6 クーデレは最高だ!
その後はお嬢さまの私室まで移動し、とりあえずそこで解散となった。
「……レイ、ご苦労様でした。下がってもよろしい」
「は、承知しました」
「そしてエリアも……ありがとう」
その花咲くような笑みは、まるで一幅の絵画のようで。
あたしは目を奪われ――。
……ってレイ、そんな嫉妬丸出しの目で見つめないでもらえるかな、うん。
少しは好感度上がったはずなんだけど……。
『いやいや、たいしたことはしてないっすよ〜』
「……あなたにとってはそうだとしても、わたくしは確かに助けられた……。感謝しますわ」
そう真顔で言われちゃうと照れるなぁ〜。
「たいしたもてなしはできませんが、どうぞゆっくりなさって。
これからも色々と助力してもらいたいことはあるけれど……、当面は自由にしてくれていいわ」
『サンキューっす、お嬢さま!』
「屋敷内のことで分からないことがあれば、レイに尋ねなさい」
『……りょ、りょーかいっす』
「……承りましてございます、お嬢様」
レイ……うん、仲良くしてくれるといいんだけど。
「……では、ごきげんよう」
お嬢さまはそう言い残すと。
扉の向こうへ消えていった――。
……そして、その場に残されたあたしたち2人。
……微妙に気まずいっ!
けどまあ、ここは少しばかり打ち解けておいたほうがいいだろうか……。
『ねえ――』
「……そういえば、正式には名乗っていなかったな。
シルヴァリア様付きのメイドを務めている、レイだ。
……まあ、その、なんだ……よろしく」
『え、あ、うん、よろしく……? あたしはエリアだよー』
これは……レイ評価が上がったっぽい?
レイは続ける。
「……エリア。お前の働きに私からも感謝する」
……レイがデレたーーー!!
「……おい。今、妙なことを考えなかったか?」
ギクリ。
『は、ははは、やだなあ、そ、そんなことないっすよ?』
「思い切り目を逸らしているではないか……。まあいい」
レイはひとつ息をつく。
「……お前には話しておこう。シルヴァリア様の事情を――」
「……と言っても、よくある話だ。
旦那様は、お嬢様を政略のコマとして使うおつもりのようでな。どこぞの名家に嫁がせたかったらしい。
……だが、お嬢様は魔術研究に心を奪われた御方……。結婚して縛られることなど御免だと、常日頃からおっしゃっていた」
「……そんなお嬢様に、旦那様が婚約を猶予する条件として出したのが――、見当がついているかもしれんが、魔術師としての実力を示すこと。
高位精霊との契約は、その条件を文句なく満たすものだったわけだ」
「――だから、お前の協力によって……、お嬢様は少なくとも当面の自由を保証された。
……私は戦うことしかできん女だ。この件では、まるでお嬢様のお役に立つことはできなかった……」
「……だから、エリア――貴方には心からの感謝を捧げたい」
***
……うん、まあ、レイの話はおおむね予想通りではあった。
やっぱりあの時、侯爵を消し飛ばそうとしたのは間違ってなかったわけだな!!
百合オタ鉄の掟、百合を邪魔しようとする者は、どんな手段を用いてでも滅ぼすべし!!!
……ま、それは置いといて。
『そんなに固くならなくていーよ。
あたしはあたしの目的のためにお嬢さまに協力しただけだし?』
「……目的? それはいったい――」
百合が見たいから!!
……じゃあ、さすがにマズいか。
これを穏便に言い換えると……?
『……シルヴァリア様からはね、オーラを感じたんだ。なにか面白いものを見せてくれそうな……。
精霊ってのは長生きだからねー、退屈こそが最大の敵!
お嬢さまが見せてくれるもののためなら、あのくらいの助力はなんでもないってことよ!』
……こんな感じかな?
「……なるほど? 精霊の考えることはよく分からんが……。
お嬢様に危害を加えるようなことさえしなければ、好きにすればいい」
おっしゃ、レイからのお墨付きゲット!
じゃあ次は……?
