◇6 日光病の少年
「──────つまり、エレナ……ちゃんは、ぼくと反対で、くらいのがダメってことですか……?」
「うん! ノアは私とはんたいで、あかるいのがだめなんでしょ?」
エレナとオリビアの話を聞き、ノアは確認の為に内容を聞き返す。
その言葉にエレナは元気よく頷くと、ノアの病気を詳しく知ろうと疑問を投げかけた。
「うん……ぼくのはえっと………マラディ・ソレイユって言って、エレナ……ちゃんとは逆で、明るいのがダメ………です」
ノアが患っている綺病────マラディ・ソレイユ。
別名『日光病』
彼が先程述べた通り、この病気は「身体が光に当たると、その部分が火傷の様に爛れたり、激痛を感じる」という綺病。
日の光のみであれば、それは先天性白皮症と一緒なのだが──ノアの場合は「光全般」
故に、日中は暗い病室に閉じこもり、夜になるまで病室を出ない様にしているのだった。
────2人が会話に花を咲かせている間、オリビアは2人の綺病が全く正反対である事に、心の中で驚嘆する。
偶然にしては、あまりにも出来すぎていて。受け入れがたくて。
けれどそれは現実であり、事実。
決して夢ではないその光景を眺めながら、オリビアは「うそじゃないんだ」とぼんやりと考えていた。
「────────ビア! オリビア!」
「………………へっ、あっ! な、なに……?」
深く考え込んでいたのだろう。
エレナが自身の名を呼ぶ声にやっと気付き、オリビアは慌てて返事をする。
「もうお昼になっちゃう! せんせーがきた時に私たちいなかったらおこられちゃうよ!」
やっと自身の声に気付いたオリビアを急かす様に、エレナはその場で飛び跳ね言葉を紡ぐ。
──先程までは怒られても大丈夫だと言っていたが、やはり怖いのだろう。
慌てふためくエレナを見、オリビアも先程まで感じていた恐怖心が蘇ったのだった。
「か、帰ろ……? 今いそいで行けば間に合うかも………」「うん、かえろー!」
「あ、あの………………」
エレナにつられたのか、オリビアも慌て始め。慌てながら提案を述べるオリビアに向かってエレナは大きく頷けば、自分の病棟に戻ろうとノアの病室から背を向ける。
けれど、ノアが何かを言いたそうにしていた為、彼女は慌てて足を止めた。
「────────ふーたーりーとーもー? 先生が、何を言いたいのか分かるよね?」
「ご、ごめんなさい………」「ごめんなさいせんせー……」
太陽が真上に登り、日が眩しくなっていく正午。
自身の病室がある病棟に戻った2人に待ち受けていたのは、笑顔を見せているクロエの姿。
けれどクロエの目の奥は笑ってはおらず、オリビアは思わずエレナの後ろに隠れる。
「誰にも言わないで何処かに行って、どれだけ探したと………まさかとは思うけど、反対側の病棟に行ってたって事は……………」
「い、いってない!」「ち、ちがいます……!」
クロエは説教をし始めようとしていたのだが。
先程、エレナ達のいる場所と反対側の病棟の話をした事。そして、エレナと正反対の綺病を持つ患者をした事を思い出し、2人に疑いの目を向ける。
疑いの目を向けられた2人は思わず首を横に振り、「行っていない」と嘘をつくのであった。
「………っ、ゲホッ、ゴホッ………!!」
その直後。
オリビアは喉に何かが詰まった感覚がし、それによって一瞬だが息が出来ず。嫌な感覚であるそれを、取り除こうと何度も咳き込む。
「っぐ、……ぅぇ………………」
何度も咳き込み、喉奥から何かが込み上げる感覚がすれば、彼女は口元を手で覆い吐き出す。
────けれど、手には液体の様な感覚は無く。
手に伝わるのはまるで、ベルベットの様につるりとした感触と、鼻腔を僅かに擽る血と甘い香り。
その感触を感じれば、オリビアはある予感がし。ゆっくりと口元から手を離せば、その手を開く。
そこにあるのは、1輪の紅い花。
「……紅い、花…………嘘を、ついたのね」
その光景を眺め、エレナは息を呑み。
クロエは顔を歪ませながら小さく呟いたのであった。