戻すことを優先させ、落ち着いたところを治癒魔法を使って、龍之介の右手の傷を完全に治癒する。


「龍之介! 怒りで我を忘れるな! だが態勢は整ったので一斉に突っ込むぞ」


 即座に状況を見て指示を飛ばす信也。

 部屋の中にはケイブゴブリンが十体近くも屯っており、中には弓矢を持ったゴブリンが二体、更には杖持ちも二体うかがえる。


 今まで弓を使うゴブリンにはお目にかかってなかったが、先ほどの攻撃を見た限りでは魔法を使う杖持ちと同じで、油断していい相手ではなさそうだ。

 そう判断した信也は、真っ先に弓矢持ちを始末するために走り出す。


 龍之介も魔法によって強制的に平静にされたとはいえ、自分を攻撃してきた相手を許すつもりはないらしく、同じく信也が狙っている弓ゴブとは別の方の弓ゴブに、真っすぐ突っ込んでいく。


 無論ゴブリン達も大人しく見ている訳はなく、急接近する二人に襲いかかろうと群がり始める。

 だが今度はこちらの番だ、と石田と慶介による魔法攻撃がさく裂する。


「いっけええ。【水弾】」


「……。【闇弾】」


 少年らしい、勇ましさの中にほほえましさも感じる声と一緒に、何故か魔法名発動の時だけはきちんと全員に伝わるような大きな声で魔法名を唱える石田。

 確かに普段通りのボソボソッとした発声でも、魔法は普通に発動するだろう。


 しかし、魔法攻撃に気付いていない、味方に当たる可能性があり、危険であるので大きな声――といっても、これでようやく地の声が大きい龍之介と同程度の声量――で魔法発動を知らせる石田。前衛の信也や龍之介としても、声掛けがあったほうが有難かった。


 二人の放った魔法は、横合いから信也達に襲いかかろうとしてるゴブリンを、撃ちぬいていく。

 【闇弾】の方はそうでもないのだが、慶介の放つ【水弾】は衝撃が大きいらしく、どてっ腹に穴を開ける程の威力はないが、ゴブリンごとダンジョンの壁に叩きつける位の威力はあった。


「BMD(C」


 壁に叩きつけられたゴブリンは何事かを言ったかと思うとぐったりと頭を垂れ、一ミリも動かなくなる。

 一方【闇弾】をぶつけられたゴブリンは、外傷が全く見当たらないにもかかわらず、既に虫の息になっていた。

 これは信也らが使う【光弾】も同様で、これらの魔法を身に浴びると、直接的な外傷などは出来ないのだが、直接命を削られたかのような苦痛を味わうのだという。


 龍之介などは「HPが直接減ってる感じだなっ!」などと言っていたが、もしも本当に、そういったゲーム的なHPという数値が設定されているのだとしたら、恐ろしいものだと信也は思う。


 まるで本当に、自分がゲームの世界に入り込んでいるんじゃないか、と妙なことを考えてしまいそうになるからだ。

 だがこれまで判明した既存の事柄だけでも、すでに十分ゲームの世界っぽいなという印象は抱いていたので、今更な話でもあった。



 二体のゴブリンが魔法により戦闘不能になって、ゴブリン達にも混乱が見え始めた時、既に信也と龍之介は弓ゴブへと接敵を果たしていた。

 更には第二陣として、鉄メイスを持ったメアリーと、ロングウィップを構えた長井が迫ってきており、横合いから襲いかかろうとしていたゴブリン達は咄嗟に狙いをメアリー達へと変更する。


 弓ゴブへと迫った信也は、状況的にここはさっさと終わらすべき、としょっぱなからスキル"スラッシュ"を放ち、弓ゴブへと大きなダメージを与えることに成功する。

 隣では龍之介も同じくスキルで速攻仕留めようとしたのか、覚えてからまだ間もない【ダブルスラッシュ】を発動していた。


 この闘技スキルはその名の通り"スラッシュ"を二発放つようなスキルであり、攻撃した場所と平行するように少し離れた場所も連続で斬りつける攻撃だ。


 ただし、最初の"スラッシュ"の部分が盾などで防がれた場合は、二発目の"スラッシュ"の威力は激減してしまうし、一発目を完全に回避された場合はなし崩し的に二発目もスカッてしまう。


 今回は、上手いこと相手の胴体部分に当てることができたようで、ダブルの衝撃を受けた弓ゴブはそれだけで息の根を止められていた。


 そこからはもう、怒涛の勢いで信也達の猛撃が始まり、十分ほど経過した頃には、全てのゴブリンが光の粒子へと帰していった。



「ちっ、まさか弓を使ってくるとはなー」


「ふんっ。油断するのが悪いのよ」


 毛嫌いしている相手からの言葉に、瞬間湯沸かし器の如く、一瞬で心のボルテージが上がりかけた龍之介だったが、今回の件はまったく長井の言う通りであったので、かなり無理やりその怒りを鎮めようと、何やらブツブツ呟き始めた。


「弓を使ってきたこともそうだったが、通常のゴブリンより手ごたえを感じたな。あれも同じゴブリンだったのか?」


 龍之介の方は一撃で仕留めきれたが、信也の方は最初の一撃で大ダメージは与えたものの、仕留めるのにそれから二、三分はかかっていた。

 弓ゴブリンは、腰元から小さなダガーを取り出して、信也と相対していたのだが、そのリーチの短い武器にしてはよく信也の攻撃を防いでいた。


 それに身長も通常のゴブリンよりは大きいように思えた。

 今は全部光の粒子となって消えてしまったので、もう確認はできないのだが。


「弓持ちのゴブリンってーと、ゴブリンアーチャーってのがいるなー」


 信也の発言に、一瞬で怒りの火も消えてしまったのか、龍之介が信也の質問に答える。


「そーいえば、俺がその後戦ったゴブリンも、ふつーのとちょっと違ってた気がすんなー」


 龍之介の言う"ちょっと違ってた奴"とは、信也の戦った弓ゴブと同じく、ダガーを得物としていたゴブリンで、こちらは初めから弓や剣などではなく、ダガーを使っていた。


「なんにせよ魔物の蠢くダンジョン内で、油断など持ってのほかだ。これからは各自注意するように。で、この、下へと続く階段だがどうする?」


 顎で下り階段へと続く分岐路を示す信也。

 一、二階層は八割以上地図は完成したと思うのだが、この三階層は恐らくはまだ六、七割ほどしか探索できていないように見える。


「別に迷う必要はねーんじゃね? 探索終了後にあっちのパーティーの地図と合わせたら、地図も大分埋まるかもしれねーし」


 リアルタイムで情報をやり取り出来れば便利なのだが、生憎とそんな便利な代物は持ち合わせていない。

 もしかしたら、魔法道具でお互いに書いたものがリンクするような、石板みたいなアイテムもあるかもしれないが、今の所は可能性の話だ。



 それから少し話し合った結果、結局このまま階段を下りて、次の四階層へと進むことが決定した。





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