◇4 蝶羽病の少女
聞いた事のない綺病──マラディ・パピヨンという病気を患っていると述べたファルファッラを見、2人はどんな病なのか分からず首を傾げる。
2人の考えている事が分かったのか、ファルファッラはクスクスと笑みを零すのであった。
「どんな病なのか知りたいようね? ……ふふっ。私の背中をご覧なさい?」
彼女の言葉の通り、2人はファルファッラの背中へとまわると息を呑む。
────背中が空いているドレスから見えるのは、手のひらぐらいの大きさで所々赤いが、黒色の蝶の羽。
羽の根元は血が付着しており、どうやらこの羽は血に濡れて所々赤くなっている事が理解出来るのだった。
「ふふ………これからもっと大きくなるわよ。これが私の病。分かったかしら?」
マラディ・パピヨン────別名、『蝶羽病』
その名の通り、この病は背から蝶の羽が生えてゆくという綺病。
患者は主に後天性の者が多く、各々羽の形や色は違っており、羽が大きくなるにつれ患者は、まるで蝶の様に花の蜜を求めるようになるのだ。
そして、羽が自身の背丈程の大きさになり、乾ききってしまうとその者は死んでしまうという厄介な病。
──────勿論、この綺病を治す薬も治療法もなく、かかった者は死を待つ事しか出来ないのだ。
「きれえ……! さわっちゃだめ?」「エ、エレナちゃん、蝶々さんの羽は触っちゃだめなんだよ……!」
そんな厄介な綺病である事なんて2人は知らず、エレナは興味津々とばかりに目を輝かせ、オリビアはそんな彼女の服を掴み、首を横に振る。
「ふふっ……その子の言っている通り、この羽に触れてはいけないわ」「どーして?」
「蝶は羽化に失敗すると、とても醜い姿になるの。私、そんなのは嫌。どうせ死ぬのなら、私は綺麗な姿で死にたいの」
自身がいずれ死ぬという事を知っているのか、ファルファッラは2人の方に背を向けるのを止め、エレナの問いにそう答える。
けれど、2人を見つめるその瞳は何処か悲しそうで、それに気付いたオリビアは何故そんな目を向けるのかが分からず、首を傾げていた。
「──貴方達、反対側の病棟から来たのでしょう? どんな病にかかっているのかしら?」
「え、えっと………」「私は暗闇病! オリビアは紅嘘病だよ! ……あれ? どうして分かったの?」
話が変わり、ファルファッラは2人の患っている病が何なのか尋ね、エレナは明るい声で答えるのだが────どうして反対側の病棟から来たというのが分かったのか、疑問で首を傾げるのであった。
「そうね……エレナ、だったかしら? 貴方の服装が寝間着だからよ。それに、2人とも履いてる物が上靴だからそう判断したまでよ。」
「…………すごい、ですね……」「おねーさんすごーい!」
ファルファッラの観察眼に2人は驚き、感嘆の声をあげるのだが、エレナに「おねーさん」と呼ばれファルファッラは眉を顰める。
「おねーさんじゃなくてファルファッラよ。………まぁ、長いから周りは私の事をファルと呼ぶのだけれど」「んー……じゃあファルねえ!」
「………ふふっ。やっぱり貴方、面白い子ね」
2人が楽しそうに会話をしているのを見、オリビアは静かな笑みを浮かべていたのだが──何故か心が痛くて。
その感情が何か分からず黙っていたのだが、ふと目線を上げるとファルファッラの顔が近くにあったので、オリビアは小さく悲鳴をあげるのだった。
「ふふふっ。驚いたわね。……そう言えば、貴方達はどうして此方まで来ているのかしら」
オリビアが驚いた顔をしたのを見、ファルファッラ自身も少し驚いた顔をするのだが、クスクスと笑みを零す。
その笑みは先程と違い年相応の無邪気な笑みで、オリビアは心が何処か締め付けられる様な感覚に陥ったのだが────
彼女の言葉を聞き、オリビアとエレナは顔を見合わせ、はっとした顔をするのだった。