◇5 反対の病気の子
2人は我に返ると、ファルファッラに向かってエレナは大きく手を上げる。
「ファルねえー! 私とはんたいのびょーきの子、しってるー?」
「まず貴方の病気をあまり知らないのだけれど……?」
エレナは純粋に「自身と反対の病気を知りたい」と述べるのだが、ファルファッラは彼女の病気の詳細を知らない為、小さく息を吐きながら答える。
けれどエレナは──否、エレナの病気は、彼女が説明する前に、彼女の担当医であるクロエが答えている為、エレナは自身の病気を説明した事がない。
故に、どうやって説明すれば良いのか分からず首を傾げていると、オリビアが彼女の代わりに口を開いた。
「えと……エレナちゃんの病気は、暗いとこにあたってたら……んと………」「………! ひりひりしていたくなっちゃうの!」
「……それは、火傷の様な感じなのかしら?」
エレナの代わりに説明をしようとしたのだが──オリビアもあまり彼女の病気の事を知らず、言葉を詰まらす。
けれどエレナは、オリビアの言葉で自分が何を言えばいいのか理解すると笑顔で彼女の言葉に続けるのだった。
抽象的なエレナの言葉に、ファルファッラは少し考えこむのだが、゛ ひりひり ゛ という言葉で、火傷の様な物なのかという推理に至り、質問する。
「うん! せんせーがやけどって言ってた!」
「そう……それなら、似た子なら知っているわよ」
その言葉にエレナは大きく頷くと、ファルファッラは口元に指を当て考え込む仕草をとる。
────少し経ち、心当たりがあるのか彼女はある病室の番号を2人に教えたのだった。
「──────多分、ここだよね……?」「うん! ファルねえが言ってたばんごーといっしょだよ!」
ファルファッラと別れた後、2人は彼女から聞いた番号の病室に向かって歩き出し──゛213 ゛ と書かれた病室の前で立ち止まると、互いに顔を見合わした。
ファルファッラが述べていた、「エレナと似たような病気を持つ子」
その子が入院している病室は2人が今いる所らしく、オリビアは緊張しているのか息を呑み、エレナはどんな子がいるのか心を躍らせていた。
「じゃあいくよ?」「う、うん……」
弾んだ声でオリビアにそう告げ、彼女が頷いたのを確認すると、コンコンと二回病室の扉をノックする。
「────────はい」
短いようで長い、静寂の時間が流れた後。
エレナ達とは違って僅かに低い声──変声期前の少年の声が聞こえた。
少年の声が聞こえると、エレナは目を輝かせる。
「あなたが私とはんたいのびょーきの子ー!?」「え、エレナちゃん……! そう言っても相手の人分かんないよ………!」
自分の名前も名乗らず、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ね述べるエレナを、オリビアが注意する声を聞き、扉の向こうの少年はクスクスと笑みを零す。
「ねえ! あなたの名前はなあに?私はエレナ! それでこっちはオリビアだよ!」
「………ノア。ノアって言います」「ノア!」
ノア。
説明をせず名前を聞くエレナに、少し間を開けた後、彼は自身の名前を伝える。
少年が自身に名前を教えてくれたのが、エレナは心底嬉しくて、無邪気な笑みを浮かべると彼の名前を呼ぶのであった。
「…………ところで、ぼくと反対の病気って……どういうこと、ですか……?」
少年は──ノアは、エレナが述べた言葉の意味がよく分からず。
扉の向こうにいる2人に、自身と反対の病気という物がなんなのか問いかける。
エレナは未だ自分達がノアの部屋に来た理由を話していない事を思い出すと、彼の病室から見えないというのに、大きく手を上げてにこやかな笑みを浮かべるのであった。