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第87話 魔法開発


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 二階層の途中にある部屋で、信也達『プラネットアース』の面々が野営をしている頃、北条達『サムライトラベラーズ』もまた一階層と二階層を繋ぐ階段部分で野営を取っていた。


 入口が一か所だけの部屋とは違い、上下両方向を警戒しないといけないのが難点ではあるが、階段にまで侵入してくる魔物の数は思った以上に少ない。

 作品によってはダンジョンの階段部分は安全エリアに設定されていたり、魔物が階層を移動することが出来ない設定になっていたりする作品などもあるのだが、どうやらこのティルリンティの世界のダンジョンでは、普通に魔物は階層を移動してくるらしい。

 ただし、その頻度はそんなに多くはないようだ。


 更に北条達のパーティーには、"結界魔法"の使い手である陽子まで在籍している。

 最初にダンジョンから脱出した時に比べ、レベルや魔法の腕前も上がってきているので、今では前の時とくらべて【物理結界】の強度も二、三倍は強化されたように思える。



「凄かったね! 楓さんの"忍術"」


 現在楓達のいる《ヌーナ大陸》では"忍術"の使い手は少ないらしく、『グリーク冒険者ギルド南支部』のシディエルでも、かろうじて名前を聞いたことがある程度だった。

 しかし、日本生まれの彼らにとって、"忍術"というものは多くの人が耳にしたこと位はあるものだ。


 勿論実際に見たことある人はいないし、いたとしてもそれは実際の過去の忍者が使っていたとされる、現実的な技術のようなものだろう。

 だが漫画大国日本では、昔から多くの忍者漫画が存在していた。

 そうした漫画のイメージを基に、他の人からも助言をもらいつつ、楓は幾つかの"忍術"の基本魔法を会得するに至った。


 使用者である楓から、扇状に土の波が押し寄せて相手を飲み込む【土遁の術】。

 同じく効果的には似たような感じで水の波を生み出す【水遁の術】。

 一定範囲に燃え盛る炎を生み出す【火遁の術】。


 まあ、本来ならば~遁の術というのは"遁"という名前の通り、逃げ出す際に使用する術だったようだが、この世界での"忍術"というのはまさに漫画の中の忍法だとか忍術そのものだった。


 こうしてファンタジーな忍者が使用するような"忍術"を楓が取得したことによって、戦い方そのものも変化しつつある。

 というのも、これら~遁の術は全て攻撃系の術なのだが、どれも範囲攻撃が基本となっているのだ。


 北条などはゴブリン村での戦いで範囲魔法を使っていたが、更に範囲攻撃の使い手が増えたことで、一匹ずつ倒すという従来の戦い方とは別に、範囲攻撃を最初に撃ちまくって即殲滅、という戦い方も出来るようになってきた。


 それと"忍術"の利点として、魔法名――この場合は術名――を発音しなくても発動させることが可能な点だ。

 これは"影術"でも同様の仕様だったが、どうやら術系統のものは全部こういった仕様になるらしい。


 とはいえ、連携もまともに取れていない状態で、いきなり背後から無言で範囲攻撃なんか使われたら、前線で戦ってる前衛をも巻き込んでしまう危険性がある。


 そのため、利点のひとつではある術の無詠唱なのだが、今の所は攻撃系の忍術を使う際には声を出してもらっている。

 ちなみに、攻撃系以外の忍術はまだ習得できていない。

 "忍術"といったらこれだろう! と誰もが思い浮かべるような変わり身の術も、


「あの、その。いつか、出来そうな気は、するんですけど、もっと練習が必要みたい、です……」


 とのことで、今の所楓の"忍術"は、範囲攻撃オンリーといった所だ。



「やっぱ範囲攻撃って大事よねえ。あの時も範囲攻撃が慶介君以外に使えてたらもう少し違ってたかもしれないのに」


 そうしみじみ口にする咲良は、北条と同じく貪欲に魔法の修練に励んでおり、今も緊急事態の時のために最低限のMPを確保しながらも、魔法の練習に励んでいた。

 しかし、"神聖魔法"に加え基本四属性の魔法全てを練習している為、全体的には腕前が上がっているのだが、器用貧乏みたいな状態になりつつあった。


「芽衣ちゃんはやっとあのバリバリーッって魔法使えるようになったんだよねー」


「由里香ちゃん。ばりばりーじゃなくて【ライトニングボルト】ね」


「そうそう、そのらいとにんぐべると、だね」


 一方芽衣の方は、環境的に"召喚魔法"の練習が出来ない期間が続いていたので、代わりに"雷魔法"の腕前が上達しており、新しく幾つかの魔法も習得していた。

 中でも【ライトニングボルト】は直線状に貫通する電撃を放つ魔法で、貫通するたびに威力は下がるものの、縦に敵が並んだ時などにまとめて攻撃をすることが出来る魔法だ。


「ふふふ、それじゃあ雷のベルトになっちゃうわよ。由里香ちゃん」


 軽く笑いながら指摘をする咲良。そこに真面目そうな口調の北条も口を挟んでくる。


「案外そういった発想も悪くはないと思うぞぉ」


「どういう意味ですか?」


 可愛く小首をかしげる仕草をする咲良。

 見る人が見ればあざといと言われそうな仕草ではあるが、咲良の性格からして意図してやっている訳ではないだろう。

 北条も別に、咲良のその可愛らしい仕草になんら反応を示すこともなく、続きを口にする。


「この世界の魔法というのは、どうも発想力が大事に思えてなぁ。例えばベルトに雷を纏う……というのはまあ、基本魔法の【スパークボディ】と効果が被ってしまいそうだがぁ、んー、そうだなぁ……」