『そういや、レイに聞きたいことがあったんだけど』
「なんだ?」
『レイって……、シルヴァリア様のことが好きなの?』
そう、問いかけた瞬間。
レイの頬が真っ赤に染まっていって……?
「な、なななな、にゃにを馬鹿なことを!
わ、私ごときがお嬢様に懸想など、そ、そんな大それたことなどない!
ないから!」
手をワタワタさせながら、必死に言い訳するレイ。
う〜ん、これはわかりやすいですわ〜。
クールなメイドさんが取り乱す姿はいいねえ……。
『だってさあ? 他の使用人を見てると、お嬢さまってわりと孤立してる感じじゃん?
その中でレイだけがお嬢さまに忠誠を誓ってるのは何かあるからかなー、って?』
……すると、レイはやや暗い表情になって。
「……そう、お嬢様は魔術研究に傾倒するあまり、フィンテーヌ家の主流派からは疎外されがちではあるが……。だからと言って! 私がお嬢様になどと!」
『いや〜、だってレイ……、相当わかりやすいよ?』
「ぐはっ!!」
『あたしがお嬢さまと仲良くしてると、す〜ぐ羨ましそうな視線を向けてくるし〜?
お嬢さまに褒められた時はめっちゃ嬉しそうだし?
それにお嬢さまがお風呂に入ってる時は、ソワソワソワソワしちゃって――』
「や、やめろ! やめてくれー!!」
『お〜ん? で、どうなの? お嬢さまにラヴしちゃってんの? うりうり』
レイのほっぺをつつきながら、からかいたおす。
クール系メイドさんだと思ってたんだけど……可愛いなあ!
……と、レイをいじくって遊んでいたところに、何者かの接近を感知した。
レイの方も気付いたのか、居住まいを正している。
いいところだったのに……。
そして、角から1人の男が姿を現し、レイがそちらに向かって一礼した。
「やあ、レイじゃないか」
「……マクシミリアン様」
その瞬間、ふと、嫌な感覚を覚えた。
侯爵家の男ってこんなんしかいないのか……。
彼――マクシミリアンは気楽な口調で問いかけてくる。
「聞いたよ? シルヴァリアが精霊契約を成功させたそうじゃないか」
「……耳がお早いようで」
「あの父上が真っ青になってたからね! いやあ、まさか本当に成功させるとは思わなかったよ! 我が妹ながら鼻が高いね!」
――妹、つまりこの男はシルヴァリア様の兄か。
……と考えていると、マクシミリアンがこちらを見る。
「……そちらが噂の精霊様かな?
初めまして、僕はマクシミリアン。
一応、シルヴァリアの兄などをやっているよ。よろしく」
……ここは、ハッタリかますか。
『……ほう。我が契約者の兄者殿か』
こう……なるべく精霊っぽい? 偉そうな口調で!
「そう。いやはや、これほど高位の精霊様とお目にかかれる日が来るとは……」
『……なるほどな? 貴様はあの男……侯爵とやらよりはマシらしい』
「はは、これは手厳しいね!
父上はああ見えて小心なところがあるからねえ。精霊様のご機嫌を損ねていなければいいんだけど」
『……よい。いちいち人間ごときの無礼に怒るほど我も暇ではないのでな。
貴様も用がないならさっさと去るがいい』
「おっと、これは失礼。せめて挨拶だけでもと思いまして。……では失礼?」
そう言い残し、マクシミリアンとやらは去っていく。
充分に距離が離れてから、レイに問う。
『……今のは?』
「マクシミリアン・ド・フィンテーヌ様……。シルヴァリア様の兄上で、次期侯爵と言われている方だ。侯爵閣下には他に子がいらっしゃらないのでな」
……なるほどねえ。
なんとなーく嫌な感じがするのは気のせいだといいんだけど……。
それでは次回!
「メイドさんとお嬢さまの……?」
待て、次号!
本日更新分でストックが切れたので、また不定期更新に戻ります。
毎日更新をずっと続けている人ってやっぱり凄いわ……。
私もできれば隔日更新ぐらいはしたいんですけどねー、なかなか筆が追っつかない……。
次回更新は気長にお待ちいただけると幸いです。