 そこで北条は何事かを考え始める。

 ほどなくして何かアイデアが浮かんだのか、その内容を口にする。


「例えば、敵の胴体部分に対して雷のベルトをはめて、ギューッと締め付ける……なんて魔法は、生み出せるかもなぁ。それが有効かは分からんし、習得難度の問題もあるだろうけど」


 この世界の人からみて、異世界人である咲良達の優れた点のひとつに、知識の差というものがある。

 これは、単純に学校で習うような知識の外に、様々なものがある。


 例えば音楽にしたって、この世界の一般の人々は、簡単な楽器に合わせて歌う位で、地球のように多種多様な音楽を聴く機会のある人間などは、そうはいない。

 この世界の吟遊詩人からすれば、現代世界におけるそれは、垂涎ものの経験であると言えよう。


 魔法に関しても、実際に存在しないにもかかわらず、昔から人々の間で語られ、今では娯楽の一部として日常生活に溶け込んでいる。

 咲良のように、その手のアニメや漫画などをよく見ている者ならば、作中に出てきた魔法を再現しようとするだけで、この世界ではまだ存在しない、新しい魔法を生み出すことも出来るかもしれない。


 ただ、逆にそれが枷となるケースもあり得る。

 この作品では魔法はこういうものだったから、ああいった魔法は使えないだろう、といった変な固定観念が生まれてしまうことだ。

 他にも、どうしても科学的に物事を考えすぎて、自由な発想を阻害してしまうことも考えられる。


「新しい魔法を開発する際には、そういったことを自覚した上で、新しい魔法を考えるといいだろぅ。魔法開発ってなぁ、中々奥が深そうだしなぁ」


 そう言って最後に北条は、昼間の住宅予定地の事前工事の時に使用した【グルーミングストーン】の魔法は、実は思いつきでやってみた魔法であり、基本魔法として教わってなかったものだと、打ち明けてきた。


 北条の語る、魔法開発そのものも楽しそうではあるが、"土魔法"の実用性の高さに気付いた咲良は、自分も"土魔法"の練習に重点を置こうかと、ついつい迷ってしまう。


「あ、あたしの闘技スキル? って奴もあたらしー技とか作れないのかなー?」


 闘技スキルというのは、その名の通り戦闘の際に使われるスキルで、一番多いのは攻撃の為のスキルなのだが、他にも様々な効果を持つ闘技スキルがある。


 闘技スキルは基本的には、使用者の用いる武器によって種別されているが、動作が似ている武器、例えば槍とレイピアなどの突剣系では、突くという動作に於いて共通点がある。


 こういった武器同士の場合、槍の闘技スキルであっても、突剣で扱えたりするスキルもある。

 しかし、この世界独自の掟だか法則だかが存在しているようで、槍の闘技スキルを突剣で放つと、本来の効果が十分に発揮することができない。

 逆もまた然りだ。


 そういった特性を持つ闘技スキルだが、実は似たようなもので武技というものが存在する。

 ただし、これはあくまで技の名前といったものなので、特別な力が加算されることなどもなく、見た目通りの理に即した効果を発揮するだけだ。


 闘技スキルとの違いはMPを消費するか否かという所で、MPを消費することによって単なる剣の切り払い攻撃が、闘技スキル"スラッシュ"となり、威力も段違いに向上する。


 そして多くの闘技スキルには、似たような動きをする武技スキルや型などが存在していて、まずはそういった武技を学ぶことで、近しい動きの闘技スキルを習得する手助けとすることも多い。


 そんな闘技スキルと武技の間柄だが、実は武技がより洗練されたり使い込まれていったりすることで、闘技スキルへと変化することが極稀に起こるそうだ。

 そうなると、以降は全世界に正式に新しい闘技スキルとして、世界のシステムに登録(・・)される。


 これは新しい魔法を生み出した際なども同じで、北条が開発した【グルーミングストーン】も、魔法名と効果、それからイメージのコツなどを教えれば、すぐに他の人も使えるようになるだろう。


 もっとも、魔術士はそうやって開発した魔法は隠匿する傾向が強いので、そうそう広まることはないのだが……。


「つまり、あたしも頑張れば新しい技をつくれるのね!」


 そう言って素直に喜んでいる由里香だが、北条が資料室で調べた限りでは、魔法に比べて新しい闘技スキルの開発は難しい。そのことを知っている北条は、由里香の喜ぶ様を見て少し微妙な表情だ。


「まぁ、とりあえず今日はそろそろ就寝の時間だぁ。俺ぁもう寝るからなぁ」


 そう言って逃げるように席を外す北条。


 こうして両パーティーのダンジョン探索再開の初日が終わった。






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